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天才錬金術師と最強S級冒険者

11。そこは禁足…地?

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 緩く発光する毛玉のような不思議な生き物を片手に、示された方向へと足を進めるガロン。似たような景色ばかりが続くが、同じ場所をグルグルと回っている訳では無いようで、見知らぬ花や木の実なんかを時たま見かけた。
 どれぐらい進んだのか、ふと足元に明るい緑の草が混ざり始めた。今までの場所は深い緑一色だったので、どうやら別の場所に出たのだろうと予測を付ける。
 その予測を裏付けるようにか、その生き物が一際強く瞬いたと同時に甲高い鳴き声を上げた。
 それに思わず足を止めたガロンの横で、茂みがガサリと揺れる。反射的に腰に下げている剣を構えようとして、見えたものに伸ばした手を止める。茂みの隙間から見えたのは、見覚えのある帽子であった。

「……カザキか?」
「…ん。ベリゴールさん、こんにちは」

 ひょっこりと顔を出したのは、いつもの帽子に青いストールを巻いたカザキだった。そこかしこに葉っぱを付けたまま茂みから出てきた彼に、手の上にいる生き物がキャッキャッと子供のような声を出した。
 それに目を止めて、カザキはいつもあまり動きのない目を少し見開く。そして軽く首を傾げたかと思えば、勝手に一人頷いて何かに納得しているようだった。
 その行動の意味がよく分からないガロンは、質問するべきか否かを決めあぐねていた。何せ、あまり交流がないうえ感情が読み取りにくい少年なので。

「うん、分かった。ベリゴールさん、こっち」
「…そうか」

 一人納得したらしいカザキは、ガロンの外套の端をちょこんと摘むと先導するように歩き出す。手の上にいた生き物はいつの間にかガロンの頭に移動しており、きゃらきゃらと楽しげな笑い声を上げている。
 引かれるがまま大人しくついていけば、少し開けた所に出た。先程までいた薄暗い場所とは違い明るい場所で、同じ森の中だと言うのにまるで別世界のように感じる。
 辺りを見渡せば、人よりも大きな葉っぱや不思議な実を付けた木などがあった。少し遠くには丸太をくり抜いて作られたような家らしきものもある。やたら大きな切り株なんかも見えて、まるで小人にでもなった気分だ。

 ふと視線を上げると、明らかに普通ではありえない大きさの大木が見えた。イグアスタ王国の城がまるまる収待っても余裕そうな、おそらくこの付近だったらどこからでも確実に見える程大きい木だ。
 しかし森を外から見た時はあんなものは確認出来なかったし、始まりの森にこんな大木があるなんて噂も話も一切聞いたことが無い。
 あれがなんなのか。それをカザキに聞く前に、前方から誰かを叱っているような知っている声が聞こえて来た。まず見えたのは白銀の長髪を一つにまとめた自身の相棒。そして次に見えたのが、彼の目の前でズラッと整列している……大量の何だか丸っこい生物だ。

「全く、お前らはいつもいつも!!いいか?何かあればまずはカザキを呼べ!!次にオレ、ダメだったら他の奴だ!!最初から何も知らない奴を連れ込むなって何度も…」
「にーちゃん、ただいま」
「カザキ!ガロンは…見つけたか!良かった~!!ごめんなぁ、まさかお前が連れてかれるとは思わなかったというか、注意すんの忘れてたというか」
「…一から説明を要求する。なん、な、何だ??この珍妙な生物は??」
「めちゃくちゃに困惑してるガロンとかめっずらしー…説明な、分かった。座って話そう」

 こちらを見上げる数十匹の生物を見下ろして、ガロンはハオに説明を求める。それを予想してたかのように頷いて、ハオはまず落ち着ける場所に移動しようと、集まっていたその生物たちを解散させた。
 こっちだ、と連れて行かれたのは先程見かけた家だった。居間と思わしき部屋に案内され、椅子に座らされて目の前にお茶が出される。勝手知たる様に行動する彼らに、ガロンが何も気が付かないわけがなかった。
 ご丁寧にお茶菓子まで出てきたハオが着席した所で、もはや頭痛が痛いみたいな顔をしたガロンが呆れたような声を出す。

「お前…実家は自然豊かな場所にあるってなんだ。豊か以前に、自然そのものじゃないか…」
「まずツッコむとこそこかい。いやまぁ、オレだってね?ここが迷いの森だなんて呼ばれてなけりゃあ、実家は森って言ったよ?でもなんかやけに恐れられてるし、あることないこと噂されてるし…始まりの森の奥地に住んでます、なんて言えるわけねぇじゃん」
「それはまぁ、そうだが…それではさっきのあれ、とコイツについても聞きたい」
「ん?おぉ、ガロンってばやるぅ!光の子じゃん!そいつとさっき大量にいたやつらはあれね、精霊ってやつ。ガロンが持ってんのは、光属性の子」
「せい…………はっ!?」

 いまだ頭に乗っていたその生き物を掴んでハオに見せれば、先程のカザキのように少し目を見開いて驚いた。そして告げられた全く予想もしていなかった答えに、素っ頓狂な声を上げて手元の毛玉を見るガロン。
 光の精霊と言われたその生き物は、話の内容を理解しているのかいないのか、ただきゃらきゃらと楽しそうに笑うだけだ。
 知能は人間の子供程度だとハオが言う。彼が精霊の目の前で人差し指をからかうように動かせば、キャッキャッと指を追って手なのであろう部分を振った。
 確かに子供のような声を出すし、行動も随分幼いように感じる。大分感情が存在している生き物に、これが精霊なのかとどこか微妙な気持ちでじゃれる様子を眺めるガロン。特に何か存在に憧れを持っていた訳ではないが、時に恐れられている存在が"コレ"だと思うと力も抜ける。

 一通り光の精霊をからかった後、さてとハオが立ち上がる。そろそろだから何か作ると言ったので、じゃあ手伝うかとガロンも腰を上げた。上げたところで、ふと疑問に思う。

「夕飯って…俺たちが森に入ってから一時間と少しぐらいしか経ってないよな?」
「あー…精霊の力のせいだな。お前が連れてかれてから、もう四時間は経ってるぜ」
「……は?」

 四時間。四時間って何時間だ?そう軽く宇宙を背負ったような表情をするガロンに、今日は珍しい反応ばかり見るなぁと思わずハオは笑う。仕方ないにしろ、案外困惑が分かりやすい元相棒に微笑ましいような視線を向ける。
 精霊と言うのは、他の生物とは全く別の力で動く生物である。なので時間の感覚が大幅に違っていたり、加減が分からずやりすぎたりすることもある。そこら辺が、人間等からしたら恐ろしいと感じてしまう部分なのだろう。
 おかげでハオも何度か時間を間違えた事がある。薬草採取に出て三日帰って来ないと言うのは、こうしてついでに実家へと顔を出した時にズレ・・てしまったからだ。そんなことを考えながら器具を用意していれば、そういえばとガロンが口を開く。

「失礼を承知で一つ聞きたいんだが…」
「ん?」
「ここは本当に人が住む場所か?カーペットのように苔が敷き詰められてる上、壁にまで何かしら植物が生えてるが。古い訳ではないのに廃墟みたいで、混乱する」
「ぶはっ!」

 いっそこういう敷物だとでも言わんばかりに床に生えている苔や、家の壁に生えている葉っぱを眺めながら、物凄く微妙な表情でそういうガロン。ハオは思わず吹き出した。
 なんでかと聞かれれば、精霊は気に入った場所を好き勝手に自分たちが居心地の良いように作り替えてしまうことがあるからだ。そして、森には圧倒的に土属性の精霊が多い。つまりはそう言うことである。
 キッチン周りの石畳ですら、その灰色が見えない程に緑で覆われている。もはや外も中も変わらないな、と柔らかい苔を踏みしめながらガロンは独りごちた。

 長い髪を一つに括ったハオが、鼻歌混じりに鍋をかき混ぜる。どうやら簡単にシチューにしたようで、夕飯の材料を覗いたガロンは肉が少ないなと小さくこぼした。ハオの食育をしようと考えているガロンにとって、まずタンパク質を取らせるのが第一なのである。
 その呟きに苦笑していれば、いつの間にか出かけていたらしいカザキがタイミングよく戻ってきた。片手には、締められたツノツキウサギが握られている。
 肉が増えたと静かに頷くガロンを横目に、ハオは誰が調理すると思ってんだと溜め息を吐く。





 ふと窓を見ると、沢山の精霊たちがベッタリと張り付いていた。彼らの感覚で久しぶりの客人と、帰ってきたハオが何かを作っているということで、どうやら好奇心をくすぐられたらしい。
 次いで気づいたガロンが、その光景に一瞬ビクリと肩を揺らす。ぎゅうぎゅうと互いを押しやるように中を覗き込んでくる精霊たちは、カザキが窓を開けてやればわっ!と室内になだれ込んで来た。

 頭に葉っぱを生やしたもの。水滴をくっつき合わせたようなもの。燃えている火種のようなもの。ふわふわと風船のように浮かぶもの。ゆらりと霞のように揺れるもの。光の子と呼ばれた毛玉のようなものの他に5種類。何となくではあるが、どれがどの属性なのかは察しがついた。
 きゃらきゃら、からから、ぴっちょん、こうこう、ひゅーるるる。途端に騒がしくなる家の中、全く意に返さない兄弟はウサギの処理を始めている。それを手伝うかのように足元や頭上を飛び回る精霊を眺めて、ガロンは大人しく食器を運ぶことに専念した。
 そうして身体中に黄色いもふもふをぶら下げて歩くガロンに、ハオはまたしても吹き出したのであった。




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