上 下
289 / 586
学園4年目

【閑話休題】ついてきて良かった?

しおりを挟む
〈ソラン視点〉

サンドワーム討伐が終わって10日間が過ぎた。
まだルース君は目を覚ます気配がない。
だからルース君抜きでやらなきゃいけないことが沢山ある。

僕は討伐が終わった翌日から、あのサンドワームがあけた砂漠を縦断するほどの大穴の調査をしている。
この穴をどうするかはまだ決まっていないそうだけど、クリビアさんからの提案でそのままダンジョンにするのはどうかって話が進んでいる。

調査が終わって帰ってきたところで、イドラ君に会った。
今日は素材の取引だって言ってたっけ…。

「ソラン先輩、お疲れ様です」
「あ、うん…イドラ君も」

着いてこないと聞いたときは…
ほっとしたけど寂しかった。
着いてきたと分かったときは…
心配したけど嬉しかった。

勝手なものだ…と思うけど、偽らざる気持ちだ。

どうして自分が王国で1・2を争う豪商の長男とお付き合いすることになったのかは分からない。
ただ、遊びでないことは確かだ。
結婚したら今よりも爵位の低いアイリス家に入る事を、承知の上で付き合っているのだから。

「そもそも遊びで誰かと付き合えるほどモテるわけでもないしなあ」
「何ですか先輩、独り言?」
「うん、イドラ君は俺のどこが気に入ったのかな…って、思って」
「そうですね…まあ最初は「見た目」かなあ」
「えええっ!?」
「言ったでしょ、大きな人が好きなんだって」
「そ、それ、本気だったの…?」

どう見たって釣り合わない見た目。
爵位の違いもあって、周りにはファセリア家がアイリス家に無理やり交際をねじ込んだと思われているというのに。

「後は多少の打算かなあ。
 俺は見た目がこれだから、第一印象が不利なんですよ…いかにも人を騙しそうな顔してるでしょ」
「ええ!そうなの!?僕は、理知的でかっこいいとしか思わないけどなあ…」
「はは、ありがとうございます。
 でもやっぱり商談だと、見た目で最初構えられちゃいますから…。
 第一印象で安心感を与えられる人と一緒だったら助かるのになあって思って」
「そんなもんかなあ…」

僕は自分のお腹を見て何だか複雑な気持ちになる。

「でもね、今はソラン先輩の中身も好きですよ。
 細かい事を気にしちゃうところとか、ちょっと小心者だったりするところとかも、全部」
「…何かいいとこ無い感じする」
「いいとこだらけですよ?一緒にいて安心します」
「そう?それなら…いいんだけど」

自分は一人っ子でもないし、家は弟に頼めばいい。
学園でも弟は一般棟の授業ばかりを受けているから、当人もそのつもりなのだろうと思う。
魔生物学の研究者として生きる者と領地経営をする者とで分かれて家を継げばいい、と父達も言っていたし、何より弟は虫が嫌いで魔生物学なんか死んでも嫌だと言っていたから。

…本当かどうかは、分からないけど。

僕がつらつらと考えていると、イドラ君が言った。

「そういえば、ついに薬学のお2人が魔力回復の方法を見つけて帰ってきたそうですよ」
「本当!?良かった…どんな方法なんだい?」
「それをこれから聞きに行くところです。
 ソラン先輩も調査で魔力を使ってお疲れでしょうし、早速試してみてもいいんじゃないですか?」
「そうだね…ダンジョンの途中でもできるようなのだといいなあ」

僕はイドラ君と一緒に、薬学のブレティラ教授と助手さんの話を聞きに本部へと行った。

***

〈ノース視点〉

「どうしてきちゃったの」
「どうして来ちゃいけないの?」

可愛いほっぺを膨らませてフィアンセが拗ねる。
もし何かあったとき、自分では彼を守れないから…と、同行させない事を何とかあちらに承諾させたというのに。
俺の努力もむなしく、彼は戦場へやってきて、俺の隣にいる。

「死ぬかもしれない、危ない…だから」
「それはノースさんも一緒でしょう?」
「…私は、後方支援だし…」
「僕だって後方支援だったでしょう?
 能力的に見ても、僕が前線に行くことはないって分かるじゃない!」
「だけど、魔法、いっぱい使える…」
「そりゃ多少はね?だけど、他の魔法総合のメンバーと比べたら全然だよ」
「そうなの…?」
「そうだよ!
 あの人たち見たら分かるでしょ、全員が二つ名持ちだよ?
 …ま、魔道具に関しては僕が一番だけど!」
「確かに、そうだね」

でしょう、と言って得意げになる彼。
でも、次の瞬間に不安げになる彼。

「僕、要らなかった?」
「ううん、そんなことない」
「本当に?」
「うん、本当だよ」

ゴーレムの心臓に使う魔石に突貫で細工をしたのは彼だ。この作戦の影の功労者に対して、必要無かったとは言えない。
自分のわがままで、多くの人の命を危険に晒したかもしれなかったのだ。

「ガントレットが来てくれて、良かった」

そっと抱きしめてキスをする。
謝罪と、反省と、でも分かって欲しいという気持ちを込めて、彼が納得してくれるまで、キスをする。

「…もう二度と置いて行こうとしないで。
 仲間外れは嫌だから」
「うん…ごめんね、ガントレット」

このまま、どこか二人きりになれる場所へ行って…さっき聞いた魔力回復法のことでも話してみようか。
そうしたら彼はどんな顔で…。

「次からずっと一緒ね…戦うときは」
「うん」

何も知らないフィアンセはニコニコ笑う。
相変わらず可愛いな、と思いながらもう一度抱き寄せてキスをした。


-----------

次回、ついに5年生になります!
しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

処理中です...