上 下
157 / 220
処刑場編

【SIDE3】 あのクソ親父(ノエル視点)

しおりを挟む
※【SIDE数字】付きの話は今後投稿予定のナディアが主人公の話にも載せます。ほぼ同じ内容ですが、ストーリーをわかりやすくするために載せています。



***

 ナディアが死んだ。

 シリウスが治癒魔法を何度もかけていたが、ナディアは息を吹き返さなかった。

 次兄の嘆きの声が響く中、ジュリアスとシドの戦闘に巻き込まれて生き残ったヴィクトリアに、突然、おびただしいほどの魔力が現れたことにノエルは気付いた。

 ヴィクトリアの周囲に氷の塊が出現する。それは明らかに魔法によるもので、それを作り出したのはヴィクトリアに他ならなかった。

 魔法使いとして覚醒したヴィクトリアは、氷魔法で作り出したいくつもの氷柱を――――――ゼウスに向かって放っていた。

 氷柱がゼウスに当たるその直前、ノエルは転移魔法を使ってゼウスの直ぐそばまで移動すると、シールドの魔法を展開させて攻撃を弾いた。

「ゼウス! なぜナディアを撃ったのですか!」

 ノエルはヴィクトリアからゼウスを守るように、盾の魔法が作り出す結界の内側に立っていた。際限なく放たれるヴィクトリアの容赦のない氷魔法攻撃を防ぎながら、ノエルはゼウスに尋ねた。

「ノエル…… ナディアは………… 死んだのか?」

 ゼウスは撃った理由を説明するのではなくて、先にナディアの安否を尋ねてきた。

「……シー兄さんが治癒魔法をかけましたが………… 戻らなかったようです。心臓は完全に止まっていて、息もしていません…………」

「魔法で何とかならないのか?」

「治癒魔法では傷を治療するのみで、既に死んでしまった者を蘇らせることはできません…………」

 ノエルはそこから先の言葉を言おうとして、口をつぐむ。

 禁断魔法の中には死者を蘇らせる魔法もあるが、と言われている。

 ノエルがマグノリアたちにかけている『行動制限の魔法』――禁を犯せば対象者と術者のみが死亡する禁断魔法――に比べたら、その被害は桁違いだ。

 そんなおそろしい魔法、使えるわけがない。

 ゼウスとのやり取りの最中にも、荒削りながらも目覚めたばかりの魔法の使い方に少し慣れたのか、ヴィクトリアの攻撃魔法の威力が増していく。

 気を抜いたら盾の魔法を破壊されそうなほどに凄まじい。

 魔法を使うために必要な魔力は、個人の資質やその時の状態にもよるが、体内を巡る気の力が元になっている。
 それから、魔法の威力は、その魔法に込める魔力量によっても大きく変わってくる。

 怒りにまかせて攻撃を放っているらしきヴィクトリアの体内に満ちる魔力は、底がないようにも感じられた。マグノリアやブラッドレイの者たちの誰よりも多いのではないか――――

 獣人だろうと人間だろうと、魔法使いの素養を持っていれば魔法を使える可能性がある。ヴィクトリアに素養があっただなんて寝耳に水もいい所だ。

 ノエルは魔法使いになったヴィクトリアがここまでの魔力量を保持しているとは全く思っていなかった。
 これほどまでの魔力を持てるのであれば、覚醒していない状態でも資質があると確実に気付きそうなものなのに、全く気付けなかった。

 シドとの戦いでノエルはジュリアスに魔力を譲渡していた。現在のノエルに残された魔力量ではヴィクトリアの方が断然上である。彼女の怒りが鎮まり攻撃を止めてくれるまで、何とか持ちこたえられればいいが――――

 長兄ジュリアスが死にかけて、あわやの所でシドに勝利し生き長らえたと思ったら、今度は次兄シリウスと義弟ゼウスの思い人であるナディアが死んでしまった。

 目まぐるしく変わる状況に翻弄されながらも、ノエルは何とか冷静に状況を分析しようとした。けれど聞こえてくるシリウスの嘆きの声は止まる気配がなくて、心が痛い。

 ノエルも湧き上がってくるやりきれない思いに、叫び出したい心をぐっと抑えていると、後ろにいるゼウスが泣き出した。

「ナディア…… すまなかった、ナディア…………」

 ゼウスが握っていた銃を自らのこめかみに突き付けて、後追いしようとしたので、ノエルはぎょっとした。

 ノエルは盾の魔法を制御コントロールしながら風魔法も使い、ゼウスの手から銃を弾き飛ばした。

「馬鹿なことはやめてください!」

「ナディアが死んでしまったら、俺はもう生きられない…………」

「どうしてそんな大切な女性を殺してしまったんですか!」

「殺すつもりなんてなかったんだ………… ただ、正式な許可が降りるまでは収監されたままのはずの彼女が、処刑場こんな所に現れたから、ナディアが、俺と番になるのが嫌すぎて脱走でもしたんじゃないかって…………

 午前中に面会を申し込んでも彼女の体調不良が理由で断られたし…… やっぱりシリウスの方が良かったのかって、だから逃げたのかって嫉妬して、頭に血が上ってしまって………… 銃を取り出して彼女に狙いを定めたまでは確かだ…………

 だけど、撃つなんて…… そんなこと本当はするつもりじゃなかった。

 ノエルはこの時点でとあることを懸念した。

『セシ! 「過去視」で見てください! のは誰ですか?!』

 ノエルは精神感応テレパシーで弟のセシルに叫ぶ。工作されていればノエルの『過去視』ではわからないが、セシルの力を持ってすれば見抜けるはずだ。

『セシ!』

 精神感応は相手に絶対に届く。聞こえていないはずがないのに、なぜかセシルの返事は遅かった。ノエルが精神感応で再び催促すると、ようやく返事が来た。

『…………ノエ兄、お願いだから怒らないでね…… 撃たせたのは、父さんだった…………』

 ――――アークあの人は、南西列島でゼウスとナディアに行った非道な振る舞いを、性懲りもなく、また。

(あのクソ親父がっ!)

 丁寧語が身に染み付いているはずのノエルだったが、心の中で父親のアークに向かって悪態をついていた。

 ノエルは感情が昂ぶると丁寧語が取れてしまう。

「駄目だノエ兄! 落ち着いて!」

 精神感応ではなくてセシルの叫ぶ声が聞こえる。ノエルが一瞬心を乱して殺気をアークがいる方向へ向けてしまったために、ノエルの魔法に隙が生まれた。

 ヴィクトリアの猛烈な氷魔法攻撃によって、ノエルの盾の魔法が破られかけた。

「ノエ兄!」

 セシルが盾の魔法を展開させようとするが間に合わない。

 弾けた盾の結界の隙間から氷柱の先端がノエルの身体に突き刺さりそうになるが――――その直前に赤い炎が爆発した。

 アークの操る火魔法によりヴィクトリアが放った全ての氷柱が砕け散り、空中で踊る炎の熱で溶けていく。アークの展開させた盾の魔法も間に合った。

 すんでの所で助けてもらったにも関わらず、ノエルが睨んでしまう先にいるアークの表情は――――どんな感情も含まれていないように見える、いつも通りの無表情だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

執着系狼獣人が子犬のような伴侶をみつけると

真木
恋愛
獣人の里で他の男の狼獣人に怯えていた、子犬のような狼獣人、ロシェ。彼女は海の向こうの狼獣人、ジェイドに奪われるように伴侶にされるが、彼は穏やかそうに見えて殊更執着の強い獣人で……。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

R18、アブナイ異世界ライフ

くるくる
恋愛
 気が付けば異世界。しかもそこはハードな18禁乙女ゲームソックリなのだ。獣人と魔人ばかりの異世界にハーフとして転生した主人公。覚悟を決め、ここで幸せになってやる!と意気込む。そんな彼女の異世界ライフ。  主人公ご都合主義。主人公は誰にでも優しいイイ子ちゃんではありません。前向きだが少々気が強く、ドライな所もある女です。  もう1つの作品にちょいと行き詰まり、気の向くまま書いているのでおかしな箇所があるかと思いますがご容赦ください。  ※複数プレイ、過激な性描写あり、注意されたし。

オネエなエリート研究者がしつこすぎて困ってます!

まるい丸
恋愛
 獣人と人の割合が6対4という世界で暮らしているマリは25歳になり早く結婚せねばと焦っていた。しかし婚活は20連敗中。そんな連敗続きの彼女に1年前から猛アプローチしてくる国立研究所に勤めるエリート研究者がいた。けれどその人は癖アリで…… 「マリちゃんあたしがお嫁さんにしてあ・げ・る♡」 「早く結婚したいけどあなたとは嫌です!!」 「照れてないで素直になりなさい♡」  果たして彼女の婚活は成功するのか ※全5話完結 ※ムーンライトノベルズでも同タイトルで掲載しています、興味がありましたらそちらもご覧いただけると嬉しいです!

【R18】ヤンデレに囚われたお姫様

京佳
恋愛
攫われたヒロインが何処かおかしいイケメンのヤンデレにめちゃくちゃ可愛がられます。狂おしい程の彼の愛をヒロインはその身体に刻みつけられるのです。 一方的な愛あり 甘ラブ ゆるゆる設定 ※手直し修整しました

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

【完結済み】オレ達と番の女は、巣篭もりで愛欲に溺れる。<R-18>

BBやっこ
恋愛
濃厚なやつが書きたい。番との出会いから、強く求め合う男女。その後、くる相棒も巻き込んでのらぶえっちを書けるのか? 『番(つがい)と言われましたが、冒険者として精進してます。』のスピンオフ的位置ー 『捕虜少女の行く先は、番(つがい)の腕の中?』 <別サイトリンク> 全年齢向けでも書いてます。他にも気ままに派生してます。

【R18】ヤンデレ公爵にロックオンされたお姫様

京佳
恋愛
魔導師で美貌のヤンデレ公爵クロードは前々から狙っていたユリアを手に入れる為にある女と手を組む。哀れな駒達はクロードの掌の上で踊らされる。彼の手の中に堕ちたユリアは美しく優しい彼に甘やかされネットリと愛される… ヤンデレ美形ワルメン×弱気美少女 寝取り寝取られ ある意味ユリアとサイラスはバッドエンド腹黒2人はメシウマ R18エロ表現あり ゆるゆる設定

処理中です...