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アルベールハッピーエンド あなたと生きる道
9 まさかの
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最後にどんでん返しです
***
『遠視の魔法』で見守っていると、『解毒魔法』の効果で「麻酔草」の成分が無効化したらしく、やがてアルベールがゆっくりと瞼を開け、その金色の瞳を顕にした。
『ヴィー……』
頭の中に展開されている『遠視』の絵の中では、アルベールが起き抜けにヴィクトリアを呼んでいて、彼の声が脳内に響いた。
上体を起こしたアルベールは、警戒するように馬車の中を見回した後、近くにあった自分の服を引っ掴んだ。
『ヴィー!』
アルベールは服をざっと着込むと、ヴィクトリアを呼びながら慌てた様子で馬車の外へ飛び出した。
アルベールは身なりに気を使う人なので、服を整えずに胸元なども間けたまま外へ出ることは、かなり珍しいことだった。
『ヴィー! どこだ! ヴィー! ヴィー!』
いつも余裕ぶった振る舞いをすること多いアルベールだったが、今や彼は顔面蒼白で、必死な様子でヴィクトリアを探し続けていた。
たぶんヴィクトリアが転移魔法で馬車付近から離れたために、アルベールは嗅覚でも行方が追えず、激しい不安に苛まれているようだった。
『ヴィー……っ! ヴィィー……っ!』
そのうちにアルベールが泣き出してしまった。号泣しながらヴィクトリアを探し回るアルベールの姿は、愛を求めて彷徨う小さな子供のようだった。
ヴィクトリアはそんなアルベールを見ていられなくて、『遠視の魔法』を解いた。
ヴィクトリアはアルベールには何も告げずに去るつもりだった。
番を失うことでアルベールに苦しい思いはさせてしまうのだろうが、それでも構わないと思うくらい、ヴィクトリアはアルベールのことが許せなかった。
(マグに相談して番関係を無効化できれば、きっとアルも苦しみから解放されるはずよ……
そんな魔法がなかったとしたら、私もアルも、鼻を焼くしかないけれど――――)
「ヴィィィィーーーーッ!!」
転移魔法を発動させる直前、山の向こうからヴィクトリアの愛称を絶叫するアルベールの声が聞こえてきたが、ヴィクトリアは彼を振り切るようにその場から去った。
ヴィクトリアが転移魔法で移動した先は、ロータスとマグノリアの家のリビングだった。ヴィクトリアは膨大な魔力量を保持していたために、一度の転移で戻ることができた。
家にはまだ誰も帰ってきていない様子で、とても静かだった。
本当はすぐにでもマグノリアを探して相談したかったが、最後に聞いたアルベールの悲痛な声が耳から離れず、何も考えたくなくて、ヴィクトリアはとにかく休もうと、覚束ない足取りでリビングを出た。
やって来たのはこの家の寝室だった。マグノリアの魔法が切れたままだったらしく、朝と同じように夫婦生活の残り香が凄かったので、ヴィクトリアは魔法でそれらの匂いを消した。
ヴィクトリアはついでに、アルベールの匂いが強く残る自分の身体にも、『匂い替えの魔法』をかけて彼に抱かれた痕跡を隠してから、塞ぐ気分のままにふて寝した。
「……ィー…… ヴィー……」
男性に名前を呼ばれている。無意識に金色を思い浮かべながら、ヴィクトリアは目を覚ました。
寝台のそばにいてヴィクトリアを呼んでいたのはロータスだった。ロータスには魔法がかかっていて、黒髪黒目の「ロイ」の姿になっていた。
ヴィクトリアは半日前まで、黒髪の男性を見ると切なさを感じていたが、今はもう何も感じない。
ロータスの肩には、おそらくマグノリアが札で作り出したのだろう、白い鳥が止まっていた。
「ヴィー……」
ロータスはヴィクトリアを呼びながら、すごく心配そうな視線をこちらに向けている。
『ヴィー』
ロータスの声に続いてマグノリアの精神感応の声も聞こえてきた。
ヴィクトリアは寝起きのぼーっとした頭で、『今の声はマグの精神感応の声で……』などと考えていたが、続けて発せられたマグノリアの精神感応の言葉に、驚きすぎて一瞬で眠気が吹っ飛んだ。
『ヴィー、あなた…… 妊娠してるわよ』
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『遠視の魔法』で見守っていると、『解毒魔法』の効果で「麻酔草」の成分が無効化したらしく、やがてアルベールがゆっくりと瞼を開け、その金色の瞳を顕にした。
『ヴィー……』
頭の中に展開されている『遠視』の絵の中では、アルベールが起き抜けにヴィクトリアを呼んでいて、彼の声が脳内に響いた。
上体を起こしたアルベールは、警戒するように馬車の中を見回した後、近くにあった自分の服を引っ掴んだ。
『ヴィー!』
アルベールは服をざっと着込むと、ヴィクトリアを呼びながら慌てた様子で馬車の外へ飛び出した。
アルベールは身なりに気を使う人なので、服を整えずに胸元なども間けたまま外へ出ることは、かなり珍しいことだった。
『ヴィー! どこだ! ヴィー! ヴィー!』
いつも余裕ぶった振る舞いをすること多いアルベールだったが、今や彼は顔面蒼白で、必死な様子でヴィクトリアを探し続けていた。
たぶんヴィクトリアが転移魔法で馬車付近から離れたために、アルベールは嗅覚でも行方が追えず、激しい不安に苛まれているようだった。
『ヴィー……っ! ヴィィー……っ!』
そのうちにアルベールが泣き出してしまった。号泣しながらヴィクトリアを探し回るアルベールの姿は、愛を求めて彷徨う小さな子供のようだった。
ヴィクトリアはそんなアルベールを見ていられなくて、『遠視の魔法』を解いた。
ヴィクトリアはアルベールには何も告げずに去るつもりだった。
番を失うことでアルベールに苦しい思いはさせてしまうのだろうが、それでも構わないと思うくらい、ヴィクトリアはアルベールのことが許せなかった。
(マグに相談して番関係を無効化できれば、きっとアルも苦しみから解放されるはずよ……
そんな魔法がなかったとしたら、私もアルも、鼻を焼くしかないけれど――――)
「ヴィィィィーーーーッ!!」
転移魔法を発動させる直前、山の向こうからヴィクトリアの愛称を絶叫するアルベールの声が聞こえてきたが、ヴィクトリアは彼を振り切るようにその場から去った。
ヴィクトリアが転移魔法で移動した先は、ロータスとマグノリアの家のリビングだった。ヴィクトリアは膨大な魔力量を保持していたために、一度の転移で戻ることができた。
家にはまだ誰も帰ってきていない様子で、とても静かだった。
本当はすぐにでもマグノリアを探して相談したかったが、最後に聞いたアルベールの悲痛な声が耳から離れず、何も考えたくなくて、ヴィクトリアはとにかく休もうと、覚束ない足取りでリビングを出た。
やって来たのはこの家の寝室だった。マグノリアの魔法が切れたままだったらしく、朝と同じように夫婦生活の残り香が凄かったので、ヴィクトリアは魔法でそれらの匂いを消した。
ヴィクトリアはついでに、アルベールの匂いが強く残る自分の身体にも、『匂い替えの魔法』をかけて彼に抱かれた痕跡を隠してから、塞ぐ気分のままにふて寝した。
「……ィー…… ヴィー……」
男性に名前を呼ばれている。無意識に金色を思い浮かべながら、ヴィクトリアは目を覚ました。
寝台のそばにいてヴィクトリアを呼んでいたのはロータスだった。ロータスには魔法がかかっていて、黒髪黒目の「ロイ」の姿になっていた。
ヴィクトリアは半日前まで、黒髪の男性を見ると切なさを感じていたが、今はもう何も感じない。
ロータスの肩には、おそらくマグノリアが札で作り出したのだろう、白い鳥が止まっていた。
「ヴィー……」
ロータスはヴィクトリアを呼びながら、すごく心配そうな視線をこちらに向けている。
『ヴィー』
ロータスの声に続いてマグノリアの精神感応の声も聞こえてきた。
ヴィクトリアは寝起きのぼーっとした頭で、『今の声はマグの精神感応の声で……』などと考えていたが、続けて発せられたマグノリアの精神感応の言葉に、驚きすぎて一瞬で眠気が吹っ飛んだ。
『ヴィー、あなた…… 妊娠してるわよ』
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