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学園3年目
怒涛の学外研修(大神殿①)
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長距離乗合馬車は、イドラ君の言った通り早朝に大神殿についた。
「大神殿っていうだけあって大きいですね」
「ローズ王国の大神殿はローザンヌ地域の大神殿でもあるからな」
到着から開門までの間に外周を散策するのがおすすめの過ごし方…ということで、俺と殿下はセリンセ男爵のご子息であるモロー君と一緒に大神殿の周りを一周することに。
ちなみにモロー君は学園の2年生で、俺たちの1個下だった。
「どうでしたか?長距離乗合馬車は」
「なかなか快適だったよ!横になって寝られるのはいいですよね、殿下」
「お祖父様は腰が辛そうだったがな」
「回復魔法したら良かったのに…」
そうやって乗合馬車の感想なんかを言い合いながら散策をしていると、向こうから見知った顔がやってきた。
「おや?あれは…」
「誰だ、知り合いか?」
「学園の神官長様ですよ。
確か、セント・ジェンティアナさん…」
そっか、神官長も里帰り(?)か…。
何となく苦手なので、気づかれませんように…と祈りながら通り過ぎようとするが、
「あっ!あの…!もしかしてアルファード殿下…」
やっぱり見つかっちゃた。
「ああ」
「初めまして!私、学園で神官長をしているセント・ジェンティアナと申します!ああ、こんなところでお会いすることがあるなんて、これは運命に違いありません!神に感謝を!」
「いや」
殿下に夢中で話しかける神官長。
「ああ」と「いや」しか言わない殿下。
そして…息を潜めて殿下の影に隠れる俺。
「実は殿下にお願いが…あ!ルース!ルース・ユーフォルビアではないか!!貴様も祈りを捧げに来たのか?ついに心を入れ替えたのだな…よしよし。
開門前だが、特別に大神殿に入れてやろう!
来い!」
「ふえっ!?」
急に何なの、この人!?
***
「と、いうわけで、お前にもう一度寄付をする機会を与えてやろう」
「…はあ」
「頼む、ルース・ユーフォルビア。
貴様の活躍で、ユーフォルビアは不信心者の代名詞から信心深き者の名へ変わるのだ!な!」
いち早く大神殿に入れたのはいいけれど…
みんなが文献だ聖遺物の見学だと散って行ったのに、俺と殿下はなぜか神官長に大神殿の台所へ連れて来られてしまった。
「それで、今度は何を…」
「卵を使わない焼菓子は作れないか?」
「…スコーンですね、それ」
「何と、もうあるのか!!」
聞けば、最近地方にある神殿の鶏が急にいなくなってしまったそうで…。
「そんな神殿がいくつかあってな、神子生誕祭のツリーに飾るクッキー作りに支障が出てきた」
「う~ん、何かの前兆かしら?」
「ともかく、今年の神子生誕祭に間に合わないと困るのだ、今すぐそれを教えろ」
基本、スコーンには卵を使わない。
ただ、クッキーと明らかに違う食べ物だからなあ…
あっ、そうだ。
「ショートブレッドというのもありますね」
「何?2種類もあるのか!待っていてくれ、書記官様を呼んでくる!」
セント神官長はバタバタと台所を出て行った。
殿下が俺に怪訝な顔で聞いた。
「ショートブレッド?食ったことあったか?」
「食べてますよ!こう…長い四角で、上に穴がぽつぽつ開いてるやつ」
「ああ、あれか…妙に腹に貯まるやつだな」
殿下はあんまりお好みじゃなかったもんで、1回くらいしか作ってあげてないんじゃないかな…
「材料がちゃんとあればいいんですけどね…」
「無ければまた買いに行くところからだな」
そうしてしばらく待っていると、勢いよく台所の扉が開いて人がわんさか入ってきた。
そして口々に言った。
「ルース・ユーフォルビア殿、度々のレシピのご寄付を有難う御座います」
「あの時より、我ら基本のクッキーとメレンゲ菓子を日々練習致しております」
「上手くできたものは、一定の金額のご寄付と引き換えに皆様にお渡ししております」
「それにより、各神殿での寄付も多少ながら増えております」
「ですが、鶏が消えた神殿では、聖菓子を作ることもままならず…」
「このままでは孤児院や保育所の運営資金が…」
はいっ!?
クリスマスどころか今すぐの問題やん!
だけどそれを聞いた殿下は即座に告げた。
「資金が足りん所は申し出ろ、王宮の予算から寄付金を捻出できるかもしれん」
「ははー!有難う御座います!!」
おお…殿下、カッコイイ!
「…惚れ直したか?」
「そりゃもちろん…」
って、改めて聞かないでよ恥ずかしい!
神前ですぞ!
「大神殿っていうだけあって大きいですね」
「ローズ王国の大神殿はローザンヌ地域の大神殿でもあるからな」
到着から開門までの間に外周を散策するのがおすすめの過ごし方…ということで、俺と殿下はセリンセ男爵のご子息であるモロー君と一緒に大神殿の周りを一周することに。
ちなみにモロー君は学園の2年生で、俺たちの1個下だった。
「どうでしたか?長距離乗合馬車は」
「なかなか快適だったよ!横になって寝られるのはいいですよね、殿下」
「お祖父様は腰が辛そうだったがな」
「回復魔法したら良かったのに…」
そうやって乗合馬車の感想なんかを言い合いながら散策をしていると、向こうから見知った顔がやってきた。
「おや?あれは…」
「誰だ、知り合いか?」
「学園の神官長様ですよ。
確か、セント・ジェンティアナさん…」
そっか、神官長も里帰り(?)か…。
何となく苦手なので、気づかれませんように…と祈りながら通り過ぎようとするが、
「あっ!あの…!もしかしてアルファード殿下…」
やっぱり見つかっちゃた。
「ああ」
「初めまして!私、学園で神官長をしているセント・ジェンティアナと申します!ああ、こんなところでお会いすることがあるなんて、これは運命に違いありません!神に感謝を!」
「いや」
殿下に夢中で話しかける神官長。
「ああ」と「いや」しか言わない殿下。
そして…息を潜めて殿下の影に隠れる俺。
「実は殿下にお願いが…あ!ルース!ルース・ユーフォルビアではないか!!貴様も祈りを捧げに来たのか?ついに心を入れ替えたのだな…よしよし。
開門前だが、特別に大神殿に入れてやろう!
来い!」
「ふえっ!?」
急に何なの、この人!?
***
「と、いうわけで、お前にもう一度寄付をする機会を与えてやろう」
「…はあ」
「頼む、ルース・ユーフォルビア。
貴様の活躍で、ユーフォルビアは不信心者の代名詞から信心深き者の名へ変わるのだ!な!」
いち早く大神殿に入れたのはいいけれど…
みんなが文献だ聖遺物の見学だと散って行ったのに、俺と殿下はなぜか神官長に大神殿の台所へ連れて来られてしまった。
「それで、今度は何を…」
「卵を使わない焼菓子は作れないか?」
「…スコーンですね、それ」
「何と、もうあるのか!!」
聞けば、最近地方にある神殿の鶏が急にいなくなってしまったそうで…。
「そんな神殿がいくつかあってな、神子生誕祭のツリーに飾るクッキー作りに支障が出てきた」
「う~ん、何かの前兆かしら?」
「ともかく、今年の神子生誕祭に間に合わないと困るのだ、今すぐそれを教えろ」
基本、スコーンには卵を使わない。
ただ、クッキーと明らかに違う食べ物だからなあ…
あっ、そうだ。
「ショートブレッドというのもありますね」
「何?2種類もあるのか!待っていてくれ、書記官様を呼んでくる!」
セント神官長はバタバタと台所を出て行った。
殿下が俺に怪訝な顔で聞いた。
「ショートブレッド?食ったことあったか?」
「食べてますよ!こう…長い四角で、上に穴がぽつぽつ開いてるやつ」
「ああ、あれか…妙に腹に貯まるやつだな」
殿下はあんまりお好みじゃなかったもんで、1回くらいしか作ってあげてないんじゃないかな…
「材料がちゃんとあればいいんですけどね…」
「無ければまた買いに行くところからだな」
そうしてしばらく待っていると、勢いよく台所の扉が開いて人がわんさか入ってきた。
そして口々に言った。
「ルース・ユーフォルビア殿、度々のレシピのご寄付を有難う御座います」
「あの時より、我ら基本のクッキーとメレンゲ菓子を日々練習致しております」
「上手くできたものは、一定の金額のご寄付と引き換えに皆様にお渡ししております」
「それにより、各神殿での寄付も多少ながら増えております」
「ですが、鶏が消えた神殿では、聖菓子を作ることもままならず…」
「このままでは孤児院や保育所の運営資金が…」
はいっ!?
クリスマスどころか今すぐの問題やん!
だけどそれを聞いた殿下は即座に告げた。
「資金が足りん所は申し出ろ、王宮の予算から寄付金を捻出できるかもしれん」
「ははー!有難う御座います!!」
おお…殿下、カッコイイ!
「…惚れ直したか?」
「そりゃもちろん…」
って、改めて聞かないでよ恥ずかしい!
神前ですぞ!
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