201 / 586
学園3年目
【閑話休題】どうしようもない雑誌の話
しおりを挟む
「…編集長、どうします」
「どうもこうも…このままいくしか道は無い。あと3年…3年、何とか、持たせれば…いいだけだ」
創刊からちょうど20年の節目で、こんな目に合うとは思わなかった。
20年かけて、芸能ゴシップ誌として、そこそこの地位を築いた。
新作劇を盛り上げる為に、話を盛ることはあったけど…捏造に手を染めることになるなんて。
「俺もお前も、家族の命がかかってるんだ…。
2人だけになっても何とか発行しなきゃならん、だろう?」
「…そう、ですよね…」
2人は同郷だった。
王都から北東、馬車で15日ほどかかるその場所には、自分たちを育ててくれた父たちがいる。一緒に育った兄弟も。
悪夢の始まりは1年前。
アルファード殿下の婚約者を当てる賭けがスタートする直前だった。
突然職場に、領主様が来て言ったのだ。
「お前たち2人とも、私の領地の出身だそうだな」
そこから先は、何を言われたのか覚えていない。
ただ、逆らえば両親の命も兄弟の命も危険に晒されることだけが分かった。
だからその領主様が言うままに記事を書き、雑誌に載せた。
部下が自分たちの記事を事実無根だと糾弾しても、黙ってそのまま進むしか無かった。
多くの部下は去ったが、事情を察してくれたのか芸能記事ならと寄稿してくれる者も何人かいた。
それももうこれまで。
荒唐無稽な捏造記事は、信用だけでなく面白味さえも奪った。
売上は落ち込み、広告主は離れ、原稿料が支払えなくなり、申し訳ないと寄稿も断るようになった。
婚約発表に合わせて、王家を悪者にする記事を書けと言われて、ほぼ思考停止した頭で思いついた内容は、何年か前に人気を博した劇のパクリだった。
「何で、週刊誌なんかにしたんでしょうね」
「…月刊誌ならまだ、楽だったのにな…」
今日もまた、徹夜で文章を書かなければならない。
次の締切まであと1日しかない。
「いっそ、不敬罪で捕まった方が…楽か」
「そう、ですね…それ、いいですね」
不敬罪は最悪、死刑もあり得る罪だ。
しかし、追い詰められた2人には、死ぬほうがどうにも楽に思えた。
「じゃあ、こういうのはどうだ?アルファード殿下は国王陛下が不貞で作った子どもっていうのは」
「えー、じゃあ誰の子どもにするんですか?」
「そりゃー結婚させないようにするんだから、ユーフォルビアさんとの間に作ったのでいいだろ」
「あー、そんなんで死刑になるかなあ…あ、そーだ、陛下が産んだっていうのはどうです?」
「あん?」
「貴族って、産んだ方が下なんですって!」
「へ~、そうなのか?おかしな連中だなぁ!」
「編集長~、それ不敬罪っすよぅ?」
「じゃ~そう書いちまえ!」
おかしなテンションで明日締切の文章を書く。
何とか、何とかして不敬罪で、捕まりたい…
できれば死刑がありがたい。
「お前さあ、死刑の前に何頼む?」
「酒でしょ、酒…とびきり高級で美味いやつ!」
「お!いいね、ツマミは最高級チーズか、肉…」
その時、編集室の扉が音を立てて開いた。
2人の虚ろな目に映ったのは…
黒っぽい服を来た、男たちだった。
「どうもこうも…このままいくしか道は無い。あと3年…3年、何とか、持たせれば…いいだけだ」
創刊からちょうど20年の節目で、こんな目に合うとは思わなかった。
20年かけて、芸能ゴシップ誌として、そこそこの地位を築いた。
新作劇を盛り上げる為に、話を盛ることはあったけど…捏造に手を染めることになるなんて。
「俺もお前も、家族の命がかかってるんだ…。
2人だけになっても何とか発行しなきゃならん、だろう?」
「…そう、ですよね…」
2人は同郷だった。
王都から北東、馬車で15日ほどかかるその場所には、自分たちを育ててくれた父たちがいる。一緒に育った兄弟も。
悪夢の始まりは1年前。
アルファード殿下の婚約者を当てる賭けがスタートする直前だった。
突然職場に、領主様が来て言ったのだ。
「お前たち2人とも、私の領地の出身だそうだな」
そこから先は、何を言われたのか覚えていない。
ただ、逆らえば両親の命も兄弟の命も危険に晒されることだけが分かった。
だからその領主様が言うままに記事を書き、雑誌に載せた。
部下が自分たちの記事を事実無根だと糾弾しても、黙ってそのまま進むしか無かった。
多くの部下は去ったが、事情を察してくれたのか芸能記事ならと寄稿してくれる者も何人かいた。
それももうこれまで。
荒唐無稽な捏造記事は、信用だけでなく面白味さえも奪った。
売上は落ち込み、広告主は離れ、原稿料が支払えなくなり、申し訳ないと寄稿も断るようになった。
婚約発表に合わせて、王家を悪者にする記事を書けと言われて、ほぼ思考停止した頭で思いついた内容は、何年か前に人気を博した劇のパクリだった。
「何で、週刊誌なんかにしたんでしょうね」
「…月刊誌ならまだ、楽だったのにな…」
今日もまた、徹夜で文章を書かなければならない。
次の締切まであと1日しかない。
「いっそ、不敬罪で捕まった方が…楽か」
「そう、ですね…それ、いいですね」
不敬罪は最悪、死刑もあり得る罪だ。
しかし、追い詰められた2人には、死ぬほうがどうにも楽に思えた。
「じゃあ、こういうのはどうだ?アルファード殿下は国王陛下が不貞で作った子どもっていうのは」
「えー、じゃあ誰の子どもにするんですか?」
「そりゃー結婚させないようにするんだから、ユーフォルビアさんとの間に作ったのでいいだろ」
「あー、そんなんで死刑になるかなあ…あ、そーだ、陛下が産んだっていうのはどうです?」
「あん?」
「貴族って、産んだ方が下なんですって!」
「へ~、そうなのか?おかしな連中だなぁ!」
「編集長~、それ不敬罪っすよぅ?」
「じゃ~そう書いちまえ!」
おかしなテンションで明日締切の文章を書く。
何とか、何とかして不敬罪で、捕まりたい…
できれば死刑がありがたい。
「お前さあ、死刑の前に何頼む?」
「酒でしょ、酒…とびきり高級で美味いやつ!」
「お!いいね、ツマミは最高級チーズか、肉…」
その時、編集室の扉が音を立てて開いた。
2人の虚ろな目に映ったのは…
黒っぽい服を来た、男たちだった。
25
お気に入りに追加
2,467
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
前世である母国の召喚に巻き込まれた俺
るい
BL
国の為に戦い、親友と言える者の前で死んだ前世の記憶があった俺は今世で今日も可愛い女の子を口説いていた。しかし何故か気が付けば、前世の母国にその女の子と召喚される。久しぶりの母国に驚くもどうやら俺はお呼びでない者のようで扱いに困った国の者は騎士の方へ面倒を投げた。俺は思った。そう、前世の職場に俺は舞い戻っている。
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
室長サマの憂鬱なる日常と怠惰な日々
慎
BL
SECRET OF THE WORLD シリーズ《僕の名前はクリフェイド・シュバルク。僕は今、憂鬱すぎて溜め息ついている。なぜ、こうなったのか…。
※シリーズごとに章で分けています。
※タイトル変えました。
トラブル体質の主人公が巻き込み巻き込まれ…の問題ばかりを起こし、周囲を振り回す物語です。シリアスとコメディと半々くらいです。
ファンタジー含みます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる