獣人姫は逃げまくる~箱入りな魔性獣人姫は初恋の人と初彼と幼馴染と義父に手籠めにされかかって逃げたけどそのうちの一人と番になりました~ R18

鈴田在可

文字の大きさ
上 下
150 / 220
処刑場編

119 あんな男はやめておけ

しおりを挟む
注)欠損表現あり

***











 両腕を失くしたジュリアスはその後、圧縮された空気の塊のようなものをシドに向かって放つ魔法を使っていた。
 しかしそれらの攻撃魔法がすべてシドに難なく躱されてしまうと、攻撃魔法の種類を変えてきた。

(いえ、これは攻撃魔法なのかしら?)

 急にヴィクトリアは空気中におかしな匂いを感じ取るようになった。

 吸い込んだ息がピリピリと口の中を刺激するようになり、肺の中にまで不快な感覚が広がっていく――――

 ヴィクトリアは手で口元を抑えた。息を止めようとしたが、長く止めているのは困難だ。
 その不快な空気を吸っているうちに、ヴィクトリアは身体に軽い違和感を感じた。身体が動かしにくくなり、おまけにそれまでなかった眠気にも襲われた。

 これはもしかして、「毒」なのではないかとヴィクトリアは思った。

(魔法で空気中に意識を失うような神経毒を混ぜている…………)

 躊躇いがちに少し息を吸う度に肺や気道に刺激と違和感を感じるが、徐々に感覚が薄くなっていくのが恐ろしい。

 シドが動く。神経毒はまだこの閉ざされた空間の中に広がり切っていないようで、匂いでまともな空気のある場所を探し当てたシドに、暗闇の端まで連れて行かれた。

 神経毒が含まれていない場所で一旦息を整えるが、それもしばらくの間だけだ。

(この空間の中に神経毒が充満してしまって、その後寝てしまったら、どうなるのかしら…………)

「お前のために随分とぬるい殺し方を選ぶもんだな」

(私のため?)

「お前を苦しませないために、意識を失わせた後に本気を出して俺たち二人とも殺すつもりなんだろう。まあ、俺にはこの程度の毒なら効かんがな」

 確かに、ヴィクトリアが作った協力な痺れ薬も、シドには効いていなかった。

(流石は最強生物)

「死ぬ前に一発ヤっとくか?」

 まだ何も成してないのに死にたくないと焦るヴィクトリアを抱きしめたまま、シドが彼女の眼前に顔を寄せてそんなことを言うものだから、ヴィクトリアは混乱した。

(生きる死ぬかのこんな時に何を言ってるのよ!)

「あいつは妙な術を使うからな。戦術次第では俺も死ぬかもしれん」

 まるで他人事のようにそう言ってから、シドが唇を寄せてきたので、ヴィクトリアは全身に鳥肌を立てた。

 しかし唇同士の接触直前にジュリアスが放った重い空気の塊が飛んできて、シドがそれを避ける動きをしたため、あわやの所で接吻キスは免れた。

 もしシドとしていたら四人目だった。ヴィクトリアの脳裏にはこれまでの三人との場面がちらついてしまったが、ヴィクトリアとしてはレイン以外とはしたくなかった。

 ジュリアスが休むことなく立て続けに攻撃を仕掛けてくる。空気の塊が壁に当たって派手な音を立てていた。
 先程から何度か外にいる人たちの声が聞こえるが、このように激しい戦いの中では何を言っているのか聞こえないことも多かった。

「お前は人気者だな。妬ける」

 どうやらまた脳内で何を考えているのか読まれたらしく、攻撃を避けながらシドが、チッ、と舌打ちをした。

 次の瞬間にはその舌が口内にねじ込まれていてヴィクトリアはびっくりする。

 あまりのことにヴィクトリアは一瞬だけ気が遠くなってから元に戻ってきた。

「……! ……!」

 ヴィクトリアはやめるようにと唸り声を上げたかったが、声は出なかった。

(ずっとされないように頑張ってきたのに何てこと!)

 シドは母のオリヴィアと接吻やそれ以上もしている。母と関係した人とするのはやはり――――

 シドの口からはジュリアスの血の匂いがした。常識を破壊してくるシドの行為に頭が真っ白になっていたヴィクトリアだったが、シドが巧みな舌遣いでヴィクトリアの口内を蹂躙していたのは、ほんの少しの間だけだった。

 シドはヴィクトリアの肺に息を送り込んでいた。

 気付けば辺りは神経毒の空気で満ちていて、ジュリアスに屈したくなかったヴィクトリアの気持ちを汲んでくれたのか、シドは少しでも意識がなくなる時間を遅らせようとしてくれたようだった。

 それでもシドの腕の中で徐々に意識を失いそうになっていたヴィクトリアは、急に辺りから神経毒の匂いが消えたことに気付いて、何とか寝ないようにと自分を保った。

 ジュリアスが魔法攻撃を仕掛けているのは変わらないが、彼はなぜだか神経毒を周囲から消し去っていた。

 もしかしたらジュリアスはヴィクトリアを殺すことを取り止めにしたのではないかと、彼女は期待した。

「ヴィクトリア、これが終わったらすぐ俺の番になれ」

 シドもジュリアスの考えの変化を感じ取ったのか、先の話を口にする。

 ただ、「なってくれ」じゃなくて「なれ」という命令形を使うのがシドだった。問答無用なのである。

(私は…… レインがいい…………)

「あの黒髪か。あんな男はやめておけ。お前を愛しながらも同時に憎んでいる。 ――――俺に似てるな」

 シドの最後の言葉だけは、ジュリアスの攻撃魔法の音でよく聞こえなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

三年間片思いしていた同級生に振られたら、年上の綺麗なお姉さんにロックオンされた話

羽瀬川ルフレ
恋愛
 高校三年間、ずっと一人の女の子に片思いをしていた主人公・汐見颯太は、高校卒業を目前にして片思いの相手である同級生の神戸花音に二回目の告白をする。しかし、花音の答えは二年前と同じく「ごめんなさい」。  今回の告白もうまくいかなかったら今度こそ花音のことを諦めるつもりだった颯太は、今度こそ彼女に対する未練を完全に断ち切ることにする。  そして数か月後、大学生になった颯太は人生初のアルバイトもはじめ、充実した毎日を過ごしていた。そんな彼はアルバイト先で出会った常連客の大鳥居彩華と少しずつ仲良くなり、いつの間にか九歳も年上の彩華を恋愛対象として意識し始めていた。  自分なんかを相手にしてくれるはずがないと思いながらもダメ元で彩華をデートに誘ってみた颯太は、意外にもあっさりとOKの返事をもらって嬉しさに舞い上がる。  楽しかった彩華との初デートが終わり、いよいよ彩華への正式な告白のタイミングを検討しはじめた颯太のところに、予想外の人物からのメッセージが届いていた。メッセージの送り主は颯太と同じ大学に進学したものの、ほとんど顔を合わせることもなくなっていた花音だった。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

【完】瓶底メガネの聖女様

らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。 傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。 実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。 そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。

処理中です...