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処刑場編
【SIDE5】 二つの禁断魔法(セシル視点)
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※【SIDE数字】付きの話は今後投稿予定のナディアが主人公の話にも載せます。ほぼ同じ内容ですが、ストーリーをわかりやすくするために載せています。
【注意】遺体への愛撫がありますので注意
説明過多回です
***
シリウスはおかしくなってしまったわけではない。触れ合いは魔力の素になる気を充実させることができるから、魔力を回復させたいのだろう。
相手が真に愛している女性ならば、魔力の回復には尚更効果的だ。シドとの戦闘時にジュリアスに譲渡して減らした魔力を回復させることができる。
ナディアはもう死んでしまっているが、まだ温かみはある。それに、ナディアに対するシリウスの『番の呪い』が『本物』であると、セシルは確信していた。
本当は、シリウスはナディアを抱いてしまいたいのだろうとセシルは思っていた。
けれど次兄は一年前からずっと不能のままだった。
セシルとしては、実兄に遺体を冒涜するに等しい行為をしてほしくなかったから、そこに関してはシリウスが不能のままで良かったと思っていた。
シリウスはナディアが着ている純白のワンピースの背中のチャックを下ろし、露になった白い背中にしきりに唇を這わせていた。
下着のホックも外して、できた隙間に手を突っ込んでいるが、シリウスは幻視の魔法を簡単に見破れるセシルの存在がちゃんと頭にあるらしく、際どい所は隠し続けていた。
そんな所にもシリウスの独占欲を感じるが、それは言い換えれば、ナディアの死亡直後は取り乱していたシリウスだったが、現在はナディアに関する細かい所に気が回るほどには、冷静である、ということだ。
シリウスが魔力を回復させて、ナディアを助けることを目論んでいるのは明らかだった。
助けるための確実な方法は、ジュリアスの死の危機に際してセシルもその考えが頭をよぎった、『死者蘇生の魔法』を使うことだ。
だがそれでは多くの人々を危険に晒す可能性が高く、使うべきではないとセシルは考えていた。
けれど『過去の事象』を知っているセシルは、光属性を取り戻したジュリアスがいれば、それでも何とかなるかもしれないと思う部分もあった。
それから、ナディアを救う方法はもう一つある。
『過去干渉の魔法』を使うことだ。
『過去干渉の魔法』は術者自身が過去へ転移できる禁断魔法の一つで、転移中に過去の出来事を変えることができる。
ただし過去への滞在時間は術者の魔力量に比例し、時間が経過すると強制的に『現在』に戻されてしまう。
過去への転移や戻る際には、『時間の渦』とも呼ばれる亜空間を通り抜けるのだが、通り抜けに失敗することもあって、『時間の渦』に囚われたまま、寿命が尽きても永遠に亜空間を漂い続けることも起こり得る。
『過去干渉の魔法』は、術者が『現在』に戻って以降は、過去の出来事を変えたことで生じる矛盾点を解消するために、常に大量の魔力を消費させられる。
そのためにほぼ死人同然になることが多く、それが原因で死ぬこともある。
術者が死ねば過去は干渉前の正規の過去に戻るので、『過去干渉の魔法』の使用が原因で死んだ場合は、ただの無駄死にである。
ただ、戻りたい過去が遠いものではなく五分とか十分とかごくごく近いものであった場合は、修整する矛盾点も少なくなるため、跳ね返りで消費する魔力もその分少なくなる。
ナディアが死んたのは近い過去だから、上手くやればナディアを助けることができるかもしれない。
本当は過去に関する魔法が得意なセシルが『過去干渉の魔法』を使ったほうが、跳ね返りの影響が少なくて済むのだが――――
以前魔法を覚えたての幼い頃に、セシルは近所の怪我をした同じ年の子供を救おうと、この禁断魔法を使いかけたことがあった。
未熟すぎたために魔法は発動しなかったが、それをアークに見咎められて以降は、あまりにも危険だと、セシルは『過去干渉の魔法』を一切使えないように行動を縛る禁呪――『行動制限の魔法』――をアークからかけられていた。
父からの命を懸けられた使用禁止命令を出されているため、セシルは禁を犯すことができない状態だった。
ナディアを救うために『過去干渉の魔法』を使うのであれは、できるだけ早くやった方が跳ね返りの被害が少ないのだが、どちらの魔法を使うにせよ、禁断魔法の使用には多量の魔力が必要だった。
シリウスはナディアとの触れ合いで魔力が満ちるのを待っているのだろう。
『死者蘇生の魔法』が術者にというよりも万人に跳ね返りを求めるのに対し、『過去干渉の魔法』は術者当人のみが反動を受ける。
魔法を使用した時のことを考えると、千人以上が死にかねない『死者蘇生の魔法』よりも、『過去干渉の魔法』の方が被害が少ないようにも思える。
しかし『未来視』を発現させているシリウスはセシルとは違い、過去に関する魔法は不得手なはずだから、たとえ数分前の出来事でも、上手くいくか確証はなかった。
『時間の渦』に囚われるのもそうだが、ナディアを助ける前に『現在』に戻されたり、助けられても跳ね返りが強烈すぎたり、魔法自体が発動せずに失敗することも考えられる。
シリウスが禁断魔法のどちらを使おうとしているかはわからないが、いずれにせよ危険なことに変わりはない。
ナディアを失った悲しみが深いことはわかるし、禁断魔法が上手く成功して、次兄がナディアと共に幸せになってほしい気持ちもあるが、セシルはできることなら、シリウスには禁断魔法のどちらも使用してほしくないと考えていた。
ナディアのためなら何でもする次兄や、ヴィクトリアを殺そうとしている父たちを上手く説得し、事態を収拾できるのは、長兄ジュリアスしかいないとセシルは思う。
特にシリウスは、ジュリアスの話ならばきっと聞く耳を持つはずだ。
魔力を譲渡しても意識が回復するまでは少し時間がかかる。ジュリアスが目覚めて、間に合うことを信じるしかない。
「セシル君!」
全ての魔力を長兄と三兄に明け渡したセシルは、魔力切れを起こして倒れた。
ジュリアスのそばにいたフィオナが自分の名を叫ぶ声を聞きながら、セシルは、意識を失う最後の瞬間まで、兄たちの無事を祈っていた。
【注意】遺体への愛撫がありますので注意
説明過多回です
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シリウスはおかしくなってしまったわけではない。触れ合いは魔力の素になる気を充実させることができるから、魔力を回復させたいのだろう。
相手が真に愛している女性ならば、魔力の回復には尚更効果的だ。シドとの戦闘時にジュリアスに譲渡して減らした魔力を回復させることができる。
ナディアはもう死んでしまっているが、まだ温かみはある。それに、ナディアに対するシリウスの『番の呪い』が『本物』であると、セシルは確信していた。
本当は、シリウスはナディアを抱いてしまいたいのだろうとセシルは思っていた。
けれど次兄は一年前からずっと不能のままだった。
セシルとしては、実兄に遺体を冒涜するに等しい行為をしてほしくなかったから、そこに関してはシリウスが不能のままで良かったと思っていた。
シリウスはナディアが着ている純白のワンピースの背中のチャックを下ろし、露になった白い背中にしきりに唇を這わせていた。
下着のホックも外して、できた隙間に手を突っ込んでいるが、シリウスは幻視の魔法を簡単に見破れるセシルの存在がちゃんと頭にあるらしく、際どい所は隠し続けていた。
そんな所にもシリウスの独占欲を感じるが、それは言い換えれば、ナディアの死亡直後は取り乱していたシリウスだったが、現在はナディアに関する細かい所に気が回るほどには、冷静である、ということだ。
シリウスが魔力を回復させて、ナディアを助けることを目論んでいるのは明らかだった。
助けるための確実な方法は、ジュリアスの死の危機に際してセシルもその考えが頭をよぎった、『死者蘇生の魔法』を使うことだ。
だがそれでは多くの人々を危険に晒す可能性が高く、使うべきではないとセシルは考えていた。
けれど『過去の事象』を知っているセシルは、光属性を取り戻したジュリアスがいれば、それでも何とかなるかもしれないと思う部分もあった。
それから、ナディアを救う方法はもう一つある。
『過去干渉の魔法』を使うことだ。
『過去干渉の魔法』は術者自身が過去へ転移できる禁断魔法の一つで、転移中に過去の出来事を変えることができる。
ただし過去への滞在時間は術者の魔力量に比例し、時間が経過すると強制的に『現在』に戻されてしまう。
過去への転移や戻る際には、『時間の渦』とも呼ばれる亜空間を通り抜けるのだが、通り抜けに失敗することもあって、『時間の渦』に囚われたまま、寿命が尽きても永遠に亜空間を漂い続けることも起こり得る。
『過去干渉の魔法』は、術者が『現在』に戻って以降は、過去の出来事を変えたことで生じる矛盾点を解消するために、常に大量の魔力を消費させられる。
そのためにほぼ死人同然になることが多く、それが原因で死ぬこともある。
術者が死ねば過去は干渉前の正規の過去に戻るので、『過去干渉の魔法』の使用が原因で死んだ場合は、ただの無駄死にである。
ただ、戻りたい過去が遠いものではなく五分とか十分とかごくごく近いものであった場合は、修整する矛盾点も少なくなるため、跳ね返りで消費する魔力もその分少なくなる。
ナディアが死んたのは近い過去だから、上手くやればナディアを助けることができるかもしれない。
本当は過去に関する魔法が得意なセシルが『過去干渉の魔法』を使ったほうが、跳ね返りの影響が少なくて済むのだが――――
以前魔法を覚えたての幼い頃に、セシルは近所の怪我をした同じ年の子供を救おうと、この禁断魔法を使いかけたことがあった。
未熟すぎたために魔法は発動しなかったが、それをアークに見咎められて以降は、あまりにも危険だと、セシルは『過去干渉の魔法』を一切使えないように行動を縛る禁呪――『行動制限の魔法』――をアークからかけられていた。
父からの命を懸けられた使用禁止命令を出されているため、セシルは禁を犯すことができない状態だった。
ナディアを救うために『過去干渉の魔法』を使うのであれは、できるだけ早くやった方が跳ね返りの被害が少ないのだが、どちらの魔法を使うにせよ、禁断魔法の使用には多量の魔力が必要だった。
シリウスはナディアとの触れ合いで魔力が満ちるのを待っているのだろう。
『死者蘇生の魔法』が術者にというよりも万人に跳ね返りを求めるのに対し、『過去干渉の魔法』は術者当人のみが反動を受ける。
魔法を使用した時のことを考えると、千人以上が死にかねない『死者蘇生の魔法』よりも、『過去干渉の魔法』の方が被害が少ないようにも思える。
しかし『未来視』を発現させているシリウスはセシルとは違い、過去に関する魔法は不得手なはずだから、たとえ数分前の出来事でも、上手くいくか確証はなかった。
『時間の渦』に囚われるのもそうだが、ナディアを助ける前に『現在』に戻されたり、助けられても跳ね返りが強烈すぎたり、魔法自体が発動せずに失敗することも考えられる。
シリウスが禁断魔法のどちらを使おうとしているかはわからないが、いずれにせよ危険なことに変わりはない。
ナディアを失った悲しみが深いことはわかるし、禁断魔法が上手く成功して、次兄がナディアと共に幸せになってほしい気持ちもあるが、セシルはできることなら、シリウスには禁断魔法のどちらも使用してほしくないと考えていた。
ナディアのためなら何でもする次兄や、ヴィクトリアを殺そうとしている父たちを上手く説得し、事態を収拾できるのは、長兄ジュリアスしかいないとセシルは思う。
特にシリウスは、ジュリアスの話ならばきっと聞く耳を持つはずだ。
魔力を譲渡しても意識が回復するまでは少し時間がかかる。ジュリアスが目覚めて、間に合うことを信じるしかない。
「セシル君!」
全ての魔力を長兄と三兄に明け渡したセシルは、魔力切れを起こして倒れた。
ジュリアスのそばにいたフィオナが自分の名を叫ぶ声を聞きながら、セシルは、意識を失う最後の瞬間まで、兄たちの無事を祈っていた。
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