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×××─夜が更ける。
濡れた空とバイク乗り。
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つい先程まで快晴だったにも関わらず、今は凄い土砂降りだった。雨により地面がよく見えない程である。いくらゴーグルをしていても、当たる雨粒で視界は最悪だ。
オマケに防水加工のされている革製の飛行帽ですら水分を大量に吸い、そのせいで非常に頭が重い。
そんな土砂降りの中、一つのバイクが走っていた。乗っているのは、白と黒のトラックジャケットに身を包んだ男。その顔は飛行帽とゴーグルにより確認は出来ない。唯一見えるのは、雨に濡れて顔に張り付く白に近い金の髪のみだろう。
男は何処かで雨宿りをしたいのだが、如何せん現在地は障害物の少ない見通しの良い草原だった。ポツポツと生えている木は細いため、到底雨宿りは出来そうにない。
数センチ先が霞んで見えない道を、スリップしないよう気を付けながら走る。帽子に当たる雨の音が酷く煩い。
ふ、と。特に何かが見えた訳ではないが、視線が左方向へと流れた。今の視界は酷いものだから、何かが見えることなどないと思っていた男は、何故か正面から外れてしまった視線に驚き停止する。
視線が奪われた方向に目を凝らせば、霞む視界の中にぼんやりと大きなものが見えた。それは一つの建物だった。雨でよく見えないが確かに建物。つまり、屋根がある。
男は既に、濡れて気持ち悪いのと寒いのとで酷く憔悴していた。数時間ぶっ通しで走っていたことも原因だろう。つまり、彼はそこがどんな建物なのか分からないまま、『とりあえずあそこで雨宿りが出来そうだ』と動かない頭で結論を出し、バイクを方向転換させた。
先程よりも心なしかスピードの出ているバイクは、程無くしてその建物へと到着した。実は結構距離があったのだが、そんなことよりも早く屋根のある場所で休みたいという欲求が強すぎたがため、男がそれに気付くことはなかった。
よく考えれば、雨で数センチ先も見えないと言うのに、いくら大きくてもこの距離の建物が見えたのが可笑しいことに気付けただろう。しかし、現在の男は疲れと寒さで思考が鈍っていた。
その為、本能が出す警告にも気がつかなかったのだった。
きっと金持ちが住んでいたのであろうと思われる屋敷。大きなその屋敷は、霞む視界により全貌が見えない。
そこが屋敷だと気付けたのは、ボロボロで意味を成していない鉄製の門と、蝶番が壊れているのか片方が開きっぱなしなっていた木製の扉の奥を見てからだった。
扉の奥、つまり屋敷の玄関には何もない。目の前には二階へと上がるための階段があり、そこには赤いカーペットが道のように敷かれていた。
踊場に上がってすぐ目の前に大きな絵があるのが見えるが、明らかに廃墟であるこの家に絵が残っている違和感に男は少し首を傾げた。
『まぁ大した価値もなく、大きさ的に持ち出すのが面倒だったのだろう』と結論付けた男は、廃墟だからと遠慮なくバイクごと中にお邪魔する。
中は暗くてよく見えないが、暗闇に慣れた目はうっすらと屋敷の内部を写す。元は沢山のものがあったのであろうここは、今はもう人の生活を感じさせないほど閑散としていた。
流石にこれだけ大きな屋敷だと、玄関から行ける扉は多い。自分の目的とする部屋は何処だろうと、適当に目星をつけて扉を開ける。
見事にビンゴ。今日の男は運が良かったらしい。恐らく談話室だと思われるその部屋には、数人が囲んで座れるテーブルと布を被せられたソファがいくつかあった。少し視線をずらせば、お目当てのものに目が留まる。
男が探していたもの、それは暖炉だった。これだけ大きな屋敷なら、何処かの部屋に必ずあると踏んだのだが、一発目で見つけられるとは運がいい。
少し気分が良くなった男は、バイクを押したまま部屋へと入る。滴り落ちる雨水が赤いカーペットを濡らして道を作った。
暖炉から少し離れた所にバイクを停め、暖炉の中を確認する。幸い湿気とかもなさそうで、燃やす物さえあれば問題なく使えるだろう。
しかし、ここで男は重大なことに気が付く。そう、"火種はあるが燃やせる物がない"と言うことに。
バイクは部屋に置いたまま、男は屋敷を探索することにした。別にソファに掛かっていた布を燃やしてもいいのだが、紙や木を燃やした方が暖かい気がする、と言う理由で燃やすものを探すことにしたのだ。
飛行帽とゴーグルは外してテーブルの上に置いた男は、しかし右目が隠れるように顔に張り付く濡れた髪を掻き上げることはしなかった。髪のかかっていない冬の青空のような左目が、疲れたように揺らぐ。
着ていた上着は申し訳程度に絞って水分を落とした。が、それでも濡れたものは寒い。早いところ火を用意して体を暖めなければ風邪を引くだろう。
足早に他の部屋を見て回る。応接室、食堂、キッチン、洗面所、脱衣所、浴室。目ぼしい物は無いなと元来た道を戻ろうとする男は、一度通りすぎた脱衣所で足を止める。
何か、何かが先程と違った気がしたのだ。特に何も気にせず素通りしたため、勘違いかもしれないとは思ったものの、しかし確実に何かが違っていた気がした。
ゆっくりと部屋全体を見渡す。違和感の正体を見つけるべく、一つ一つ確認していく。
そして、浴室に繋がる扉のすぐ横にある棚に目をやる。
あった。違和感。
先程通った時には無かったはずの、綺麗に畳まれた真っ白なタオルが一枚。
手を伸ばせば、それはしっかりと触れられた。ふんわりと心地の良い感触が返ってくる。手に取ってみれば、汚れもなくふわふわの新品だと分かる。鼻を近づけても臭いはなく、むしろ何故かアップルパイの匂いがした。本当に何故だ。
美味しそうな匂いに胃が空腹を訴えようとするが、どうにか意識をそらしてタオルに顔を埋める。特に問題が無さそうなら、ありがたく使ってしまおう。濡れていて気持ち悪いし寒いのだ。
男は、良くも悪くも順応が早かった。
ふっかふかのタオルを被り少々寒さがましになったところで、男は一階の他の部屋も見て回る。しかし、何処にも焚き木代わりになるものは見つからない。
ボロボロになった本が一冊でもあればと思っていたのだが、一階の部屋はほとんどが客の接待等が主な役割なのかも知れない。
何かあるとすればあとはもう二階しかないだろうが、正直残された家具に掛かっている布で妥協したい気持ちが出てきた。しかし、ここで謎の意地が出てくるのがこの男。
ここまで探したのなら二階も探索し、その上で燃やせる物を見つけてやろうと階段へ足を向ける。
この時点で、気分がハイになっていることに男は気付かない。雨に濡れたままバイクで走ったことにより、既に風邪を引き発熱していることを自覚していなかった。
自棄糞とも見える足取りで階段を上る男は、踊場で正面に見える大きな絵の前で立ち止まる。
その絵は、塗りつぶされているように真っ黒だった。暗い為正確な色は分からないが、とにかく男には全てが黒に見えた。
数秒、その絵をじっと見つめる。特に意味があったわけではない。
踊場から続く階段は左右で別れている。別にどちらから行こうと、回る順番が変わるだけなのだが。ここは、知り合いから教えてもらった東にある国の方法を使ってみようと男は思い立つ。
そう、所謂『神頼り』だ。指を左右に動かし、教えてもらった言葉を呟く。
ど、ち、ら、に、し、よ、う、か、な。
か、み、さ、ま、の、い、う、と、お、り…
静かな屋敷には、そよ風にすら消されて仕舞いそうな音量でも、しっかりと男の声は響いた。
り、で止まった指は右側の階段を指していた。神が決めたから、と信じてもいない神に従い右側……ではなく、勿論男はひねくれている為、信じていないものに反抗するがごとく左側の階段を上る。
下りる時は右を使ってやろう、と謎の上から目線で考えながら。
──男の背後でじわりと、踊り場に影が落ちた。
結論から言うと、二階は酷いものだった。
一階よりも家具が残されている部屋が多く、それだけならまだいい。しかし、私物がそのまま残されているのか、物が多すぎて入れない部屋がいくつかあった。
中でも軽く引いたのは、家主に娘でもいたのか大量の人形が置かれている部屋である。部屋の中に入るには入れそうだったが普通に恐怖が勝ち、開けて秒で閉めた。即刻部屋の前から立ち去る男は、もふもふのタオルでどうにか平常心を保とうと必死だった。
神の意に反したからか、ようやく使えそうな物を見つけたのは、先程の踊場から右側の階段を上ってすぐの部屋だった。思わず頬を引き攣らせた男は、ある意味自業自得である。
そこはどうやら執務室のような場所だったらしく、古い本や白紙の束が沢山あった。何とはなしに近くにあった本を開いて見れば、ほとんどの文字が掠れていて読むことは出来ない。ページも酷く変色しており、触れればパリパリと砕けてしまいそうだった。
本を数冊と白紙の束を持ち部屋を後にする。先程使わなかった階段で下へおり、談話室へと戻った。
暖炉に持ってきた紙の半分を放り投げ、バイクの後部につけていた鞄からマッチを取り出す。随分前に木製のマッチを湿気でダメにしたことで購入したオイルマッチは、いまだ男のお気に入りである。
ヂッと摩擦で発火したマッチを暖炉の中に置いた本に近づけ、火がついたのを確認して鎮火する。紙束で仰いだり投げ入れたりして炎の勢いが増したところで、上着を干すための準備に取り掛かる。
まぁ準備といっても、バイクを寄せて乾かす物を引っかけるだけなのだが。
パチパチと燃える紙が爆ぜる。いくらふわふわのタオルを肩に掛けていても、既に冷えきってしまった体は火に当たったところで中々暖まらない。
一人掛けのソファを引っ張り暖炉に近づけ、結局それに掛かっていた布も暖炉に入れる。火の勢いが強くなった気がした。
疲れからとろりと重くなる瞼。火がはぜる音をBGMに、男は抵抗することなく目を瞑った。
オマケに防水加工のされている革製の飛行帽ですら水分を大量に吸い、そのせいで非常に頭が重い。
そんな土砂降りの中、一つのバイクが走っていた。乗っているのは、白と黒のトラックジャケットに身を包んだ男。その顔は飛行帽とゴーグルにより確認は出来ない。唯一見えるのは、雨に濡れて顔に張り付く白に近い金の髪のみだろう。
男は何処かで雨宿りをしたいのだが、如何せん現在地は障害物の少ない見通しの良い草原だった。ポツポツと生えている木は細いため、到底雨宿りは出来そうにない。
数センチ先が霞んで見えない道を、スリップしないよう気を付けながら走る。帽子に当たる雨の音が酷く煩い。
ふ、と。特に何かが見えた訳ではないが、視線が左方向へと流れた。今の視界は酷いものだから、何かが見えることなどないと思っていた男は、何故か正面から外れてしまった視線に驚き停止する。
視線が奪われた方向に目を凝らせば、霞む視界の中にぼんやりと大きなものが見えた。それは一つの建物だった。雨でよく見えないが確かに建物。つまり、屋根がある。
男は既に、濡れて気持ち悪いのと寒いのとで酷く憔悴していた。数時間ぶっ通しで走っていたことも原因だろう。つまり、彼はそこがどんな建物なのか分からないまま、『とりあえずあそこで雨宿りが出来そうだ』と動かない頭で結論を出し、バイクを方向転換させた。
先程よりも心なしかスピードの出ているバイクは、程無くしてその建物へと到着した。実は結構距離があったのだが、そんなことよりも早く屋根のある場所で休みたいという欲求が強すぎたがため、男がそれに気付くことはなかった。
よく考えれば、雨で数センチ先も見えないと言うのに、いくら大きくてもこの距離の建物が見えたのが可笑しいことに気付けただろう。しかし、現在の男は疲れと寒さで思考が鈍っていた。
その為、本能が出す警告にも気がつかなかったのだった。
きっと金持ちが住んでいたのであろうと思われる屋敷。大きなその屋敷は、霞む視界により全貌が見えない。
そこが屋敷だと気付けたのは、ボロボロで意味を成していない鉄製の門と、蝶番が壊れているのか片方が開きっぱなしなっていた木製の扉の奥を見てからだった。
扉の奥、つまり屋敷の玄関には何もない。目の前には二階へと上がるための階段があり、そこには赤いカーペットが道のように敷かれていた。
踊場に上がってすぐ目の前に大きな絵があるのが見えるが、明らかに廃墟であるこの家に絵が残っている違和感に男は少し首を傾げた。
『まぁ大した価値もなく、大きさ的に持ち出すのが面倒だったのだろう』と結論付けた男は、廃墟だからと遠慮なくバイクごと中にお邪魔する。
中は暗くてよく見えないが、暗闇に慣れた目はうっすらと屋敷の内部を写す。元は沢山のものがあったのであろうここは、今はもう人の生活を感じさせないほど閑散としていた。
流石にこれだけ大きな屋敷だと、玄関から行ける扉は多い。自分の目的とする部屋は何処だろうと、適当に目星をつけて扉を開ける。
見事にビンゴ。今日の男は運が良かったらしい。恐らく談話室だと思われるその部屋には、数人が囲んで座れるテーブルと布を被せられたソファがいくつかあった。少し視線をずらせば、お目当てのものに目が留まる。
男が探していたもの、それは暖炉だった。これだけ大きな屋敷なら、何処かの部屋に必ずあると踏んだのだが、一発目で見つけられるとは運がいい。
少し気分が良くなった男は、バイクを押したまま部屋へと入る。滴り落ちる雨水が赤いカーペットを濡らして道を作った。
暖炉から少し離れた所にバイクを停め、暖炉の中を確認する。幸い湿気とかもなさそうで、燃やす物さえあれば問題なく使えるだろう。
しかし、ここで男は重大なことに気が付く。そう、"火種はあるが燃やせる物がない"と言うことに。
バイクは部屋に置いたまま、男は屋敷を探索することにした。別にソファに掛かっていた布を燃やしてもいいのだが、紙や木を燃やした方が暖かい気がする、と言う理由で燃やすものを探すことにしたのだ。
飛行帽とゴーグルは外してテーブルの上に置いた男は、しかし右目が隠れるように顔に張り付く濡れた髪を掻き上げることはしなかった。髪のかかっていない冬の青空のような左目が、疲れたように揺らぐ。
着ていた上着は申し訳程度に絞って水分を落とした。が、それでも濡れたものは寒い。早いところ火を用意して体を暖めなければ風邪を引くだろう。
足早に他の部屋を見て回る。応接室、食堂、キッチン、洗面所、脱衣所、浴室。目ぼしい物は無いなと元来た道を戻ろうとする男は、一度通りすぎた脱衣所で足を止める。
何か、何かが先程と違った気がしたのだ。特に何も気にせず素通りしたため、勘違いかもしれないとは思ったものの、しかし確実に何かが違っていた気がした。
ゆっくりと部屋全体を見渡す。違和感の正体を見つけるべく、一つ一つ確認していく。
そして、浴室に繋がる扉のすぐ横にある棚に目をやる。
あった。違和感。
先程通った時には無かったはずの、綺麗に畳まれた真っ白なタオルが一枚。
手を伸ばせば、それはしっかりと触れられた。ふんわりと心地の良い感触が返ってくる。手に取ってみれば、汚れもなくふわふわの新品だと分かる。鼻を近づけても臭いはなく、むしろ何故かアップルパイの匂いがした。本当に何故だ。
美味しそうな匂いに胃が空腹を訴えようとするが、どうにか意識をそらしてタオルに顔を埋める。特に問題が無さそうなら、ありがたく使ってしまおう。濡れていて気持ち悪いし寒いのだ。
男は、良くも悪くも順応が早かった。
ふっかふかのタオルを被り少々寒さがましになったところで、男は一階の他の部屋も見て回る。しかし、何処にも焚き木代わりになるものは見つからない。
ボロボロになった本が一冊でもあればと思っていたのだが、一階の部屋はほとんどが客の接待等が主な役割なのかも知れない。
何かあるとすればあとはもう二階しかないだろうが、正直残された家具に掛かっている布で妥協したい気持ちが出てきた。しかし、ここで謎の意地が出てくるのがこの男。
ここまで探したのなら二階も探索し、その上で燃やせる物を見つけてやろうと階段へ足を向ける。
この時点で、気分がハイになっていることに男は気付かない。雨に濡れたままバイクで走ったことにより、既に風邪を引き発熱していることを自覚していなかった。
自棄糞とも見える足取りで階段を上る男は、踊場で正面に見える大きな絵の前で立ち止まる。
その絵は、塗りつぶされているように真っ黒だった。暗い為正確な色は分からないが、とにかく男には全てが黒に見えた。
数秒、その絵をじっと見つめる。特に意味があったわけではない。
踊場から続く階段は左右で別れている。別にどちらから行こうと、回る順番が変わるだけなのだが。ここは、知り合いから教えてもらった東にある国の方法を使ってみようと男は思い立つ。
そう、所謂『神頼り』だ。指を左右に動かし、教えてもらった言葉を呟く。
ど、ち、ら、に、し、よ、う、か、な。
か、み、さ、ま、の、い、う、と、お、り…
静かな屋敷には、そよ風にすら消されて仕舞いそうな音量でも、しっかりと男の声は響いた。
り、で止まった指は右側の階段を指していた。神が決めたから、と信じてもいない神に従い右側……ではなく、勿論男はひねくれている為、信じていないものに反抗するがごとく左側の階段を上る。
下りる時は右を使ってやろう、と謎の上から目線で考えながら。
──男の背後でじわりと、踊り場に影が落ちた。
結論から言うと、二階は酷いものだった。
一階よりも家具が残されている部屋が多く、それだけならまだいい。しかし、私物がそのまま残されているのか、物が多すぎて入れない部屋がいくつかあった。
中でも軽く引いたのは、家主に娘でもいたのか大量の人形が置かれている部屋である。部屋の中に入るには入れそうだったが普通に恐怖が勝ち、開けて秒で閉めた。即刻部屋の前から立ち去る男は、もふもふのタオルでどうにか平常心を保とうと必死だった。
神の意に反したからか、ようやく使えそうな物を見つけたのは、先程の踊場から右側の階段を上ってすぐの部屋だった。思わず頬を引き攣らせた男は、ある意味自業自得である。
そこはどうやら執務室のような場所だったらしく、古い本や白紙の束が沢山あった。何とはなしに近くにあった本を開いて見れば、ほとんどの文字が掠れていて読むことは出来ない。ページも酷く変色しており、触れればパリパリと砕けてしまいそうだった。
本を数冊と白紙の束を持ち部屋を後にする。先程使わなかった階段で下へおり、談話室へと戻った。
暖炉に持ってきた紙の半分を放り投げ、バイクの後部につけていた鞄からマッチを取り出す。随分前に木製のマッチを湿気でダメにしたことで購入したオイルマッチは、いまだ男のお気に入りである。
ヂッと摩擦で発火したマッチを暖炉の中に置いた本に近づけ、火がついたのを確認して鎮火する。紙束で仰いだり投げ入れたりして炎の勢いが増したところで、上着を干すための準備に取り掛かる。
まぁ準備といっても、バイクを寄せて乾かす物を引っかけるだけなのだが。
パチパチと燃える紙が爆ぜる。いくらふわふわのタオルを肩に掛けていても、既に冷えきってしまった体は火に当たったところで中々暖まらない。
一人掛けのソファを引っ張り暖炉に近づけ、結局それに掛かっていた布も暖炉に入れる。火の勢いが強くなった気がした。
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