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リュージュハッピーエンド 私の王子様
5 帰る場所
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目を覚ました時、ヴィクトリアは光る砂粒だらけの空間の中を、未だに漂っていた。
ヴィクトリアは身動ぎしようとして、異変に気付く。
(嘘…… 身体が動かない……)
この不思議空間の中に空気があるのも不思議だが、ヴィクトリアは呼吸はできていて、瞼や眼球もかろうじてなんとか動かせた。
けれど、四肢が全く動かせなくなっていた。指先ですらピクリとも動いてくれない。おまけに倦怠感もこれ以上にないくらいに酷くて、また意識を失ったら今度こそ本当に死んでしまいそうだと思った。
ヴィクトリアは周囲の光の砂粒と一緒に、ただ空間の中をゆっくりと漂うだけだった。あたりは静寂に包まれていて、何の音も聞こえない。瞬く光の粒はあるものの、まるで時が永久に止まってしまったかのようだった。
ヴィクトリアは自分がこの不思議な空間の中に閉じ込められてしまったように感じて、やっぱりこのまま死ぬのかもしれないと思った。
そう思うと寂しさにポロポロと涙が溢れて、ヴィクトリアの涙の粒が光る砂粒と共に空間を漂った。
死にたくなかった。ただもう一度リュージュに会いたかった。
「リュージュ……」
そう呟くと、キラキラ光る砂粒の一つが、ヴィクトリアの言葉に呼応するかのように近付いてきて、目の前で広がりだした。
風景の中にはリュージュがいた。リュージュは魔の森だと思うが、樹木の一つに凭れるようにして立っていて、物憂げな表情を前方に向けていた。
リュージュの服の襟口から、肩にかけて巻かれている包帯が見えた。右太腿には圧迫するためなのか、服の上からも包帯が巻かれている。
それらの怪我は、リュージュがアルベールと戦った時や、ヴィクトリアがリュージュと番になることを拒んで逃げた時に出来たものだ。
ヴィクトリアはリュージュがいる風景をじっと見つめながら、しゃくり上げるように号泣した。
風景の中に入って、リュージュの元へ駆けつけて全力で謝りたいのに、もうヴィクトリアには、そちら側まで行く体力は残されていなかった。
森の中にいるリュージュは、同じ場所に留まったまま、じっと動かない。
(リュージュが、待ってる……)
ヴィクトリアはリュージュを見て、彼が自分の帰りをただひたすらに待ってくれているのだと確信した。
(リュージュが、私のリュージュがあそこで待ってる……
帰らなきゃ。私はリュージュの所に必ず帰るの)
リュージュへの愛で心が満ちていくと、不思議と、脱力しきっていた身体に力が漲ってくる気がした。
(私は帰るの!)
強く強く願った瞬間、周囲の景色が一変し、それまでふわりと浮いていた身体に一気に重力を感じた。
ヴィクトリアが『過去干渉の魔法』を発動させた時、時刻は昼だったが、現在ヴィクトリアの目に映る空の色は橙色で、元の世界では既に夕方になっていたようだった。
『過去干渉の魔法』は普通、元いた時間軸に戻る場合は、一瞬の間を置いて魔法を発動させた場所と時間に戻るのが通常だが、ヴィクトリアは『過去干渉の魔法』の発動中に魔力切れを起こした影響もあって、時間と空間が少しズレた場所に戻ってきてしまった。
しかもヴィクトリアが戻ってきたのは、地面の上ではなくて、地上三十メートルほどの空中だった。
ヴィクトリアは落下しながら、愛しい人の匂いを嗅ぎ取って安心したのと同時に、魔力が奪われる独特のあの嫌な感覚が、これまでにないくらいに急激に増大していくのを感じていた。
「ヴィクトリアッ!」
リュージュが切羽詰った様子で自分の名を叫ぶ声が聞こえてきて、こんな場面だが、ヴィクトリアは涙が出るくらいに幸せだと思った。
ヴィクトリアは、リュージュに身体全体で抱き止められることで、地面と衝突せずに済んだ。
「ヴィクトリア! ヴィクトリア!」
いきなりヴィクトリアがこの場に落ちてきて驚いた様子のリュージュは、ヴィクトリアが顔から血色を失くしていくのも見て、今度は焦ったようにひたすらに名前を呼んできた。
『リュージュ……』
ヴィクトリアはリュージュの名を呼ぼうとしたが、口が全く動かなくて声も出なかったので、咄嗟に精神感応でリュージュに呼びかけた。
「しっかりしろ! 何があったんだ!」
リュージュは涙目になっていた。混乱しているのか、ヴィクトリアが声ではなくて精神感応で頭に直接呼びかけたことには気付いていないようだった。
「すぐに医療棟に連れて行くからな! 死ぬな!」
リュージュはヴィクトリアを抱え直すと、里へ向って猛烈な勢いで走り出した。
ヴィクトリアはリュージュの腕の中にいる幸せを噛み締めながらも、身体が全く動かなくて死ぬ一歩手前のような感覚を感じて、このまま意識を失ったら今生の別れになってしまうように感じた。
『ごめんね、愛してる……』
ヴィクトリアはリュージュにどうしても伝えたかったことを精神感応に乗せた。
「ヴィクトリア!?」
リュージュは流石に、ヴィクトリアが声ではなくて頭に直接響く形で言葉を伝えてきたことに気付いた様子だったが、驚きと共に彼女の名を呼んだ時には、既にヴィクトリアは魔力切れを起こして気絶していた。
ヴィクトリアは身動ぎしようとして、異変に気付く。
(嘘…… 身体が動かない……)
この不思議空間の中に空気があるのも不思議だが、ヴィクトリアは呼吸はできていて、瞼や眼球もかろうじてなんとか動かせた。
けれど、四肢が全く動かせなくなっていた。指先ですらピクリとも動いてくれない。おまけに倦怠感もこれ以上にないくらいに酷くて、また意識を失ったら今度こそ本当に死んでしまいそうだと思った。
ヴィクトリアは周囲の光の砂粒と一緒に、ただ空間の中をゆっくりと漂うだけだった。あたりは静寂に包まれていて、何の音も聞こえない。瞬く光の粒はあるものの、まるで時が永久に止まってしまったかのようだった。
ヴィクトリアは自分がこの不思議な空間の中に閉じ込められてしまったように感じて、やっぱりこのまま死ぬのかもしれないと思った。
そう思うと寂しさにポロポロと涙が溢れて、ヴィクトリアの涙の粒が光る砂粒と共に空間を漂った。
死にたくなかった。ただもう一度リュージュに会いたかった。
「リュージュ……」
そう呟くと、キラキラ光る砂粒の一つが、ヴィクトリアの言葉に呼応するかのように近付いてきて、目の前で広がりだした。
風景の中にはリュージュがいた。リュージュは魔の森だと思うが、樹木の一つに凭れるようにして立っていて、物憂げな表情を前方に向けていた。
リュージュの服の襟口から、肩にかけて巻かれている包帯が見えた。右太腿には圧迫するためなのか、服の上からも包帯が巻かれている。
それらの怪我は、リュージュがアルベールと戦った時や、ヴィクトリアがリュージュと番になることを拒んで逃げた時に出来たものだ。
ヴィクトリアはリュージュがいる風景をじっと見つめながら、しゃくり上げるように号泣した。
風景の中に入って、リュージュの元へ駆けつけて全力で謝りたいのに、もうヴィクトリアには、そちら側まで行く体力は残されていなかった。
森の中にいるリュージュは、同じ場所に留まったまま、じっと動かない。
(リュージュが、待ってる……)
ヴィクトリアはリュージュを見て、彼が自分の帰りをただひたすらに待ってくれているのだと確信した。
(リュージュが、私のリュージュがあそこで待ってる……
帰らなきゃ。私はリュージュの所に必ず帰るの)
リュージュへの愛で心が満ちていくと、不思議と、脱力しきっていた身体に力が漲ってくる気がした。
(私は帰るの!)
強く強く願った瞬間、周囲の景色が一変し、それまでふわりと浮いていた身体に一気に重力を感じた。
ヴィクトリアが『過去干渉の魔法』を発動させた時、時刻は昼だったが、現在ヴィクトリアの目に映る空の色は橙色で、元の世界では既に夕方になっていたようだった。
『過去干渉の魔法』は普通、元いた時間軸に戻る場合は、一瞬の間を置いて魔法を発動させた場所と時間に戻るのが通常だが、ヴィクトリアは『過去干渉の魔法』の発動中に魔力切れを起こした影響もあって、時間と空間が少しズレた場所に戻ってきてしまった。
しかもヴィクトリアが戻ってきたのは、地面の上ではなくて、地上三十メートルほどの空中だった。
ヴィクトリアは落下しながら、愛しい人の匂いを嗅ぎ取って安心したのと同時に、魔力が奪われる独特のあの嫌な感覚が、これまでにないくらいに急激に増大していくのを感じていた。
「ヴィクトリアッ!」
リュージュが切羽詰った様子で自分の名を叫ぶ声が聞こえてきて、こんな場面だが、ヴィクトリアは涙が出るくらいに幸せだと思った。
ヴィクトリアは、リュージュに身体全体で抱き止められることで、地面と衝突せずに済んだ。
「ヴィクトリア! ヴィクトリア!」
いきなりヴィクトリアがこの場に落ちてきて驚いた様子のリュージュは、ヴィクトリアが顔から血色を失くしていくのも見て、今度は焦ったようにひたすらに名前を呼んできた。
『リュージュ……』
ヴィクトリアはリュージュの名を呼ぼうとしたが、口が全く動かなくて声も出なかったので、咄嗟に精神感応でリュージュに呼びかけた。
「しっかりしろ! 何があったんだ!」
リュージュは涙目になっていた。混乱しているのか、ヴィクトリアが声ではなくて精神感応で頭に直接呼びかけたことには気付いていないようだった。
「すぐに医療棟に連れて行くからな! 死ぬな!」
リュージュはヴィクトリアを抱え直すと、里へ向って猛烈な勢いで走り出した。
ヴィクトリアはリュージュの腕の中にいる幸せを噛み締めながらも、身体が全く動かなくて死ぬ一歩手前のような感覚を感じて、このまま意識を失ったら今生の別れになってしまうように感じた。
『ごめんね、愛してる……』
ヴィクトリアはリュージュにどうしても伝えたかったことを精神感応に乗せた。
「ヴィクトリア!?」
リュージュは流石に、ヴィクトリアが声ではなくて頭に直接響く形で言葉を伝えてきたことに気付いた様子だったが、驚きと共に彼女の名を呼んだ時には、既にヴィクトリアは魔力切れを起こして気絶していた。
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