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学園4年目
勝利の代償
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魔物たちとの戦いは終わった。
前衛、中衛、後衛、誰一人欠けることなく…
超巨大サンドワームが出てくると同時に始まった魔物の大発生も収まった。
サンドワームが倒されると、まだ生きていた小さな魔物はそそくさと逃げて砂の中へ潜って行った。
それからすでに3日が経った。
「大勝利、と言って、良いだろうね」
「…ノース義兄上…」
「ルースはまだ、目を覚ましませんか」
「…はい」
魔力の枯渇。
まだ生きてはいるのだから、最後の一滴まで使ってしまったわけではないだろうが…。
「ルースさんが起きるまで、勝利の宴は延期しておくから…って、みんなが」
「起きたら宴も終わってたんじゃ、先生も寂しいでしょうしね」
「何とか目を覚まして欲しいものだが…」
「大丈夫でしょう、しばらく寝ていれば…きっと。
私のときもそんなものだったようですから」
「父さん…」
かつて死体を焼くために派遣された先の戦場で、力及ばず引き起こされてしまった魔獣の大発生を、ほぼ1人で鎮めた魔法使いは言う。
「初めて地獄の業火を出した時です。
あの時に、私は魔力が暴走して…」
魔力枯渇の状態に追い込まれた、という。
さすが最強の魔法使い、色々経験しているものだ。
「気が付いたら天幕でした。一週間ほど目を覚まさなかったと聞きました。ルースも同様かと」
「…そうか」
「まだ2日目です、目覚めるのはまだ先でしょう。
殿下も、お休みになられた方が宜しいかと」
「…ここへ、俺の床を持って来てくれ。隣で寝る」
「はっ」
***
戦いが終わったその日は大騒ぎだった。
勝利の余韻と興奮が冷めやらぬ中、担ぎ込まれたルースを少しでもまともなところへ寝かせる為に、兵站は瓦礫の中からベッドを探し出して整えた。
怪我人を癒し、大小の魔物の死体を処理し、巨大なサンドワームの僅かに動いている触手に止めを刺し、燃やした。
素材は馬鹿みたいに取れた。
魔石もいちいちが採取され、半分はローズ王国への支払いに充てられることになった。
巨大サンドワームの節は80を超え、世界最長記録を大幅に更新した。
そして出てきたのは黒い魔石。
つまり闇属性の魔石だった。
「こいつが他の魔物を操っていたんでしょうな」
「やはり様々な魔物の魔石を体内に取り込むことで進化を…」
「勝手に闇に染まる、という可能性は?」
「その可能性も無くは無いか…」
ルースのいる天幕を横目でチラチラと見ながらも、学者たちは先の戦いで分かった事から今の研究に繋がりそうな部分を抜き出して話し合う。
「全ての節から闇の魔石が出たんでしたね」
「ええ、サンドワームは節ごとに魔石があるのが特徴で…後ろの節になるに従って小さくはなっていきますが、黒ですね」
そんな話をしている学者たちの向こうでは、ちょっとした騒ぎが起きていた。
ローズからの密航者が2名、見つかったのだ。
いや、正確に言うと密航ではないのだが、とにかく勝手についてきたものがいたのである。
「魔力回復薬の手がかりを探しに来たと?」
「あ、アルテミシアになら、そ、その」
「あちらは魔力溜まりも多く、ローズ国内よりダンジョンの数も多いので、その…」
「こ、ここは、アルテミシアに近い、ですから、詳しい部族の方も、いるか、と」
学園の薬学教授と助手だ。
「今すぐの用意は出来んのか」
「そ、それは…その、ふ、不確定ではありますが、じ、人肉を食べれば、と、いう話を」
「そういえばルーがそんなこと言ってたな」
「なら血でも飲ませてみるかの」
そういって校長…前国王はちょっと斬ってみろと言わんばかりに袖を捲って腕を突き出した。
「こ、校長!?それはいけません!」
「何故じゃ?腕の一本くらい何とかなるじゃろ、のうヒソップ」
「ええまあ、それは保証致しますよ」
だがそういうことでもないらしい。
薬学の2人は震える声で言った。
「校長、人間の血は、人間は飲めません」
「何?」
「人間が人間の血を飲むと、吐いてしまいます、も、もう、やってみたので…」
「…そうか」
すでに物騒な実験は終わり、どうやら効果が無かったことが実証されているらしい。
「んじゃ、試しに煮込んでみるとか?」
そう言って自分の左手を見つめるウィン。
「アナガリス殿!?駄目です、やめてください!」
「ウィン、寝ている人間に固形物は無理だよ」
「それはそうなんだけど…煮汁でも効果はあるんじゃないかと思ってさ」
「煮汁…煮汁か…うーん…」
「そもそも煮沸で魔力を抽出できるのであれば、とっくに魔力回復薬は開発されているわけで…」
もう一つの物騒な方法もどうやら駄目らしい。
ということで、薬学の2人は「魔力回復薬の手がかりを探してこい」と、この集落に住んでいた避難民たちがいる場所へ送られることになった。
「何としても手がかりを掴んで参ります」
ルースに恩返しをするのだ、と薬学の2人はその目に闘志を燃やして出て行った。
そんな騒ぎをよそに、昏々と眠り続けるルース。
「早く、目を覚ませ…ルース」
その隣で、アルファードは眠りについた。
浅い、浅い眠りだった。
前衛、中衛、後衛、誰一人欠けることなく…
超巨大サンドワームが出てくると同時に始まった魔物の大発生も収まった。
サンドワームが倒されると、まだ生きていた小さな魔物はそそくさと逃げて砂の中へ潜って行った。
それからすでに3日が経った。
「大勝利、と言って、良いだろうね」
「…ノース義兄上…」
「ルースはまだ、目を覚ましませんか」
「…はい」
魔力の枯渇。
まだ生きてはいるのだから、最後の一滴まで使ってしまったわけではないだろうが…。
「ルースさんが起きるまで、勝利の宴は延期しておくから…って、みんなが」
「起きたら宴も終わってたんじゃ、先生も寂しいでしょうしね」
「何とか目を覚まして欲しいものだが…」
「大丈夫でしょう、しばらく寝ていれば…きっと。
私のときもそんなものだったようですから」
「父さん…」
かつて死体を焼くために派遣された先の戦場で、力及ばず引き起こされてしまった魔獣の大発生を、ほぼ1人で鎮めた魔法使いは言う。
「初めて地獄の業火を出した時です。
あの時に、私は魔力が暴走して…」
魔力枯渇の状態に追い込まれた、という。
さすが最強の魔法使い、色々経験しているものだ。
「気が付いたら天幕でした。一週間ほど目を覚まさなかったと聞きました。ルースも同様かと」
「…そうか」
「まだ2日目です、目覚めるのはまだ先でしょう。
殿下も、お休みになられた方が宜しいかと」
「…ここへ、俺の床を持って来てくれ。隣で寝る」
「はっ」
***
戦いが終わったその日は大騒ぎだった。
勝利の余韻と興奮が冷めやらぬ中、担ぎ込まれたルースを少しでもまともなところへ寝かせる為に、兵站は瓦礫の中からベッドを探し出して整えた。
怪我人を癒し、大小の魔物の死体を処理し、巨大なサンドワームの僅かに動いている触手に止めを刺し、燃やした。
素材は馬鹿みたいに取れた。
魔石もいちいちが採取され、半分はローズ王国への支払いに充てられることになった。
巨大サンドワームの節は80を超え、世界最長記録を大幅に更新した。
そして出てきたのは黒い魔石。
つまり闇属性の魔石だった。
「こいつが他の魔物を操っていたんでしょうな」
「やはり様々な魔物の魔石を体内に取り込むことで進化を…」
「勝手に闇に染まる、という可能性は?」
「その可能性も無くは無いか…」
ルースのいる天幕を横目でチラチラと見ながらも、学者たちは先の戦いで分かった事から今の研究に繋がりそうな部分を抜き出して話し合う。
「全ての節から闇の魔石が出たんでしたね」
「ええ、サンドワームは節ごとに魔石があるのが特徴で…後ろの節になるに従って小さくはなっていきますが、黒ですね」
そんな話をしている学者たちの向こうでは、ちょっとした騒ぎが起きていた。
ローズからの密航者が2名、見つかったのだ。
いや、正確に言うと密航ではないのだが、とにかく勝手についてきたものがいたのである。
「魔力回復薬の手がかりを探しに来たと?」
「あ、アルテミシアになら、そ、その」
「あちらは魔力溜まりも多く、ローズ国内よりダンジョンの数も多いので、その…」
「こ、ここは、アルテミシアに近い、ですから、詳しい部族の方も、いるか、と」
学園の薬学教授と助手だ。
「今すぐの用意は出来んのか」
「そ、それは…その、ふ、不確定ではありますが、じ、人肉を食べれば、と、いう話を」
「そういえばルーがそんなこと言ってたな」
「なら血でも飲ませてみるかの」
そういって校長…前国王はちょっと斬ってみろと言わんばかりに袖を捲って腕を突き出した。
「こ、校長!?それはいけません!」
「何故じゃ?腕の一本くらい何とかなるじゃろ、のうヒソップ」
「ええまあ、それは保証致しますよ」
だがそういうことでもないらしい。
薬学の2人は震える声で言った。
「校長、人間の血は、人間は飲めません」
「何?」
「人間が人間の血を飲むと、吐いてしまいます、も、もう、やってみたので…」
「…そうか」
すでに物騒な実験は終わり、どうやら効果が無かったことが実証されているらしい。
「んじゃ、試しに煮込んでみるとか?」
そう言って自分の左手を見つめるウィン。
「アナガリス殿!?駄目です、やめてください!」
「ウィン、寝ている人間に固形物は無理だよ」
「それはそうなんだけど…煮汁でも効果はあるんじゃないかと思ってさ」
「煮汁…煮汁か…うーん…」
「そもそも煮沸で魔力を抽出できるのであれば、とっくに魔力回復薬は開発されているわけで…」
もう一つの物騒な方法もどうやら駄目らしい。
ということで、薬学の2人は「魔力回復薬の手がかりを探してこい」と、この集落に住んでいた避難民たちがいる場所へ送られることになった。
「何としても手がかりを掴んで参ります」
ルースに恩返しをするのだ、と薬学の2人はその目に闘志を燃やして出て行った。
そんな騒ぎをよそに、昏々と眠り続けるルース。
「早く、目を覚ませ…ルース」
その隣で、アルファードは眠りについた。
浅い、浅い眠りだった。
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