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リュージュハッピーエンド 私の王子様
6 命を繋ぐキス(リュージュ視点)
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ヴィクトリアと一度は恋人同士になったが、結ばれずに別れてから二日。
傷付いた心を抱えたリュージュは、本日も森の中で待ち続けていた。
自分でも未練がましいなと嘆息しつつ、それでも帰ろうとしないリュージュの元に、いなくなったはずのヴィクトリアが空から落ちてきた。
「ヴィクトリアッ!」
リュージュは驚くと同時に、考えるよりも先に身体が動いていた。リュージュはヴィクトリアの落下地点まで走り、衝撃は最大限自分の方にかかるようにして彼女を抱き止めた。
「ヴィクトリア! ヴィクトリア!」
けれど腕の中のヴィクトリアは、完全に血の気が失せた死人のような顔色をしていて、落下の衝撃で死にかけてしまったのかと、リュージュは焦って何度も彼女の名前を読んだ。
『ごめんね、愛してる……』
その後意識が辛うじてある様子のヴィクトリアに話しかけながら医療棟まで急ぎ走っていると、耳からではなく頭に直接響くような不思議な声で、ヴィクトリアからの愛の告白を聞いた。
「ヴィクトリア!?」
不思議な声のことも、その言葉の内容も、どういうことなのか――自分と番になってくれるのか――をちゃんと問い質したかったけれど、ヴィクトリアが気絶してしまったためにそれは叶わず、リュージュは辿り着いた医療棟でヴィクトリアの身を医者に任せるしかなかった。
「危篤です」
ヴィクトリアを運んだ後、リュージュは治療室の外へ出されてしまい、医師や看護師がバタバタと出入りする中、部屋の外でただ待っていることしかできなかったが、しばらくして出て来た医師が宣告した言葉を、リュージュはすぐには呑み込めなかった。
意味を理解した途端、頭の中が真っ白になった。
「そんな…… 嘘だ……」
部屋の中へ通されると、先程の寝台に生気のないヴィクトリアが寝かされていて、点滴や空気が出る透明なマスクを口の前に付けられて、目を閉じていた。
今にも儚くなりそうな、世界で一番リュージュが大切に思っている大事な女性は、死の淵でも褪せない美貌を保ったまま、若すぎる命の灯火を消そうとしていた。
「なんで…… なんで……」
リュージュはヴィクトリアに駆け寄り、彼女の白い頬に手を添えた。
「ヴィクトリア…………」
呼びかけても、ヴィクトリアは目を開けてくれない。
二日前、ヴィクトリアは恥ずかしそうにしながらも、綺麗に微笑んで、リュージュの腕の中で魅力的に輝き、艶めいていて色めいていて、生きていた。
(ヴィクトリアが死んでしまうだなんて、俺はそんなの信じないし、耐えられない)
五年前にリュージュがこの里に来てから、リュージュの心の中にはずっとヴィクトリアがいた。
ヴィクトリアが今や死に瀕していることは、リュージュにはあまりにも受け入れ難いことだった。
ぽたぽたと、リュージュの涙が際限なく流れ始めて、ヴィクトリアの顔に落ちた。
「あの時、俺がお前を行かせたのは、お前に幸せになってほしかったからなのに…… お前をこんな目に遭わせるためじゃなかったのに…… なんでこんなことになるんだよ……
そばにいれば良かった。誰にも渡さずに、俺がお前を幸せにすれば良かった…………」
リュージュは後悔を吐露し、ヴィクトリアに縋り付いて号泣する。
昏睡状態のヴィクトリアを抱きしめても、部屋の中で成り行きを見ている医師たちは、もう手の施しようがないと悟っている様子で、止める気配はなかった。
彼らは最期の別れを邪魔しないようにと思ったのか、皆部屋から出ていった。
ぽろぽろと流れるリュージュの涙がヴィクトリアの瞼に落ちると、意識は戻らないままだったが、ヴィクトリアの瞼がピクリと動いた。
『リュージュ! すぐにヴィーにキスして!』
どのくらいそうしていたのか、寝台に乗り上げたリュージュは、ヴィクトリアの上体を起こしてずっと彼女を抱きしめて泣いていたが、また例の頭の中に直接響く声を聞いて、ハッと顔を上げた。
「……その声は…………」
リュージュはその声の持ち主――マグノリア――を知っていた。
声を聞くのは実に五年ぶりだが、初恋の相手であり、育ての兄ロータスの番でもあったので、懐かしい声を今でも覚えていた。
(なんで里にいるんだ?)
不思議に思いながらリュージュが部屋の中に目をやっても、いるのはいつの間にか入り込んだ一匹の白い鳥だけで、マグノリアの姿はない。
『リュージュ、詳しい説明は後だわ。現状で今渡せるだけの私の魔力をヴィーに渡したけど、たぶんまだ足りないの。あなたの愛の力で何とかして。
唾液混じりのトロトロで熱々のキスをヴィーと交わすの。とりあえず百回くらいしてみて』
(魔力? キスしろ? マグノリアはどこにいてどこから喋ってるんだ?)
リュージュはヴィクトリアが空から落ちてきたことと同様、頭を傾げたくなる現象が起こっていると思った。
しかし、ヴィクトリアが助かるなら何でも試したいと思ったリュージュは、マグノリアの不思議な声に導かれるまま、ヴィクトリアの口元にある透明なマスクを外すと、自分の命を全て注ぎ込むようなイメージで、ヴィクトリアの唇にキスをした。
傷付いた心を抱えたリュージュは、本日も森の中で待ち続けていた。
自分でも未練がましいなと嘆息しつつ、それでも帰ろうとしないリュージュの元に、いなくなったはずのヴィクトリアが空から落ちてきた。
「ヴィクトリアッ!」
リュージュは驚くと同時に、考えるよりも先に身体が動いていた。リュージュはヴィクトリアの落下地点まで走り、衝撃は最大限自分の方にかかるようにして彼女を抱き止めた。
「ヴィクトリア! ヴィクトリア!」
けれど腕の中のヴィクトリアは、完全に血の気が失せた死人のような顔色をしていて、落下の衝撃で死にかけてしまったのかと、リュージュは焦って何度も彼女の名前を読んだ。
『ごめんね、愛してる……』
その後意識が辛うじてある様子のヴィクトリアに話しかけながら医療棟まで急ぎ走っていると、耳からではなく頭に直接響くような不思議な声で、ヴィクトリアからの愛の告白を聞いた。
「ヴィクトリア!?」
不思議な声のことも、その言葉の内容も、どういうことなのか――自分と番になってくれるのか――をちゃんと問い質したかったけれど、ヴィクトリアが気絶してしまったためにそれは叶わず、リュージュは辿り着いた医療棟でヴィクトリアの身を医者に任せるしかなかった。
「危篤です」
ヴィクトリアを運んだ後、リュージュは治療室の外へ出されてしまい、医師や看護師がバタバタと出入りする中、部屋の外でただ待っていることしかできなかったが、しばらくして出て来た医師が宣告した言葉を、リュージュはすぐには呑み込めなかった。
意味を理解した途端、頭の中が真っ白になった。
「そんな…… 嘘だ……」
部屋の中へ通されると、先程の寝台に生気のないヴィクトリアが寝かされていて、点滴や空気が出る透明なマスクを口の前に付けられて、目を閉じていた。
今にも儚くなりそうな、世界で一番リュージュが大切に思っている大事な女性は、死の淵でも褪せない美貌を保ったまま、若すぎる命の灯火を消そうとしていた。
「なんで…… なんで……」
リュージュはヴィクトリアに駆け寄り、彼女の白い頬に手を添えた。
「ヴィクトリア…………」
呼びかけても、ヴィクトリアは目を開けてくれない。
二日前、ヴィクトリアは恥ずかしそうにしながらも、綺麗に微笑んで、リュージュの腕の中で魅力的に輝き、艶めいていて色めいていて、生きていた。
(ヴィクトリアが死んでしまうだなんて、俺はそんなの信じないし、耐えられない)
五年前にリュージュがこの里に来てから、リュージュの心の中にはずっとヴィクトリアがいた。
ヴィクトリアが今や死に瀕していることは、リュージュにはあまりにも受け入れ難いことだった。
ぽたぽたと、リュージュの涙が際限なく流れ始めて、ヴィクトリアの顔に落ちた。
「あの時、俺がお前を行かせたのは、お前に幸せになってほしかったからなのに…… お前をこんな目に遭わせるためじゃなかったのに…… なんでこんなことになるんだよ……
そばにいれば良かった。誰にも渡さずに、俺がお前を幸せにすれば良かった…………」
リュージュは後悔を吐露し、ヴィクトリアに縋り付いて号泣する。
昏睡状態のヴィクトリアを抱きしめても、部屋の中で成り行きを見ている医師たちは、もう手の施しようがないと悟っている様子で、止める気配はなかった。
彼らは最期の別れを邪魔しないようにと思ったのか、皆部屋から出ていった。
ぽろぽろと流れるリュージュの涙がヴィクトリアの瞼に落ちると、意識は戻らないままだったが、ヴィクトリアの瞼がピクリと動いた。
『リュージュ! すぐにヴィーにキスして!』
どのくらいそうしていたのか、寝台に乗り上げたリュージュは、ヴィクトリアの上体を起こしてずっと彼女を抱きしめて泣いていたが、また例の頭の中に直接響く声を聞いて、ハッと顔を上げた。
「……その声は…………」
リュージュはその声の持ち主――マグノリア――を知っていた。
声を聞くのは実に五年ぶりだが、初恋の相手であり、育ての兄ロータスの番でもあったので、懐かしい声を今でも覚えていた。
(なんで里にいるんだ?)
不思議に思いながらリュージュが部屋の中に目をやっても、いるのはいつの間にか入り込んだ一匹の白い鳥だけで、マグノリアの姿はない。
『リュージュ、詳しい説明は後だわ。現状で今渡せるだけの私の魔力をヴィーに渡したけど、たぶんまだ足りないの。あなたの愛の力で何とかして。
唾液混じりのトロトロで熱々のキスをヴィーと交わすの。とりあえず百回くらいしてみて』
(魔力? キスしろ? マグノリアはどこにいてどこから喋ってるんだ?)
リュージュはヴィクトリアが空から落ちてきたことと同様、頭を傾げたくなる現象が起こっていると思った。
しかし、ヴィクトリアが助かるなら何でも試したいと思ったリュージュは、マグノリアの不思議な声に導かれるまま、ヴィクトリアの口元にある透明なマスクを外すと、自分の命を全て注ぎ込むようなイメージで、ヴィクトリアの唇にキスをした。
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