獣人姫は逃げまくる~箱入りな魔性獣人姫は初恋の人と初彼と幼馴染と義父に手籠めにされかかって逃げたけどそのうちの一人と番になりました~ R18

鈴田在可

文字の大きさ
上 下
189 / 220
アルベールハッピーエンド あなたと生きる道

3 不気味な扉 1(ヴィクトリア視点→オニキス視点)

しおりを挟む
 アルベールを抱えて走るヴィクトリアの背中に、炎の刃が迫った。

「!」

 ヴィクトリアがハッとして振り返った時には、既に炎が眼前まで来ていた。

 それはレインが戦線離脱したことに気付いたアークによる火魔法攻撃だった。

 ヴィクトリアは咄嗟に氷魔法で壁を作ったが、灼熱の炎の一部は壁が出来上がる前にそこを通過してしまった。

 ヴィクトリアは一瞬肝が冷えたが、炎がヴィクトリアたちの身体を焼くことはなく、解毒剤と治癒魔法の効果で命の危機を脱したアルベールが、逆にヴィクトリアの身体を抱きしめて、間一髪の所で炎を避けさせていた。

 ヴィクトリアはすぐに氷の壁を自分たちの周囲に量産して炎を防いだが、氷壁の外側はアークの魔法で火の海になってしまい、ヴィクトリアたちは一歩も動けなくなってしまった。

 氷壁が炎で溶けないように補強しつつも、追い詰められたと感じたヴィクトリアは、再び転移魔法の発動を試みたが、やはり魔法は発動しなかった。

 魔法使いに覚醒したばかりのヴィクトリアは、『転移魔法封じの魔法』をアークに使われていることに気付けない。

 ヴィクトリアは、やり方が間違っているか自分には転移魔法の才能がないと思い込み、転移魔法を使う選択肢を頭の中から消してしまった。

 ヴィクトリアは危機感を募らせたが、しかし、炎はいきなり何の前触れもなく、一瞬にして全て消え去った。

 ヴィクトリアたちが妙な技で攻撃されていると気付いたオニキスが、それまでの戦いで炎を操っていると見当をつけていたアークの元に高速で移動し、またしても指一本だけの攻撃によってアークを気絶させたため、彼の火魔法は消えた。

 同時に、身体能力を高められていた銃騎士たちも、アークが気絶したことで『身体強化の魔法』の効果が切れて、その場に昏倒して動かなくなる。

「ヴィー! 行こう!」

 ひとまず命の危機は脱したとホッとしたヴィクトリアは、氷壁を破壊して走り出したアルベールに手を引かれるがまま、彼と共に処刑場広場の外へ出た。





******





 オニキスは、ヴィクトリアとアルベールの二人が手を繋いで処刑場広場の向こう側へ行ったことを確認した後に、シドの首を奪取した。

 シドの身体も持ち帰ろうと周囲に目を走らせたオニキスは、ふと、シドの娘ナディアの亡骸をただ延々と抱きしめ続けていた白金髪の美しすぎる男が、ここにきて初めて動きを見せたことに気付いた。

 彼は泣くのを止め、ナディアを腕に抱えた状態で立ち上がっていた。

 オニキスは銃騎士たちと戦いながら、嘆き悲しんでいるその男の様子から、彼にとってナディアは大切な存在なのだろうと察し、彼女の遺体を里へ持ち帰るのはやめにしようと思っていた。

 ところが現在、ただ空の一点をじっと見つめているその美貌の男の双眸には、絶望に染まりきっていたはずの色とは真逆の、何かをやり遂げようとする強い意志の光が見えて、それまでの悲嘆に暮れていた様子から一転しすぎていて、違和感を覚えた。

 男が何をするつもりなのか、意識の片隅で気になりつつも、オニキスはシドの身体も取り返すために動いていた。しかし突然、対峙していたはずの銃騎士たちも含めて、周囲にどよめきが広がるのを受けたオニキスは、彼らが一様に見ている先に視線を走らせた。

「何だあれは!」

 銃騎士たちの驚いたような声が聞こえたが、それはオニキスの心の声でもあった。

 空の上、ちょうどナディアを抱える男が見つめているあたりに、一目で人外だとわかる縦長の虹彩を持った大きな目玉と、無数の骸骨が取り付けられた、不気味すぎる巨大な扉が出現していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

私と運命の番との物語

星屑
恋愛
サーフィリア・ルナ・アイラックは前世の記憶を思い出した。だが、彼女が転生したのは乙女ゲームの悪役令嬢だった。しかもその悪役令嬢、ヒロインがどのルートを選んでも邪竜に殺されるという、破滅エンドしかない。 ーなんで死ぬ運命しかないの⁉︎どうしてタイプでも好きでもない王太子と婚約しなくてはならないの⁉︎誰か私の破滅エンドを打ち破るくらいの運命の人はいないの⁉︎ー 破滅エンドを回避し、永遠の愛を手に入れる。 前世では恋をしたことがなく、物語のような永遠の愛に憧れていた。 そんな彼女と恋をした人はまさかの……⁉︎ そんな2人がイチャイチャラブラブする物語。 *「私と運命の番との物語」の改稿版です。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

処理中です...