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学園5年目
【閑話休題】お披露目される人々
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王宮の正門は来客でごった返し、それを迎える王宮侍従と貴族が入り乱れる。
馬車がひっきりなしに到着する。
緊張の面持ちで彼らを出迎えるのは、この国の王とその伴侶、そして…
普段は王都へ滅多に現れない侯爵たち。
何人にも努力を求める教育者。
蟄居を一時的に許された前侯爵。
慣れない領地経営に必死な武闘派伯爵。
滅多にその姿を見せないフィールドワーカー。
国内有数の商会を仕切る男爵。
王家と繋がりが持てると浮足立つ侯爵。
その実力で貴族になり上がった魔法使い。
寝ても覚めても杖の事ばかり考えている子爵。
海の向こうからやってきた海千山千の商人。
まさか自分の子が側室とはいえ玉の輿に乗るなんて想像もしていなかった子爵と男爵。
彼らは次期国王の側室たちの父親だ。
「もう30を過ぎて、結婚などしないものかと」
「末の子が幸せになってくれれば、それで…」
「長子ではありませんし、どこかへ輿入れさせるのもありかと思っていたら、まさか」
「いやあ、知らせを聞いたのは砂漠の大穴で…」
「は、は、はじめまして、」
「………………」
緊張する親、しない親。
挨拶すらせず、不審者を見張る親。
王宮のパーティー会場控室では、側室たちが緊張の面持ち…
「何でこんな事に…」
「いいじゃない、これでセドに手を出す馬鹿はいなくなるし」
「ああ、他の側室方に言っとくけど、セドに何かしたら氷漬けにするから」
「それはこっちのセリフですよ。あなた方、ジョンに手を出したら刻みますからね?」
「そんな心配しなくても…もう決まった人が皆さんいるんですし」
「側室制度を、こんな使い方しちゃって良いんでしょうか?」
「校長先生が、『国の役に立つなら何でも良いのじゃ』って言ってたから大丈夫ですよ!」
「そんなことより、この面でヒラヒラしたブラウスを着る事に耐えられんのだが…なあカイト」
「同感ですジョンさん…デューイみたいな可憐な子が着るものですよね、これ」
「えっ、そうですか?似合ってますよ皆さん」
「お世辞は要らないんだよデューイ君…」
というほど誰も緊張していなかった。
前線か後方支援かの違いはあれど、全員が命懸けの戦場を経験しているのだ。
おまけに舞台慣れという点ではデューイなど場数が違う…
この程度のパーティーで緊張するほど、彼らの神経は細くなかった。
控室の中は和やかだ。
ほぼいつも通りと言ってもいい空気である。
そこへルースがやって来る。
入場は正室が先頭に立って行われるそうだ。
普通ならここで1つ2つの揉め事が起きるのだろうが…
「あ!お待たせしました皆さん!」
「おおルース!このフリルに我慢ならんのだが」
「あ~、エルさまに合わせてるから…。
どうも1番地位の高い人に似合う衣装で全員合わせるのが習わしらしくて」
「ああ、なるほど…衣装の豪華さで側室同士が無駄に張り合ったりしないための措置、か?」
「ですです、さすが教授」
全員の仲が良好、という、奇跡に近い関係が成立している次代の後宮は、正室が登場した事にむしろ気が緩んだようでもある。
「さて、入場…ですけど、側室になった順ということで」
「そりゃまた何でだ?」
「後宮では全員の身分が一緒になるんで、爵位順はそぐわないって事で。
というわけでエルさま、ジョンさん、…」
ルースの指示通り全員が入場順に並ぶ。
「こんな感じで…あ、それと、みなさんにはお揃いのブローチを付けて頂きたくて」
「僕とルースで頑張って作ったんだ!結構いい出来だと思うんだけど」
「ガントレットとルースで?
てことはこれも魔道具…?」
「まあまあ、細かい事は気にしないで!
順番に付けていきますね~」
ルースの手によって、小さな真珠がいくつかあしらわれたシンプルなデザインのブローチが、側室たちの左胸に付けられていき…。
ルディの順番になって、ルースの手が止まった。
「うーん…ルディ君、ちょっといいかな」
「あ、あぁ、えっ…?な、何です」
ルースはそう言うとルディの額に手を当てるが早いか
「秘儀・闇飛ばし」ピッカーーーー!
「うわぁああ!!」
「!!何すんだルース!」
控室がざわつく。
ふらつくルディと、それを支えながら叫ぶワルドに対してルースが言った。
「ワルド先輩もちょっと失礼」
「は?」
「秘儀・闇飛ばしっ!」ピッカーーーー!
「うあああ!!」
強い光が控室の扉の隙間から漏れた…が、その出来事が来賓客の間に漏れる事は無かった。
馬車がひっきりなしに到着する。
緊張の面持ちで彼らを出迎えるのは、この国の王とその伴侶、そして…
普段は王都へ滅多に現れない侯爵たち。
何人にも努力を求める教育者。
蟄居を一時的に許された前侯爵。
慣れない領地経営に必死な武闘派伯爵。
滅多にその姿を見せないフィールドワーカー。
国内有数の商会を仕切る男爵。
王家と繋がりが持てると浮足立つ侯爵。
その実力で貴族になり上がった魔法使い。
寝ても覚めても杖の事ばかり考えている子爵。
海の向こうからやってきた海千山千の商人。
まさか自分の子が側室とはいえ玉の輿に乗るなんて想像もしていなかった子爵と男爵。
彼らは次期国王の側室たちの父親だ。
「もう30を過ぎて、結婚などしないものかと」
「末の子が幸せになってくれれば、それで…」
「長子ではありませんし、どこかへ輿入れさせるのもありかと思っていたら、まさか」
「いやあ、知らせを聞いたのは砂漠の大穴で…」
「は、は、はじめまして、」
「………………」
緊張する親、しない親。
挨拶すらせず、不審者を見張る親。
王宮のパーティー会場控室では、側室たちが緊張の面持ち…
「何でこんな事に…」
「いいじゃない、これでセドに手を出す馬鹿はいなくなるし」
「ああ、他の側室方に言っとくけど、セドに何かしたら氷漬けにするから」
「それはこっちのセリフですよ。あなた方、ジョンに手を出したら刻みますからね?」
「そんな心配しなくても…もう決まった人が皆さんいるんですし」
「側室制度を、こんな使い方しちゃって良いんでしょうか?」
「校長先生が、『国の役に立つなら何でも良いのじゃ』って言ってたから大丈夫ですよ!」
「そんなことより、この面でヒラヒラしたブラウスを着る事に耐えられんのだが…なあカイト」
「同感ですジョンさん…デューイみたいな可憐な子が着るものですよね、これ」
「えっ、そうですか?似合ってますよ皆さん」
「お世辞は要らないんだよデューイ君…」
というほど誰も緊張していなかった。
前線か後方支援かの違いはあれど、全員が命懸けの戦場を経験しているのだ。
おまけに舞台慣れという点ではデューイなど場数が違う…
この程度のパーティーで緊張するほど、彼らの神経は細くなかった。
控室の中は和やかだ。
ほぼいつも通りと言ってもいい空気である。
そこへルースがやって来る。
入場は正室が先頭に立って行われるそうだ。
普通ならここで1つ2つの揉め事が起きるのだろうが…
「あ!お待たせしました皆さん!」
「おおルース!このフリルに我慢ならんのだが」
「あ~、エルさまに合わせてるから…。
どうも1番地位の高い人に似合う衣装で全員合わせるのが習わしらしくて」
「ああ、なるほど…衣装の豪華さで側室同士が無駄に張り合ったりしないための措置、か?」
「ですです、さすが教授」
全員の仲が良好、という、奇跡に近い関係が成立している次代の後宮は、正室が登場した事にむしろ気が緩んだようでもある。
「さて、入場…ですけど、側室になった順ということで」
「そりゃまた何でだ?」
「後宮では全員の身分が一緒になるんで、爵位順はそぐわないって事で。
というわけでエルさま、ジョンさん、…」
ルースの指示通り全員が入場順に並ぶ。
「こんな感じで…あ、それと、みなさんにはお揃いのブローチを付けて頂きたくて」
「僕とルースで頑張って作ったんだ!結構いい出来だと思うんだけど」
「ガントレットとルースで?
てことはこれも魔道具…?」
「まあまあ、細かい事は気にしないで!
順番に付けていきますね~」
ルースの手によって、小さな真珠がいくつかあしらわれたシンプルなデザインのブローチが、側室たちの左胸に付けられていき…。
ルディの順番になって、ルースの手が止まった。
「うーん…ルディ君、ちょっといいかな」
「あ、あぁ、えっ…?な、何です」
ルースはそう言うとルディの額に手を当てるが早いか
「秘儀・闇飛ばし」ピッカーーーー!
「うわぁああ!!」
「!!何すんだルース!」
控室がざわつく。
ふらつくルディと、それを支えながら叫ぶワルドに対してルースが言った。
「ワルド先輩もちょっと失礼」
「は?」
「秘儀・闇飛ばしっ!」ピッカーーーー!
「うあああ!!」
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