獣人姫は逃げまくる~箱入りな魔性獣人姫は初恋の人と初彼と幼馴染と義父に手籠めにされかかって逃げたけどそのうちの一人と番になりました~ R18

鈴田在可

文字の大きさ
上 下
181 / 220
リュージュハッピーエンド 私の王子様

7 子作りは計画的に ✤(リュージュ視点)

しおりを挟む
 室内に響くのは、リュージュがヴィクトリアに深く接吻し、舌で口内を弄っているために漏れ出る粘膜の音と、休憩のためにリュージュが唇を離した時の、少し荒い二人の呼吸音だけだった。

 室内には、こちらを向いたま置物のように微動だにしない行儀の良い白い鳥がいるだけで、マグノリアの声は聞こえずにその匂いも近くにないので、彼女がどこにいるのかはわからない。

 リュージュは自分がマグノリアの声の幻聴を聞いたのだろうかという気になっていたが、不思議な声に導かれた結果だとしても、リュージュに死の直前に口付けを交わすなんて発想はなかったので、愛する女性の存在を確かめて幸せを感じられるこの時に感謝した。

 リュージュは溢れる自分の涙を拭い、改めて目の前のヴィクトリアを見た。すると、青白かったその頬に僅かながら赤みが戻っていることに気が付いた。

『良い感じよ。でももう少しヴィーにたくさん唾液を送り込んで飲ませるつもりで、頑張ってみて』

 再び聞こえた声に、やっぱりいたのか? とリュージュは扉の閉まった室内やカーテンの掛かった窓のあたりを見回してみたが、白い鳥と目が合っただけだった。

「……マグノリア、どこにいるんだ?」

『私はここよ』

 頭に響く声と共に、白い鳥が片側の翼を広げてバサバサと軽く合図する。

「と、鳥がしゃべってたのかぁぁぁっ! っていうか、マグノリアは鳥になってしまったのかっ!?」

 リュージュは目の前で怪奇現象が起っていると思い、驚いて声を荒げた。

『正確には私が魔法で作り出して操っている鳥よ。私自身は今別の場所にいるわ。

 だけどこっちもこっちで色々あって、すぐにはそちらに行けそうにないの。この鳥を飛ばして魔法で私の声だけ届けてるのよ』

 魔法や魔法使いについては二日前にヴィクトリアと会話をしたばかりだったので、リュージュはマグノリアの言葉をすんなり信じた。

「じゃあ…… マグノリアは魔法使いだったのか…………」

『そうよ。今まで伝えられなくてごめんなさいね』

 ヴィクトリアの状態が少し落ち着いたと見たのか、マグノリアはリュージュに、彼が知らないこれまでのことを掻い摘んで説明してくれた。

「つまり、過去に戻る禁断魔法を使ったせいでヴィクトリアはこうなっていて、誰かと肌を合わせることで魔力が満ちれば、助かるってことか」

『ええ。理解が早くて助かるわ。キスを百回もしてないのにここまで回復できたのなら、上手くやればこの先あまり後遺症を感じることなく生活できるかもしれない。

 リュージュ、ヴィーの『番の呪い』はもう完全に解けているわ。

 ヴィーは他でもなく、あなたに会いたい一心でここまで戻ってきたのよ。相手になるのはあなたしかいないわ』

 リュージュは言葉の途中から服を脱ぎだした。

「マグノリア、悪いけど席を外してくれないか」

 マグノリアは僅かに沈黙した後、魔法でリュージュの頭の上に、粉薬が包まれた小袋をぽとりと一つ落とした。

 リュージュは服を脱ぐ手を止めて、落とされた粉薬を手に取る。

『避妊薬よ。一応これも飲ませておいて。今日ヴィーは排卵日みたいだけど、身体がどの程度回復できるかは未知数だし、今妊娠しちゃうと身体が辛くなりそうだからね。

 子供については二人であとからゆっくり考えなさいな』

『真眼』の持ち主であるマグノリアは、本日がヴィクトリアの排卵日であることを見抜いていた。

『……もしかしたら本番まではしなくても、上手くやれば意識を取り戻して、ヴィーは命の危機から脱出できるかもしれないわ。

 獣人にとって番になる「儀式」は特別なものだから、意識のないうちに番になってしまったと知ったら、後からヴィーが悲しむかもしれない……

 でも、状態が急変してすぐにでも番になることが必要な場合も有り得そうだし、そこら辺はリュージュに任せるわ。どうかヴィーを大切にして、幸せになってね』

 そう言い残してから、マグノリアの声を届けていた鳥は札状の紙に変化し、その札も魔力が尽きたとばかりに、端から塵となって消えてしまった。










 リュージュは水で溶いた避妊薬を口移しでヴィクトリアに飲ませた後、ヴィクトリアを裸に剝いた。

 ヴィクトリアの裸身は相変わらず美しかった。

 アルベールの襲撃を受けた際、浴室に侵入した時に初めて見たが、あの時は姉だと思っていたし、瞼に焼き付けて一生忘れないようにしようと思っていた。

 その後、図らず恋人同士になれて、彼女の全身を余す所なく見て、愛撫して、口付けて―――― ヴィクトリアと愛し合いながら、これからもずっと一緒に生きていくものだと思っていた。

 人間たちの脅威はあっても、ヴィクトリアが死ぬはずないとどこかで信じ込んでいたが、それはただの思い込みに過ぎなかった。

 ヴィクトリアは魔力が切れればいつ死ぬかわからない。

 明日死ぬかもしれない。

(絶対に死なせない)

 ヴィクトリアの肌を撫でながら、リュージュはふと、二日前に付けた口付けの痕が消えていることに気付いた。

 しばらく消えるはずがないのにおかしいなと思いつつ、リュージュは中途半端に引っかかっていた自分の服を脱いで、肩と太腿だけに包帯を巻いた姿になった。

 寝台に上がって、腕に点滴だけを付けたヴィクトリアを抱きしめて、ヴィクトリアの魔力が満ちるようにと願いながら、素肌を合わせる。

 リュージュは唇を滑らせると、所有を示す痕をヴィクトリアの全身に再び付け始めた。





***





補足:シドハッピーエンドで理由っぽいものは書くつもりですが、リュージュバッドエンドの流れは回避されています。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

獣人公爵のエスコート

ざっく
恋愛
デビューの日、城に着いたが、会場に入れてもらえず、別室に通されたフィディア。エスコート役が来ると言うが、心当たりがない。 将軍閣下は、番を見つけて興奮していた。すぐに他の男からの視線が無い場所へ、移動してもらうべく、副官に命令した。 軽いすれ違いです。 書籍化していただくことになりました!それに伴い、11月10日に削除いたします。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

オネエなエリート研究者がしつこすぎて困ってます!

まるい丸
恋愛
 獣人と人の割合が6対4という世界で暮らしているマリは25歳になり早く結婚せねばと焦っていた。しかし婚活は20連敗中。そんな連敗続きの彼女に1年前から猛アプローチしてくる国立研究所に勤めるエリート研究者がいた。けれどその人は癖アリで…… 「マリちゃんあたしがお嫁さんにしてあ・げ・る♡」 「早く結婚したいけどあなたとは嫌です!!」 「照れてないで素直になりなさい♡」  果たして彼女の婚活は成功するのか ※全5話完結 ※ムーンライトノベルズでも同タイトルで掲載しています、興味がありましたらそちらもご覧いただけると嬉しいです!

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

二回目の異世界では見た目で勇者判定くらいました。ところで私は女です。逆ハー状態なのに獣に落とされた話。

吉瀬
恋愛
 10歳で異世界を訪れたカリン。元の世界に帰されたが、異世界に残した兄を止めるために16歳で再び異世界へ。  しかし、戻った場所は聖女召喚の儀の真っ最中。誤解が誤解を呼んで、男性しかなれない勇者見習いに認定されてしまいました。  ところで私は女です。  訳あり名門貴族(下僕)、イケメン義兄1(腹黒)、イケメン義兄2(薄幸器用貧乏)、関西弁(お人好し)に囲まれながら、何故か人外(可愛い)に落とされてしまった話。 √アンズ すぽいる様リクエストありがとうございました。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

処理中です...