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学園2年目
魔石工学の罠
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魔石工学は、特別に学園外からも生徒を受け付けている授業だ。
この世界の「学園」は貴族学校みたいなもので、爵位のある家の子どもなら貧乏でも通えるけど、平民の人は通えない。
商家だって言われてるアイリス君も、実際には男爵位を持った貴族なのだ。
転生モノでよくある「平民だけどすごい魔法が使える」とか「平民だけど優秀だから」とか、そういう理由で特別に学園へ通える…とかはない。
平民の人には「学校」があって、それこそ小学校~大学まで揃っているし、ちゃんと就職の面倒も見てもらえるし、職業選択の自由がある。
基本的に貴族は自分ちの稼業に縛られていて、職業選択の自由がない。
没落したら最後、野垂れ死ぬしか道が無い…。
だから、特例として貴族でもなれる職業が4つだけ用意されている。
それが、騎士・冒険者・鉱夫・魔導技術者だ。
だから、魔石工学を採ってる学園の生徒は、自分の家を継げなくて、どこにも嫁ぐ予定がなくて、そのうえ剣のほうもイマイチ…という、まるで俺みたいなやつか、魔石工学に興味津々の俺みたいなやつか、没落しかけてるお家なのかどれかだ。
つまり、学園内では恐ろしく不人気なのだが、この「魔石工学」みたいに魔石についての技術や理論を教えられる学校がこの辺にないらしく、平民の需要はある…ということで、いくらか授業料を払えば平民の人でもこの授業を受けられるようにして受講者数を確保し、開講にかかる経費を賄っているらしい。
というわけで、俺は1人、魔石工学の授業を受けに教室までやってきたのだが…就職のために受けに来る人がほとんどらしく、年上の人ばっかりだ。
しかも…
「制服を着てるの…俺だけ?」
独り言を言うと、後ろから返答があった。
「そうだね、制服は汚れちゃうし、着ないね」
「えっ、どなた……あっ!」
そこには私服姿のガーベラ先輩がいた。
----------
「今年、2年生の魔石工学希望者は君だけだったみたいでね、優秀だしまあいいかってことで、1つ上のクラスに組み込まれたんだって聞いてるけど」
「まじですか!?」
そもそも上のクラスなんかい!
何故誰も本人に言わないんだ?
おかしいだろ!!
「1年の内容、全く分からないんですけど…」
「天才なんだから何とかなるんじゃないの?」
「なりませんよ!
俺、魔石については完全に無知ですよ!?」
「ふーん、天才なのに?」
「実際のところ天才じゃないですからね……」
ガーベラ先輩は俺を冷めた目で見る。
バイトでお疲れなのか無表情だし…。
これは先生に直談判するしかないか…あっ!
「ガーベラ先輩、去年の授業のノートと教科書、見せてもらえませんか?」
「えっ…いや、でもなぁ」
「もちろん、ただでとは申しません。代わりと言っては何ですが、闇属性以外の属性ならどれでも1つおつけします、どうですか」
俺の言葉で、先輩の死んだような目に光が灯った。
「えっ…ホントに!?…うーん、どうしようかな」
「うーん、じゃあ…2つ、2つでどうですか」
先輩の目が、ぎらりと光った。
「2つも!?いいの?じゃあね…雷と、う~ん…火か、光か…どっちにしようかなぁ」
また雷属性か…みんな雷好きねえ。
「先輩、今、何属性をお持ちですか?」
「僕?僕ね…水」
「水かぁ…だったら、光がおすすめですかね…」
「なんで?」
実は、水属性を開放した時の作用が「デトックス」っぽいね~なんて、デトックスの意味と合わせてリリー君に話したら、それと光属性の回復魔法を組み合わせたら疲れが取れる魔法が作れるかもしれない、なんて盛り上がっちゃって、ヘザー先輩と一緒に作ってみるって言ってくれて…。
「水属性と光属性の合体技で、疲労を取る魔法ができそうなんですよ、そしたら…」
ガーベラ先輩の顔が輝き出した。
目をキラキラさせて、俺の手を取って両手でギュッと握った。
「新しい魔法の使い手になれる…ってこと!?」
鼻息荒く、俺に迫ってくるガーベラ先輩…。
何か、さっきまでと人格違くない?
「そうっす、リリー君がやってみるって言ってたんで…リリー君は本物の天才だから、多分近いうちに完成すると思うんですよね。
バイトで疲れた時にも便利じゃないですか?」
先輩が、キョトンとした顔になった。
「えっ…まあ、確かに…便利だけど、便利なだけの事に魔法を使うの変じゃない?」
「そうですか?」
「そうだよ…普通はそういうのを、魔道具で出来ないかって考えるんだよ」
えっ…あっ……あ!ほ、ほんとだ……!
「そうか!魔道具さえあれば、何も生活に必要な属性全部覚えなきゃいけないことはないんだ!」
先輩は目を丸くした。
「…えっ?常識…じゃない?」
「うち、貧しかったんで、魔道具とかほとんど見たことがなくて…全部魔法で、何とかしてました。
家族が多いから属性だけは豊富にあったんで…」
「ええー!!?」
だって仕方ないじゃない!
十二人も子どもを学園に通わせたりなんかしたら、飯を食わせるだけで精一杯の家計になるじゃない!
執事と庭師がいるだけでもすごいと思って!?
「魔法は覚えたら一生お金いらないし、だから…そうか、俺が直せるようになったら、うちの親も気兼ねなく魔道具が買えるようになるかも!」
親孝行できるじゃん!
おー、やる気出てきた!
そんな話をしていたら、ガーベラ先輩が生温かい目で俺を見て言った。
「君が6つも属性持ってるのって、そういうことだったんだね…」
うん?これは……憐れみ?
うわーん!
みんな貧乏が悪いんや!!
この世界の「学園」は貴族学校みたいなもので、爵位のある家の子どもなら貧乏でも通えるけど、平民の人は通えない。
商家だって言われてるアイリス君も、実際には男爵位を持った貴族なのだ。
転生モノでよくある「平民だけどすごい魔法が使える」とか「平民だけど優秀だから」とか、そういう理由で特別に学園へ通える…とかはない。
平民の人には「学校」があって、それこそ小学校~大学まで揃っているし、ちゃんと就職の面倒も見てもらえるし、職業選択の自由がある。
基本的に貴族は自分ちの稼業に縛られていて、職業選択の自由がない。
没落したら最後、野垂れ死ぬしか道が無い…。
だから、特例として貴族でもなれる職業が4つだけ用意されている。
それが、騎士・冒険者・鉱夫・魔導技術者だ。
だから、魔石工学を採ってる学園の生徒は、自分の家を継げなくて、どこにも嫁ぐ予定がなくて、そのうえ剣のほうもイマイチ…という、まるで俺みたいなやつか、魔石工学に興味津々の俺みたいなやつか、没落しかけてるお家なのかどれかだ。
つまり、学園内では恐ろしく不人気なのだが、この「魔石工学」みたいに魔石についての技術や理論を教えられる学校がこの辺にないらしく、平民の需要はある…ということで、いくらか授業料を払えば平民の人でもこの授業を受けられるようにして受講者数を確保し、開講にかかる経費を賄っているらしい。
というわけで、俺は1人、魔石工学の授業を受けに教室までやってきたのだが…就職のために受けに来る人がほとんどらしく、年上の人ばっかりだ。
しかも…
「制服を着てるの…俺だけ?」
独り言を言うと、後ろから返答があった。
「そうだね、制服は汚れちゃうし、着ないね」
「えっ、どなた……あっ!」
そこには私服姿のガーベラ先輩がいた。
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「今年、2年生の魔石工学希望者は君だけだったみたいでね、優秀だしまあいいかってことで、1つ上のクラスに組み込まれたんだって聞いてるけど」
「まじですか!?」
そもそも上のクラスなんかい!
何故誰も本人に言わないんだ?
おかしいだろ!!
「1年の内容、全く分からないんですけど…」
「天才なんだから何とかなるんじゃないの?」
「なりませんよ!
俺、魔石については完全に無知ですよ!?」
「ふーん、天才なのに?」
「実際のところ天才じゃないですからね……」
ガーベラ先輩は俺を冷めた目で見る。
バイトでお疲れなのか無表情だし…。
これは先生に直談判するしかないか…あっ!
「ガーベラ先輩、去年の授業のノートと教科書、見せてもらえませんか?」
「えっ…いや、でもなぁ」
「もちろん、ただでとは申しません。代わりと言っては何ですが、闇属性以外の属性ならどれでも1つおつけします、どうですか」
俺の言葉で、先輩の死んだような目に光が灯った。
「えっ…ホントに!?…うーん、どうしようかな」
「うーん、じゃあ…2つ、2つでどうですか」
先輩の目が、ぎらりと光った。
「2つも!?いいの?じゃあね…雷と、う~ん…火か、光か…どっちにしようかなぁ」
また雷属性か…みんな雷好きねえ。
「先輩、今、何属性をお持ちですか?」
「僕?僕ね…水」
「水かぁ…だったら、光がおすすめですかね…」
「なんで?」
実は、水属性を開放した時の作用が「デトックス」っぽいね~なんて、デトックスの意味と合わせてリリー君に話したら、それと光属性の回復魔法を組み合わせたら疲れが取れる魔法が作れるかもしれない、なんて盛り上がっちゃって、ヘザー先輩と一緒に作ってみるって言ってくれて…。
「水属性と光属性の合体技で、疲労を取る魔法ができそうなんですよ、そしたら…」
ガーベラ先輩の顔が輝き出した。
目をキラキラさせて、俺の手を取って両手でギュッと握った。
「新しい魔法の使い手になれる…ってこと!?」
鼻息荒く、俺に迫ってくるガーベラ先輩…。
何か、さっきまでと人格違くない?
「そうっす、リリー君がやってみるって言ってたんで…リリー君は本物の天才だから、多分近いうちに完成すると思うんですよね。
バイトで疲れた時にも便利じゃないですか?」
先輩が、キョトンとした顔になった。
「えっ…まあ、確かに…便利だけど、便利なだけの事に魔法を使うの変じゃない?」
「そうですか?」
「そうだよ…普通はそういうのを、魔道具で出来ないかって考えるんだよ」
えっ…あっ……あ!ほ、ほんとだ……!
「そうか!魔道具さえあれば、何も生活に必要な属性全部覚えなきゃいけないことはないんだ!」
先輩は目を丸くした。
「…えっ?常識…じゃない?」
「うち、貧しかったんで、魔道具とかほとんど見たことがなくて…全部魔法で、何とかしてました。
家族が多いから属性だけは豊富にあったんで…」
「ええー!!?」
だって仕方ないじゃない!
十二人も子どもを学園に通わせたりなんかしたら、飯を食わせるだけで精一杯の家計になるじゃない!
執事と庭師がいるだけでもすごいと思って!?
「魔法は覚えたら一生お金いらないし、だから…そうか、俺が直せるようになったら、うちの親も気兼ねなく魔道具が買えるようになるかも!」
親孝行できるじゃん!
おー、やる気出てきた!
そんな話をしていたら、ガーベラ先輩が生温かい目で俺を見て言った。
「君が6つも属性持ってるのって、そういうことだったんだね…」
うん?これは……憐れみ?
うわーん!
みんな貧乏が悪いんや!!
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