上 下
361 / 586
学園5年目

後宮探訪

しおりを挟む
衣装合わせと段取りの確認も終わり、殿下と2人で側室になるみんながお泊りする部屋の点検をしに後宮へ行く。

後宮は、正門から見て殿下の離れの左側にある。
通路を挟んで両サイドに部屋がある建物で、かつては王様(または王太子様)の寵愛順に入る部屋が決まっていたらしいんだけど、今回はそういうのが無いので1カップルずつ平等になるように振り分けられるらしい。
それと、側室の居室以外に1階の中央に図書室、2・3階に談話室・遊技場がある。
部屋の作りは広めのワンルームに大きめ収納・バス・トイレ付と、大体どこも一緒のようだ…

ゴード先輩がいた監禁部屋以外は。

俺は殿下に何でこんな話を受け入れたのか聞いた。

「ああ、公爵派の連中から側室になる権利を買った者の人数が正確に掴めたからな」
「なるほ…え?売ってるのはプリムラ公爵だけじゃなかったんですか?」

王宮の調査によると、エルム公爵とテナチュール侯爵の2人も販売した形跡があるらしい。
アレクさんが次期正室ナンチャラになったおかげで、「生真面目な国庫の番人」コスモス伯爵と王家の間に彼らが干渉できないパイプができたもんだから、横領がやりづらくなったんだろう…
と、殿下が言う。

「まあ、一番売っているのはプリムラだがな…
 実際それぞれから買って、契約書も押さえた」
「一体いくらで?」
「500万だ。貴族の子どもを1人養うにはそれくらいかかるから、その分で買えばとか何とか」
「どの口が抜かすのかな?」

養育費ほぼ払ってない奴が偉そうに!!
ほんで500万じゃ全然足りんからな!!
なめとんか!!!

「…で、一体何人が買ったんです?」
「47人」
「しじゅうしちにん」

赤穂浪士かよ!

俺は白目を剥いた。
殿下は続けた。

「先月まで父上の後宮が30、俺の後宮が22空いていたから、まあそれ以内に収めたんだろうな」
「ちょ、ちょっと待ってください!?
 その47人全員の子どもを俺が産む「設定」なんですか?」

いくらなんでも無理があるだろ!?

「いや、単に王家とお近づきになりたい平民の富裕層もいるようだから、全員では無かろうが」

あー、そういう人もいるのか。
お馬鹿さんばかりじゃなくて良かった…

あっ、そうか。

「もしかして、空きを47以下にするため…ですか?」
「うむ、ワルドとルディにノースとガーベラだけでは足りんだろう?」
「…なるほど」
「今回のパーティーは、シャラパールとの友好を深める為だけの物では無い。
 これほど大々的に側室の人数を正式発表すれば、買った連中の中にも気づく者が出るだろう。少なくとも側室の枠を売った公爵派やつらは必ず焦る」

つまり、最後の揺さぶりをかけるってことか…

「…でもそうなると、側室になったみんなを狙う人が出てきませんかね?」

側室の空き枠が権利を買った人の数を下回っているなら、その分作り出せばいい。
そう考えるやつは必ず出る。

「これのせいで、誰かに何かあったら…」

でも殿下は心配するなと笑って、言う。

「側室の顔ぶれを考えてみろ。
 カートとヘザー、エルグランとジョン、それと魔法棟の5侯爵…。
 彼らに勝てる者などほぼいない。
 デューイとカイトには、常に2人でいる事とを肌身離さず携帯する事を義務付けている。
 イドラとソランには王家の影を出し抜けるほどの従者が付いている。
 ノースとガーベラには「シャラパールを裏切らない為の」監視が常につけられている。
 ルディとワルドなど、我が国の軍事力に寄与する研究者だ…当然軍が警護・監視している」

確かに戦闘力の高いメンバーが揃ってるな…
でも念のために養殖真珠ひかりのませきグッズを人数分用意しとこう。

「…死角なし、ですか」
「やれるものならやってみろ、という事だ。
 さて、次が最後の部屋だな」
「あれ?まだ部屋があるんですか?」
「ああ、4階に1部屋な」

へえ、そんなのあったんだ…
この前来たときは全然気づかなかったな。

「まずはこの天井のスイッチを押す」

殿下が腰の剣を抜いて、そのスイッチをコツン、とつつく。
すると脚立くらい急な階段がスー…と降りてくる。

「お…おおー…」

何かすげー!!
ちょっとワクワクしている俺に、殿下が言った。

「ルース、先に行け。
 落ちてきたら助けてやる」
「あっ、はい」

この時の俺はなんて迂闊だったんだろう…

階段をおっかなびっくり登る俺の後ろで殿下がニヤリ…と笑っている事にも、後宮が何の為にあるのかにも気が付かないなんて。
しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

室長サマの憂鬱なる日常と怠惰な日々

BL
SECRET OF THE WORLD シリーズ《僕の名前はクリフェイド・シュバルク。僕は今、憂鬱すぎて溜め息ついている。なぜ、こうなったのか…。 ※シリーズごとに章で分けています。 ※タイトル変えました。 トラブル体質の主人公が巻き込み巻き込まれ…の問題ばかりを起こし、周囲を振り回す物語です。シリアスとコメディと半々くらいです。 ファンタジー含みます。

処理中です...