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処刑場編
122 一瞬の煌めき
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注)ヒーロー死亡注意
***
これまでよりも大きな幾つもの空気の塊が、ヴィクトリアたちに向かって飛んでくる。
ヴィクトリアはその瞬間、死を覚悟した。
(そうか、私は…… シドと一緒に死ぬ運命だったのか――――)
空気の塊は大きすぎるため、塊同士でぶつかり合う。
そこで、不思議なことが起こった。
空気の塊はすぐにでもこちらに向かってきて自分たちを飲み込みそうだったのに、急にゆっくりとした速度に変わった。剣を携えたジュリアスがシドに向かって迫り来るが、その動きもひどく緩慢で――――
それを感じたヴィクトリアの脳裏に、昔読んだ魔法書の知識が浮かんだ。
確か、闇魔法とも呼ばれる重力魔法は――ジュリアスが生み出す空気の塊はまさにその重力魔法だと思うが――多用しすぎると、周囲の時間の流れを変えてしまうことがあると書いてあった。
周囲で起こる不思議な現象に合点がいったヴィクトリアの耳に、シドの声が聞こえた。
「ヴィクトリア、あの黒髪の男はやめておけ。選ぶならリュージュがいいな」
いきなり何を言い出すのかとシドを見返したヴィクトリアは、そこでハッとした。
シドは、これまで見たことがないような、とても穏やかな表情でヴィクトリアを見つめて、優しげに微笑んでいた。
(――――やめて、あなたがそんな顔するなんて、そんなの…………)
ヴィクトリアの心が警鐘を鳴らし始めた。
「リュージュはいい男だろ? 俺に似て」
シドがヴィクトリアに自分以外の他の男を勧めるようなことを言うはずがないのだ。これではまるで――――
声が出せないヴィクトリアはシドに何も言えない。けれどシドを案じるヴィクトリアの心は、確かにシドに伝わっていたと思う。
時間の流れが遅くなったのは、それでもほんの少しの間だけだった。
空気の塊の群れよりも近い位置に来ていたジュリアスの構える剣が、ヴィクトリアたちに襲い来る中、シドはヴィクトリアの身体を彼女が傷付かない力加減で押して、ジュリアスの刃の餌食になることを避けさせた。
ヴィクトリアが飛ばされたのは空気の塊に埋められていない、唯一といってもいい軌道上だった。
ヴィクトリアはシドのおかげで攻撃を免れた。
(シド!)
ヴィクトリアはシドに手を伸ばしたが、距離は離れていくばかりだった。
遂には、ヴィクトリアを見つめて微笑むシドの胸の中心部――心臓――に、ジュリアスが剣を突き立てた。
(シドっ!!)
ヴィクトリアは泣きながら叫んだが、声は出ない。
シドはジュリアスの攻撃を二人で避けることよりも、確実にヴィクトリアを生かす方法を選んだ。
さっきまで自分がいた場所に迫る空気の塊は、ジュリアスがシドを貫いた直後に消失した。
ジュリアスは元から、ヴィクトリアをシドと共に、あの空気の塊で殺すつもりはなかったようだ――――
時間の流れが完全に元に戻る。
(シド! シドっ!)
声は未だ出ない。ヴィクトリアは地面に倒れたが、受け身を取り怪我はしなかった。
暗闇の中を幾筋もの光が走った。辺りを見れば暗闇の壁が破れて薄れ、外の光が中に入り込み始めていた。
「――――シド!!」
今度の叫び声は声になってヴィクトリアの喉を揺らした。
視線の先では、シドの胸を貫く剣を握るジュリアスの身体が傾いでいた。
シドに攻撃されたわけではない。たぶん、数多くの空気の塊を一度に消すために魔力を使って、ジュリアスはそこで魔力切れを起こしてしまったのだろう。
ジュリアスが気絶したために、ヴィクトリアに掛けていた声が出なくなる魔法も同時に解けたようだった。
「シド! 死なないで! シドっ!」
(シドを助けなきゃ!)
走り出すために立ち上がろうとしたヴィクトリアの視界に、消えていく闇の壁の隙間から現れた、いかつい顔をした大柄な体躯の銃騎士の姿が見えた。
その大柄な体躯の銃騎士――三番隊長マクドナルド・オーキット――は、倒れ込むジュリアスの後を引き継ぐように、持っていた大剣を振るって――――
シドの首を、一刀両断に刎ねた。
「シドーーーーっ!」
シドの首と胴体が離れていく――――
周囲からは銃騎士たちの歓声が上がるが、ヴィクトリアは叫んで、その場に崩折れた。
流石のシドでも、こんなことになってしまったら、生きてはいないだろう。
(シドが、死んでしまった…………)
ヴィクトリアを守ろうとして、死んでしまった。
***
これまでよりも大きな幾つもの空気の塊が、ヴィクトリアたちに向かって飛んでくる。
ヴィクトリアはその瞬間、死を覚悟した。
(そうか、私は…… シドと一緒に死ぬ運命だったのか――――)
空気の塊は大きすぎるため、塊同士でぶつかり合う。
そこで、不思議なことが起こった。
空気の塊はすぐにでもこちらに向かってきて自分たちを飲み込みそうだったのに、急にゆっくりとした速度に変わった。剣を携えたジュリアスがシドに向かって迫り来るが、その動きもひどく緩慢で――――
それを感じたヴィクトリアの脳裏に、昔読んだ魔法書の知識が浮かんだ。
確か、闇魔法とも呼ばれる重力魔法は――ジュリアスが生み出す空気の塊はまさにその重力魔法だと思うが――多用しすぎると、周囲の時間の流れを変えてしまうことがあると書いてあった。
周囲で起こる不思議な現象に合点がいったヴィクトリアの耳に、シドの声が聞こえた。
「ヴィクトリア、あの黒髪の男はやめておけ。選ぶならリュージュがいいな」
いきなり何を言い出すのかとシドを見返したヴィクトリアは、そこでハッとした。
シドは、これまで見たことがないような、とても穏やかな表情でヴィクトリアを見つめて、優しげに微笑んでいた。
(――――やめて、あなたがそんな顔するなんて、そんなの…………)
ヴィクトリアの心が警鐘を鳴らし始めた。
「リュージュはいい男だろ? 俺に似て」
シドがヴィクトリアに自分以外の他の男を勧めるようなことを言うはずがないのだ。これではまるで――――
声が出せないヴィクトリアはシドに何も言えない。けれどシドを案じるヴィクトリアの心は、確かにシドに伝わっていたと思う。
時間の流れが遅くなったのは、それでもほんの少しの間だけだった。
空気の塊の群れよりも近い位置に来ていたジュリアスの構える剣が、ヴィクトリアたちに襲い来る中、シドはヴィクトリアの身体を彼女が傷付かない力加減で押して、ジュリアスの刃の餌食になることを避けさせた。
ヴィクトリアが飛ばされたのは空気の塊に埋められていない、唯一といってもいい軌道上だった。
ヴィクトリアはシドのおかげで攻撃を免れた。
(シド!)
ヴィクトリアはシドに手を伸ばしたが、距離は離れていくばかりだった。
遂には、ヴィクトリアを見つめて微笑むシドの胸の中心部――心臓――に、ジュリアスが剣を突き立てた。
(シドっ!!)
ヴィクトリアは泣きながら叫んだが、声は出ない。
シドはジュリアスの攻撃を二人で避けることよりも、確実にヴィクトリアを生かす方法を選んだ。
さっきまで自分がいた場所に迫る空気の塊は、ジュリアスがシドを貫いた直後に消失した。
ジュリアスは元から、ヴィクトリアをシドと共に、あの空気の塊で殺すつもりはなかったようだ――――
時間の流れが完全に元に戻る。
(シド! シドっ!)
声は未だ出ない。ヴィクトリアは地面に倒れたが、受け身を取り怪我はしなかった。
暗闇の中を幾筋もの光が走った。辺りを見れば暗闇の壁が破れて薄れ、外の光が中に入り込み始めていた。
「――――シド!!」
今度の叫び声は声になってヴィクトリアの喉を揺らした。
視線の先では、シドの胸を貫く剣を握るジュリアスの身体が傾いでいた。
シドに攻撃されたわけではない。たぶん、数多くの空気の塊を一度に消すために魔力を使って、ジュリアスはそこで魔力切れを起こしてしまったのだろう。
ジュリアスが気絶したために、ヴィクトリアに掛けていた声が出なくなる魔法も同時に解けたようだった。
「シド! 死なないで! シドっ!」
(シドを助けなきゃ!)
走り出すために立ち上がろうとしたヴィクトリアの視界に、消えていく闇の壁の隙間から現れた、いかつい顔をした大柄な体躯の銃騎士の姿が見えた。
その大柄な体躯の銃騎士――三番隊長マクドナルド・オーキット――は、倒れ込むジュリアスの後を引き継ぐように、持っていた大剣を振るって――――
シドの首を、一刀両断に刎ねた。
「シドーーーーっ!」
シドの首と胴体が離れていく――――
周囲からは銃騎士たちの歓声が上がるが、ヴィクトリアは叫んで、その場に崩折れた。
流石のシドでも、こんなことになってしまったら、生きてはいないだろう。
(シドが、死んでしまった…………)
ヴィクトリアを守ろうとして、死んでしまった。
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