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学園6年目

【閑話休題】「あ、ああ…そうだ」っていうゲーム

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ここフリージア邸は、その見た目から領民に「城」と呼ばれている。

呼ばれているが、親しまれてはいない。

思い入れが無いからだ。

出入りするのは食料品を納品する店だけ。
今代の領主は領内を見回るということをほぼしない。
時々領主の代わりに姿を見せ、気を配ってくれていた伴侶のかたも、息子が学園に入学したのを機に出て行った。
それでいよいよ、領主に対して「どうでもいい」という感情が大きくなった。

居ても居なくても変わらない。
何をしてくれるでも、しでかすでもない。
つまりは存在感が無いのだ。

それでも領の経営が出来ているのは、「例年通りに」「前例通りに」やっていれば充分成り立つからである。
単純に恵まれた領地なのだ。
だから、領民に不満は無い。

年に2回、春祭りと秋祭りが開かれるが、これもまた「いつも通り」。
変わるのは、やって来る大道芸人の顔くらいだ。
だが領民は「いつも通り」を愛している。

ダンジョンから魔物や魔獣が溢れたら、この「いつも通り」が終わってしまう事を知っているから。

領民たちは今日も「いつも通り」の生活を送る。
それもまた、1つの幸せの形である…


…そんなフリージア邸の地下で、今まさに「前例のない」事が起きていた。

フリージア家当主が数人の来客が取り囲まれ、冒険者ギルドのトップとその右腕の2人に詰問されているのだ。

アンジャベル卿が聞く。
「ふむ、この穴がエルム邸とイフェイオン邸に繋がっておるのですな?」
「あ、ああ…そうだ」

クリビア氏が言う。
「もし古龍の墓から魔物や魔獣が溢れることがあったら、街の人々はここを通って逃げられる、と。
 そういう理由で、ここにこの穴を開けた…という解釈で、よろしいですね?」
「あ、ああ…そうだ」

アンジャベル卿は重ねて尋ねる。
「であるからには、途中に大勢の人間が補給を受けられる場所がなければなりません。
 それが見当たらないのは……今から造ろうと思っておられたから、ということで宜しいか?」
「あ、ああ…そうだ」

クリビア氏が突っ込む。
「その事業に着手されようとした矢先、ご当主は、その場所の検討のために第三者の調査が必要ではないかと思い当たられた。
 それで、その旨冒険者ギルドへ依頼頂いた…という流れに、間違いは御座いませんね?」
「あ、ああ…そうだ」

その言葉にニッコリと微笑むクリビア氏。
「そして私たちがここにいるのは、その依頼を請け負ったから、という事で…よろしいですね?」
「あ、ああ…そうだ」

美しい人の微笑みは時に恐怖を感じさせる。
彼が提案する「もっともらしい作り話」に、フリージア家当主は萎縮して頷くばかりだ。
本当の理由など話したら比喩ではなく首が飛ぶのだから、この話に乗るしか生きる道は無い。
クリビア氏は一緒にここへ来た2人の魔法使いに声を掛ける。

「では調べさせて頂きますね?
 ウェルターさん、バンタムさん、ご同行宜しいでしょうか」
「「了解した」」
「ふふっ…お父上にそっくりですね」
「「良く言われる」」

双子…という訳でもないのに非常によく似た2人の若者は、がっしりとした外見をしており、言葉は少なく、そして意志の強そうな瞳を持っていた。

「さて、参りましょうか。
 すみませんが、アンジャベル卿。
 この依頼は報酬がまだ設定されておりません。
 ですと1000万程度かと。
 このまま依頼主様との交渉をお願い致します」
「分かった、任せておけ。
 まあ天下の公爵様がお相手だからな。
 値切るような真似などなさらんはずだ。
 ……ですな?」
「あ、ああ…そうだ」

実際払えない額ではない。
なんなら即金で今すぐにでも用意できる。
ただ、物を買う以外の事に金を使いたくない…


フリージア家当主は、形のないものの価値が分からない人間であった。


苦み走った顔の公爵を放置し、クリビア氏はフリージア邸の地下道入口を見据える。

「この穴の向こうでは、お2人の父上が戦っておられるのですね」

すると同行の2人が言う。

「…弟もだ」
「何故親父ばかり弟と一緒に…解せぬ」

職権乱用だ…
そもそもヘザーを戦地に行かせるなど…
怪我でもしたらどうするんだ…
そういえば光魔法を覚えたと…
なんということだ、では親父の怪我をヘザーが治すことになるかもしれないのか…
親父の浮かれた顔など見たくも無い…

と2人は急に饒舌になりながら、クリビア氏と共に穴の奥へと入って行った。

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