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処刑場編

【SIDE4】 セシルの考察(セシル視点)

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※【SIDE数字】付きの話は今後投稿予定のナディアが主人公の話にも載せます。ほぼ同じ内容ですが、ストーリーをわかりやすくするために載せています。


【注意】遺体への愛撫(軽度)がありますので注意



***

 セシルは残っていた自分の全魔力を、主に三兄ノエルと、それから、一部を長兄ジュリアスに譲渡した。

 この処刑場で起こっている全ての出来事を把握したセシルは、兄たちを信じて、全てを委ねることにした。

 レインと父のアークは、ヴィクトリアを殺そうとしていた。

 ただし、レインの中にはそれでも迷いがある。

 ヴィクトリアは人が変わったような状態になっているが、それは、魔法使いとして覚醒したことによるものだ。

 しかし、魔法使いとして覚醒した者の全員が、あのように攻撃的になるわけではない。

 ヴィクトリアは覚醒のきっかけになったナディアの死に際して、ナディアの全ての人生の記憶を『視て』いた。

 どうやらヴィクトリアは、自分と同じく『過去系の魔法』に適正があるようだった。

 ヴィクトリアの中では、ナディアの過去の苦しみや悲しみと、それからヴィクトリア自身の苦しみと悲しみがごちゃまぜになって、共鳴し合っていた。

 覚醒したばかりの制御しきれていない膨大な魔力がその過去の感情を増幅させていることもあり、強い恨みの感情に引っ張られすぎていて、ヴィクトリアは我を忘れたような行動を起こしていた。

 もう少し魔力を制御コントロールする術を覚えれば、負の感情に飲み込まれて自分を見失うこともなくなると思うが――――

 セシルが『過去視』で感じる限りでは、シドに支配され抑圧されながら生きてきたヴィクトリアは、これまで「喜」よりも「苦」を感じることが多かった。

 この事態を引き起こしてしまったのは、ヴィクトリアの置かれた状況を知りながら、そこから救う方法もたぶんあったはずなのに、放置し続けてきた自分たちブラッドレイ家の者たちにも、責任があると思った。

 ヴィクトリアがそばいればシドは比較的――あの男にしてみればだが――残虐な行為も抑えて穏やかそうに過ごしていた。

 もしもヴィクトリアの存在がなかったら、シドによる人間たちへの被害はもっと甚大だっただろう。

 自分たちはずっと、ヴィクトリアを人身御供のようにしてシドのそばに置き続け、彼女の苦しみを見て見ぬ振りをし続けてきたのだ。

 家族の中ではヴィクトリアの一番近くにいたシリウスや、全女性を尊ぶ男フェミニストであるノエルなどは、何とかしてやりたいと訴えることもあったが、父が「否」と言えばシリウスはそれに従うしかなかったし、一見すると兄たちたちの中では一番の自由人のように見えているノエルも、結局は精神下では父に逆らわないことを植え付けられている。

 実際にヴィクトリアを助ける動きまでにはならなかった。

 ノエルが銃騎士になることを拒んだり婿入り結婚をしたのは、ノエルの反抗が成功した数少ない事例であり、父の精神的な支配から外れてきている兆しでもあった。

 アーク自身もそれを感じていて、近頃はずっと焦りを感じているようだった。

 アークが「ナディアを殺す」という凶行に走ったのも、元を正せばそこら辺にも原因がありそうだった。

『真眼』の能力を持つマグノリアもヴィクトリアの状況は理解していたようだったが、マグノリアはアークに目を付けられていて、頻繁にその行動を監視されていた。

 国防にも関係してくる「シドのそばにヴィクトリアを置き続ける」というアークの意向を無視すれば、何をされるかわからないと警戒していた様子で、長らくヴィクトリアに手出しができなかった。

 マグノリアは『真眼』という特殊能力は持っているが、魔法使いとしての総合的な能力はアークの方が上である。

 セシルは、ジュリアスが目を覚ましてくれたら、きっとこのどうしようもない展開も何とかしてくれるはずだと信じていた。

 ノエルも、ヴィクトリアが正気に戻って攻撃が止むまで、きっと持ち堪えてくれるはずだと。

 そして、嘆くことを止め、じっとその場でを待っているらしき次兄シリウスのことも――――

 端から見れば、シリウスはナディアの亡骸を延々と抱きしめ続けているようにしか見えないが、それはシリウス自身の幻視の魔法によるものだ。

 実際のシリウスは、死んでしまったナディアの唇を奪い、彼女の服の中に手を突っ込んで身体中を撫で回していた。

 他の魔法使いならばマグノリアにしかわからないだろうが、セシルの強力すぎる『過去視』――セシルが視ることができるのは数分前の過去からであり、多少の時間差はあるが――は、妨害魔法を看破できた。
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