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学園6年目
サプライズ返しと記念日
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中央公園に着くと、大賑わいになっていた。
馬車で中に乗り込んでいくのは無理なので、入口からは歩きだ。
「殿下!ルース様!!」
「あっ、情報誌の」
「先ほどのお言葉、しっかり掲載させて頂きます!」
「モテは努力で作れる!良いお言葉です!」
「嫌な思いをする娼夫の方が減るのは良い事ですから!」
何でこの人らに最初に会うんだろう…
まあいいか。
「お互い気持ちよく、が大事だからね」
「仕事だからと我慢させるよりサービスも良くなりますしね!」
結婚式にする話題なんか?
みたいな話をしながら歩く。
歩いているうちに物産展屋台ゾーンへ入る。
「殿下!ルース様!
我が領で開発した新作コロッケです!」
「ああ、カボチャコロッケの…どうです売れ行きは」
「中に入れたチーズが予想以上に好評で!」
「それは良かった」
途中からやたら食べ物を渡される。
お腹が空いているのでありがたくいただく。
「ん、美味しい!欲を言えばチーズにもうちょっと塩味が欲しいかも」
「分かりました、持ち帰ってすぐ検討します!」
「殿下!ルース様!
こちら我が領で開発したスリミオアゲタンでございます」
「ああ、海沿いの…うん、いい香り」
天ぷらという言葉もさつま揚げという言葉も避けた結果、スリミオアゲタンという謎の名称がついたそれはぷりぷりで美味しく揚がっていた。
「人参やゴボウを生地に混ぜたりしてバリエーションを増やしても良いかもですね~」
「はい、持ち帰って検討します!」
各領で名物を作って観光客を呼び込む作戦…
新年会で話してからたった1ヶ月でここまで頑張ったんだな。
うまくいけば良いけど。
「おい、殿下とルース様が美味しいって!急いで貼りだせ!」
…うん、商魂逞しくて何より。
「うちのジャム、ご試食どうぞ!」
「こちら我が領の名物バーガーです!」
何か食べ物めっちゃ集まって来るな…
むしゃむしゃ…
「美味しい!クッキーにサンドして神殿で売ろう」
「おお、野菜が新鮮…美味しい」
あれ、結婚式ってこんなに食べられるもんだっけ?
「殿下!ルース様!こちらの試食もどうぞ!」
「殿下!ルース様!」
うーん、商売のタネを蒔き過ぎたな…
イドラ君ちが混乱してなきゃ良いんだけど。
「ルースを頼ってきた領の連中、張りきっているな」
「やっぱり王都から人を呼びたいですもんね…必死ですよ」
継げる農地のない若者の流出を防ぐ意味でも、各領地が奮闘してくれたら嬉しいな。
「さて、そろそろ中央の大舞台へ行くか」
「そうですね、MDMの兄弟グループの演目も近いですし」
「Bro.だったか?」
「ええ…そのまんまの名前で申し訳ない」
今日が初めての大舞台。
頑張って欲しい!
大舞台の前まで行くと、ダンピエラ男爵に会った。
「いらっしゃいませ両殿下!」
そう言って指をパチンと鳴らすと、舞台からこっちへ真っ直ぐ赤絨毯が転がってきた。
それはダンピエラ男爵の後ろでピタリと止まり…
赤絨毯の道が舞台まで伸びた。
「さあどうぞ、皆が待っております!
この劇の締めくくりは結婚式。
是非お2人に演じて頂きたい!!」
「は!?」
「ルース様は『はい』というだけで大丈夫ですよ!さあどうぞ」
何この演出!?
隣にいるアルを見ると、妙にやる気満々…
「行くぞルース」
「は、はあ」
結婚式と同じ様に、アルの腕に掴まって歩く。
よく見ると祭壇には…
「…おっさん!」
「よっ、ルース君」
ほんま何しとんねん!?
本番で出て来なはれや!!
***
舞台の上でさっきの結婚式の再現が終わり、劇も幕を閉じた。
友人や仕事関係の人たちもいっぱい見に来ていて、もう一度結婚式をした気分だ。
神官長は堂々としてるしね。
俺はアルに聞いてみた。
「まさか、これもサプライズ?」
「そういうことだな」
「…もう!」
アルのサプライズ好きには困ったもんだな。
半分くらいドッキリだからな…
って、実は俺も一つ考えてるんだけどね。
俺はダンピエラ男爵に目配せする。
俺と殿下を残し、役者さんとスタッフが捌けて、幕がもう一度上がると…
そこには急ごしらえの演説台。
「何?あっ、おいルース!?」
俺はアルの隣を離れ、箱を重ねただけの階段を駆け上がり、観客に向かって言う。
「皆さん!今日この場をお借りして、ルース・ローズとして最初の提言を致します!」
「ルース!?」
びっくりしているアル。
ざわつく観客の皆様。
俺は構わず大きな声で演説する。
「今日この日を記念して、毎年2月14日は勇気をもって愛を伝える日に致しましょう!
ささやかな贈り物と一緒に心を込めて。
誰が誰に恋をしても許される日、この日だけは堂々と愛を伝えられる日に!」
俺はずっと思っていた。
恋愛ゲームなのにこの日が無いなんておかしい…と。
無いなら作るしかない。
バレンタインデーを!!
俺はブーケをほどく。
ブーケトスという習慣が無いらしいこの国に、ふさわしいやつを一つ。
「ブロウ…200m四方、やや強め、斜め上方向」
風魔法で空へ散らす。
花は一本一本バラバラになり、宙を舞う。
魔法を止める。
それが会場内の誰かの所へ落ちる。
「わあ…」
「すごい…!!」
観客の反応は良し。
俺は言う。
「この花を受け取った人は、必ず自分の気持ちを愛する人に伝えて下さい。
皆様に幸あれ!!」
わああ!!
観客の歓声。
サプライズ返しが成功してるといいけど…
俺はアルを探す。
演説台の側に来ていたアルと目が合う。
俺は演説台から慎重に降り、ブーケから抜いておいた一輪の薔薇をアルの胸ポケットへ刺した。
そしてダンピエラ男爵直伝の、芝居がかった口調で言った。
「あなたに最大級の愛を、アルファード殿下」
そうして俺はアルに優しくキスをする。
さっきより大きな歓声が会場を包む。
「ルース、やるじゃないか」
「ふふ、アルにやられっぱなしじゃね?」
2人で舞台を降りて、来た時と同じ赤絨毯の上を歩く。
2人で観客に手を振り…
「さて、帰るとするか」
今日の日程は全て終了。
「王宮に帰るまでが結婚式ですよ?」
「分かっている」
俺とアルはみんなの祝福を受けながら、中央公園を後にした。
Bro.の初舞台は音漏れ参戦になったけど…
たまには仕事よりアルを優先しないとね。
馬車で中に乗り込んでいくのは無理なので、入口からは歩きだ。
「殿下!ルース様!!」
「あっ、情報誌の」
「先ほどのお言葉、しっかり掲載させて頂きます!」
「モテは努力で作れる!良いお言葉です!」
「嫌な思いをする娼夫の方が減るのは良い事ですから!」
何でこの人らに最初に会うんだろう…
まあいいか。
「お互い気持ちよく、が大事だからね」
「仕事だからと我慢させるよりサービスも良くなりますしね!」
結婚式にする話題なんか?
みたいな話をしながら歩く。
歩いているうちに物産展屋台ゾーンへ入る。
「殿下!ルース様!
我が領で開発した新作コロッケです!」
「ああ、カボチャコロッケの…どうです売れ行きは」
「中に入れたチーズが予想以上に好評で!」
「それは良かった」
途中からやたら食べ物を渡される。
お腹が空いているのでありがたくいただく。
「ん、美味しい!欲を言えばチーズにもうちょっと塩味が欲しいかも」
「分かりました、持ち帰ってすぐ検討します!」
「殿下!ルース様!
こちら我が領で開発したスリミオアゲタンでございます」
「ああ、海沿いの…うん、いい香り」
天ぷらという言葉もさつま揚げという言葉も避けた結果、スリミオアゲタンという謎の名称がついたそれはぷりぷりで美味しく揚がっていた。
「人参やゴボウを生地に混ぜたりしてバリエーションを増やしても良いかもですね~」
「はい、持ち帰って検討します!」
各領で名物を作って観光客を呼び込む作戦…
新年会で話してからたった1ヶ月でここまで頑張ったんだな。
うまくいけば良いけど。
「おい、殿下とルース様が美味しいって!急いで貼りだせ!」
…うん、商魂逞しくて何より。
「うちのジャム、ご試食どうぞ!」
「こちら我が領の名物バーガーです!」
何か食べ物めっちゃ集まって来るな…
むしゃむしゃ…
「美味しい!クッキーにサンドして神殿で売ろう」
「おお、野菜が新鮮…美味しい」
あれ、結婚式ってこんなに食べられるもんだっけ?
「殿下!ルース様!こちらの試食もどうぞ!」
「殿下!ルース様!」
うーん、商売のタネを蒔き過ぎたな…
イドラ君ちが混乱してなきゃ良いんだけど。
「ルースを頼ってきた領の連中、張りきっているな」
「やっぱり王都から人を呼びたいですもんね…必死ですよ」
継げる農地のない若者の流出を防ぐ意味でも、各領地が奮闘してくれたら嬉しいな。
「さて、そろそろ中央の大舞台へ行くか」
「そうですね、MDMの兄弟グループの演目も近いですし」
「Bro.だったか?」
「ええ…そのまんまの名前で申し訳ない」
今日が初めての大舞台。
頑張って欲しい!
大舞台の前まで行くと、ダンピエラ男爵に会った。
「いらっしゃいませ両殿下!」
そう言って指をパチンと鳴らすと、舞台からこっちへ真っ直ぐ赤絨毯が転がってきた。
それはダンピエラ男爵の後ろでピタリと止まり…
赤絨毯の道が舞台まで伸びた。
「さあどうぞ、皆が待っております!
この劇の締めくくりは結婚式。
是非お2人に演じて頂きたい!!」
「は!?」
「ルース様は『はい』というだけで大丈夫ですよ!さあどうぞ」
何この演出!?
隣にいるアルを見ると、妙にやる気満々…
「行くぞルース」
「は、はあ」
結婚式と同じ様に、アルの腕に掴まって歩く。
よく見ると祭壇には…
「…おっさん!」
「よっ、ルース君」
ほんま何しとんねん!?
本番で出て来なはれや!!
***
舞台の上でさっきの結婚式の再現が終わり、劇も幕を閉じた。
友人や仕事関係の人たちもいっぱい見に来ていて、もう一度結婚式をした気分だ。
神官長は堂々としてるしね。
俺はアルに聞いてみた。
「まさか、これもサプライズ?」
「そういうことだな」
「…もう!」
アルのサプライズ好きには困ったもんだな。
半分くらいドッキリだからな…
って、実は俺も一つ考えてるんだけどね。
俺はダンピエラ男爵に目配せする。
俺と殿下を残し、役者さんとスタッフが捌けて、幕がもう一度上がると…
そこには急ごしらえの演説台。
「何?あっ、おいルース!?」
俺はアルの隣を離れ、箱を重ねただけの階段を駆け上がり、観客に向かって言う。
「皆さん!今日この場をお借りして、ルース・ローズとして最初の提言を致します!」
「ルース!?」
びっくりしているアル。
ざわつく観客の皆様。
俺は構わず大きな声で演説する。
「今日この日を記念して、毎年2月14日は勇気をもって愛を伝える日に致しましょう!
ささやかな贈り物と一緒に心を込めて。
誰が誰に恋をしても許される日、この日だけは堂々と愛を伝えられる日に!」
俺はずっと思っていた。
恋愛ゲームなのにこの日が無いなんておかしい…と。
無いなら作るしかない。
バレンタインデーを!!
俺はブーケをほどく。
ブーケトスという習慣が無いらしいこの国に、ふさわしいやつを一つ。
「ブロウ…200m四方、やや強め、斜め上方向」
風魔法で空へ散らす。
花は一本一本バラバラになり、宙を舞う。
魔法を止める。
それが会場内の誰かの所へ落ちる。
「わあ…」
「すごい…!!」
観客の反応は良し。
俺は言う。
「この花を受け取った人は、必ず自分の気持ちを愛する人に伝えて下さい。
皆様に幸あれ!!」
わああ!!
観客の歓声。
サプライズ返しが成功してるといいけど…
俺はアルを探す。
演説台の側に来ていたアルと目が合う。
俺は演説台から慎重に降り、ブーケから抜いておいた一輪の薔薇をアルの胸ポケットへ刺した。
そしてダンピエラ男爵直伝の、芝居がかった口調で言った。
「あなたに最大級の愛を、アルファード殿下」
そうして俺はアルに優しくキスをする。
さっきより大きな歓声が会場を包む。
「ルース、やるじゃないか」
「ふふ、アルにやられっぱなしじゃね?」
2人で舞台を降りて、来た時と同じ赤絨毯の上を歩く。
2人で観客に手を振り…
「さて、帰るとするか」
今日の日程は全て終了。
「王宮に帰るまでが結婚式ですよ?」
「分かっている」
俺とアルはみんなの祝福を受けながら、中央公園を後にした。
Bro.の初舞台は音漏れ参戦になったけど…
たまには仕事よりアルを優先しないとね。
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