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リュージュハッピーエンド 私の王子様
12 幸せな日々 ✤
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医療棟を退院したヴィクトリアは、幼い頃に母と暮らしていた思い出の家で、リュージュとの新しい生活を始めた。
ヴィクトリアの体調は波があり、以前と遜色なく動ける時もあれば、リュージュと初めて結ばれた日ほどではないにしても、身体が怠く動けなくて臥せってしまう時もあった。
そんなヴィクトリアをリュージュはとても心配していて、ヴィクトリアが移動する時は必ず抱えて移動するし、仕事をしている間も常にヴィクトリアを自分のすぐそばに置いた。
ヴィクトリアは最愛のリュージュとずっと一緒にいられることを嬉しく思いながらも、自分ばかりがリュージュに負担をかけているように感じて、最初の頃は申し訳なく思っていた。
お荷物のような自分ではなくて、リュージュはひょっとしたら、自分以外の別の女性と番になっていた方が幸せだったのではないか、と思ったこともあった。
「俺はヴィクトリアが生きていてくれるだけでいいんだ。俺は幸せだよ」
落ち込むヴィクトリアを見かねて、リュージュがそんなことを言ってくれたことがあった。
人の心を読むのが苦手だったリュージュが、ヴィクトリアの気持ちを正確に気付いていたことに驚くと共に、生きていてほしいと、どんな状態でもヴィクトリアを認めて愛してくれるリュージュは、やはり自分を救ってくれる唯一無二の得難い存在なのだと、ヴィクトリアは改めて思った。
その時からヴィクトリアは、もしこの先自分がもっと深刻な状態になったとしても、リュージュと共にいられることこそが一番の幸せであり、生きている限りはずっと幸福なのだと思うようになった。
それからは、自然とあまり後ろ向きなことは考えないようになった。
「姉様、先生やってみない?」
ある時、ヴィクトリアは里に帰ってきていたナディアにそんな話を持ちかけられた。
あの「死」を覆し、処刑場から生還したナディアは、ゼウスと共に里に帰還していた。
ナディアが選んだのは、魔法使いシリウスではなくて、元銃騎士のゼウスだった。
ゼウスはナディアと生きるために、銃騎士であることを捨てて、この獣人の里で生涯を過ごすことにしたそうだ。
里に帰ってきたナディアは、新族長オニキスに掛け合って、この里に新しく学校を作ることを提案していた。
折良く里と近隣のキャンベル伯爵家との和平協定の交渉が成されていた最中だったらしく、なぜか同じタイミングでキャンベル家から「学校を作るなら支援する」という提案があったそうで、あれよあれよという間に、ナディアは学校創設の総責任者に任命されていた。
ただ、人間社会の制度を持ち込むと人間寄りの思想統制に繋がるとか、里の働き手になる年齢までには終えるようにした方がいいのでは、などの意見が里の内部から噴出し、学校と言っても初歩的なものを教える程度になりそう、とのことだった。
ナディアはもっと学校制度を浸透させたがっていたが、まだ壁も多く思ったようにはいかないそうで、「長期計画で頑張る」とは言っていた。
ヴィクトリアはそれまで、「病弱だから仕事ができない」ということになっていて、日がな一日リュージュに守られてばかりいる現状で良いのかなと思っていたので、ナディアの誘いには乗り気だった。
「俺は心配だ」
ところが最初リュージュは、ヴィクトリアが教師になって、自分から離れる時間が増えることに難色を示していた。
「でもリュージュ、私、アレをするようになってから、体調がすこぶる良いのよ」
ヴィクトリアは、ポッと恥ずかしそうに頬を染めながらそう答えた。
アレとはつまり、リュージュの精を、溢れてしまう下からではなくて、上から摂取してみたらとてつもなく健康になった、というかなり下世話な話だった。
その方法は、ヴィクトリアたちに会いに時々里までやって来るマグノリアから伝授された。
マグノリアは、ヴィクトリアがリュージュの元に帰ってきて気絶した後、鳥の姿でリュージュの前に現れたそうだが、その後も何度か里を訪れていた。
リュージュは、マグノリアと共に来たロータスと五年ぶりの再会を果たしたが、リュージュが再会時に、ロータスを昔のように「兄ちゃん」ではなくて「兄貴」と呼びかけたことに、ロータスはなぜか衝撃を受けていた。
ロータスは、「リュージュが! リュージュが! 昔みたいに可愛く『兄ちゃん♡』って呼んでくれないーっ!」と泣き崩れていた。
リュージュはリュージュで「俺だって成長するし、そんな子供の時みたいに甘えた感じで呼べるかよ」と言っていたが、ロータスがあまりにも泣くので、リュージュは最終的には「兄ちゃん」呼びに戻していた。
ヴィクトリアは、そのマグノリアから教えられた秘伝の方法をほぼ毎日するようになってから、ちょっとくらいの魔法なら使っても身体にさほど影響が出ないことに気付いた。
ただし、リュージュには「魔法絶対禁止」と言われていて、使ったことがバレてしまうとリュージュに即自宅に連れ込まれてベットインになってしまって、気絶するまで絶倫を叩きつけられた結果、目が覚めると既に翌日で外が白み始めていた、なんてことにもなったりする。
ヴィクトリアは秘技を使うことで体調に左右されずに日常生活を送れるようになっていたが、それでもリュージュは心配していた。
けれど最終的にはヴィクトリアを信じてくれて、「ヴィクトリアに付き添える時は俺も同行する」「体調が悪い時は絶対に無理しない」ということで認めてくれた。
そうして、ヴィクトリアは「国語」の先生になることが決まった。
「ナディア、すごく生き生きしてるわね」
リュージュと並んで木陰に座っているヴィクトリアの視線の先では、仕入れてきた黒板と、机に座る生徒たちの前で教鞭を執る、ナディアの姿があった。
学舎になる建物はまだ建設中のため、現在青空教室の真っ最中だった。
教室がある森に近い草原の一部では、日除けと雨除けのために突貫工事で屋根だけ作られている。
生徒は子供だけかと思いきや、仕事で計算や文字が必要だが、まだ良くわかっていない、という獣人の大人たちもいて、なかなかの大盛況である。
「学校の先生になるのが夢だったそうだから」
ヴィクトリアの声に答えたのは、リュージュの隣にいるゼウスだ。
ヴィクトリアの中では、ゼウスはナディアを銃で撃った過激な人、という印象だったが、話をしてみるとなかなかの好青年だった。リュージュとも仲が良いようで、二人は出会うなりすぐに友達になっていた。
ゼウスはナディアを真似てヴィクトリアを「姉様」と呼んでくるが、それは遠く離れた場所に住み、頻繁には会えなくなってしまったゼウスの姉アテナと、ヴィクトリアの雰囲気が似ている、ということも理由の一つらしい。
あの処刑場でナディアが助かった後、改変した過去では、ヴィクトリアがゼウスに魔法攻撃を仕掛けて殺しかける流れにはなっていない。
レインがヴィクトリアの心臓を刺したことも、レインの記憶からは消えているのではないか、というのは、『真眼』持ちのために過去改変前も後も両方の出来事を把握しているマグノリアの談だ。
ナディアが死亡したことがヴィクトリアの魔法の力覚醒のきっかけではあるが、改変後は「ナディアが撃たれた衝撃でヴィクトリアが覚醒したが、その後ゼウスに攻撃まではせずに、ヴィクトリアはいきなり処刑場から消えた」ということになっていて、禁断魔法の影響力により、状況に強制的に辻褄が合うような流れになっているようだった。
「ヴィクトリアせんせいー」
ナディアの「算数」の授業が終わると次はヴィクトリアの番だ。子供たちが何人かヴィクトリアの所まで駆けて来る。
ヴィクトリアは子供たちに手を引かれて、笑顔で教室に向かった。
黒板の前に立つと、生徒たちがいる後方で、変わらずにこちらを見つめて微笑んでくれるリュージュがいた。
リュージュがそこにいてくれるだけで、身体の中から高揚感と共に力が湧いてくるような、温かくも愛おしい感覚によって全身が満たされていく。
自分はなんて幸せなのだろうと思う。
教師の仕事も、やってみるとやりがいを感じることが多くて、子供たちも可愛いし、毎日が充実しているように感じられて、この仕事に誘ってくれたナディアに感謝だった。
ヴィクトリアは苦しかった過去を変えることができて、大切な人たちに囲まれて――――
何より、最愛の人からの深い愛情を常に感じられる、幸せな日々を過ごした。
ヴィクトリアはリュージュと共に在れる幸せを噛み締めながら、本日も楽しそうに教壇に立つ。
【リュージュハッピーエンド 了】
***
お読みくださりありがとうございました。
あとがきと補足を近況ボードに載せています。
ヴィクトリアの体調は波があり、以前と遜色なく動ける時もあれば、リュージュと初めて結ばれた日ほどではないにしても、身体が怠く動けなくて臥せってしまう時もあった。
そんなヴィクトリアをリュージュはとても心配していて、ヴィクトリアが移動する時は必ず抱えて移動するし、仕事をしている間も常にヴィクトリアを自分のすぐそばに置いた。
ヴィクトリアは最愛のリュージュとずっと一緒にいられることを嬉しく思いながらも、自分ばかりがリュージュに負担をかけているように感じて、最初の頃は申し訳なく思っていた。
お荷物のような自分ではなくて、リュージュはひょっとしたら、自分以外の別の女性と番になっていた方が幸せだったのではないか、と思ったこともあった。
「俺はヴィクトリアが生きていてくれるだけでいいんだ。俺は幸せだよ」
落ち込むヴィクトリアを見かねて、リュージュがそんなことを言ってくれたことがあった。
人の心を読むのが苦手だったリュージュが、ヴィクトリアの気持ちを正確に気付いていたことに驚くと共に、生きていてほしいと、どんな状態でもヴィクトリアを認めて愛してくれるリュージュは、やはり自分を救ってくれる唯一無二の得難い存在なのだと、ヴィクトリアは改めて思った。
その時からヴィクトリアは、もしこの先自分がもっと深刻な状態になったとしても、リュージュと共にいられることこそが一番の幸せであり、生きている限りはずっと幸福なのだと思うようになった。
それからは、自然とあまり後ろ向きなことは考えないようになった。
「姉様、先生やってみない?」
ある時、ヴィクトリアは里に帰ってきていたナディアにそんな話を持ちかけられた。
あの「死」を覆し、処刑場から生還したナディアは、ゼウスと共に里に帰還していた。
ナディアが選んだのは、魔法使いシリウスではなくて、元銃騎士のゼウスだった。
ゼウスはナディアと生きるために、銃騎士であることを捨てて、この獣人の里で生涯を過ごすことにしたそうだ。
里に帰ってきたナディアは、新族長オニキスに掛け合って、この里に新しく学校を作ることを提案していた。
折良く里と近隣のキャンベル伯爵家との和平協定の交渉が成されていた最中だったらしく、なぜか同じタイミングでキャンベル家から「学校を作るなら支援する」という提案があったそうで、あれよあれよという間に、ナディアは学校創設の総責任者に任命されていた。
ただ、人間社会の制度を持ち込むと人間寄りの思想統制に繋がるとか、里の働き手になる年齢までには終えるようにした方がいいのでは、などの意見が里の内部から噴出し、学校と言っても初歩的なものを教える程度になりそう、とのことだった。
ナディアはもっと学校制度を浸透させたがっていたが、まだ壁も多く思ったようにはいかないそうで、「長期計画で頑張る」とは言っていた。
ヴィクトリアはそれまで、「病弱だから仕事ができない」ということになっていて、日がな一日リュージュに守られてばかりいる現状で良いのかなと思っていたので、ナディアの誘いには乗り気だった。
「俺は心配だ」
ところが最初リュージュは、ヴィクトリアが教師になって、自分から離れる時間が増えることに難色を示していた。
「でもリュージュ、私、アレをするようになってから、体調がすこぶる良いのよ」
ヴィクトリアは、ポッと恥ずかしそうに頬を染めながらそう答えた。
アレとはつまり、リュージュの精を、溢れてしまう下からではなくて、上から摂取してみたらとてつもなく健康になった、というかなり下世話な話だった。
その方法は、ヴィクトリアたちに会いに時々里までやって来るマグノリアから伝授された。
マグノリアは、ヴィクトリアがリュージュの元に帰ってきて気絶した後、鳥の姿でリュージュの前に現れたそうだが、その後も何度か里を訪れていた。
リュージュは、マグノリアと共に来たロータスと五年ぶりの再会を果たしたが、リュージュが再会時に、ロータスを昔のように「兄ちゃん」ではなくて「兄貴」と呼びかけたことに、ロータスはなぜか衝撃を受けていた。
ロータスは、「リュージュが! リュージュが! 昔みたいに可愛く『兄ちゃん♡』って呼んでくれないーっ!」と泣き崩れていた。
リュージュはリュージュで「俺だって成長するし、そんな子供の時みたいに甘えた感じで呼べるかよ」と言っていたが、ロータスがあまりにも泣くので、リュージュは最終的には「兄ちゃん」呼びに戻していた。
ヴィクトリアは、そのマグノリアから教えられた秘伝の方法をほぼ毎日するようになってから、ちょっとくらいの魔法なら使っても身体にさほど影響が出ないことに気付いた。
ただし、リュージュには「魔法絶対禁止」と言われていて、使ったことがバレてしまうとリュージュに即自宅に連れ込まれてベットインになってしまって、気絶するまで絶倫を叩きつけられた結果、目が覚めると既に翌日で外が白み始めていた、なんてことにもなったりする。
ヴィクトリアは秘技を使うことで体調に左右されずに日常生活を送れるようになっていたが、それでもリュージュは心配していた。
けれど最終的にはヴィクトリアを信じてくれて、「ヴィクトリアに付き添える時は俺も同行する」「体調が悪い時は絶対に無理しない」ということで認めてくれた。
そうして、ヴィクトリアは「国語」の先生になることが決まった。
「ナディア、すごく生き生きしてるわね」
リュージュと並んで木陰に座っているヴィクトリアの視線の先では、仕入れてきた黒板と、机に座る生徒たちの前で教鞭を執る、ナディアの姿があった。
学舎になる建物はまだ建設中のため、現在青空教室の真っ最中だった。
教室がある森に近い草原の一部では、日除けと雨除けのために突貫工事で屋根だけ作られている。
生徒は子供だけかと思いきや、仕事で計算や文字が必要だが、まだ良くわかっていない、という獣人の大人たちもいて、なかなかの大盛況である。
「学校の先生になるのが夢だったそうだから」
ヴィクトリアの声に答えたのは、リュージュの隣にいるゼウスだ。
ヴィクトリアの中では、ゼウスはナディアを銃で撃った過激な人、という印象だったが、話をしてみるとなかなかの好青年だった。リュージュとも仲が良いようで、二人は出会うなりすぐに友達になっていた。
ゼウスはナディアを真似てヴィクトリアを「姉様」と呼んでくるが、それは遠く離れた場所に住み、頻繁には会えなくなってしまったゼウスの姉アテナと、ヴィクトリアの雰囲気が似ている、ということも理由の一つらしい。
あの処刑場でナディアが助かった後、改変した過去では、ヴィクトリアがゼウスに魔法攻撃を仕掛けて殺しかける流れにはなっていない。
レインがヴィクトリアの心臓を刺したことも、レインの記憶からは消えているのではないか、というのは、『真眼』持ちのために過去改変前も後も両方の出来事を把握しているマグノリアの談だ。
ナディアが死亡したことがヴィクトリアの魔法の力覚醒のきっかけではあるが、改変後は「ナディアが撃たれた衝撃でヴィクトリアが覚醒したが、その後ゼウスに攻撃まではせずに、ヴィクトリアはいきなり処刑場から消えた」ということになっていて、禁断魔法の影響力により、状況に強制的に辻褄が合うような流れになっているようだった。
「ヴィクトリアせんせいー」
ナディアの「算数」の授業が終わると次はヴィクトリアの番だ。子供たちが何人かヴィクトリアの所まで駆けて来る。
ヴィクトリアは子供たちに手を引かれて、笑顔で教室に向かった。
黒板の前に立つと、生徒たちがいる後方で、変わらずにこちらを見つめて微笑んでくれるリュージュがいた。
リュージュがそこにいてくれるだけで、身体の中から高揚感と共に力が湧いてくるような、温かくも愛おしい感覚によって全身が満たされていく。
自分はなんて幸せなのだろうと思う。
教師の仕事も、やってみるとやりがいを感じることが多くて、子供たちも可愛いし、毎日が充実しているように感じられて、この仕事に誘ってくれたナディアに感謝だった。
ヴィクトリアは苦しかった過去を変えることができて、大切な人たちに囲まれて――――
何より、最愛の人からの深い愛情を常に感じられる、幸せな日々を過ごした。
ヴィクトリアはリュージュと共に在れる幸せを噛み締めながら、本日も楽しそうに教壇に立つ。
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