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天才錬金術師と最強S級冒険者

08。癖の強い弟しかいない

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 もはやデザートどころじゃなくなったハオは、いまだ白目を剥いたまま魂をどこぞに飛ばしていた。可愛い弟が、兄に何も言わず危険な仕事してた。しかも大分ベテランっぽい。
 これにショックを受けない兄は兄を名乗るな、なんて現実逃避に考えるがそんなことをしても現実は変わらない。いや確かにA級冒険者なんて凄いことだ。その称号があれば、戦闘系の職種なら酷い怪我でもしない限り職に困ることはない。
 職としては将来性は高いし、確かにカザキは動くの好きだし狩りとかもしてたけど。熊も仕留めてたけど。しかしそれと魔物は危険度が別物だろう。

「やっぱり、構ってやれなかったから…?だから相談すらしてもらえ……うっっっ…」
「落ち着け。自分の想像で傷を負うな。そもそも、三日に一度は顔を出してた奴が構えてなかった訳がないだろう」
「…ごめんなさい。まさか、ここまで、気にするって、思わなかった」

 ショックの原因をようやく察し、カザキは申し訳なさそうにしゅんとする。カザキ側としては、兄にばかり負担をかけないよう早めに自立の手段を手に入れようと考えての行動だった。
 あまり仕事に根詰めなくていいように、一度決めたらやり通す兄に無理をさせない為に。まぁそれで心配をかけていては意味が無いということを、カザキは今覚えた。おかげで変に思い詰めさせてしまった。

 謝られ、流石にこれ以上弟の前で悩むのもアレだと感じたハオはそっと弟の頭を撫でる。人前だからか少し恥ずかしがっているのを無視し、ハオと同色の、でも少し固めな毛質の髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜた。

「…許さねぇけど、まず許す!やけにポーションの消費が早いと思ったら、そういうことかよ。てっきり、森で怪我する奴が増幅してんのかと…」
「ん、ごめんなさい。次は、ちゃんと言う」
「出来れば危ないことして欲しくねぇ~んだけどなぁ~」

 苦虫を噛み潰したような表情で、それでも撫でる手は止めずにハオはそう言った。兄なので何となく理由の察しはつくが、それでも心配なのである。何せ、たった一人の大事な弟なので。
 ハオの言葉にふと考え込んだカザキは、チラリと目の前の人物を見る。数年前に見かけた時と、先日の一件を思い出す。そして、あることを思いついた。

「……ベリゴールさん、一緒は?」
「…あ?」

 兄弟水入らずを邪魔しないように黙っていれば、突然名指しで呼ばれ思わず困惑するガロン。何がと聞く前に、カザキ語翻訳機が搭載されているハオが目を輝かせる。

「それいいな!!」
「でしょ?」
「何がだ」
「てか、だったらオレも混ざりたい!オレも一緒がいい!」
「だから何がだ」
「冒険!!」

 にぱっとそれはもういい笑顔をしながら言われたことに、しばらくガロンは理解が追いつかなかった。色々ツッコミたいことはあるし、それはともかく可愛いなとか。正直今日の午前中に色々ありすぎて、そろそろキャパオーバーを迎えようとしていた。
 冒険、一緒、ハオも混ざりたがっている。以上三点からどうにかガロンが絞り出した答えは、つまりカザキのお目付け役に任命されようとしている、という事だと判断した。
 別の国行ってみたいだとか、あそこの薬草が気になってるだとか。二人が楽しげに話している内容的にも、恐らく間違ってないのだろう。ガロン本人の意見が一切問われてないことに関してはどうかと思うが。

「オレ、いい加減有給消化しろって言われてんだよな~。だから、一回三人でちょっとした冒険しようぜ!そしたら、まぁ、カザキの実力も見れるし?ガロンがどのぐらい強くなったのかも見てみたいしさ!」
「…俺は別に構わんが…」
「よし!じゃあ決まり!いつ出発す…」
「あの局長はいいのか?弟もいるとはいえ、今朝の事を考えると簡単に許可を出してはくれなさそうだが」

 その言葉にあ、と今思い出した顔をするハオ。確かに、ガロンが来てすぐに有給使って冒険いってきまーす☆とか言えば、途端にめんどくさいことになるに違いない。帰ってくるよな!?とか、三日で帰ってこい、だとか言われるに決まってる。
 しかし、とすぐに考えを改める。そもそも有給使えと言ってるのは局長だ。それに最終的に書類が行く場所は彼の所であるが、休暇申請は別に直接トップに提出しなくても良い。なんなら事務所とかに提出して、このぐらい出かけると言えば済む話だ。
 局長に話が行く前に出発すれば何ら問題ないな、という考えに至りハオは大丈夫だろーとあっけらかんと笑う。大体、局長にそこまでハオの行動にとやかく言えるだけの理由がない。仕事辞める、とは言ってないのだ。息抜きぐらい許してくれるだろう。

「何処に行くかにもよるけど、事務所で処理出来ないようだったらネーベに許可もら」
「今姉さんの話したか?」
「名前出した瞬間に召喚されんの普通に怖いから止めて?」
「……本当、変わってないな」

 店の奥にいたはずのネーヴァが、音も気配もなくいつの間にかテーブルの横に立っていた。ギョッとするカザキとは対照的に、もはや慣れてしまっているハオとガロンは呆れた視線を彼に向ける。
 ネーヴァがシスコンを拗らせている姉というのが、お察しの通り魔法省に所属しているネーベである。ちなみに姉の方は弟に対してかなりドライであり、いい加減恋人でもつくって落ち着いて欲しいと思っていると聞いた。
 そんな日が来るとしたら大分先なんじゃねぇのかな、とはこの姉弟を知るものなら誰でも思っただろう。実際、ハオは思ったし口にも出した。ネーベは否定せず笑うだけだった。せめて否定してやれよ。
 そして姉がそんなことを言っていたとは露ほども知らないネーヴァは、今日も今日もてシスコンを拗らせていた。身近にいる弟という存在が癖強いのしかいないな、とはガロンの感想である。

 いい加減、当初の目的である買い物に行こうと店を後にする三人。最近の姉の様子を聞きたがるネーヴァは全力で無視し、カザキの用事は寮に戻ってからになるので早めに買い物を済ませてしまうことにした。
 必要なものは、ガロンが寝る為のベッドと着替えが数着。あと歯ブラシとか、コップとか。寝具などには特にこだわりがないというガロンが適当に選ぼうとするので、代わりにハオとカザキがオススメを選ぶことにした。
 ハオはベッドでまともに眠ることは出来ないが、それ故に色々試した時の知識があった。カザキは体調管理を重視するので、それに重要な休息や睡眠に関しては割とうるさい。ガロンにはこれが良い、あれが良いとわいわい相談する二人。
 近くにいた店員が微笑ましく見ているのに気づき、ガロンは何とも言えない気分になる。こうして自分の為に選んで貰えるのは嬉しいが、あまり経験がないためどうしていいのか分からなくなる。
 二人が代わる代わる自分が選んだ物がどうかと聞きに来る度、何がそこまで楽しいのだろうと思ってしまう。それでも、確かにそんな二人を眺めているのは悪くない気分だった。

 一通り買い物を済ませ寮へと戻った三人。部屋へ向かう途中で会ったネーベに弟さんが通常運転だったことを報告し、自室に帰ってきたハオはパタパタと奥にある収納スペースへ近づく。
 そこから出したのは一つの箱だった。両手で抱える程度の大きさのそれをテーブルに置いて、好きなだけ持ってっていいぞとカザキに声をかけた。
 そもそもカザキがどんな用で来たのかが分からないガロンは、素直に疑問をぶつける。

「それの中身はなんだ?」
「実験の副産物で大量生産されたポーション。売りもんに出来ないからカザキに譲ってんだ」
「何故売れない?そうでなくても、軍におろせばいいのでは?」
「いや、材料が通常のと違うからさ。体質の違いで変な効果出るかも知んないし、オレが平気だったからカザキぐらいにしか譲れねぇんだよ」
「あぁ…」

 実験の副産物で生まれたポーション。実験と言うのが、どんな怪我も治すものを作り出すというハオの目標のための実験であり、そのため色んな材料が使われている。
 副産物だから効果にバラツキがある上、通常では使わないものも混ざっているので万が一がある。なので市場には出せないし、兵士たちに寄付することも出来ない。
 かと言って破棄するにしても、回復効果は充分にあって勿体ない。ハオが試しに飲んだときは平気だったので、体質が似ているカザキぐらいにしか安心して譲れないのだ。
 初めは何かあった時の蓄えとして渡していたのだが、こうして定期的に無くなったと言って余っているものを引取りに来る。まぁ、その理由が分かったのは今日のことなのだが。

 ちなみにハオが持ってきた箱というのは、彼が作った収納魔法の付与が施されたものである。大きさに関係なく、一定量までならいくらでも物が入るという品物だ。
 マジックボックス、マジックバッグと呼ばれるそれらの開発者は局長であり、作成の難易度も材料集めも難しいので世界中を探しても数が少ない珍しいものだ。
 たまたまその材料が手に入ったハオは、弟へのバッグと自分用の不要物入れとしてしばらく前に試しで作った。そしたら成功してしまったので、これ幸いと愛用しているのである。
 それに気づいたガロンが、サラッとやらかしてるハオにため息をつく。局長以外に作れなかったものを作れる人物だとしたら、そりゃどうしても手放したくないだろう。

 別に無理やり利用されているとかではなく、本人が楽しんでやっているので構わないかと目を瞑る。もし、万が一にも本人の意志を無視して利用しようと言うのなら。

 国一つぐらいなら、どうなってもいいか。

 相棒がそんなことを考えているだなんて知りもしないハオは、お前も一回試してみるか?なんて笑ってポーションを差し出す。それを受け取って、ガロンはその栓を外した。




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