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天才錬金術師と最強S級冒険者

06。元相棒VS元後輩②

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 イグアスタ王国軍駐屯地にある兵士の訓練場は、丁度新兵たちが休憩に入ったところでにわかに騒がしくなった。原因は、睨み合いながらドタバタと訓練場へ駆け込んできた二人の人物。
 方や、先程二ヶ月の遠征から帰ってきたエスパーダ師団の師団長。そしてもう片方が、最近入ったばかりの新兵たちには見覚えのない、古株やバストーニ師団に憧れて入ってきた者達には知った顔の人物だった。

「がっ、ガロンーー!?!?!?」
「マジだ!!!あの不良、ようやく帰ってきたぞ!!!」
「うわーーーー!!!!!アレクだ!!!!こんな近くで本物見たの初めて!!!!!」
「えっ!?単騎任務中のアレク!?あの人が!?」
「バストーニ師団の有名人じゃん!!帰ってきてたのか?」
「てか何でダビデと一緒なんだ?しかもめっちゃ仲悪そう…」
「なぁ、今来たのって錬金術師のハオだよな?何であの二人と知り合いなんだ?」
「お前知らねぇの?彼奴、転職した気になってるけど実は出来てない現アージだせ?」
「うっそぉ!?!?怪我で療養中の!?あの人、剣だけじゃなくて錬金術まで出来んの!?」
「なんだハオー!!ようやく転職出来てないって気づいたのかーー!!!!」
「うるせーーー!!!知ってたんならはよ教えろや!!!!!」

 まるでお祭り騒ぎになってしまったところに、遅れてやってきたハオにまで飛び火をして更に騒ぎが大きくなる。現役時代から居る兵士たちにからかい交じりの声をかけられ、ハオはそちらに中指を立てて叫ぶ。
 この三年間、彼らと一度も会話をしなかった訳では無い。むしろ会えば立ち話ぐらいしたし、飲み会にもシレッと参加したりしてた。
 だと言うのに退職処理がされてないことを知らなかったのは、彼らが一概に箝口令を敷いていたからである。本人にまで敷いてんじゃねぇと叫んだハオは悪くない。
 だがしかし、今はそれどころじゃない。のんびりと会話をしている暇なぞないのだ。何故ならガロンとアベルは周りの喧騒すら耳に入らず、訓練場には思ったよりも人がいたから。
 クルリと人差し指を回したハオの瞳に水色が混じる。彼を中心に微かに空気が揺れる。

「訓練場にいる兵士に告ぐ!!只今より、バストーニ師団アレクとエスパーダ師団ダビデによる試合を開始する!!ルールは一本勝負、使用武器は訓練用木剣のみ、魔法の使用は無し!!

 他は死にたくなけりゃ今すぐ距離取れ!!!では、試合開始!!!」

 訓練場どころか駐屯地中に響き渡るハオの声。その言葉に古株の兵士は顔を真っ青にし、新兵はキョトンとしたところを他の兵士たちに抱えられる。
 ハオは既に充分な距離を取っており、その場に居た他全員がその場から離れるべく一歩を踏み出し、

 突然の強い衝撃に数メートルほど吹っ飛ばされた。

 何があったかと言えば、開始の声と同時にガロンとアベルの木剣がぶつかり合ったのだ。ただ、それだけ。
 アベルは勿論だが、ガロンも意外に真面目である。周りの話は何も聞いていない二人だが、ルールの部分はきちんと聞いていた。何せ決闘試合なので。
 なので、彼らは魔法は使っていない。それなのにあの衝撃なのかと、昔を知っている兵士は三年で進化した彼らに冷や汗を流す。確実に、木剣以外にも魔法じゃない何かがぶつかっただろう。オーラとか覇気とかそういうの。

 充分な距離まで避難した兵士たちは、その試合に圧倒されていた。ハオの声や騒ぎを聞いて集まってきた者も同様である。
 二人はまだ、撃ち合った体勢から動いていない。それでもそのプレッシャーは凄く、両者共にその時を今か今かと待つ捕食者のそれだ。背後に睨み合うドラゴンが二匹見えた、とは後ほど新兵の一人が発した言葉である。
 均衡し合う力がジリジリと、しかし確実に場を動かしていた。シン…と静まり返った訓練場に、ジャリ、と地が擦れる音がやけに大きく響いた。

 瞬間、またしても発生する衝撃。同時に聞こえるのはカンッ!という木剣がぶつかる音だ。今度は両者どちらも止まることはなかった。
 攻撃を仕掛けているのはアベルの方だった。目が追いつかない程の素早い連撃を打ち込んでいるが、ガロンはそれに全て対応し難なく弾いている。それがしばらく続いた。

 攻撃を弾いているのは凄いがあまり反撃をしないガロンに、兵士の誰かが受けれるだけかと呟く。それを訓練に再参加していたレイジが聞いてしまい、反論しようと口を開く。
 が、その言葉は突風によりかき消された。思わず腕で顔を庇ったレイジが目を開いた時に見たものは、先程の兵士がアベルの下敷きになっている姿だった。振り返れば、離れたところでガロンが剣を軽く払っていた。
 聞こえていたのか、偶然か。それでもすっげぇー!とガロンの株が上がるレイジ。いつの間にか近くに来ていたハオは、呟いた兵士を引きずってどこかへと連れていった。

 その間、すぐさま起き上がったアベルが一直線にガロンへと突っ込む。構え的に上からの攻撃かと思えば、手前で踏み込み横へと飛んだ。正面に対応しようとしていたガロンは一瞬の隙を見せる。そこを狙って打ち込もうとするが、即座に地面に剣を突き刺したガロンがそれを軸に回し蹴りを繰り出した。
 予想外の行動に咄嗟のガードが出来ず、それでもどうにか身を捻ってそれを躱すアベル。素早く体制を立て直そうとするが、そんな大きな隙をガロンが見逃す訳がなかった。
 木剣を地面に刺したまま、素手で追撃し始めたのである。次々と繰り出される拳と蹴りに、アベルは木剣でガードをするが段々と間に合わなくなっていく。一か八か、と蹴りを受け止めると同時に上へと弾く。流石に体勢を崩したガロンへ剣を振り下ろした。

 しかし、それをガロンは片腕で受け止めた。その行動にアベルは目を見開く。木剣だから打撲、最悪骨折で済むだろう。だが、これが真剣だったらどうする?鎧があるならともかく、ないのなら刃は確実に骨まで届く。どうやっても腕を一本失う。彼は腕に篭手を付けていない。ならば何故。
 そもそも、何故彼は剣を手放した?

「…お綺麗な坊ちゃんの剣は、冒険者には通用しない。俺はそう、教わった。そう叩き込まれた」
「……何?」
「いくら魔物を相手にするエスパーダでも、所詮は型にハマった剣術か。腕一本と心臓。守るべきはどっちか、分からない訳じゃないだろう」
「っ!!」
「これに動揺するようじゃ、俺には勝てないぞ後輩」

 その言葉と同時に、剣が蹴り飛ばされた。真上に飛んだ剣に気を取られてしまえば、襟ぐりを捕まれ地面へと投げつけられる。咄嗟に頭を庇うが、背中への衝撃で息が詰まる。
 ケホリと息を吐き出しながら見上げれば、先程蹴り飛ばされた剣を丁度キャッチしたガロンが見えた。彼はそのまま剣を振りかぶり─

「─そこまで!!試合しゅーりょー!!」

 鋭い、かと思えば間延びしたような呑気な声と同時に土壁が生まれ、ガロンとアベルを分断した。声と土壁の出処は、いつの間にやら側まで来ていたハオである。その瞳には緑が混じっていた。
 振り上げていた剣を下ろしたガロンを見やり、パンパンと手を叩くと土壁がズズズ…と音をたてながら地面へと沈む。何事もなかったかのように真っ平らになった地面に、土で汚れたアベルが立ち上がりながら苦笑する。

「…相変わらず、魔法の才能も凄いようで。流石、『何で魔法師団じゃないのこの人ランキング』殿堂入り者だな」
「うん、ありがとうそのランキング何??オレ初耳なんだけど???」
「おい審判。どっちが勝ちだ?」
「あーはいはい、待ってな……今回の試合、勝者はバストーニ師団アレクのガロン!!何か一言お願いしまーす」
「軍辞める」
「うーん、一言!!ちなみに引き継ぎ終わるまで辞められないから、頑張って引き継ぎ終わらせような!って総帥からの伝言です」
「チッ」

 今度は水色を滲ませたハオがインタビューを始めれば、出てきた言葉に兵士たちがどよめく。まさかの引退試合だったの?と多くの新兵が首を傾げているが、古株達はいつもの喧嘩だと分かっていたし、多分頑張って終わらせても辞められないんだろうなぁと遠い目をしていた。
 何せ、これだけの戦いを見せてくれたのである。戦力的にも、籍だけでも置いといて!と総帥が仏頂面で泣きつく様子は簡単に想像できた。そっと心の中でエールを送る。勿論ガロンに。

 数分後、わちゃわちゃと集まってくる新兵にタジタジになるガロン。そりゃそうだろうなぁ、とそれを微笑ましく眺めるハオは、自分も同じ状況なことの現実逃避をしているだけだった。
 三年も姿を見せなかったアレクと、時々見かけてはいたがまさかお前が…!?という状態のアージ。三年ぶりにバストーニ師団トップの二人が揃っているのだ。知らない新兵達からしたら物珍しいし、バストーニ師団のもの達はようやく会えたという感動が爆発している。
 質問責めに、キラキラとした視線責めである。憧れてくれるのは素直に嬉しいし、若い後輩たちは確かに可愛い。が、居心地が良いか悪いかで言えば後者な訳で。

 お昼の鐘がなりガロンの腹の虫が鳴くまで、しばらく二人は新兵の群れから逃げることは出来なかった。

────────

「…そっか……いないんだ。わかった」
「いつ帰って来るか分からないし、何処に行ったかも正確には分からないから…伝言でも預かっておきましょうか?」
「ううん、大丈夫。自分で、探して、みる」
「そう?気をつけてね」
「おねーさん、ありがと」

 魔法省の研究棟入口にある受付には、ネーベととある少年がいた。誰かを呼び出そうとしていたが受付に誰も居らず困っていた彼に、たまたま通りかかったネーベが話を聞いていたのである。
 聞いた話に知っていることを話せば、そうお礼を言って立ち去る真っ赤な瞳の少年。その白銀の髪・・・・に帽子を被せて、少年は何も無いところで片手をスイと動かす。

 ふわりと、風が舞った。




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