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処刑場編

108 不測の事態 2(ヴィクトリア視点→三人称)

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 数発の銃弾がロータスの身体に命中していた。

 最初、弾はカナリアを狙って飛んで来ていて、寸前で間に合ったロータスがカナリアを守るように腕の中に抱き込んで、庇ったのだ。

 再び銃撃が襲い来るが、マグノリアが二人の周囲にかけたシールドの魔法により跳ね返される。

(どこから狙ってるの?!)

 数度二人を狙って銃撃が打ち込まれる。その度に魔法で跳ね返されていたが、匂いを辿れば誰が撃ったのかわかるはずなのに、銃弾は空中に突然出現していて、狙撃手を探せない。

(もしかして、この銃撃は魔法によるもの?!)

 ――――治癒魔法! 転移魔法!

 マグノリアは走りながら、ロータスに向かってありったけの治癒魔法をかけた。体内に残っていた銃弾を消滅させて傷が治ったのを確認した後、すぐに転移魔法で二人を安全な場所まで飛ばす。

 魔法の使用を勘付かれたとしてもそれを気にしている場合ではなかった。

 マグノリアは全力で夫と娘を救って――――そこで限界が来てしまった。

「マグっ!」

 ヴィクトリアは偽名を使う取り決めも忘れてマグノリアの名を叫んでいた。

 走っていたマグノリアが膝からガクリと崩れ落ちるようにして倒れ込む。金髪だった髪色が黒に戻り、長い髪が空中で揺れていた。

「マグ! マグっ!」

 マグノリアが地面に落ちる寸前でヴィクトリアの腕が間に合ったので、マグノリアが身体を強く地面に打ちつけることにはならなかったが、呼びかけても彼女は目を開けない。

 マグノリアは気絶していた。

(これは、魔力切れ…………)

 魔力が足りなくなった時のために用意していた札はまだあったはずだが、家族の命が掛かった場面で常になく焦ったのか、それを取り出す余裕もなかったのだろう。

 魔法で変わっていたマグノリアの髪色も容貌も、全てが元の通りに戻っている。

 つまり、ヴィクトリアの今の容姿も、元の姿に戻ってしまっている――――

 視界の端で、ナディアに切り揃えてもらって短くなった自分の銀髪が見えた。

 ヴィクトリアたちの変化を見て周りの観客たちがざわめいている。軍隊靴の硬い靴音が幾つか聞こえてきて、マグノリアを腕に抱え座り込むヴィクトリアの周囲を、複数の銃騎士たちが取り囲んだ。

 彼らは一様に、銃口をヴィクトリアに向けている。

 銃騎士隊員で獣人姫ヴィクトリアの容姿を知らない者はいない。





******





 近くにいた銃騎士隊員以外でも、出現したヴィクトリアとマグノリアの元の姿を見て、反応する者たちがいた。





「ヴィクトリア!」

 レインは元に戻ったヴィクトリアの姿を見るなり、彼女に向かって一目散に走り出していた。





「マグナ……」

 処刑場に連れてくるまでシドの近くにいた、魔法使い兼ハンターのノエルは、会場に到着するなり兄たちとは分かれて観客席に移動していたが、の窮地に気付いて、急いでその場に向かい始めた。





 そしてもう一人――――――

 十字の柱に張り付けにされたまま、まるで眠っているかのようにそれまで瞳を閉じ続けていたシドが、瞼を開けた。

 血のような色をした赤い瞳があらわになる。

 シドはカチャリと金属の鎖が触れ合う音をさせて首を動かし、ヴィクトリアがいる方向へと視線をやった。
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