上 下
394 / 586
学園6年目

戦いという名の総決算 2 ~ベルガモット教授視点~

しおりを挟む
学園を出てから6日目の深夜、王都から派遣された軍と合流しエルム公の屋敷へ向かう。
なぜこのような事を起こそうと思うに至ったのかは分からない。

この事態を、エルム公の伴侶殿はどう思っておられるのだろうか。
今もお2人は行動を共にしているのだろうか。

御者台で俺は独りごちた。

「どこで間違ったんだろうな…」
「何が間違いなんだ、ベルガモット殿?」

隣に座っていたケンタウレア殿が耳ざとく私の独り言を聞き取ったらしく話しかけてきたので、少々会話をする。

「エルム公の事だ。
 公爵派が瓦解した時点で首を垂れて王家の派閥に下ることは出来なかったのだろうか、と思ってな」
「…カイトから聞いた所によると、エルム公にはリード・ユーフォルビア氏殺害教唆の嫌疑があるそうだ。
 それが本当ならば、王家の軍門に下ったところで死刑は確定…。
 その時点で、もう引き返す道は無かったのかもしれん」
「しかし、処刑されなくて済みそうな方法がこれしかないわけでは無いだろう?」

確かにこれには「ワンチャンある」かもしれんが…
もう少し穏便に…例えば「国外逃亡」などの方法もあったのでは?
アルテミシア地域まで行けば闇魔法使いとしてそれなりに重宝されて生き残れる可能性が高い。
海を渡るところまでクリアすれば…。

「海を渡る…か。
 そういえばケンタウレア殿はシャラパールの巨大サンドワームと直接やり合ったのだろう?
 私も死体の処理に行ったが、あれはとんでもなく大きかったな」
「ああ、ゴーレムが無ければ勝てたか分からん。
 あの場にいた全員を飲み込んだ後、アルテミシアへ逃げていたら…。
 今頃大変な事になっていただろうな」

確かに、あの時ゴーレムの生成に成功していなかったら…ぞっとするな。

「そうか…ゴーレムがそこまで役立ったとは。
 必死で歌った甲斐があったよ」
「お見事な歌声だった」
「子どもの頃に声楽もやっていて良かったよ」

子どもの頃、か…
そうだ、エルム公にも子どもの頃があったはずだ。
学園に入るまでの間の教育はどうだったのだろう。
そこが間違っていたとするならば……

「学園に入る前の教育を、家まかせにし過ぎるのも問題…ということか。
 新しい教育機関が必要かもしれんな…」
「ああそうか。
 ベルガモット侯爵家は教育関係だったな」
「ああ、本来はな。
 最近ようやく火の侯爵の座を降りられそうでほっとしているんだ」

火の侯爵の座が空いているのは、随分前の戦争で跡取りが死んでしまったからだ。
軍事的な事情から「空席はまずかろう」と、侯爵家の直系たちの中で一番魔力の多い火属性持ちがその座に就くことになっているだけで…

「…魔法というのは努力した分返って来る。
 だから俺でも火の侯爵を名乗れた。
 だがグロリオサ卿と何度も闘って分かった…
 努力で超えられない壁は、ある」

才能の有無については認めるしか無い。
それを知った上で、どうやって生徒たちに努力を促せば良いのか…
自分にとって、今一番の課題だ。

「しかしヘヴィ殿には出来ない事もベルガモット殿なら出来るだろう?」
「そりゃ火魔法以外で負けるわけにはいかん。
 俺は侯爵家に産まれたおかげで充実した教育を受けられたんだ。
 身分が低い者より大体において秀でていなければ、侯爵家である意味が無い」
「…なるほど」

そう、地位に応じて領地があり家業があり、それを全うするだけの教育の機会があり…

「それがあって尚、エルム公はどうしてこの手段を取ったのか分からん。
 戦争は良い物だという教えは無いのにな」
「…直接ではなくとも人を殺した経験があると、違うのかもしれんな」
「教えより経験、か…一理あるな」

行軍は続く。
明け方にはあちらへ着くだろう。
到着したらまずは殿下に連絡をして…
予定ではあちらのほうが半日早く着いているはずだ。

「…ケンタウレア殿、休憩の後は御者を任せても良いか」
「ああ、それは良いが…どうした」
「馬を借りて先へ行く。
 半日も通信が来ないのでは向こうも不安だろう。
 できるだけ早く連絡を入れてやらねば」
「分かった、だが1人で?」
「…1人で行けるならそうするがな」

設置にはガーベラの立会いが必要だし、何より…。

「…先遣隊もいるのだし、大丈夫だろう」
「そうだな」

ケンタウレア殿が思う危険と俺が危惧しているものは違うだろうが、何となく会話がかみ合ったので良しとする。

「馬どころか馬車を借りるはめになるかもしれんがな…」
「?まあ、侯爵殿ともなればそういう待遇になるか」
「……そうだな」

開戦まであと少し。

何も無い事を祈ろう。

しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

前世である母国の召喚に巻き込まれた俺

るい
BL
 国の為に戦い、親友と言える者の前で死んだ前世の記憶があった俺は今世で今日も可愛い女の子を口説いていた。しかし何故か気が付けば、前世の母国にその女の子と召喚される。久しぶりの母国に驚くもどうやら俺はお呼びでない者のようで扱いに困った国の者は騎士の方へ面倒を投げた。俺は思った。そう、前世の職場に俺は舞い戻っている。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

処理中です...