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天才錬金術師と最強S級冒険者
閑話②新人兵士と先輩兵士
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ガロン視点
──────────
それは、確かに人生を変える出会いだったと言えるだろう。だが今となってはの話で、当時は全くそうは思っておらず。ただ面倒事が増えたとしか思っていなくて。
「ハオ・フォルスト、16歳です!お前同い年なんだろ?よろしくな!」
ただ、何となく眩しいと感じただけだった。
肩に届くぐらいであろう白銀の髪を一括りにした、赤い目が印象的な女みたいで弱そうな奴。それが第一印象だっただろう。
同い年だから。そんな理由で決められた新たな同室者に、何となく同情を覚えた。自分はお世辞でも人当たりが良いとは言えない性格で、態度も悪い方だと自覚していた。
それでも直さないのは直す必要が感じられないからで、自分の力を高めるのに他人はどうでもいいと思っているからだ。どうせ、この新人もすぐに嫌になって部屋の変更を申し出るだろう。
自己紹介にろくな反応も返さず、名乗りもしない。そんな奴と同室なぞ誰だって嫌だろうし、そもそもようやく人が消えて一人で部屋を使っていたのだ。むしろ早く出ていって欲しいがために、わざと余計に態度を悪くする。
だと言うのに、どうやらこの新人は随分と能天気な奴だったらしい。
「やっぱ先輩って呼んだ方がいいの?ねぇ、ガロン先輩!兵舎の案内お願いします!」
「あ、ガロンさーん!!ねぇ一人?相手居ないなら、オレと組もうよ!」
「ガロンさんも明日休みだって聞いた!ねぇねぇ、一緒に城下町行こうよ!オレ、あんまり街行ったことないんだ。パトロールで道に迷われても困るだろ?案内して欲しい!」
「親睦を深めるために、呼び捨てにしようと思います。同い年だしいいでしょ?…え?他の先輩がそう言ってたから。うん、あの先輩…あれ、ガロンさん?」
「ガローン!!!ガロンさーん!!!!すみません後でいくらでも謝るんで助けて欲しい!!!!あっおいコラ!!あからさまに嫌そうな顔すんじゃねぇ!!!逃げようとすんな!!!!」
新人が入隊して二ヶ月。どれだけ冷たくあしらおうと、どれだけ邪険に扱おうと、そいつはズカズカとこちらの陣地に入り込んできた。明らかに嫌われてると取られてもおかしくない態度だと言うのに、気にもせず入ってきては振り回してくる。
ハッキリ関わるなと言ったこともある。だがそれを「嫌だ」の一言で一蹴した新人に、こちらが折れた方が楽だと思ってしまった。態度を悪くするのはもはや意地である。
たった二ヶ月、されど二ヶ月。その間に、すっかり俺の傍にはこの新人がいるのが"普通"になってしまった。一人でいれば居場所を聞かれ、彼奴を探す奴はまず俺のところに来る。いつの間にか俺が彼奴の教育係になっていたことには驚きで、一向に部屋を変える気配も離れる気配もない。
初めてのタイプに、正直どうすればいいのか分からなかったのだろう。今までは腫れ物を扱うように遠巻きにされてきたからか、こうして自分から近づいてくる奴の対処が分からないのだ。
段々と絆されそうになり、このままではいけないと頭を振る。自分にはやるべきことがあった。これを達成するまで、腑抜けることは自分が許さない。
いっその事自分から部屋の変更を申し出るかと考え始めた頃だった。夜中、新人のベッドから音がした。どうやら寝つきが悪く身動ぎしているらしい。今までそんなことが無かったため、思わず珍しいと記憶に残った。
その日からだっただろうか。時たま奴は夜中に目覚め、眠れていないようであった。その気配につられて意識が浮上するため、何となく寝た気がしない日が続く。それはあちらも同じようで、なんなら自分より酷いだろう。
そして日を追う事に顔色が悪くなってくそいつは、ある日とうとう倒れた。訓練中、俺と手合わせをしている時のことだ。
そろそろ潮時だと思った。医者が言うには、この新人はストレスによる睡眠障害を起こしていたらしい。しかも、恐らく入隊してすぐからだ。どうやら回復魔法で誤魔化していたようで、十中八九そのストレスとやらの原因は俺にあるのだろう。
周りの奴らもそう思ったのか、落ち着く部屋に変えた方がいいかもしれないという話が出た。俺は特に反対するつもりはないと言うのに、やけに向けられる視線が鬱陶しかった。
新人が目覚めたのは、その翌日の夕方。丁度部屋からそいつの着替えを持っていった時に目覚めて、医者が外出していたので仕方なく相手をした。
「…おい、気分は?」
「が、ろん……おれ、なんでねてんだ?」
「訓練中に突然倒れた。既に一日経っている。医者は、ストレスによる睡眠障害と言っていたが…何故黙っていた?」
「けほっ…はなす、から、みずちょーだい…」
丸一日寝ていたのだからそうなるかと水差しから水を注ぐ。問題なく起き上がれた新人にコップを渡して、多少話しが長引くかもしれないと椅子を引く。
座った俺を確認して、二杯目も飲み終わった新人はバツの悪そうに眉を下げた。
「…黙ってたのは悪かった。流石に言い出し辛くて…夜中、多分あれ起こしてたよね?すみませんでした」
「だから魔法で誤魔化したと?自己管理が甘い。お前は兵士という自覚がないのか?意地を張って倒れる前に、他の誰かに言うなり対処法はあっただろう」
「いやぁ、そうデスネ…ぐうの音も出ません…でもさぁ、ちょっと、ねぇ?」
「…変な遠慮せず、ハッキリと言ったらどうなんだ」
「ベッドじゃ眠れないなんて、ダサいじゃんか…」
「俺と同じ部屋はストレスだということぐらい…」
「「…は???」」
何故か無性にイラついて、吐き捨てるように言えば被さる言葉。その内容がすぐには理解出来ず、思わずまたしても被る声と同時にそいつの顔を見る。あちらもキョトンと目を大きく開いてこちらを見ていて、何故かそこで初めてまともに顔を見たなと動かない頭で漠然と思った。
べっどじゃねむれない。こいつは確かにそう言った。一瞬どこの言語だ?などと考えたが、紛れもなく共通語である。つまり、ストレスというのは眠れないのに関わらず無理にでも眠っていたことによるものということで。
それを理解した途端、まるで今までの自分が自意識過剰だったように感じて片手を顔に当てる。顔に熱が集まって来るのが分かるが、どうにか抑えて何の反応もない新人を確認する。
その顔はまるで親に怒られそうな子供のような、捨てられた動物のような表情をしていた。一体なんでそんな顔をしているのかと思ったが、聞く前に新人は抱えた膝に頭を埋めてくぐもった声を出す。
「…どうも、随分ご迷惑をおかけしたようで…お願いだから見限んないで……」
「…待て。何がどうしてそんな話になる。俺が見限る側なのか?」
「だってそうじゃん!誰も普通、ベッドじゃ眠れないなんて思わないよ!?自意識過剰かも知んないけど、オレのせいで責められたりしなかった?というか、責められたからガロンがストレスとか訳わかんないことになってんの?」
「…あぁ、いや…」
「全然そんな事ないからな!!オレの自業自得なんだ!だから見捨てないで!!初めての同い年の友達に見捨てられたら立ち直れない!!」
「話を聞け。そしていつの間に俺はお前の友達になったんだ。というか、お前まさか泣いて…おい、俺が泣かしたみたいじゃないか。泣くな」
「あ、一緒に寝たら眠れるかもしれない!!頼むガロン、オレと一緒に寝てくれ!!!」
「一瞬で泣き止んだと思ったら何の話だ。ふざけるな。そもそも部屋のベッドは一人用で、男が二人眠れるほどの幅はない。おい、聞いてるか?聞いてないな?」
ポロポロと涙を流したかと思えばすぐに泣き止み、まるで名案と言わんばかりに謎の提案をされた。しかもそれから全く話を聞かず、もはや決定事項のように満足そうな顔をしている。
こうなれば何を言ったところで無駄だと、この二ヶ月で学んでしまった俺は諦めるしかないのだろう。それでも無駄に足掻こうとした結果、戻ってきた医者にやり取りを見られ変な誤解が兵舎に広まることになった。
ついでに押し負け、この新人─ハオが眠れる寝床が出来るまで共に寝ることになったのは言うまでもないだろう。
そうして数年、いつの間にかハオは俺の相棒という立ち位置に収まっていた。自分からそうだと言った覚えは無い。それでも、その位置に置く人物は彼しか考えられなくなっていたのも確かで。
初めに感じた眩しさが、どうにも増していることも確かで。だから、だろうか。
「…わり、もう左目は見えないってさ」
燃え盛る建物の中、その炎に呑まれる銀色を見てからの記憶はあやふやで。ようやく正気に戻った時には、包帯まみれのハオがベッドの上でそう無理矢理笑っていた。
何かが崩れる音がした。まるで今まで歩いてきた道が全て無くなったような、先すらも見えない場所に落ちたような感覚だった。これまでやってきたことが全て無駄だったと、その時俺は察してしまった。
ハオは守る力が欲しいと言っていた。対して自分が求めていたのは、復讐するための強さだ。似ているようで全くの正反対なそれは、何も守れないことを知った。
失うことが、こんなにも怖いことだと知ってしまった。
今まで復讐だけに生きてきた。それだけを追いかけていた。だがどうだろう?今の自分には、いつの間にかそれ以外が存在していた。それはどうにも捨てられないもので、与えたのはハオであることは確実で。
その為なら、今までの努力も何もかもを捨ててもいいとさえ思ってしまったのだ。あれだけ固執していた復讐も、簡単にどうでもいいと捨てられた。
過去の復讐はもはやどうでもいい。今はただ彼を傷つけた奴への報復と、これから先彼を守れるだけの力が欲しかった。
戦えないというのなら、代わりに俺が戦おう。守りたいものがあるのなら、代わりに俺が守ってやる。だから、守らせて欲しいと思った。それが何故かなんて分からなかったし、正直理由なんて関係なかった。そう感じたからそうする。それだけの話である。
欲しいと思ったから手に入れるため行動する。それだけの話なのだ。
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それは、確かに人生を変える出会いだったと言えるだろう。だが今となってはの話で、当時は全くそうは思っておらず。ただ面倒事が増えたとしか思っていなくて。
「ハオ・フォルスト、16歳です!お前同い年なんだろ?よろしくな!」
ただ、何となく眩しいと感じただけだった。
肩に届くぐらいであろう白銀の髪を一括りにした、赤い目が印象的な女みたいで弱そうな奴。それが第一印象だっただろう。
同い年だから。そんな理由で決められた新たな同室者に、何となく同情を覚えた。自分はお世辞でも人当たりが良いとは言えない性格で、態度も悪い方だと自覚していた。
それでも直さないのは直す必要が感じられないからで、自分の力を高めるのに他人はどうでもいいと思っているからだ。どうせ、この新人もすぐに嫌になって部屋の変更を申し出るだろう。
自己紹介にろくな反応も返さず、名乗りもしない。そんな奴と同室なぞ誰だって嫌だろうし、そもそもようやく人が消えて一人で部屋を使っていたのだ。むしろ早く出ていって欲しいがために、わざと余計に態度を悪くする。
だと言うのに、どうやらこの新人は随分と能天気な奴だったらしい。
「やっぱ先輩って呼んだ方がいいの?ねぇ、ガロン先輩!兵舎の案内お願いします!」
「あ、ガロンさーん!!ねぇ一人?相手居ないなら、オレと組もうよ!」
「ガロンさんも明日休みだって聞いた!ねぇねぇ、一緒に城下町行こうよ!オレ、あんまり街行ったことないんだ。パトロールで道に迷われても困るだろ?案内して欲しい!」
「親睦を深めるために、呼び捨てにしようと思います。同い年だしいいでしょ?…え?他の先輩がそう言ってたから。うん、あの先輩…あれ、ガロンさん?」
「ガローン!!!ガロンさーん!!!!すみません後でいくらでも謝るんで助けて欲しい!!!!あっおいコラ!!あからさまに嫌そうな顔すんじゃねぇ!!!逃げようとすんな!!!!」
新人が入隊して二ヶ月。どれだけ冷たくあしらおうと、どれだけ邪険に扱おうと、そいつはズカズカとこちらの陣地に入り込んできた。明らかに嫌われてると取られてもおかしくない態度だと言うのに、気にもせず入ってきては振り回してくる。
ハッキリ関わるなと言ったこともある。だがそれを「嫌だ」の一言で一蹴した新人に、こちらが折れた方が楽だと思ってしまった。態度を悪くするのはもはや意地である。
たった二ヶ月、されど二ヶ月。その間に、すっかり俺の傍にはこの新人がいるのが"普通"になってしまった。一人でいれば居場所を聞かれ、彼奴を探す奴はまず俺のところに来る。いつの間にか俺が彼奴の教育係になっていたことには驚きで、一向に部屋を変える気配も離れる気配もない。
初めてのタイプに、正直どうすればいいのか分からなかったのだろう。今までは腫れ物を扱うように遠巻きにされてきたからか、こうして自分から近づいてくる奴の対処が分からないのだ。
段々と絆されそうになり、このままではいけないと頭を振る。自分にはやるべきことがあった。これを達成するまで、腑抜けることは自分が許さない。
いっその事自分から部屋の変更を申し出るかと考え始めた頃だった。夜中、新人のベッドから音がした。どうやら寝つきが悪く身動ぎしているらしい。今までそんなことが無かったため、思わず珍しいと記憶に残った。
その日からだっただろうか。時たま奴は夜中に目覚め、眠れていないようであった。その気配につられて意識が浮上するため、何となく寝た気がしない日が続く。それはあちらも同じようで、なんなら自分より酷いだろう。
そして日を追う事に顔色が悪くなってくそいつは、ある日とうとう倒れた。訓練中、俺と手合わせをしている時のことだ。
そろそろ潮時だと思った。医者が言うには、この新人はストレスによる睡眠障害を起こしていたらしい。しかも、恐らく入隊してすぐからだ。どうやら回復魔法で誤魔化していたようで、十中八九そのストレスとやらの原因は俺にあるのだろう。
周りの奴らもそう思ったのか、落ち着く部屋に変えた方がいいかもしれないという話が出た。俺は特に反対するつもりはないと言うのに、やけに向けられる視線が鬱陶しかった。
新人が目覚めたのは、その翌日の夕方。丁度部屋からそいつの着替えを持っていった時に目覚めて、医者が外出していたので仕方なく相手をした。
「…おい、気分は?」
「が、ろん……おれ、なんでねてんだ?」
「訓練中に突然倒れた。既に一日経っている。医者は、ストレスによる睡眠障害と言っていたが…何故黙っていた?」
「けほっ…はなす、から、みずちょーだい…」
丸一日寝ていたのだからそうなるかと水差しから水を注ぐ。問題なく起き上がれた新人にコップを渡して、多少話しが長引くかもしれないと椅子を引く。
座った俺を確認して、二杯目も飲み終わった新人はバツの悪そうに眉を下げた。
「…黙ってたのは悪かった。流石に言い出し辛くて…夜中、多分あれ起こしてたよね?すみませんでした」
「だから魔法で誤魔化したと?自己管理が甘い。お前は兵士という自覚がないのか?意地を張って倒れる前に、他の誰かに言うなり対処法はあっただろう」
「いやぁ、そうデスネ…ぐうの音も出ません…でもさぁ、ちょっと、ねぇ?」
「…変な遠慮せず、ハッキリと言ったらどうなんだ」
「ベッドじゃ眠れないなんて、ダサいじゃんか…」
「俺と同じ部屋はストレスだということぐらい…」
「「…は???」」
何故か無性にイラついて、吐き捨てるように言えば被さる言葉。その内容がすぐには理解出来ず、思わずまたしても被る声と同時にそいつの顔を見る。あちらもキョトンと目を大きく開いてこちらを見ていて、何故かそこで初めてまともに顔を見たなと動かない頭で漠然と思った。
べっどじゃねむれない。こいつは確かにそう言った。一瞬どこの言語だ?などと考えたが、紛れもなく共通語である。つまり、ストレスというのは眠れないのに関わらず無理にでも眠っていたことによるものということで。
それを理解した途端、まるで今までの自分が自意識過剰だったように感じて片手を顔に当てる。顔に熱が集まって来るのが分かるが、どうにか抑えて何の反応もない新人を確認する。
その顔はまるで親に怒られそうな子供のような、捨てられた動物のような表情をしていた。一体なんでそんな顔をしているのかと思ったが、聞く前に新人は抱えた膝に頭を埋めてくぐもった声を出す。
「…どうも、随分ご迷惑をおかけしたようで…お願いだから見限んないで……」
「…待て。何がどうしてそんな話になる。俺が見限る側なのか?」
「だってそうじゃん!誰も普通、ベッドじゃ眠れないなんて思わないよ!?自意識過剰かも知んないけど、オレのせいで責められたりしなかった?というか、責められたからガロンがストレスとか訳わかんないことになってんの?」
「…あぁ、いや…」
「全然そんな事ないからな!!オレの自業自得なんだ!だから見捨てないで!!初めての同い年の友達に見捨てられたら立ち直れない!!」
「話を聞け。そしていつの間に俺はお前の友達になったんだ。というか、お前まさか泣いて…おい、俺が泣かしたみたいじゃないか。泣くな」
「あ、一緒に寝たら眠れるかもしれない!!頼むガロン、オレと一緒に寝てくれ!!!」
「一瞬で泣き止んだと思ったら何の話だ。ふざけるな。そもそも部屋のベッドは一人用で、男が二人眠れるほどの幅はない。おい、聞いてるか?聞いてないな?」
ポロポロと涙を流したかと思えばすぐに泣き止み、まるで名案と言わんばかりに謎の提案をされた。しかもそれから全く話を聞かず、もはや決定事項のように満足そうな顔をしている。
こうなれば何を言ったところで無駄だと、この二ヶ月で学んでしまった俺は諦めるしかないのだろう。それでも無駄に足掻こうとした結果、戻ってきた医者にやり取りを見られ変な誤解が兵舎に広まることになった。
ついでに押し負け、この新人─ハオが眠れる寝床が出来るまで共に寝ることになったのは言うまでもないだろう。
そうして数年、いつの間にかハオは俺の相棒という立ち位置に収まっていた。自分からそうだと言った覚えは無い。それでも、その位置に置く人物は彼しか考えられなくなっていたのも確かで。
初めに感じた眩しさが、どうにも増していることも確かで。だから、だろうか。
「…わり、もう左目は見えないってさ」
燃え盛る建物の中、その炎に呑まれる銀色を見てからの記憶はあやふやで。ようやく正気に戻った時には、包帯まみれのハオがベッドの上でそう無理矢理笑っていた。
何かが崩れる音がした。まるで今まで歩いてきた道が全て無くなったような、先すらも見えない場所に落ちたような感覚だった。これまでやってきたことが全て無駄だったと、その時俺は察してしまった。
ハオは守る力が欲しいと言っていた。対して自分が求めていたのは、復讐するための強さだ。似ているようで全くの正反対なそれは、何も守れないことを知った。
失うことが、こんなにも怖いことだと知ってしまった。
今まで復讐だけに生きてきた。それだけを追いかけていた。だがどうだろう?今の自分には、いつの間にかそれ以外が存在していた。それはどうにも捨てられないもので、与えたのはハオであることは確実で。
その為なら、今までの努力も何もかもを捨ててもいいとさえ思ってしまったのだ。あれだけ固執していた復讐も、簡単にどうでもいいと捨てられた。
過去の復讐はもはやどうでもいい。今はただ彼を傷つけた奴への報復と、これから先彼を守れるだけの力が欲しかった。
戦えないというのなら、代わりに俺が戦おう。守りたいものがあるのなら、代わりに俺が守ってやる。だから、守らせて欲しいと思った。それが何故かなんて分からなかったし、正直理由なんて関係なかった。そう感じたからそうする。それだけの話である。
欲しいと思ったから手に入れるため行動する。それだけの話なのだ。
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