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処刑場編
113 頼みの綱(ノエル視点)
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長兄ジュリアスが、自身が作り出した闇の中に獣人姫ヴィクトリアと共に入ったことに、ノエルはすぐに気付いた。
「兄さん! 何をするつもりですか!」
ノエルは暗闇の中にいるジュリアスに向かって叫ぶが、当然のように返事はない。
本当は精神感応を使って脳内に直接呼びかけたい所ではあるが、長兄の使ったこの魔法は外側からの魔法の干渉が一切不可能だ。物理的に声をかけた方がまだ聞こえているはずだ。
透視の魔法で闇空間の中を探ると、ヴィクトリアは既にジュリアスの手からシドに奪われていた。
(兄さんはヴィクトリアをシドに渡して一体何がしたいのか……)
嫌な予感しかしない。
「ノエル」
始まってしまったジュリアスとシドとの戦いをハラハラしながら見ていると、未だ意識の戻らないセシルを抱えた父アークが近付いてきた。
「鳥を使ってシリウスを探せ。このままではジュリアスが死ぬと言って必ず呼び戻すんだ」
アークは抱きかかえていたセシルをそのままの状態でノエルの腕に委ねながら、ノエルに長兄の死を予期する言葉を語った。
「わかりました」
ノエルは深刻な顔のままでアークに了承の意を返した。
暗闇の中での戦いは互角のように思えるが、ヴィクトリアを抱えたままのシドは、片腕一本しか使っていない。
シドが本気を出したら、いくら兄弟の中では一番の戦闘技術の高さを誇る長兄でも、流石に命が危ぶまれる。
ただ、不思議なことにジュリアスはシドとの戦闘が始まってから攻撃魔法の類を一度も使っていない。
シドの気が変わらずに腕一本だけで戦っている間に、魔法も使って剣術で押していけばあるいは勝てる可能性も出てくる気がしたが、ジュリアスはそうしない。
ノエルは兄の考えに気付いていた。おそらく最初はヴィクトリアを使ってシドの動きを封じさせた状態で、殺傷能力の高い魔法も使って一気にシドの息の根を止めてしまうつもりだったのだろう。
だがそれではヴィクトリアも巻き込まれて一緒に死ぬ可能性が高い。非情な部分もあるはずの兄は、土壇場で非情になりきれなかったようだ。
勝算がないならひとまず暗闇から出て別の作戦を立てればいいのに、そうしないのはジュリアス自身も意固地になっている部分もあるのかもしれない。
ひょっとすると、最終的には自滅するのも覚悟の上で、シドが確実に死ぬような強力な魔法を暗黒の空間内に展開させるつもりなのではないかと思った。
直前でヴィクトリアを外に出せば、死ぬのはジュリアスとシドだけだ。
(そんなことはさせたくない)
いつもの長兄らしくもなく冷静さに欠けた行動をするのは、次兄シリウスがいないからだ。
シリウスが戻ってきてくれさえすれば、事態は好転していくはずだとノエルは思った。
「父さんは?」
札を取り出して鳥に作り変えているノエルから視線を外し、何かを探すように処刑場広場を見渡しているアークに、ノエルは声をかけた。
「俺は、キャンベル…… フィオナを起こしに行ってくる」
アークが口にしたのは、ジュリアスの婚約者であり恋人である、伯爵令嬢フィオナ・キャンベルの名前だった。
「兄さん! 何をするつもりですか!」
ノエルは暗闇の中にいるジュリアスに向かって叫ぶが、当然のように返事はない。
本当は精神感応を使って脳内に直接呼びかけたい所ではあるが、長兄の使ったこの魔法は外側からの魔法の干渉が一切不可能だ。物理的に声をかけた方がまだ聞こえているはずだ。
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嫌な予感しかしない。
「ノエル」
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「鳥を使ってシリウスを探せ。このままではジュリアスが死ぬと言って必ず呼び戻すんだ」
アークは抱きかかえていたセシルをそのままの状態でノエルの腕に委ねながら、ノエルに長兄の死を予期する言葉を語った。
「わかりました」
ノエルは深刻な顔のままでアークに了承の意を返した。
暗闇の中での戦いは互角のように思えるが、ヴィクトリアを抱えたままのシドは、片腕一本しか使っていない。
シドが本気を出したら、いくら兄弟の中では一番の戦闘技術の高さを誇る長兄でも、流石に命が危ぶまれる。
ただ、不思議なことにジュリアスはシドとの戦闘が始まってから攻撃魔法の類を一度も使っていない。
シドの気が変わらずに腕一本だけで戦っている間に、魔法も使って剣術で押していけばあるいは勝てる可能性も出てくる気がしたが、ジュリアスはそうしない。
ノエルは兄の考えに気付いていた。おそらく最初はヴィクトリアを使ってシドの動きを封じさせた状態で、殺傷能力の高い魔法も使って一気にシドの息の根を止めてしまうつもりだったのだろう。
だがそれではヴィクトリアも巻き込まれて一緒に死ぬ可能性が高い。非情な部分もあるはずの兄は、土壇場で非情になりきれなかったようだ。
勝算がないならひとまず暗闇から出て別の作戦を立てればいいのに、そうしないのはジュリアス自身も意固地になっている部分もあるのかもしれない。
ひょっとすると、最終的には自滅するのも覚悟の上で、シドが確実に死ぬような強力な魔法を暗黒の空間内に展開させるつもりなのではないかと思った。
直前でヴィクトリアを外に出せば、死ぬのはジュリアスとシドだけだ。
(そんなことはさせたくない)
いつもの長兄らしくもなく冷静さに欠けた行動をするのは、次兄シリウスがいないからだ。
シリウスが戻ってきてくれさえすれば、事態は好転していくはずだとノエルは思った。
「父さんは?」
札を取り出して鳥に作り変えているノエルから視線を外し、何かを探すように処刑場広場を見渡しているアークに、ノエルは声をかけた。
「俺は、キャンベル…… フィオナを起こしに行ってくる」
アークが口にしたのは、ジュリアスの婚約者であり恋人である、伯爵令嬢フィオナ・キャンベルの名前だった。
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