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処刑場編
126 俺がやります(レイン視点)
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注)裏切り展開です
***
焦るレインの視界に再び炎が現れた。ヴィクトリアのいるあたりに向かって、地獄の業火のような猛烈な炎が出現して暴れ始める。
猛烈な炎の嵐でヴィクトリアの姿が見えなくなって、ヴィクトリアがゼウスたちに放っていた氷柱攻撃も止んだ。
「……っ! 隊長!」
レインは青褪めて、少し離れた場所に立っているアークの元まで急いだ。
ジュリアスは気絶したままのようだし、シリウスはナディアの亡骸を抱いたまま動かない。ノエルとセシルが主に攻撃で使う魔法はそれぞれ風と水のはずだから、この火魔法を使っているのはアーク隊長でほぼ間違いない。アークの魔法属性は火だ。
ヴィクトリアへの攻撃を、やめさせなければ。
爆発の音が聞こえて振り返る。レインの視界の先では、氷と炎がお互いを呑み込むようにせめぎ合ってぶつかり合い、氷が破裂する盛大な音が響き渡っていた。炎を突破した氷柱が再びゼウスたちに襲いかかっている。
荒れ狂う氷と炎の狭間で、銀髪を揺らめかせながら立つヴィクトリアの姿が見えた。
「ヴィクトリア!」
叫ぶと、ヴィクトリアがこちらを見たような気がした。
「ヴィクトリア!」
求めるように再度手を伸ばすが、次の瞬間には炎の中に包まれるようにして、レインからヴィクトリアの姿は見えなくなってしまった。
(隊長はヴィクトリアを殺すつもりなのか……!)
最悪の事態を想定しながら、レインはアークの元まで辿り着いた。
「隊長! ヴィクトリアへの攻撃をすぐに止めてください!」
息せき切って走ってきた勢いのまま、レインはアークに攻撃の中止を訴えた。
しかし、レインの一言で止まるような隊長ではない。アークは感情の見えない瞳でレインを見返しながら、言い放つ。
「あの娘を止めなければノエルとエヴァンズが死ぬぞ? それにあの娘は膨大すぎる魔力をほとんど使いこなせていない。放置すれば災厄を生むだろう。憂いの芽は早いうちに摘み取るに限る」
「ですが! 魔法使いの存在は貴重なはずです! みすみす殺すよりも、生かして手駒にした方がこちらの益になります!」
「本人も制御できていないほどの強大な魔力を持ち、いつ魔力暴走を引き起こすかもわからない危険な存在を飼えと言うのか」
「俺が飼います! 必ず飼い慣らしてみせます!」
「お前では無理だな」
アークは即否定で返した。
「お前はあの娘の暴走を止めようとしていたが、できていなかったではないか」
「それは……」
「土壇場で手綱が握れないようでは、主人としては失格だ。お前ではあの娘は扱いきれないだろう。お前の手には余る」
「ですが…………」
「あの規模の魔力量で魔力暴走を引き起こしたらどうなるか、下手をすれば首都一帯が吹っ飛ぶぞ。お前一人の感情で、数百万人の命を危険に晒すわけにはいかない」
アークの隊長としての判断は非情だが、真っ当なものだとも思えた。もしもレインが隊長で、相手がヴィクトリアでさえなければ、レインも同じように考えただろう。
「『獣人の魔法使い』………… 今のあの娘は間違いなく特S級だ」
人間たちは獣人を狩るための基準として、獣人の強さによって等級付けをしている。
ヴィクトリアの元々の強さは底辺のEだったが、魔法が使えるとなると話は別だった。
以前は等級はS級までしかなかったが、シドによる被害が甚大すぎることから、その上の等級が作られた。
これまで特S級に分類されていたのはシドしかいなかったが、それと同じ最上位の等級になる。
それはつまり、人間に莫大で深刻すぎる被害を及ぼすおそれがあるということだ。
「狩るぞ、レイン。いいな」
有無を言わせない口調でそう言うと、アークは火傷でもしたのか黒くなっている利き手とは逆の指の関節を、コキコキと数度鳴らすようにしながら、ヴィクトリアへの接近を開始しようとしていて――――
レインはアークのその様子に強い衝撃を受けて目を見開いた。
アークのその癖は、『人体発火の魔法』――対象に直に触れることが条件の、生きながら焼かれ続けて地獄の苦しみを味わいながら絶命するという非道すぎる魔法――を発動する前に見せるものだった。
これまでその魔法を使われて生き残った獣人はいない。
シドが九番隊砦に囚われている間、『姿替えの魔法』でシドに成りすまして里に潜入し、『人体発火の魔法』も使いながら幹部たちを次々と暗殺していったのは、アークだった。
レインは、アークに『人体発火の魔法』をかけられた獣人たちが、筆舌に尽くしがたい苦しみに七転八倒して悶絶し、踊り狂いながら死んでいく凄絶な様子を何度となく見てきた。
(そんな苦しみを、ヴィクトリアが――――!!)
「ま、待ってくださいっ!」
レインは絶対に止めなければと必死になって呼びかけたが、アークは振り向きもしない。
「隊長っ!!」
レインは叫び、全力でアークに追いついて彼の行く手を阻んだ。
「クドいぞ、レイン」
アークは立ち止まったが、尚も感情の乗らない瞳でレインを見つめている。
アークはレインの横をすり抜けて行こうとした。
アークはきっと止まらない。自分ではこの男を止めることはできないだろうとレインは悟った。
(俺が守ると言ったのに――――――)
レインは、ヴィクトリアを守ってやれない自分の無力さに、血が滲むほどに強く手を握り締め、苦悶の表情を浮かべて――――――絞り出すようにこう言った。
「俺がやります」
苦しませて死なせるくらいなら、いっそのこと俺の手で――――――――
***
焦るレインの視界に再び炎が現れた。ヴィクトリアのいるあたりに向かって、地獄の業火のような猛烈な炎が出現して暴れ始める。
猛烈な炎の嵐でヴィクトリアの姿が見えなくなって、ヴィクトリアがゼウスたちに放っていた氷柱攻撃も止んだ。
「……っ! 隊長!」
レインは青褪めて、少し離れた場所に立っているアークの元まで急いだ。
ジュリアスは気絶したままのようだし、シリウスはナディアの亡骸を抱いたまま動かない。ノエルとセシルが主に攻撃で使う魔法はそれぞれ風と水のはずだから、この火魔法を使っているのはアーク隊長でほぼ間違いない。アークの魔法属性は火だ。
ヴィクトリアへの攻撃を、やめさせなければ。
爆発の音が聞こえて振り返る。レインの視界の先では、氷と炎がお互いを呑み込むようにせめぎ合ってぶつかり合い、氷が破裂する盛大な音が響き渡っていた。炎を突破した氷柱が再びゼウスたちに襲いかかっている。
荒れ狂う氷と炎の狭間で、銀髪を揺らめかせながら立つヴィクトリアの姿が見えた。
「ヴィクトリア!」
叫ぶと、ヴィクトリアがこちらを見たような気がした。
「ヴィクトリア!」
求めるように再度手を伸ばすが、次の瞬間には炎の中に包まれるようにして、レインからヴィクトリアの姿は見えなくなってしまった。
(隊長はヴィクトリアを殺すつもりなのか……!)
最悪の事態を想定しながら、レインはアークの元まで辿り着いた。
「隊長! ヴィクトリアへの攻撃をすぐに止めてください!」
息せき切って走ってきた勢いのまま、レインはアークに攻撃の中止を訴えた。
しかし、レインの一言で止まるような隊長ではない。アークは感情の見えない瞳でレインを見返しながら、言い放つ。
「あの娘を止めなければノエルとエヴァンズが死ぬぞ? それにあの娘は膨大すぎる魔力をほとんど使いこなせていない。放置すれば災厄を生むだろう。憂いの芽は早いうちに摘み取るに限る」
「ですが! 魔法使いの存在は貴重なはずです! みすみす殺すよりも、生かして手駒にした方がこちらの益になります!」
「本人も制御できていないほどの強大な魔力を持ち、いつ魔力暴走を引き起こすかもわからない危険な存在を飼えと言うのか」
「俺が飼います! 必ず飼い慣らしてみせます!」
「お前では無理だな」
アークは即否定で返した。
「お前はあの娘の暴走を止めようとしていたが、できていなかったではないか」
「それは……」
「土壇場で手綱が握れないようでは、主人としては失格だ。お前ではあの娘は扱いきれないだろう。お前の手には余る」
「ですが…………」
「あの規模の魔力量で魔力暴走を引き起こしたらどうなるか、下手をすれば首都一帯が吹っ飛ぶぞ。お前一人の感情で、数百万人の命を危険に晒すわけにはいかない」
アークの隊長としての判断は非情だが、真っ当なものだとも思えた。もしもレインが隊長で、相手がヴィクトリアでさえなければ、レインも同じように考えただろう。
「『獣人の魔法使い』………… 今のあの娘は間違いなく特S級だ」
人間たちは獣人を狩るための基準として、獣人の強さによって等級付けをしている。
ヴィクトリアの元々の強さは底辺のEだったが、魔法が使えるとなると話は別だった。
以前は等級はS級までしかなかったが、シドによる被害が甚大すぎることから、その上の等級が作られた。
これまで特S級に分類されていたのはシドしかいなかったが、それと同じ最上位の等級になる。
それはつまり、人間に莫大で深刻すぎる被害を及ぼすおそれがあるということだ。
「狩るぞ、レイン。いいな」
有無を言わせない口調でそう言うと、アークは火傷でもしたのか黒くなっている利き手とは逆の指の関節を、コキコキと数度鳴らすようにしながら、ヴィクトリアへの接近を開始しようとしていて――――
レインはアークのその様子に強い衝撃を受けて目を見開いた。
アークのその癖は、『人体発火の魔法』――対象に直に触れることが条件の、生きながら焼かれ続けて地獄の苦しみを味わいながら絶命するという非道すぎる魔法――を発動する前に見せるものだった。
これまでその魔法を使われて生き残った獣人はいない。
シドが九番隊砦に囚われている間、『姿替えの魔法』でシドに成りすまして里に潜入し、『人体発火の魔法』も使いながら幹部たちを次々と暗殺していったのは、アークだった。
レインは、アークに『人体発火の魔法』をかけられた獣人たちが、筆舌に尽くしがたい苦しみに七転八倒して悶絶し、踊り狂いながら死んでいく凄絶な様子を何度となく見てきた。
(そんな苦しみを、ヴィクトリアが――――!!)
「ま、待ってくださいっ!」
レインは絶対に止めなければと必死になって呼びかけたが、アークは振り向きもしない。
「隊長っ!!」
レインは叫び、全力でアークに追いついて彼の行く手を阻んだ。
「クドいぞ、レイン」
アークは立ち止まったが、尚も感情の乗らない瞳でレインを見つめている。
アークはレインの横をすり抜けて行こうとした。
アークはきっと止まらない。自分ではこの男を止めることはできないだろうとレインは悟った。
(俺が守ると言ったのに――――――)
レインは、ヴィクトリアを守ってやれない自分の無力さに、血が滲むほどに強く手を握り締め、苦悶の表情を浮かべて――――――絞り出すようにこう言った。
「俺がやります」
苦しませて死なせるくらいなら、いっそのこと俺の手で――――――――
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