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処刑場編
123 もう一つの「死」
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ヴィクトリアは地面に蹲るようにして慟哭し始めた。
「姉様!」
「シドの死」という衝撃に打ちひしがれているヴィクトリアの耳に、一人の少女の声が届いた。
その声にハッと振り返ったヴィクトリアは、涙を流しながら彼女の名を呼んだ。
「ナディア!」
シドの娘でありヴィクトリアの義妹でもあるナディアが、この処刑場に現れた。
(ナディアだけでも生きていて良かった!)
ヴィクトリアたちは、元々はナディアを救出するためにこの場所へ来たのだ。
ナディアも、シドの死を受けて泣きながらこちらに走ってくる。ヴィクトリアはナディアに向かって手を伸ばした。しかし――――
一発の銃声が処刑場に響いた。
ヴィクトリアは目の前の光景が信じられずに目を見開く。
視界の先では、走りを止めたナディアの身体が傾いでいた。
――――ナディアは胸を銃弾で撃ち抜かれていた。
ナディアは倒れながらも、銃弾が飛んできた方向に視線を向けていた。
ナディアの視線の先には、銃を握りしめたまま驚愕の表情を見せる、金髪碧眼の美貌の銃騎士が立っていた。
(あの人は…………)
『何だ、お前はナディアの男じゃないか。匂いが薄いようだが別れたのか?』
金髪の青年を見つめるヴィクトリアの脳裏に、見たことのない光景が浮かび上がっていた。
なぜだかはわからないが、頭の中にそういうものが視える。
生きている時のシドの姿だ――――
その光景は、数日前に九番隊砦で起こった出来事の絵だった。
ヴィクトリアがレインと共にシドから逃げ出してしまった後の、シドと銃騎士隊員たちの攻防の一部分だ。
シドは金髪の青年がナディアの恋人だったと、そう言った。
シドと青年が戦っている過去の絵とは別に、ナディアのこれまでの人生の記憶が、怒涛のように脳内に流れ込んできた。
高速でそれらを視たヴィクトリアは、シドの過去の言葉だけではなくて、多くのことから青年の正体を知った。
ナディアを撃ったのは、彼女と恋人だったはずのこの青年――――銃騎士ゼウス・エヴァンズだ。
ゼウスは以前もナディアを裏切っていた。ここから遠い南の地で、彼女を斬り捨てたのだ。
それがゼウスのせいではなかったことはナディアの部屋で彼女自身から聞いていた。
しかし話に聞くのと実際の絵を見るのとでは大違いだった。
走馬灯の絵と共に、ナディアがその時感じた張り裂けそうな悲しみと絶望と喪失感、それから今現在、身の上に起こっている出来事に衝撃を受けているナディアの気持ちが、ヴィクトリアの心の中に重なるように同時に迫ってくる。
ナディアの記憶は辛いことばかりではなくて、ゼウスと共に過ごした幸せな記憶もたくさんあった。
けれど、それらを受けたヴィクトリアは――――
ヴィクトリアが脳内を混乱させている間に、ナディアは地面に倒れた。
ナディアの目は完全に閉じていた。
「ナディアァァァァァぁぁぁっ!」
その直後、その場に劈くような男性の叫び声が響いた。
声の主は、それまで意識のないジュリアスの所にいたはずなのに、一瞬でナディアのそばに現れた。
その青年は、ジュリアスに良く似た容姿の、白金髪に灰色の瞳を持つ、美しすぎる人だった。
(確か、そう…… 彼こそがオリオンだ。これが彼の真の姿………… 本当の名前はシリウス・ブラッドレイで、ジュリアスの弟で、ナディアに求婚していて…………)
ヴィクトリアはシリウスに対して、悲しみと後悔が胸の中に押し寄せるのを感じていた。
ヴィクトリアは膨大なナディアの記憶の奔流を見せられて、ナディアと意識が一体化したような、そんな感覚に囚われていた。
魔法使いであるシリウスは、ナディアを胸に抱き起こすと治癒魔法を施し始めた。
二人から光が溢れて、光が収まった時には、ナディアが吐いた血や服に付いた胸からの出血の跡は消えていたが、彼女は目を覚まさない。
「ナディア! 嘘だ! ナディア!」
シリウスは何度も何度も治癒魔法をかけていたが、傷口や出血の跡は消えて身体は綺麗になっても、ナディアはピクリとも動かなかった。
「嘘だ! 嘘だ! 嫌だ! いやだァァァッ! ――――――――」
混乱の渦中にいるヴィクトリアも、かつて魔法書を読んでいた知識からその意味に気付いた。
シリウスの治癒魔法が効かなかったわけではない。ナディアの身体の傷は既に綺麗に治り、血で汚れていた純白のワンピースまで元の通りに戻っている。
けれど、ナディアは息を吹き返さない。心臓も止まったままだ。
ヴィクトリアは、まるでナディアの最期の命の迸《ほとばし》りのような、様々な情報を高速で頭の中に展開させられて、身動き一つ取れない状態だった。
それでも、自分を助けようと手を差し伸べてくれた少女の身の上に起こった悲劇については、理解した。
ナディアは、誰よりも愛していたはずの男に撃たれて、死んだ。
「姉様!」
「シドの死」という衝撃に打ちひしがれているヴィクトリアの耳に、一人の少女の声が届いた。
その声にハッと振り返ったヴィクトリアは、涙を流しながら彼女の名を呼んだ。
「ナディア!」
シドの娘でありヴィクトリアの義妹でもあるナディアが、この処刑場に現れた。
(ナディアだけでも生きていて良かった!)
ヴィクトリアたちは、元々はナディアを救出するためにこの場所へ来たのだ。
ナディアも、シドの死を受けて泣きながらこちらに走ってくる。ヴィクトリアはナディアに向かって手を伸ばした。しかし――――
一発の銃声が処刑場に響いた。
ヴィクトリアは目の前の光景が信じられずに目を見開く。
視界の先では、走りを止めたナディアの身体が傾いでいた。
――――ナディアは胸を銃弾で撃ち抜かれていた。
ナディアは倒れながらも、銃弾が飛んできた方向に視線を向けていた。
ナディアの視線の先には、銃を握りしめたまま驚愕の表情を見せる、金髪碧眼の美貌の銃騎士が立っていた。
(あの人は…………)
『何だ、お前はナディアの男じゃないか。匂いが薄いようだが別れたのか?』
金髪の青年を見つめるヴィクトリアの脳裏に、見たことのない光景が浮かび上がっていた。
なぜだかはわからないが、頭の中にそういうものが視える。
生きている時のシドの姿だ――――
その光景は、数日前に九番隊砦で起こった出来事の絵だった。
ヴィクトリアがレインと共にシドから逃げ出してしまった後の、シドと銃騎士隊員たちの攻防の一部分だ。
シドは金髪の青年がナディアの恋人だったと、そう言った。
シドと青年が戦っている過去の絵とは別に、ナディアのこれまでの人生の記憶が、怒涛のように脳内に流れ込んできた。
高速でそれらを視たヴィクトリアは、シドの過去の言葉だけではなくて、多くのことから青年の正体を知った。
ナディアを撃ったのは、彼女と恋人だったはずのこの青年――――銃騎士ゼウス・エヴァンズだ。
ゼウスは以前もナディアを裏切っていた。ここから遠い南の地で、彼女を斬り捨てたのだ。
それがゼウスのせいではなかったことはナディアの部屋で彼女自身から聞いていた。
しかし話に聞くのと実際の絵を見るのとでは大違いだった。
走馬灯の絵と共に、ナディアがその時感じた張り裂けそうな悲しみと絶望と喪失感、それから今現在、身の上に起こっている出来事に衝撃を受けているナディアの気持ちが、ヴィクトリアの心の中に重なるように同時に迫ってくる。
ナディアの記憶は辛いことばかりではなくて、ゼウスと共に過ごした幸せな記憶もたくさんあった。
けれど、それらを受けたヴィクトリアは――――
ヴィクトリアが脳内を混乱させている間に、ナディアは地面に倒れた。
ナディアの目は完全に閉じていた。
「ナディアァァァァァぁぁぁっ!」
その直後、その場に劈くような男性の叫び声が響いた。
声の主は、それまで意識のないジュリアスの所にいたはずなのに、一瞬でナディアのそばに現れた。
その青年は、ジュリアスに良く似た容姿の、白金髪に灰色の瞳を持つ、美しすぎる人だった。
(確か、そう…… 彼こそがオリオンだ。これが彼の真の姿………… 本当の名前はシリウス・ブラッドレイで、ジュリアスの弟で、ナディアに求婚していて…………)
ヴィクトリアはシリウスに対して、悲しみと後悔が胸の中に押し寄せるのを感じていた。
ヴィクトリアは膨大なナディアの記憶の奔流を見せられて、ナディアと意識が一体化したような、そんな感覚に囚われていた。
魔法使いであるシリウスは、ナディアを胸に抱き起こすと治癒魔法を施し始めた。
二人から光が溢れて、光が収まった時には、ナディアが吐いた血や服に付いた胸からの出血の跡は消えていたが、彼女は目を覚まさない。
「ナディア! 嘘だ! ナディア!」
シリウスは何度も何度も治癒魔法をかけていたが、傷口や出血の跡は消えて身体は綺麗になっても、ナディアはピクリとも動かなかった。
「嘘だ! 嘘だ! 嫌だ! いやだァァァッ! ――――――――」
混乱の渦中にいるヴィクトリアも、かつて魔法書を読んでいた知識からその意味に気付いた。
シリウスの治癒魔法が効かなかったわけではない。ナディアの身体の傷は既に綺麗に治り、血で汚れていた純白のワンピースまで元の通りに戻っている。
けれど、ナディアは息を吹き返さない。心臓も止まったままだ。
ヴィクトリアは、まるでナディアの最期の命の迸《ほとばし》りのような、様々な情報を高速で頭の中に展開させられて、身動き一つ取れない状態だった。
それでも、自分を助けようと手を差し伸べてくれた少女の身の上に起こった悲劇については、理解した。
ナディアは、誰よりも愛していたはずの男に撃たれて、死んだ。
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