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新婚旅行

【幕間2】馬が結ぶ恋 ~ディー兄視点~

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ルーとアルファードの新婚旅行だか視察だかに着いて実家へ戻り、晩餐会。
うちの連中もルーもダンスが嫌いだから、ダンスは無しだ。

本当は可愛い恋人と踊りたかったけど。

…実は俺、今回の旅行にも同行してるルーの「影」と結婚前提で付き合ってるんだよね。
ウィンにはまだ何も言ってないんだけどさ。

きっかけは、俺が捕まえて締め上げた事かな。
他の「影」と比べて隠密が下手なもんだから、うっかり不審者と間違えたんだよね。
おまけに「僕はセリンセ商会から派遣されて、ルースさんを見守ってるだけなんです!」なんて、うっかり白状しちゃうしさ。
あんまり酷いんで、それ以降何となくフォローしてやったりして…

まあ、あの子に殺気を向けるやつに「あいつは味方だよ」って言ってやっただけだけど。
あと、ルーを見失ってオタオタしてた時に合図出してやったりさ。

そしたら向こうから「好きです」…って。
俺からしてみたら、俺とウィンを見分けられるってだけで半分合格したようなもんだけど…
もう半分の「馬を大切にできる人間かどうか」っていうのもバッチリで。

元々セリンセ商会で働いてた子だからなのか、馬の扱いも丁寧だし…
何より、馬たちも「いい子だ」って言ってたし。

顔も可愛かったし、まあ2歳年上なんだけど…
ドジでほっとけない感じ?
俺、そういうの弱いみたいでさ。
ずっとそばで守りたくなっちゃったんだよね。

だからさ、セリンセ商会が彼を王宮で働けるような部署へ転属させてくれたら良いのにな…と思ってさ。

そんでモローに、隙あらば「あの子、影から外して別の仕事させたほうが良いんじゃないの?」って吹き込んでんだけどさ。

それをウィンの奴、勘違いしてるみたいで。

ま、初恋の相手が同じだから、今回も同じって考えるのは自然なのかもな。
又は俺に先を越されてるなんて想像もしてないか…

ハッハー!残念でした!!

***

ルーがクレピスの郷土料理を知りたいって言ってたこともあって、今日のメインはヤギのミルク煮込み。
アルファードからもクレピスとより友好な関係を築きたいとか何とか…
今後、銅の取引が増えるかもしれないからってさ。

ただ何の土産も無いんじゃ友好ったってどうしようもないけどな!!

うちも山だがあっちはもっと山なんだ。
だから馬じゃなくてヤクを使う。

荷車を運ぶのも、
人を乗せるのも、
畑を耕すのも、
乳を搾るのも、
食べるのも…。

まあ、食べるのは圧倒的に羊やヤギのほうが多いみたいだけどね。

だからうちの馬はどれも自慢の子だけど、交渉の材料にはな…


な~んて、思ってたんだけど。


晩餐会で親父がいつもの愚痴を溢してから、状況は変わった。

「問題はダンジョンでね…」

年2回のダンジョン内間引きは、行くのも一苦労なら素材を持って帰るのも一苦労。
獲れた素材を金に換えても、セリンセ商会に運送費を払うのでせいぜいくらい。
つまり領軍を動かす分は全くの赤字ってこと…

だから、暗に「もう少し安く出来ないのか」ってモローに交渉を仕掛けるのは分かるんだけどさ。

急にそういうのやめて欲しいよな。
セリンセ商会の心証が悪くなると俺困るんだけど?

でも、ちょっと空気がピリついたところへ、すかさずモローが言った。

「アナガリス伯、いつも当商会をご利用頂き、有難う御座います。
 ですがはっきり申しまして、うちの商会もこの件は完全に赤字なんです。
 アナガリス領にあるダンジョンを最奥部まで攻略するには3週間程度かかります。
 ということはそれだけの物資を馬だけで運ぶということになるのですが、その間それだけの数の馬をずっと置いておける場所はありません。
 というわけで積荷のない状態であれだけの馬を1往復させてまして、これが丸々赤字に…。
 ルースさん、何とかなりませんか?」
「ええっ!?」

「ちょっと待て、セリンセなのか?」

俺はびっくりしてつい言ってしまった。
だって正規料金をきっちり支払っているはずだからだ。
それでも赤字だなんて…何でだ?

そんな俺の疑問を知ってか知らずか、モローが簡単にその仕組みを教えてくれた。

簡単に言えば、
「積荷なしで馬を動かす
 =届ける荷物がない
 =お金になるものがない
 =赤字になる」
……って事らしい。

そう言えば、セリンセ商会は例え赤字でも国に決められた額で物を運ばなきゃならないから、その分を料金に反映できないんだったっけ。
その制度にアナガリス家は、知らず知らずにずっと甘えて来たって事か……

なんてこった。
とんでもねー借り作ってんじゃん!
こりゃどうにかしないと、アナガリス家の沽券に関わるぞ!?

…ったって、何とかなるならもうしてるって。
さすがのルーだってそんなのホイホイ出ないだろ…

「……」

そうやって皆が沈黙する中、ウィンが言った。

「当然アナガリス家でも相当の負担なんだ。
 ルー、何か良い考えは無いかな?」

えっ、まさかあいつ…

ルーをダシにモローと仲良くなろうってか?

オイオイ、手段選ばなさすぎだろ!

***

晩餐会の2日後。

「じゃあ、そういう事で…
 ケーブルカーの原理やら設計やら敷設するレールの事とかは、知り合いの先生に頼んでみます。
 アナガリス領のダンジョンと次に行く場所の方角が一緒なんで、レールが敷きやすいように道を魔法で整えておきますね!」

そう言ってルーとアルファードはアレクやトルセンたちと東のエランティス領へ向かって出発した。

「あとはモロー君、頼んだよ」
「任せてください!必ずモノにしてみせます!
 あ、あとこの手紙、これに人員の事、書いてありますから!
 次の街にある商会支部に渡してください!」
「ありがとー!」

……モローはこっちに残るらしい。

俺たちは「ケーブルカー」実現の為に、早速資材と資金の調達を進める事にしたんだ。
初期投資に金はかかるけど、これが上手くいけば定期的に冒険者を呼び込めるし、そうなればダンジョン最寄りの村も潤うだろ?
もしかしたら、この装置の仕組みをクレピスへの手土産に出来る可能性もある…

だったらやらない手はないだろ?
やっぱルーの「思い付き」はすげーな!

ま、それはさておき、その話の中でセリンセ商会に融資を頼めないかって事になってさ…
そうなったら融資する側からの監査がいるでしょ、って、残ってくれることになったんだよ。

…これをモローから言ったって事は、簡単にここから離れませんよって宣言でもあるだろ?

良かったな~ウィン!
頑張りたまえよ!ハハハ!

俺はウィンの肩をポンポンと叩く。
そして思わせぶりにこう言ってやる。

「これでモローとじっくり話せるな」
「ん…ああ」

プププ、何その思いつめた顔!
超おもしれー。

しばらくはあの子と会えなくて寂しいから、時々ウィンをからかって憂さ晴らししてやろーっと…


…なーんて思っていたら、数日後。


彼はルーの知り合いだという自然工学の先生を連れて、戻ってきた。
そして、ニコニコの笑顔で、言った。

「ディーさん、聞いてください!
 僕、モロー様の側付きに転属になったんです!」
「ええっ、本当か!?」

やった、これでずっと一緒にいられるじゃん!
なんて…喜んで、みた、けど…

これってつまり…

モローにモロバレ…って、やつじゃ…?

「あー!!」

コレ完全にケンタウレア・ジョークじゃねーか!
くっそ!!
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