天才錬金術師は、最強S級冒険者の元相棒

時暮雪

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元相棒、調査する

15。いざ、冒険者!

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 ギャオギャオと、ゴブリンがひしめき耳障りな鳴き声の響く洞窟。舌なめずりの音や武器をぶつけるような音の鳴り止まないそこに、一つの影が放り込まれた。
 ゴブリン達は見慣れないそれに警戒し、一定の距離を保って囲む。だが動くことの無いそれに危険はないと判断したのか、一匹が近づき手にある棍棒でつついた。

 瞬間、辺りに響き渡る轟音。外に繋がる全ての穴から炎と煙が吹き出した。中にいた生物の生存は確認するまでもなく絶望だろう程、穴の付近の空気が熱によって歪む。

「おー、おー。威力バッチリだな!やはり火力は正義…」
「……………エグイな」
「これは、確かに禁止、される…」

 それを遠目に眺めて、満足そうに笑う一人と引き気味の二人がいた。白銀の長髪を一纏めにし、眼鏡越しに濁ったピーチピンクの瞳で洞窟を眺める男。名を、ハオ・フォルスト。イグアスタ王国魔法省に勤める、"天才錬金術師"と名高い─その中身は爆弾魔気質という厄介な人物である。
 その後ろで呆れたため息をつくのは、黒髪に橙色の瞳の男。名を、ガロン・ベリゴール。イグアスタ王国軍バストーニ師団の現─なお本人は元だと譲らない─師団長であり、短期間でS級まで上り詰めた冒険者でもある。
 もう一人が、ハオと同じ白銀の髪を持真っ赤な瞳の少年。名を、カザキ・フォルスト。始まりの森と呼ばれる場所のもっと奥深い、迷いの森にある"精霊の隠れ家"に住むA級冒険者である。

 三人は現在、「A級パーティ」として冒険者の活動に勤しんでいた。

 始まりは勿論、先日『隠された森』にやってきた侵入者である。三年前の事件の犯人と同一人物であったその侵入者は、どうやら狙いがハオであるらしいことが判明した。
 正直心当たりがないこともないと言うハオに、まずこのまま王国で過ごしていればいつぞやの二の舞になり兼ねない。そのため、丁度計画していた短期間の旅に出る予定を大幅に早めたのだ。
 有給休暇も消化できるし、カザキの様子も確認できるし、ついでに奴さんの動向も確認できるかもしれない。一石二鳥どころか三鳥なんじゃないかと、狙われているハオ本人はワクワクしながら楽しげに言っていた。あまりにも呑気。

 そんな訳で、余計な心配はかけるめぇ!と個人の判断でたった一言『ちょっとガロンと一緒に冒険者してくるわ』とだけ書いた休暇届けを出したハオ。久しぶりに遠出するなぁ、なんて意気揚々と冒険者ギルドへと向かった。
 ギルドにてパーティ登録を済ませ適当な依頼を引っつかみ、取り敢えず隣国まで行ってみっか!と三人は王都を飛び出した。なおその同時刻、局長は休暇届けを見て胃を痛めている。

 ちなみにハオのランクであるが、なんとB級からのスタートである。もちろん不正などでは無い。
 ガロンは一から始めるということに意味があったため使わなかったが、元から戦闘職に就いている場合はライセンスを見せればそれ相応のランクから始められるのだ。当たり前だが、問題行動などで停止されたライセンスに効果はないし、なんならギルドから追い出されるので注意である。
 ハオは兵士としてのライセンスではなく、現在所属している魔法省に属する魔法師団のライセンスで冒険者登録をした。そのため魔法使いとしてのB級スタートである。なお、彼の腰には当たり前のように片手剣が下げられていた。

 依頼をこなしていない為にB級であるが、実力だけ見ればA級と引けを取らないハオ。こつこつと依頼をこなし先日A級となったカザキ。そして、巷で噂の過去最速でS級へと上り詰めた最強冒険者のガロン。パーティはランクの平均に合わせられるので、三人でA級パーティということになる。
 こうしてパーティを無事に組めた彼らであるが、主にガロンへの注目で物凄く目立っていたことだけ此処に記しておこう。そりゃ、今までソロでやってきた奴が突然パーティ組んだら注目される。しかも絶賛時の人。
 適当な依頼を引っ掴んで飛び出したのは、正直あの好奇の目から逃亡するが十割であった。

 そんなこんなで、途中の街にあるギルドに依頼を報告しては新しい依頼を受ける、を繰り返して隣国へ進行中の三人。道中、依頼でゴブリンの巣を爆破したり、オークの巣を爆破したり、パライズスパイダーの巣を爆破したり…とにかくハオがはしゃいでいた。
 普段は使用を禁じられているため、これ幸いと試作品のテストを魔物でしているのである。これにはガロンとカザキも、思わず魔物に同情した。無慈悲が過ぎる。

 魔物の巣を爆破しながら向かっている隣国は、全員行ったことが無いという理由で決めた魔法に造詣の深い国。『魔王』が統治するエヴィレーゼ王国だ。
 国力はイグアスタ王国の次点であるが、この国は他国で差別される人種を受け入れてくれることで有名である。魔王は大変懐が深い方だとか、何百年と生きているだとか、自身を倒す勇者を待ってるだとか。様々な噂があるが、事実として魔王は一度も代替わりをしていない…らしい。
 ちなみに以上の情報は、エヴィレーゼ王国出身であるクリス局長からハオが昔聞いた事である。魔法より錬金術に興味があると移住してきた彼曰く、絶対的な存在がいるからこそあそこまで人種が入り乱れてても平和なんだろうな、とのことであった。

 そんな話を聞けば、まぁ気にならない訳がなく。一応まともな理由として例の襲撃者が使っていた魔法について調べるということもあるが、九割九分目的は観光の三人。
 ワンチャン魔王が見られればいいなーくらいの、特に約一名がそれはもう軽すぎるノリで決めた行き先であった。

 ここで今一度確認しておこう。彼らのうち一名は、最近冒険者の間(つまり近隣諸国)で有名な最速S級冒険者。残り二名は、付近ではかなり稀であろう精霊と交流の深い森育ちである。
 何事もなく楽しい観光なぞ、出来るわけがないだろう。

─────

「…ああぁぁぁ……むり、ほんとむり…何でこんなことに…はやく、はやくきてくれ…


──僕の勇者…」




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