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学園6年目
戦という名の総決算 6 ~ベルガモット教授視点~
しおりを挟む「『あのジジイを殺せ』」
エルム公は確かにそう<命令>した。
だからだろう。
開戦直後から、全ての敵が校長の所へ押し寄せた。
「ソラン、騎士団の後ろまで下がれ!」
「はい!!」
ソランの盾だけでは防ぎきれないと判断した校長は、すぐにソランを下げ、クレイウォールで自分の周囲を包んでから叫んだ。
「ヘヴィ~頼んだぞう!…結界!!」
「はっ…業火」ブゴオオオ…
校長の出した土壁を壊そうと取り囲んだ敵もろとも、ヘヴィ殿が業火で燃す。
何人もの黒焦げ死体が出来、死ななかった者も大火傷を負って地面へ転がり呻く。
圧倒的な力の差に、敵が動揺する。
「ば、化物だ!!」
「逃げろ!!」
「押すな!押すなああ!!」
一点に集中していたせいで後退もままならない敵を、騎士団が叩く。
カレンデュラ団長の大音声が聞こえる。
「逃げるやつを追うな!目の前に集中しろ!」
「は!!」
その言葉で、何人もの敵が武器を捨てて逃げようとする。
バルコニーではエルム公が騒ぐ。
「『逃げるな!』『敵を殺せ!』『騎士どもを血祭りにあげろ!』」
その言葉を聞いても尚、逃げようとする敵は減らない。
「助けてくれ!」
「命が惜しけりゃ剣を捨てろ!」
カン、カンと乾いた音が聞こえる。
剣と剣がぶつかる音だろう…
俺は通信に専念してくれ、と言われて前線から下げられた。
救護班の天幕でロリィやエバと一緒に戦局をただ見ている…
前線では自分の教え子だった者が戦っているかもしれないのに。
いつの間にか俺はタイプライターを叩いていた。
>エルム公の姿はまだこちらにあり
>闇魔法の<命令>は、命の危機を感じた者には効果が及ばないようだ
>戦況は圧倒的にこちらが有利
>こちらの損耗はほぼ無し
すると通信が返ってきた。
>了解
…向こうでも今頃は戦っている最中だろう。
この通信を見るのは、この魔道具の保守要員として屋敷に残るネリネ教授だけだ。
使い方は分っていても、長文を打つだけの魔力は無い…
彼らしい一言だ。
救護班の天幕には何人か怪我をした者が運び込まれている。
ヘザーとエルグラン王子が中心となって光魔法での治療に当たっており、余程の怪我でない限りは治してしまう。
敵にもこういう者がいるのだろうか。
あの大火傷を負った敵は…
治して貰えないまま、苦しみながら死ぬのだろうか。
俺は戦場で死んでいく者達を見て、大きな虚無感に囚われていた。
エバとロリィが言う。
「戦争だから死ぬこともある、それはお互い様…だろう?」
「分かっている…それでも」
「ま、ここの戦が終わった時にまだ生きてれば治してあげるよ…捕虜になるんだしね」
「…頼む、ロリィ」
なぜこんな戦いをせねばならんのだ?
命の無駄使いではないか?
エルム公の目指すものに、それほどの価値があるというのだろうか?
ローズ、ではなく、ローザンヌと言った。
ローザンヌ地域という意味だろうか。
それともローザンヌ帝国の事だろうか。
帝国最後の皇帝は、初代ローズ王国国王。
彼の皇帝は、即位後に全ての反乱軍と講話し独立を認め、各地の紛争を終わらせた。
ローザンヌ帝国を解体する代わりに、民たちがこれ以上犠牲になるのを止めたのだ。
賢王か、愚王か。
人によってその評価は分かれるが、ローザンヌ地域の国々がそれほどいがみ合わず、ローズ王国を中心として緩やかに団結しているところを見ると、俺は彼の皇帝を賢王と呼ぶべきだと思っている。
では、エルム公は?
今の国王陛下は?
そして次の王になるであろうアルファード殿下は?
彼らが賢王の器かどうか、今見極めるのは困難だ。
ただ、あの安い挑発に乗るあたり、エルム公が賢王になるとは全く思えん。
次々に人が運ばれてくる。
敵味方など関係なしに荷車に積まれてやってくる。
ロリィは怪我人の集められた場所に行き、まとめて彼らにヒールを掛けている。
エバもやれやれと言いながら、大きな樽に魔法で飲料水を集めている。
テディとキューは前線に出た。
生徒たちも戦場を駆け回り、怪我人を集めて回っている。
「俺に何が出来る…?」
戦で死んだ者を食べて、獣が魔獣になるという。
だから、死体は一つでも少ない方が良い。
大事な事後処理の1つ。
誰もがやりたくない事の1つ。
「戦の後で死体を焼く係…か」
死体を灰になるまで燃やす。
死んだ者に鞭を打つ行為は…
「出来る事なら、やりたくは無かったな」
その時だ。
「セド!エルムがバルコニーから消えた!」
「何っ!?」
俺は慌ててタイプライターを叩く。
>エルムが消えた
そして衝動のまま、エルム邸に向かって走った。
いつの間にか右手には剣を握っていた。
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