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天才錬金術師と最強S級冒険者
閑話①在りし日、とある二人の苦悩
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イグアスタ王国駐屯地にて。バストーニ師団『アレク』のゲオルグ・ベリゴールは頭を抱えていた。
その原因は自身の義子であるガロン・ベリゴールであり、彼の協調性の無さについての苦情が多すぎるからである。なまじ実力があるだけ、本人に直接文句が言えないという者が大半なのだ。故に、その苦情が師団長であるゲオルグに寄せられているのである。
確かに昔から人付き合いに対して積極的ではないと思っていたが、ここまで集団行動が出来ないとは。いや、最低限はしているようなのだ。ただ、その最低限があまりにも最低限すぎるのが問題な訳で。
人というものは、異端を許さない傾向がある。このままでは団内で不和が生じてしまうし、そうなれば最悪ガロンを退団させる手を取らねばならなくなるだろう。それは本人も望まないことであろうし、彼の意志を知っている自分も出来れば避けたい事態だ。
さてどうしたものか、とここ最近で何回目かも分からないため息を吐き出す。苦情の書かれた紙を睨みつけていれば、部屋のドアがノックされる。入室を促せば、入ってきたのは長い付き合いである魔法省の魔法研究部室長クリス・ヒルガストだった。
よっ、と軽い挨拶と同時に上げられた片手にある書類を見て、仕事が増えたとげんなりする。その様子に仕事中だろうと呟いたクリスは、あからさまに嫌がるゲオルグを無視して持ってきた書類を机に置いた。
「どうも、ゲオルグ師団長。ご機嫌よろしいようで?」
「嫌味が雑だな、クリス室長。これ以上俺の頭痛を増やしてくれるな」
「安心しろ。もしかしたら、その頭痛もマシになるかもしれない話を持ってきた」
「何…?」
まぁ読めと差し出された書類に目を落とせば、それはどうやら入隊志願書のようだった。確かに今の時期は常に募集をかけているがと内容に目を通して、その名前と写真に思わずクリスを見る。
よく見るとどこか疲れた面持ちの彼に、何を持ってして頭痛がマシになるかもなどと言ったのか疑問に思う。もう一度紙面に視線を落として、その名前と写真を確認する。
『ハオ・フォルスト』
肩ほどまで伸びている銀髪に、パッチリとした赤目。下手をすれば女子とも見紛うであろう美少年の写真と、その横に記入された名前に見間違いはない。マジで?と思わず崩れる口調に、律儀にマジでと返してきたクリス。
それは、二年程前にクリスが森で見つけたという少年であった。魔法の才能があるとかで魔法省預かりになっていた筈だが、何がどうして兵士を志願することになったのか。
説明を求めるように見れば、クリスは察していたのか一つ頷くと直ぐに口を開いた。
「まぁ、なんというか…本人の強い希望でな。本来なら18になるのを待つつもりだったらしいが、何処かで同い年の兵士がいると聞いたそうだ。それで、今すぐにでも入隊したい、と」
「あー…そうか。別に制限がある訳では無いが、一般兵の募集基準は18だったか。だが、魔法の才能があるのだろう?何故わざわざ兵士に」
「強くなりたいのだと言われた。ついでに、魔法は既に師事している者がいるようでな。詳しくは教えてくれなかったが、その人物以外に教わりたくないらしい。多少剣術にも覚えがあるとかで、守る力が欲しいのだそうだ」
何を、とは言わなかった。恐らく本人が何も言わなかったのだろう。写真の表情は真剣そのもので、志願書用だから気合いが入っていた訳ではなさそうだった。まるで命を捨てる覚悟を決めたような目をしている。
遠目で見かけた時も何かしらを思い詰めている様子であったが、果たして何を守りたいのだろうか。少し崩れた筆記体で書かれたフォルストの名を指でなぞる。
その名で思い出すのは十年前、王都で起きた大事件。死者を何人も出したその事件は、未だ犯人も動機も不明で終わったものだ。
何者かが、とある貴族の屋敷に放火した。真夜中に起きたそれは誰もが気づくのに遅れ、結果として屋敷に住んでいた貴族の一家と使用人たちが大勢亡くなった。
唯一死体が確認されず行方不明にされたとある二人を残して。
もう一度クリスを仰ぐが、彼はもう諦めたようであった。ならゲオルグがここで何を言ったところで、今度は本人が来るだけなのだろう。自分の義子といい、最近の16歳はどうにも我が強いようである。
頭痛が増えそうだと思いながら、書類に承認の判子を押す。来月の新兵入隊後が本当に心配になってきた。
「ちなみに、この子の前で十年前の話はしてくれるなよ。したら俺はお前と絶交する」
「何があった。なぁ、これのどこが頭痛が減るかもしれないんだ?増えそうな気しかしないんだが」
「…同い年の者がいれば、何かしら影響が出るんじゃないかと思ってな。余計に増えないよう祈ってやるよ」
「他人事だと思いやがって…そのうち巻き込んでやる」
「はっはっはっ。頑張ってくれ」
忌々しげに呟いたゲオルグに爽やかな笑顔を向けるクリス。彼は知らない。この数年後、ゲオルグから『絶対に壊れない木剣』を依頼されて発狂することを─
その原因は自身の義子であるガロン・ベリゴールであり、彼の協調性の無さについての苦情が多すぎるからである。なまじ実力があるだけ、本人に直接文句が言えないという者が大半なのだ。故に、その苦情が師団長であるゲオルグに寄せられているのである。
確かに昔から人付き合いに対して積極的ではないと思っていたが、ここまで集団行動が出来ないとは。いや、最低限はしているようなのだ。ただ、その最低限があまりにも最低限すぎるのが問題な訳で。
人というものは、異端を許さない傾向がある。このままでは団内で不和が生じてしまうし、そうなれば最悪ガロンを退団させる手を取らねばならなくなるだろう。それは本人も望まないことであろうし、彼の意志を知っている自分も出来れば避けたい事態だ。
さてどうしたものか、とここ最近で何回目かも分からないため息を吐き出す。苦情の書かれた紙を睨みつけていれば、部屋のドアがノックされる。入室を促せば、入ってきたのは長い付き合いである魔法省の魔法研究部室長クリス・ヒルガストだった。
よっ、と軽い挨拶と同時に上げられた片手にある書類を見て、仕事が増えたとげんなりする。その様子に仕事中だろうと呟いたクリスは、あからさまに嫌がるゲオルグを無視して持ってきた書類を机に置いた。
「どうも、ゲオルグ師団長。ご機嫌よろしいようで?」
「嫌味が雑だな、クリス室長。これ以上俺の頭痛を増やしてくれるな」
「安心しろ。もしかしたら、その頭痛もマシになるかもしれない話を持ってきた」
「何…?」
まぁ読めと差し出された書類に目を落とせば、それはどうやら入隊志願書のようだった。確かに今の時期は常に募集をかけているがと内容に目を通して、その名前と写真に思わずクリスを見る。
よく見るとどこか疲れた面持ちの彼に、何を持ってして頭痛がマシになるかもなどと言ったのか疑問に思う。もう一度紙面に視線を落として、その名前と写真を確認する。
『ハオ・フォルスト』
肩ほどまで伸びている銀髪に、パッチリとした赤目。下手をすれば女子とも見紛うであろう美少年の写真と、その横に記入された名前に見間違いはない。マジで?と思わず崩れる口調に、律儀にマジでと返してきたクリス。
それは、二年程前にクリスが森で見つけたという少年であった。魔法の才能があるとかで魔法省預かりになっていた筈だが、何がどうして兵士を志願することになったのか。
説明を求めるように見れば、クリスは察していたのか一つ頷くと直ぐに口を開いた。
「まぁ、なんというか…本人の強い希望でな。本来なら18になるのを待つつもりだったらしいが、何処かで同い年の兵士がいると聞いたそうだ。それで、今すぐにでも入隊したい、と」
「あー…そうか。別に制限がある訳では無いが、一般兵の募集基準は18だったか。だが、魔法の才能があるのだろう?何故わざわざ兵士に」
「強くなりたいのだと言われた。ついでに、魔法は既に師事している者がいるようでな。詳しくは教えてくれなかったが、その人物以外に教わりたくないらしい。多少剣術にも覚えがあるとかで、守る力が欲しいのだそうだ」
何を、とは言わなかった。恐らく本人が何も言わなかったのだろう。写真の表情は真剣そのもので、志願書用だから気合いが入っていた訳ではなさそうだった。まるで命を捨てる覚悟を決めたような目をしている。
遠目で見かけた時も何かしらを思い詰めている様子であったが、果たして何を守りたいのだろうか。少し崩れた筆記体で書かれたフォルストの名を指でなぞる。
その名で思い出すのは十年前、王都で起きた大事件。死者を何人も出したその事件は、未だ犯人も動機も不明で終わったものだ。
何者かが、とある貴族の屋敷に放火した。真夜中に起きたそれは誰もが気づくのに遅れ、結果として屋敷に住んでいた貴族の一家と使用人たちが大勢亡くなった。
唯一死体が確認されず行方不明にされたとある二人を残して。
もう一度クリスを仰ぐが、彼はもう諦めたようであった。ならゲオルグがここで何を言ったところで、今度は本人が来るだけなのだろう。自分の義子といい、最近の16歳はどうにも我が強いようである。
頭痛が増えそうだと思いながら、書類に承認の判子を押す。来月の新兵入隊後が本当に心配になってきた。
「ちなみに、この子の前で十年前の話はしてくれるなよ。したら俺はお前と絶交する」
「何があった。なぁ、これのどこが頭痛が減るかもしれないんだ?増えそうな気しかしないんだが」
「…同い年の者がいれば、何かしら影響が出るんじゃないかと思ってな。余計に増えないよう祈ってやるよ」
「他人事だと思いやがって…そのうち巻き込んでやる」
「はっはっはっ。頑張ってくれ」
忌々しげに呟いたゲオルグに爽やかな笑顔を向けるクリス。彼は知らない。この数年後、ゲオルグから『絶対に壊れない木剣』を依頼されて発狂することを─
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