天才錬金術師は、最強S級冒険者の元相棒

時暮雪

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天才錬金術師と最強S級冒険者

03。言い合いじゃなくて交渉しろ

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 朝の7時、研究棟の来客用応接室にて。向かい合って座っている局長とガロンの会話の横で、対面に座ったネーベの笑顔にひたすら遠い目をしているハオがいた。
 何この状況。彼氏連れてきた娘と両親か???んなわけねぇだろ。脳内で自分にツッコミを入れるが、どうしてもそんな状況にしか思えないのは局長のせいだろう。
 確かにハオは、ガロンに出会う前からクリス局長には多少お世話になっていた。だとしてもなんでここまで過保護なんだと思ったが、もしや三年前の事件が原因じゃねぇだろうなと眉を顰める。
 変に気を使われる方が嫌なハオにとって、治らない怪我に同情されるのは心底不愉快なのだ。本人が気にしてないものに関しては余計に。
 静かに嫌味を言っている局長の方を見て、話している途中であるが思わず口を挟んでしまう。流石にそれはないよなぁ、と思いながら。

「─だから許可は」
「なーあ、局長ー?」
「でき…ん?何だ、ハオ。今諸々をお断りしてるところなんだが」
「なんでそんなに過保護みてぇなの?この怪我のことでも気にしてんの?」

 言いながら自身の隠している方の顔を指せば、あからさまに「んなわけねぇだろ」って書かれてるような顔をされた。じゃあ何だってんだ。
 局長の考えが分からずつい隣を見やれば、ストンと表情を落としたガロンがいた。そこでむしろ彼にダメージが行っていたことに気づく。この怪我について一番責任を感じている人物が隣にいた。
 ハオがしまったと思うもの既に遅く、弁明するより先にガロンが口を開く。

「…俺には、任せられないと。そういう事か?」
「えっ………そうだ!!」
「嘘つけ!!今完全に、なるほどその理由があったか!って顔しただろ!!ガロン、別に気にしなくて…」
「あの時とは違う。冒険者としてS級にまでなった。無論、ここで止まるつもりも無い。これ以上文句があると言うのなら、無理やりにでも攫っていく」
「ガロンさん???聞いてる????」
「やっぱりな!!!!本性出しやがって、この不良!!!みすみす攫わせる訳ねーだろ!!!!」
「いや、アンタがここまで拒否しなけりゃ攫うだ何だって話は出なかったと思うんだが??」

 またしても言い合いを始めた二人にため息をつくハオ。ネーベに助けを求めようにも、彼女はただひたすらニコニコしていて仲裁はしてくれそうにもない。何があんなに嬉しいのだろう。
 まだ起床から一時間も経ってないと言うのにかなり疲れた。しかも、起きるつもりのなかった6時に起こされたのだ。もう寝直したい気持ちでいっぱいである。
 何もかもが面倒になってきたハオは、面倒くさい筆頭の局長の意見は全無視して進めていいのでは?とさえ思ってきた。
 そしてその考えを見抜いたのか、最初から予測していたのか。タイミングよくネーベが一枚の紙を差し出してきた。言い合いに夢中な局長は気づいていない。

 内容を確認すれば、研究員寮の入寮届けであった。思わず目の前の人物を見れば、それはそれは良い笑顔でサムズアップされた。彼女は昨日から一体どうしたのだろうか。
 まぁいいか、と入寮届けを記入していく。分からないところは無視していいだろうし、そもそもガロンなら簡単に身分証明は出来る。あと、冒険者なら冒険者カードを見せれば一発だし。
 大まかに欄を埋めてネーベに渡す。サッと目を通したと思えば、何故か局長の判子を取り出し勝手に押した。オマケに消失させられないようにか、魔法でコーティングまでし始めた。彼女は昨日からry(二回目)
 というか、なんで局長の判子持ってるんだ…?

「ほら、局長。一応確認してください」
「は?何を……何をしてるんだ君は???」

 困惑全開で局長が入寮届けを凝視する。魔法で守られていることにもすぐ気づき、信じられないという面持ちでネーベを見た。対する彼女は何食わぬ顔である。
 そんな局長を無視し、ハオはガロンと肩を組む。無事に許可は下りた下ろさせた事だし、何かしら入り用な物を買いに行かねばならない。

「ガーロン!なんか必要なもん買いに行こうぜ。オレの部屋にお前が使えるようなもん何もねぇからさ」
「…あぁ、分かった」
「まて!まさか同室か!?」
「?当たり前だろ。そもそも基本的に二人部屋なのを、オレが作った物が危ないからって理由で一人部屋だったわけで…ガロンなら大丈夫だしな!」

 一人部屋の理由が本当に失礼なことであるが、それで助かっていたのも事実なので文句はない。一人部屋だったからこそガロンをこっちに招き入れることにしたのだし。これで同室の奴がいたら、ハオは引っ越して通いにするつもりであった。

「ね、寝る場所はどうする!?お前の部屋にベッドなんかないだろう!?」
「買えばいいし、ベッドぐらいあるわ!!!」
「普通のソファはベッドじゃないんだよ!!!」
「お前、まだベッドじゃ眠れないのか」
「うるせー!!!」

 まだ諦めない局長に暴露された事実に、元同僚で同室だったガロンに呆れたような視線を向けられハオは叫ぶ。
 ハオは何故か、ベッドで眠ることが出来ない。厳密に言えば出来るのだが、寝つきが悪すぎるのだ。居心地に納得が出来ないというか、微妙に寝づらいというか。
 マットレスを変えても、シーツを変えてもダメだった。それでもソファだと安眠できるため、ハオにとってのベッドはソファなのである。ベッドに変形したりしない、普通の座るためのソファである。
 むすくれるハオを仕方なさそうに見るガロン。拗ねてないで買い物に行こうと言えば、いまだ苦虫を噛み潰したような表情の局長が待ったをかける。まだ何かあるのかと二人揃って振り向けば、深いため息を一つ付かれた。

「…もう、分かった。別にハオをどこかへ連れ出すとか、冒険者にさせようとか、そういうのじゃないんだろう?分かったから、買い物に行くついでに一つ頼まれ事をされてくれ」
「え~?散々めんどくさいこと言っといて、なんか押し付けるつもりかよ」
「人聞きが悪いな!配達だ、配達!ポーションを兵士の駐屯地の方に届けてくれ。どうせ出るんだ、ついでに顔でも見せてこい。特にそこの不良はな」
「…不良じゃない」
「あー、はいはいどうどう。無理やりにでも連れてくから、そろそろ行くな!」
「あぁ。いってらっしゃい」
「いってらっしゃい。二人で街散策、楽しんで来てね」

 そう言う二人にヒラリと手を振って、配達予定のポーションを持って研究棟を出る。力がある奴がいると運ぶのが楽だなぁなんて考えながら、ポーションの入った箱を二つ持っているガロンを見る。
 簡単な怪我なら治してしまうポーションが沢山入った箱は、いくら一つが小さな瓶でもかなりの重さになっている。微妙に入り切らなかったらしい十数個のポーションが入ったカバンだけをハオに持たせ、ほとんどを持ってくれた彼は目つきは悪いが優しい人である。
 やはり行くのを渋っている様子のガロンの服を引きながら、ハオはここから差程遠くもない駐屯地へと足を進めた。

 朝の訓練中らしい兵士たちを横目に、ほとんど顔パスで駐屯地へ入った二人。ポーションを持っていく場所は医務室であり、足りない薬はないかを聞くのも配達の仕事である。
 一応ノックをしつつ、ハオは返事を待たずに医務室の扉を開ける。開けた先には、目立つオレンジの頭があった。

「お?あれっ、ハオじゃーん!!ひっさしぶり!!何だ、配達か?」
「お邪魔しましたー」
「まーて待て待て、こらこら」

 パタリと扉を閉めようとするも、先にドアノブを掴まれてしまい不可能となる。仕方なく開ければ、カラリと太陽のような笑顔をした男が立っていた。
 彼の名前はレイジ。孤児で家名を持たないという彼は、とある兵士に憧れて入隊したらしい新米兵士だ。まだ18歳と若い。
 ハオは以前、王国軍の新人育成訓練の欠員補助として手伝いを頼まれたことがある。その時に同じ新兵と間違われてから、見かければ会話をする程度には関わりを持つようになった人物だ。
 それでも底抜けに明るい彼の言動は時たま疲れるものがあり、可愛いだとしても状況によって会いたくない時もある。まさか、健康優良児の塊みたいな奴と医務室でエンカウントするとは思っていなかった。
 何故医務室にいるかを問えば、訓練中に足を挫いたらしい。午後は街のパトロールがあるらしく、影響を出さないために診てもらいに来たのだと。

「でも、今日の当番の人まだ来てないみたいでさ。あ、もしかしてハオ?それとも後ろの人?」
「あー…オレじゃねぇな。そもそも部署が違う。まぁ、寮の方で色々あったから遅れてんだろう。ついでだ、オレが診てやるよ。あと後ろの奴は手伝いだ」
「マジで、サンキュー!なるほどお手伝いさんか!よろしくー!」

 溢れる陽のオーラに、苦手なタイプだとガロンが目を逸らす。そそくさと部屋の隅にポーションを置いて、一定の距離を保ちつつ医務室を観察する振りをすることにしたようだ。
 それに苦笑しながら、椅子に座ったレイジの足首を確認する。酷い捻り方はしてないようで、歩き方にも気をつけたのか悪化もしていない。
 この程度なら、とハオは患部に手を当てる。じわりとそのピーチピンクの瞳に緑が混じる。が、レイジが俯いているハオの瞳の変化に気づくことはない。
 それは5秒にも満たずに終わる。顔をあげた時には何事もなかったかのように瞳は元通りで、キョトリと自身の足を見るレイジは不思議そうに首を傾げる。

「あれ、痛くない?」
「ほんとに些細だったから治してやったよ。まぁでも、軽いからって無理に走ったりしなくて正解だったな。何がヤバい怪我に繋がるか分かったもんじゃないから」
「おおー!!サンキュー!!朝の訓練にまだ参加できるぜ!!」
「調子乗ってまた挫くなよ」
「おう!」

 ピョンピョンと跳ねて足を確認するレイジを呆れたように見て、ハオはそろそろ行くかとガロンを呼ぶ。あぁ、と返事をしたガロンを連れて医務室を出ようとするが、その前にレイジの様子がおかしいことに気づく。
 驚いたように目を見開き、ガロンをじっと凝視しているのだ。その様子に怪訝そうにするガロンの横でハオはあ、と声を漏らす。その顔には、やっちまったという文字がでかでかと書かれていた。
 それに気づいたガロンが口を開くよりも先に。

「ガロンってまさか…市民の英雄!!市民の味方!!イグアスタ王国軍バストーニ師団アレクの、ガロン・ベリゴール師団長!?!?うっひゃあああーーーー!!!!!」

 レイジの素っ頓狂な叫び声が、駐屯地へと響き渡った。




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