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学園1年目

【閑話休題】一方その頃、武芸大会では

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「なあ、トルセン」
「なんだ?ジョン」

武芸大会の控室には2人だけ。
最後に用意されているエキシビションマッチの順番を待っている間に、ジョンはトルセンに聞いてみたいことがあった。

ジョンは今でこそ「カメリアの剣」などと呼ばれているが、昔はただの冒険者だった。 

二つ名を頂いたのは、王都に魔獣が押し寄せたときに活躍した功績が認められての事だが、偶然居合わせただけで何を守ろうとしたわけでもなかった。

魔獣がたくさん来たから、片っ端から斬った。
貰える報奨金を計算し、魔獣を金に見立て、欲望の赴くままに斬って斬って斬り伏せた…
ただそれだけだ。

報奨金を王宮でくれるというから行った。
金と一緒に名字を貰った。
そして慰労のパーティーでエルグラン王子と会って、その可憐さに衝撃を受けた。

自分と同じ人間なのかと疑った。

王子は心配そうな顔で「お怪我は大丈夫なのですか?」と聞いてきたので、自分は色んなダンジョンに挑んでいて魔獣討伐に慣れていると説明した。
王子がキラキラと目を輝かせてそれを聞いてくれるので、ずっと見ていたくなって、今まで仲間うちでウケた話など、持っている全てを必死で話した。

そして少しだけ仲良くなった。

そのことがあったからか、この国に王子が「密命を受けて」派遣されることになったとき、直々に指名されて従者になり、1代かぎりの爵位を貰った。

付け焼き刃の貴族的な振舞いなど、もうとっくに周りにはバレているだろう…あの彼以外には。

「あの、ルースという子は…不思議だな」
「ああ、そうだな。
 普通の貴族令息とは大分違うだろ?」
「平民のようでもあり…貴族のようでもあり」
「家柄を気にするところと気にしないところの使い分けが上手いんだよな」
「何より…裏がない」
「そう、そして

そうだ。
いくら席が隣だからとて、これほど歳の離れたものに話しかけ…「友人」として扱う。
普通なら話しかけることすらしないはずだ。
彼ので、この国に何人も友人ができた。彼自身にヘザーやカート…それに、この男。

「…この国を潰す気で来たんだろう?」
「なっ…」
「最初の頃のエルグラン王子を見りゃ分かるさ。
 アルファード殿下を落として、ルースに近寄らせないようにすれば、この国を殿下の次の代で終わりにできる…そのつもりで来たんだろ?」
「…何故そう思う?」
「俺も貴族の端くれだぜ?裏を読むぐらいはする」
「…そうか」

トルセンは、ニヤっと笑う。

「だけど、ここに来て…エルグラン王子は、どうやら本国からの呪いが溶けたらしい」
「…何?呪い…だと?」
「王家の決定には逆らえないという呪いだよ。
 父親や兄貴の言いなりになって、好きでもない男に何もかも捧げた挙げ句、せっかく出来た友達全員を不幸にする馬鹿馬鹿しさに気づいたのさ」
「…それは」
「ルースの影響だろうな、自分には抗える力がないと思い込んでいたのに…ここに来て、あらゆる属性の魔法に手が届く未来が見えた。
 そして6つもの属性を持ったあいつは、身分も損得勘定もせず、誰とでも仲良くなる
 ルースを見て、圧倒的な力があれば誰にも縛られずに生きられることを知ったんだ」
「!」
「それを気づかせた張本人は、冒険者になりたいんだそうだぜ?…あんたみたいな、な」

ジョンは、トルセンの言葉の意味に気づかないで、言葉を繋いだ。

「まさか、王子は…本国に逆らうつもりなのか?」
「はは、そうだな…最近は作戦を変えて、王家自体に取り入ろうとしているだろう?いざというとき、後ろ盾になってもらえるようにさ」
「…反逆者に、なるおつもりだと…」
「ちーがーう!
 めったな事言うなよ…ったく…お前も大概だな」

トルセンは呆れて言う。

「この国はな、王に30人までの側室を認めている」

ジョンは憤った。
王子には正室以外ありえない!

「まさか、王子が側室になるなどと…!」
「その「まさか」だよ。
 側室同士の身分には差がない。
 後宮に入った時点で、王子でも平民でも同じ「側室」という身分になる…わかるか?」
「そんなことは分かっている!」

トルセンはため息をつきつつ言う。

「エルグラン王子とお前が、一緒にアルファード殿下の側室になれば…身分の差はなくなるんだぜ」

ジョンは一瞬、思考が止まる。

「わ、わたしが、側室!?」

こ、この顔と図体で?それこそ有り得ない…!

「ついでに言うと、3年子どもができない側室は後宮から追い出すことが出来るけど、その後の身分はローズ王家が保証することになっているから…それを利用した身分差婚なんてのもたまにあるんだぜ。
 ……ここまで言えば、お前でも分かるだろ?」

ジョンは真っ赤になった。
そんな夢のような話があるなんて!

「そんなわけ、ない、だろう?」

エルグラン王子に初めて会ったとき、こんな可憐な人がいるのかと思った。
魔獣の討伐を褒めるより先に、怪我の心配をしてくれたのは王子だけだった。
その時抱いた想いは…とても他所には出せなくて。
一人で抱えて生きて死のうと思っていた。

いい歳をした平民が、
小さな王子に恋をしたなんて、
誰にも気づかせたくなかった。
だから必死で隠してきた…

それなのに。

「なぜ、分かった…?」




その言葉を聞いてトルセンは笑いながら言う。

「良かったな、両想いで」

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