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処刑場編
119 あんな男はやめておけ
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注)欠損表現あり
***
両腕を失くしたジュリアスはその後、圧縮された空気の塊のようなものをシドに向かって放つ魔法を使っていた。
しかしそれらの攻撃魔法がすべてシドに難なく躱されてしまうと、攻撃魔法の種類を変えてきた。
(いえ、これは攻撃魔法なのかしら?)
急にヴィクトリアは空気中におかしな匂いを感じ取るようになった。
吸い込んだ息がピリピリと口の中を刺激するようになり、肺の中にまで不快な感覚が広がっていく――――
ヴィクトリアは手で口元を抑えた。息を止めようとしたが、長く止めているのは困難だ。
その不快な空気を吸っているうちに、ヴィクトリアは身体に軽い違和感を感じた。身体が動かしにくくなり、おまけにそれまでなかった眠気にも襲われた。
これはもしかして、「毒」なのではないかとヴィクトリアは思った。
(魔法で空気中に意識を失うような神経毒を混ぜている…………)
躊躇いがちに少し息を吸う度に肺や気道に刺激と違和感を感じるが、徐々に感覚が薄くなっていくのが恐ろしい。
シドが動く。神経毒はまだこの閉ざされた空間の中に広がり切っていないようで、匂いでまともな空気のある場所を探し当てたシドに、暗闇の端まで連れて行かれた。
神経毒が含まれていない場所で一旦息を整えるが、それもしばらくの間だけだ。
(この空間の中に神経毒が充満してしまって、その後寝てしまったら、どうなるのかしら…………)
「お前のために随分とぬるい殺し方を選ぶもんだな」
(私のため?)
「お前を苦しませないために、意識を失わせた後に本気を出して俺たち二人とも殺すつもりなんだろう。まあ、俺にはこの程度の毒なら効かんがな」
確かに、ヴィクトリアが作った協力な痺れ薬も、シドには効いていなかった。
(流石は最強生物)
「死ぬ前に一発ヤっとくか?」
まだ何も成してないのに死にたくないと焦るヴィクトリアを抱きしめたまま、シドが彼女の眼前に顔を寄せてそんなことを言うものだから、ヴィクトリアは混乱した。
(生きる死ぬかのこんな時に何を言ってるのよ!)
「あいつは妙な術を使うからな。戦術次第では俺も死ぬかもしれん」
まるで他人事のようにそう言ってから、シドが唇を寄せてきたので、ヴィクトリアは全身に鳥肌を立てた。
しかし唇同士の接触直前にジュリアスが放った重い空気の塊が飛んできて、シドがそれを避ける動きをしたため、あわやの所で接吻は免れた。
もしシドとしていたら四人目だった。ヴィクトリアの脳裏にはこれまでの三人との場面がちらついてしまったが、ヴィクトリアとしてはレイン以外とはしたくなかった。
ジュリアスが休むことなく立て続けに攻撃を仕掛けてくる。空気の塊が壁に当たって派手な音を立てていた。
先程から何度か外にいる人たちの声が聞こえるが、このように激しい戦いの中では何を言っているのか聞こえないことも多かった。
「お前は人気者だな。妬ける」
どうやらまた脳内で何を考えているのか読まれたらしく、攻撃を避けながらシドが、チッ、と舌打ちをした。
次の瞬間にはその舌が口内にねじ込まれていてヴィクトリアはびっくりする。
あまりのことにヴィクトリアは一瞬だけ気が遠くなってから元に戻ってきた。
「……! ……!」
ヴィクトリアはやめるようにと唸り声を上げたかったが、声は出なかった。
(ずっとされないように頑張ってきたのに何てこと!)
シドは母のオリヴィアと接吻やそれ以上もしている。母と関係した人とするのはやはり――――
シドの口からはジュリアスの血の匂いがした。常識を破壊してくるシドの行為に頭が真っ白になっていたヴィクトリアだったが、シドが巧みな舌遣いでヴィクトリアの口内を蹂躙していたのは、ほんの少しの間だけだった。
シドはヴィクトリアの肺に息を送り込んでいた。
気付けば辺りは神経毒の空気で満ちていて、ジュリアスに屈したくなかったヴィクトリアの気持ちを汲んでくれたのか、シドは少しでも意識がなくなる時間を遅らせようとしてくれたようだった。
それでもシドの腕の中で徐々に意識を失いそうになっていたヴィクトリアは、急に辺りから神経毒の匂いが消えたことに気付いて、何とか寝ないようにと自分を保った。
ジュリアスが魔法攻撃を仕掛けているのは変わらないが、彼はなぜだか神経毒を周囲から消し去っていた。
もしかしたらジュリアスはヴィクトリアを殺すことを取り止めにしたのではないかと、彼女は期待した。
「ヴィクトリア、これが終わったらすぐ俺の番になれ」
シドもジュリアスの考えの変化を感じ取ったのか、先の話を口にする。
ただ、「なってくれ」じゃなくて「なれ」という命令形を使うのがシドだった。問答無用なのである。
(私は…… レインがいい…………)
「あの黒髪か。あんな男はやめておけ。お前を愛しながらも同時に憎んでいる。 ――――俺に似てるな」
シドの最後の言葉だけは、ジュリアスの攻撃魔法の音でよく聞こえなかった。
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両腕を失くしたジュリアスはその後、圧縮された空気の塊のようなものをシドに向かって放つ魔法を使っていた。
しかしそれらの攻撃魔法がすべてシドに難なく躱されてしまうと、攻撃魔法の種類を変えてきた。
(いえ、これは攻撃魔法なのかしら?)
急にヴィクトリアは空気中におかしな匂いを感じ取るようになった。
吸い込んだ息がピリピリと口の中を刺激するようになり、肺の中にまで不快な感覚が広がっていく――――
ヴィクトリアは手で口元を抑えた。息を止めようとしたが、長く止めているのは困難だ。
その不快な空気を吸っているうちに、ヴィクトリアは身体に軽い違和感を感じた。身体が動かしにくくなり、おまけにそれまでなかった眠気にも襲われた。
これはもしかして、「毒」なのではないかとヴィクトリアは思った。
(魔法で空気中に意識を失うような神経毒を混ぜている…………)
躊躇いがちに少し息を吸う度に肺や気道に刺激と違和感を感じるが、徐々に感覚が薄くなっていくのが恐ろしい。
シドが動く。神経毒はまだこの閉ざされた空間の中に広がり切っていないようで、匂いでまともな空気のある場所を探し当てたシドに、暗闇の端まで連れて行かれた。
神経毒が含まれていない場所で一旦息を整えるが、それもしばらくの間だけだ。
(この空間の中に神経毒が充満してしまって、その後寝てしまったら、どうなるのかしら…………)
「お前のために随分とぬるい殺し方を選ぶもんだな」
(私のため?)
「お前を苦しませないために、意識を失わせた後に本気を出して俺たち二人とも殺すつもりなんだろう。まあ、俺にはこの程度の毒なら効かんがな」
確かに、ヴィクトリアが作った協力な痺れ薬も、シドには効いていなかった。
(流石は最強生物)
「死ぬ前に一発ヤっとくか?」
まだ何も成してないのに死にたくないと焦るヴィクトリアを抱きしめたまま、シドが彼女の眼前に顔を寄せてそんなことを言うものだから、ヴィクトリアは混乱した。
(生きる死ぬかのこんな時に何を言ってるのよ!)
「あいつは妙な術を使うからな。戦術次第では俺も死ぬかもしれん」
まるで他人事のようにそう言ってから、シドが唇を寄せてきたので、ヴィクトリアは全身に鳥肌を立てた。
しかし唇同士の接触直前にジュリアスが放った重い空気の塊が飛んできて、シドがそれを避ける動きをしたため、あわやの所で接吻は免れた。
もしシドとしていたら四人目だった。ヴィクトリアの脳裏にはこれまでの三人との場面がちらついてしまったが、ヴィクトリアとしてはレイン以外とはしたくなかった。
ジュリアスが休むことなく立て続けに攻撃を仕掛けてくる。空気の塊が壁に当たって派手な音を立てていた。
先程から何度か外にいる人たちの声が聞こえるが、このように激しい戦いの中では何を言っているのか聞こえないことも多かった。
「お前は人気者だな。妬ける」
どうやらまた脳内で何を考えているのか読まれたらしく、攻撃を避けながらシドが、チッ、と舌打ちをした。
次の瞬間にはその舌が口内にねじ込まれていてヴィクトリアはびっくりする。
あまりのことにヴィクトリアは一瞬だけ気が遠くなってから元に戻ってきた。
「……! ……!」
ヴィクトリアはやめるようにと唸り声を上げたかったが、声は出なかった。
(ずっとされないように頑張ってきたのに何てこと!)
シドは母のオリヴィアと接吻やそれ以上もしている。母と関係した人とするのはやはり――――
シドの口からはジュリアスの血の匂いがした。常識を破壊してくるシドの行為に頭が真っ白になっていたヴィクトリアだったが、シドが巧みな舌遣いでヴィクトリアの口内を蹂躙していたのは、ほんの少しの間だけだった。
シドはヴィクトリアの肺に息を送り込んでいた。
気付けば辺りは神経毒の空気で満ちていて、ジュリアスに屈したくなかったヴィクトリアの気持ちを汲んでくれたのか、シドは少しでも意識がなくなる時間を遅らせようとしてくれたようだった。
それでもシドの腕の中で徐々に意識を失いそうになっていたヴィクトリアは、急に辺りから神経毒の匂いが消えたことに気付いて、何とか寝ないようにと自分を保った。
ジュリアスが魔法攻撃を仕掛けているのは変わらないが、彼はなぜだか神経毒を周囲から消し去っていた。
もしかしたらジュリアスはヴィクトリアを殺すことを取り止めにしたのではないかと、彼女は期待した。
「ヴィクトリア、これが終わったらすぐ俺の番になれ」
シドもジュリアスの考えの変化を感じ取ったのか、先の話を口にする。
ただ、「なってくれ」じゃなくて「なれ」という命令形を使うのがシドだった。問答無用なのである。
(私は…… レインがいい…………)
「あの黒髪か。あんな男はやめておけ。お前を愛しながらも同時に憎んでいる。 ――――俺に似てるな」
シドの最後の言葉だけは、ジュリアスの攻撃魔法の音でよく聞こえなかった。
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