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学園6年目
後宮という名の何か、始動 ~セント神官とダグ~
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セント神官とダグの突然の後宮入り…。
誰もが驚いた一件だが、一番驚いているのはダグだろう。
「おい、セント。荷物ほどきは終わったか?」
「いや、まだ…服はそれほど持っていないんだが、書物を置く場所がな…
このクローゼットを本棚に変えて貰うか」
「あーじゃあ、俺の部屋の本棚とセントの部屋のクローゼットを交換しよう」
「良いのか?」
「俺はどうしても装備品なんかが幅を取るんでな…本棚が要らないわけじゃないが、そっちを優先したい」
「じゃあ有難く…
すみません、セリンセ商会の方!
こっちの部屋のクローゼットを一つ、そっちの部屋の本棚と入れ替えたいのですが」
「へーい!」
かつての我が庭へ王家派の一員として舞い戻り、幼少期に与えられた虐待に頭も体も支配されたとき、助けてくれたのがセント・ジェンティアナ神官だ。
ジェンティアナ伯爵家はかつて、当主が事故で早世し、その跡をまだ学園生だった長男が引き継いだはいいが、周囲の大人たちに騙されて貯蓄の大半を失ったことで社交界を騒がせた事もあった。
その長男が必死で家を建て直し、立派な領主となった今では単なる昔話として語られるが…
「セントも、苦労したんだよな…」
「私は学園に入学すると同時に信仰の道へ入っただけだ。
信仰の徒は学費が安くなると言われてな」
「そうなのか、知らなかった…」
自分のいたイフェイオン家も大概金は無かったが、そういう話は一切聞かされなかったとダグは言った。
セント神官はそうだろうな、と応じて言った。
「信仰の徒になった生徒は貧乏人と蔑まれるものだから、高位貴族では考えられないだろうな。
だが貧乏すぎても…3年間寄付のない家の子は信仰の徒になれないという決まりもあった」
「何だそれは」
この国には「自分の子を学園へ通わせられなくなったら貴族を辞めなければならない」…という慣習がある。
その事を避ける為の保険として寄付を募る…
良く出来た話である。
「昔どこぞの公爵の提案でそう決まったらしい。
大神官長様によって今は撤廃されているぞ」
「公爵派の仕業ってことは、ユーフォルビアを狙い撃ちにする目的でもあったのか?」
「分からん、が、その事が決まってから、寄付をする家は増えたらしい。
相変わらずユーフォルビアからは寄付が無かったそうだが」
事の真意は分からないが、公爵派の企みである可能性は高そうだ。
ダグは居心地が悪くなり、話を元に戻す事にした。
「実際どの程度安くなるんだ?」
「ああ、半額近くまで下がる」
その代わり、信仰の徒になったら進路は神職に固定される。
息子が神職であれば、多少は続けて寄付をしてくれるだろう…という下心が丸見えだ。
「それに、両親の死を悼み弔うのは私の役目だと思ったしな。
苦労したのは兄の方だろう…弟を金で売る事もせず、耐えてくれたのだ。
……有難い事だ」
この世には金に困ると身内を売る…
子どもを問題のある金持ちに、伴侶あるいは愛人にと差し出して金を得る家も多い。
そして、セント神官は10人中10人が美形だと思う程度には顔が良いのだ。
騙した大人たちの中には美少年を囲おうという思惑の者もいたかもしれない。
「ただ、金の為に子どもを売るのは、貴族だけじゃない…神殿もそうだった」
今の神殿の主な収入は、貴族や富裕層からの大口寄付ではなくお菓子や食事の対価として得る一般からの寄付が大半を占めている。
大神官長が代替わりした十年ちょっと前から少しずつ変わってきた。今では殆どの神殿が、下心のある寄付を断れるようになった…
収入源の確保と、金満神官の追放によって。
「セントが、うちの親父みたいなのに買われなくて良かった」
「はは…私の兄は曲がった事が嫌いでな。
まあその割には『家宝だ』と渡された箱の中にぎっしりエロ本が入っていたわけだが」
「とんでもない間違いだな」
「大いにな!!」
お陰で性癖が歪んでしまった、とセント神官は笑う。
聞いた時は驚き過ぎて声も無かった…とダグも言う。
同居を始めた頃には随分悩んだセント神官だが、酒の勢いでつい喋ってしまったのだ…
昔、アルファード殿下に尻を叩かれて昇天してしまった事を。
「まあ、知られた事で気楽にはなったがな」
「うん?」
それに嫉妬したダグがセント神官を押し倒して…
お互いをさらけ出して、多少の紆余曲折を経て、晴れて恋人と呼べる関係になったのだ。
「結果が良ければ全て良し、だ」
「何だそれ…」
「無事にここへ入れて助かった、ということだ」
「俺としては複雑だけどな」
「まあまあ、もう側室とも後宮とも言わなくなるんだから良いじゃないか」
そうだ、名称はまだ決まっていないが、ここは後宮では無いし彼らは側室でもない。
「案があれば出してくれと言っていたぞ」
「どうせならかっこいい名前が良いな」
そう言って笑い合い、セント神官とダグはどちらからともなく…
キスを、交わした。
誰もが驚いた一件だが、一番驚いているのはダグだろう。
「おい、セント。荷物ほどきは終わったか?」
「いや、まだ…服はそれほど持っていないんだが、書物を置く場所がな…
このクローゼットを本棚に変えて貰うか」
「あーじゃあ、俺の部屋の本棚とセントの部屋のクローゼットを交換しよう」
「良いのか?」
「俺はどうしても装備品なんかが幅を取るんでな…本棚が要らないわけじゃないが、そっちを優先したい」
「じゃあ有難く…
すみません、セリンセ商会の方!
こっちの部屋のクローゼットを一つ、そっちの部屋の本棚と入れ替えたいのですが」
「へーい!」
かつての我が庭へ王家派の一員として舞い戻り、幼少期に与えられた虐待に頭も体も支配されたとき、助けてくれたのがセント・ジェンティアナ神官だ。
ジェンティアナ伯爵家はかつて、当主が事故で早世し、その跡をまだ学園生だった長男が引き継いだはいいが、周囲の大人たちに騙されて貯蓄の大半を失ったことで社交界を騒がせた事もあった。
その長男が必死で家を建て直し、立派な領主となった今では単なる昔話として語られるが…
「セントも、苦労したんだよな…」
「私は学園に入学すると同時に信仰の道へ入っただけだ。
信仰の徒は学費が安くなると言われてな」
「そうなのか、知らなかった…」
自分のいたイフェイオン家も大概金は無かったが、そういう話は一切聞かされなかったとダグは言った。
セント神官はそうだろうな、と応じて言った。
「信仰の徒になった生徒は貧乏人と蔑まれるものだから、高位貴族では考えられないだろうな。
だが貧乏すぎても…3年間寄付のない家の子は信仰の徒になれないという決まりもあった」
「何だそれは」
この国には「自分の子を学園へ通わせられなくなったら貴族を辞めなければならない」…という慣習がある。
その事を避ける為の保険として寄付を募る…
良く出来た話である。
「昔どこぞの公爵の提案でそう決まったらしい。
大神官長様によって今は撤廃されているぞ」
「公爵派の仕業ってことは、ユーフォルビアを狙い撃ちにする目的でもあったのか?」
「分からん、が、その事が決まってから、寄付をする家は増えたらしい。
相変わらずユーフォルビアからは寄付が無かったそうだが」
事の真意は分からないが、公爵派の企みである可能性は高そうだ。
ダグは居心地が悪くなり、話を元に戻す事にした。
「実際どの程度安くなるんだ?」
「ああ、半額近くまで下がる」
その代わり、信仰の徒になったら進路は神職に固定される。
息子が神職であれば、多少は続けて寄付をしてくれるだろう…という下心が丸見えだ。
「それに、両親の死を悼み弔うのは私の役目だと思ったしな。
苦労したのは兄の方だろう…弟を金で売る事もせず、耐えてくれたのだ。
……有難い事だ」
この世には金に困ると身内を売る…
子どもを問題のある金持ちに、伴侶あるいは愛人にと差し出して金を得る家も多い。
そして、セント神官は10人中10人が美形だと思う程度には顔が良いのだ。
騙した大人たちの中には美少年を囲おうという思惑の者もいたかもしれない。
「ただ、金の為に子どもを売るのは、貴族だけじゃない…神殿もそうだった」
今の神殿の主な収入は、貴族や富裕層からの大口寄付ではなくお菓子や食事の対価として得る一般からの寄付が大半を占めている。
大神官長が代替わりした十年ちょっと前から少しずつ変わってきた。今では殆どの神殿が、下心のある寄付を断れるようになった…
収入源の確保と、金満神官の追放によって。
「セントが、うちの親父みたいなのに買われなくて良かった」
「はは…私の兄は曲がった事が嫌いでな。
まあその割には『家宝だ』と渡された箱の中にぎっしりエロ本が入っていたわけだが」
「とんでもない間違いだな」
「大いにな!!」
お陰で性癖が歪んでしまった、とセント神官は笑う。
聞いた時は驚き過ぎて声も無かった…とダグも言う。
同居を始めた頃には随分悩んだセント神官だが、酒の勢いでつい喋ってしまったのだ…
昔、アルファード殿下に尻を叩かれて昇天してしまった事を。
「まあ、知られた事で気楽にはなったがな」
「うん?」
それに嫉妬したダグがセント神官を押し倒して…
お互いをさらけ出して、多少の紆余曲折を経て、晴れて恋人と呼べる関係になったのだ。
「結果が良ければ全て良し、だ」
「何だそれ…」
「無事にここへ入れて助かった、ということだ」
「俺としては複雑だけどな」
「まあまあ、もう側室とも後宮とも言わなくなるんだから良いじゃないか」
そうだ、名称はまだ決まっていないが、ここは後宮では無いし彼らは側室でもない。
「案があれば出してくれと言っていたぞ」
「どうせならかっこいい名前が良いな」
そう言って笑い合い、セント神官とダグはどちらからともなく…
キスを、交わした。
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