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天才錬金術師と最強S級冒険者

07。お兄ちゃんは心配性

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 時刻はお昼時。ハオとガロンは駐屯地から街へと逃げおおせ、買い物の前に昼食を取ろうと相談していた。
 せっかくなので普段行かない店にでも行ってみるかと思ったが、やはり結局いつもの店が安心だよなぁという結論に至り、ハオは昨日も行った店へと足を運ぶ。

 店主のネーヴァとはガロンも知り合いであり、今は飲食店を経営していると言えば意外そうに片眉を上げた。確かに、昔のヤンチャ時代から考えれば随分と丸くなっただろう。いい加減、彼も大人になったのだ。
 店に着けば、やはりお昼と言うこともあり席は大体埋まっていた。運良く一つ空いているとの事で、ラッキーだななんて笑いながら席に着く。その繁盛している様子にガロンがポツリと呟いた。

「姉が婚約した、という理由で暴れてた奴が経営してるとは思えない繁盛っぷりだな。確かに料理の腕は良かったが…」
「式も挙げちゃったから諦めたんだと。どうしようも無い衝動をぶつける様に料理してたらいつの間にか店建ってた、って言われた時は本気で精神を心配した」
「……頭をまともにする薬は作れないのか」
「オレの怪我を治す薬を作るより難しいな…」

 気付薬とかでいいんじゃね?とは言ったものの、気付薬程度で正気に戻せるなら苦労はしないのだ。本当にシスコンだよなーと笑うハオに、ガロンはお前も人のこと言えないだろうと呆れるしかなかった。
 料理を注文し、しばらくすれば客も減ってきた。デザートでも追加で頼むかともう一度メニューを開いていれば、忙しさが落ち着いたからか表に出てきたネーヴァがこちらに気づく。
 軽く手を振りながらゆっくり近づいてきたネーヴァは、ハオといるのがガロンだということに気づくや否や恐ろしく早い競歩でやってきた。

「おうコラ家出マン!!!テメェよくもまぁ涼しい顔でシレッと居やがるじゃあねぇか!!!いつ帰ってきやがった、この報連相皆無野郎!!!」
「さっきから喧嘩売ってるのか?買うぞ」
「自分の店だからって乱闘して言い訳じゃねぇだろ馬鹿。そういや、オレもいつ帰って来たのか気になってたんだ。丁度昨日だったのか?」
「…四日ほど前に。お前が錬金術師になってたことを知って、研究棟に突撃する日取りを練っていたら昨日お前を見かけた」
「あれ、じゃあストーカー疑惑の視線はガロンだったのか?」

 昨日、との言葉にネーヴァがそう聞き返す。そう言えば色々あって忘れていたが、ハオは昨日此処に来る途中に謎の視線を感じたのだった。
 なるほど、あの視線はガロンだったのか。一瞬そう安心するが、ふと少しの違和感を覚える。それが何かと気づく前に、ガロンが怪訝そうに口を開いた。

「何の話だ。俺は昨日ハオを見かけてすぐに捕まえたし、それより前に見かけた記憶はない」
「おおっとぉ?」

 違和感の正体はそれだった。視線を感じたのは店に行く途中。だが、ガロンと出会ったのはその帰りだ。あの視線がガロンであればその時点でハオに話しかけていただろうし、わざわざ一度見送る必要はない。
 では、あの視線は誰の?
 ゾワリと悪寒が背中を撫でる。無いとは思っていたがまさかと少し顔色を悪くしたハオに、半分ほど冗談でストーカーなどと言ったネーヴァは若干の罪悪感を抱く。

 店の一角が水を打ったように静かになったところで、カランカランと軽快なドアベルの音が響いた。半ば反射でそちらを向いた三人は、そこに立つ人物にホッと息をつくと同時に少し驚く。
 やってきたのは、目深に帽子を被り青いスカーフを巻いた少年。白銀の少し長い前髪で隠れ気味の赤目がハッキリとハオを映す。真っ直ぐに三人へと近づいてきた少年は、ガロンとネーヴァにぺこりと頭を下げた。

「…どうも、お久しぶり、です。おじゃまします」
「あ、あぁ久しぶり。ハオに用事?」
「うん。寮、行ったらいなかった、から」
「わ、るい…えーっと、よく此処に居るって分かったな?カザキ」
「教えて、もらった、から」

 たどたどしい様な、会話に慣れていないような、そんな話し方をする少年は無表情でそう答える。彼はカザキ・フォルスト。察しの通りハオの弟である。歳は結構離れており、もうすぐで17歳になるところだ。
 話してる内容が内容だったために、やってきたのがカザキで脱力する三人。状況が分からないカザキは、不思議そうに首を傾げる。

 せっかくなのでこのまま話題を変えようと、用事の内容に察しがついているハオは弟を隣に座らせる。ついでに何か奢ってやろうかと言えば、サラッと断られて少し落ち込む。最近、弟は何気につれない。
 ハオがしゅ~んとしていれば、仕方なさそうに軽食を頼むカザキ。それに嬉々として注文し始めるハオは誰がどう見てもブラコンである。ガロンはやっぱお前人のこと言えねぇよ、という言葉を心の中だけに留めておいた。

 注文を受け取ったネーヴァが奥へと行ったところで、そう言えばカザキはガロンとあまり交流がなかったことを思い出す。兵士は基本的に寮住みで、それでもハオはしょっちゅう実家に顔を出していた。だからカザキが何かあって駐屯地の方に来ることはなかったし、あっても余程の事があった時なのでそもそもガロンと交流する機会がなかった。
 何回か顔を合わせたことはあるだろうが、一応自己紹介から始めた方がいいのだろうか。そう考えたハオが口を開く前に。

「この前は、お世話に、なりました」
「…あぁ」

 そんなやり取りをする二人。しかし他には何も言わずすぐに黙るものだから、ハオはこの寡黙共め!と情報が少なすぎる会話に憤る。
 説明を求めるようにジトリと睨めば、まずカザキが説明を始めた。

「んと、この前、タチキリ山頂で、助けてもらっ、た?」
「何でそんなとこ行ったんだ!?彼処、めちゃくちゃ危険な魔物多いじゃねぇか!!」
「依頼。時期じゃないから、油断した。パライズスパイダー。ベリゴールさん、追ってたの、らしい」
「依頼…?ねぇ、兄ちゃんそんな話一切聞いてないんだけど、何?誰からの依頼だよ!!」
「落ち着けハオ。ギルドだ。お前の弟、こっそり冒険者をやっていたらしい。俺は時期外れに発生したパライズスパイダーの討伐に行ったら、ソイツが居たから話を聞いて知った」
「兄ちゃんなんも聞いてない!!!!」
「だって、言ったら、心配する」
「言われねぇ方が心配すんだよこの馬鹿弟!!!!!!!」

 兄がギャン!と嘆いているのに、気にせず運ばれてきた料理を食べ始める弟。この兄にして弟あり、と言うのがピッタリな兄弟だとガロンは思う。どちらも変なところでズレているのだ。弟のほうが幾分か酷いようだが。
 カザキがもすもすと料理を食べる一方、ハオは構ってやれなかったのが悪いのか…?とうとうカザキがグレた…としくしく悲しみに暮れていた。せめて慰める素振りぐらいはしてやれ弟。
 流石に見ていて可哀想なので、ガロンは泣いて手を付けてもらえないデザートを掬ってハオに差し出す。案外素直にそれを食べるので、何となく面白くなって続けて食べさせる。

 甘いものを食べていくらか元気になったのだろう。完食すれば気力を取り戻したのか、追加で別のデザートを頼もうとまでし始めた。
 まぁ元気になったならいいかとそれを見守っていれば、そちらも完食したらしいカザキがふとハオを見る。

「にーちゃん」
「何だ?」
「あのね、オレ、昨日A級なった」
「」

 ハオが白目を向いて机に突っ伏す。何で兄が倒れたのかが分からないカザキがキョトンとしているのを見て、ガロンはそっと片手で顔をおおった。

 復活しかけたところに追い討ちをかけんじゃねぇ!!と。




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