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レインハッピーエンド 愛憎を超えて
11 結婚(レイン視点→ヴィクトリア視点)
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眼前の広い牧場には羊の群れと、ヴィクトリアと、桃色の髪の女児がいる。
女児は羊と戯れるよりも、ヴィクトリアにべったりと引っ付いて、眩しいものを見るようなキラキラとした視線を彼女に向けている。
「……姿替えの魔法は解くなと言ったのに…………」
レインはヴィクトリアと女児を見るなり、不服そうな声で呟いた。
「別にいいじゃないか。ここの牧場は広いし、道からも離れてるから遠くて顔の造形なんてたぶんわからないぞ」
と、隣の赤髪の男が桃色髪の女児と似たりよったりな表情でにやけて言いながらヴィクトリアを見ているので、レインは見てわかるほどにイライラしていた。
赤髪の男はレインの親友であり、銃騎士隊三番隊の絶対的エースから異国の牧場主に転職した、アスター・グレイコールその人だった。
レインとヴィクトリアはノエルが用意してくれていた隠れ家からは既に出ている。
ヴィクトリアと身体を重ねた後も、二人はしばらく隠れ家で暮らしていて、ヴィクトリアはその間に魔法書を読み込んで勉強をしたり、ノエルや様子を見に来た聖女マグノリアに教えを請うたりしながら、魔力の制御法を身に付けていた。
それから、ジュリアスやノエルたちがヴィクトリアを殺さないようにと隊長を説得したらしく、今の所アークはヴィクトリアを殺すことはしないと言ったそうだ。
ただ、「今の所」というのがアークの曲者具合を表している。
アーク曰く、「再び負の感情を爆発させるようなことがあれば、また同じことが起こる可能性もなくはない」とのことで、もしヴィクトリアがひとたび魔力暴走を引き起こせば、殺処分するという意味を含むようだ。
その件に関してはヴィクトリアも反省しなければいけないと思っている様子で、魔力暴走なんて恐ろしい事態は起こさないようにしたいと言っていた。
レインは、結婚の手続きや故郷への墓参りをするために一度国に戻り、それから新婚旅行をしたいと考えていてたが、「レインの親友に会ってみたい」というヴィクトリアの希望を受けて、先に帰国の道程にあるアスターの元を訪ねていた。
新婚旅行は、一度でいいから世界各国を見てみたいというヴィクトリアの希望を汲んで世界を周遊するつもりだったが、レインはアスターに会うのなんかその時のついでというか後回しにしておけばよかったと思っていた。
アスターはヴィクトリアを見るなり、驚いたような表情で彼女の美しすぎる顔を五度見くらいしていたのだ。
(俺とアスターの女の趣味は似てるからな……!)
面識を持たせようとそのままの姿で会わせたのが間違いだった。レインはすぐにヴィクトリアに姿替えの魔法を使うように言ったが、以降、アスターとその娘セレス――桃色の髪の女児――はヴィクトリアを気に入ってしまい、何やかんやと理由をつけられては滞在を伸ばされていた。
「もういい加減、明日にでも俺たちはここを発つ!」
「まだいいじゃないか。三日後の祭りにセレスと行きたいって言ってたのに、行かせずに無理矢理連れ出したら嫌われるぞ」
こんな感じで、親譲りの商人魂のなせる技かなんなのか、理由を捻り出されては粘り勝ちされる。レインはアスターを睨んだ。
「お前だって他の女に鼻の下伸ばしてると、嫁に愛想尽かされるぞ」
「…………嫁じゃない」
アスターはセレスの母親と共に暮らしているが、まだ男女関係はないらしい。
「アテナはノエルと結婚したしそのうち子供も生まれるから、お前の出る幕なんかないぞ」
「ううっ」
イライラしていたレインは、未だ消化できていないだろうアスターの失恋の傷を容赦なく抉りに行ったが、かなりの攻撃力があったらしい。
アスターは呻いた後に涙目になっていた。
ちょっとやりすぎたかなと思ったレインは、先に卒業できた先輩として、未だ童貞を貫くアスターを元気付けようと、「お前ももうそろそろ幸せになれよ」と言って慰めた。
******
予定よりかなり滞在日数が伸びてしまったが、名残惜しそうなアスターやセレスたちと別れ、ヴィクトリアたちは今度こそ転移魔法を駆使して国に帰った。
結婚についてはノエルが連絡係になってくれて、新しい戸籍を作る件などをレインとジュリアスがやり取りをしていたらしく、首都に着くなりわりとすんなり結婚できた。
レインは銃騎士を辞めるようだが、何かあったら頼ってほしいし、こちらも困ったことがあったら助けてほしいとジュリアスには要請された。
一歩間違えばジュリアスに殺されていたし、シドを殺した人でもあるが、辛い時に支えになってくれたこの人をヴィクトリアは嫌いになりきることができず、彼の謝罪も協力関係の提案も全て受け入れることにした。
婚姻が済んだあとは、レインの故郷へ行ってお墓参りをする予定だ。
ヴィクトリアはレインの故郷に転移用の魔法陣を設置するつもりだった。そうしておけば、レインが墓参りをしたいと思った時はいつでも戻ることができる。
その後は、国外への新婚旅行に出かける。
これから先自分たちにどんな新しいことが待っているのかと思えば、気分は弾んだ。
ヴィクトリアの母オリヴィアは、シドに囚われる前は番――ヴィクトリアの実父――と共に商人として世界各地を巡っていたそうだ。幼い頃に外国での様々な話を聞かされていたヴィクトリアは、そこに実際に行ってみるのがずっと夢だった。
シドに行動を制限されていた頃は、外国を旅するなんて夢のまた夢だったが、今ならレインと一緒にどこへでも行ける。
ただし、たった一箇所だけ、ヴィクトリアが訪れることが憚られる場所があった。
それがシドの墓だった。
聞いた話によると、シドの死に場所となった処刑場は――主にヴィクトリアが魔力暴走をしかけたせいらしいが――損傷が激しく、直して処刑場として再び使用するよりも、そのままシドの墓場にでもして獣人王を屠り平和に一歩近付けた象徴のような場所にしてはどうか、ということになったらしい。
あの時はヴィクトリア以外にもブラッドレイ家の者たちの魔法を多くの人が見ていたはずだが、なぜか、「その全ては実は生きていた聖女マグノリアが起こした奇跡である」ということにされていて、マグノリアの父親が興した新興宗教の信者たちをも巻き込んで、今首都ではマグノリア・ラペンツ男爵令嬢のことが騒がれまくっているようだった。
それについてはとてつもなく迷惑だし不本意極まりない、というようなことは隠れ家で会った時に本人が溢していた。
現在、元処刑場広場はシドに恨みを募らせた者たちが毎日のように訪れていて、仇討ちのように剣などの刃物の類を突き立てて行く行為が後を絶たないらしい。
そこでは地面がびっしりと剣で埋め尽くされる物凄い光景が広がっているそうで、ヴィクトリアはそのことを初めて聞いた時に、墓参りも兼ねて見に行きたいと言いかけたが、ヴィクトリアが何か発言する前にレインが、
「行かないよ」
と、冷たい顔と声音ですげなく却下したため、一度も行っていない。
レインはヴィクトリアのことは許せても、シドのことだけは絶対にどうしても許せないのだろうと思う。
たぶん、ヴィクトリアがシドの墓参りをすることだけは、一生無いだろうなと思った。
女児は羊と戯れるよりも、ヴィクトリアにべったりと引っ付いて、眩しいものを見るようなキラキラとした視線を彼女に向けている。
「……姿替えの魔法は解くなと言ったのに…………」
レインはヴィクトリアと女児を見るなり、不服そうな声で呟いた。
「別にいいじゃないか。ここの牧場は広いし、道からも離れてるから遠くて顔の造形なんてたぶんわからないぞ」
と、隣の赤髪の男が桃色髪の女児と似たりよったりな表情でにやけて言いながらヴィクトリアを見ているので、レインは見てわかるほどにイライラしていた。
赤髪の男はレインの親友であり、銃騎士隊三番隊の絶対的エースから異国の牧場主に転職した、アスター・グレイコールその人だった。
レインとヴィクトリアはノエルが用意してくれていた隠れ家からは既に出ている。
ヴィクトリアと身体を重ねた後も、二人はしばらく隠れ家で暮らしていて、ヴィクトリアはその間に魔法書を読み込んで勉強をしたり、ノエルや様子を見に来た聖女マグノリアに教えを請うたりしながら、魔力の制御法を身に付けていた。
それから、ジュリアスやノエルたちがヴィクトリアを殺さないようにと隊長を説得したらしく、今の所アークはヴィクトリアを殺すことはしないと言ったそうだ。
ただ、「今の所」というのがアークの曲者具合を表している。
アーク曰く、「再び負の感情を爆発させるようなことがあれば、また同じことが起こる可能性もなくはない」とのことで、もしヴィクトリアがひとたび魔力暴走を引き起こせば、殺処分するという意味を含むようだ。
その件に関してはヴィクトリアも反省しなければいけないと思っている様子で、魔力暴走なんて恐ろしい事態は起こさないようにしたいと言っていた。
レインは、結婚の手続きや故郷への墓参りをするために一度国に戻り、それから新婚旅行をしたいと考えていてたが、「レインの親友に会ってみたい」というヴィクトリアの希望を受けて、先に帰国の道程にあるアスターの元を訪ねていた。
新婚旅行は、一度でいいから世界各国を見てみたいというヴィクトリアの希望を汲んで世界を周遊するつもりだったが、レインはアスターに会うのなんかその時のついでというか後回しにしておけばよかったと思っていた。
アスターはヴィクトリアを見るなり、驚いたような表情で彼女の美しすぎる顔を五度見くらいしていたのだ。
(俺とアスターの女の趣味は似てるからな……!)
面識を持たせようとそのままの姿で会わせたのが間違いだった。レインはすぐにヴィクトリアに姿替えの魔法を使うように言ったが、以降、アスターとその娘セレス――桃色の髪の女児――はヴィクトリアを気に入ってしまい、何やかんやと理由をつけられては滞在を伸ばされていた。
「もういい加減、明日にでも俺たちはここを発つ!」
「まだいいじゃないか。三日後の祭りにセレスと行きたいって言ってたのに、行かせずに無理矢理連れ出したら嫌われるぞ」
こんな感じで、親譲りの商人魂のなせる技かなんなのか、理由を捻り出されては粘り勝ちされる。レインはアスターを睨んだ。
「お前だって他の女に鼻の下伸ばしてると、嫁に愛想尽かされるぞ」
「…………嫁じゃない」
アスターはセレスの母親と共に暮らしているが、まだ男女関係はないらしい。
「アテナはノエルと結婚したしそのうち子供も生まれるから、お前の出る幕なんかないぞ」
「ううっ」
イライラしていたレインは、未だ消化できていないだろうアスターの失恋の傷を容赦なく抉りに行ったが、かなりの攻撃力があったらしい。
アスターは呻いた後に涙目になっていた。
ちょっとやりすぎたかなと思ったレインは、先に卒業できた先輩として、未だ童貞を貫くアスターを元気付けようと、「お前ももうそろそろ幸せになれよ」と言って慰めた。
******
予定よりかなり滞在日数が伸びてしまったが、名残惜しそうなアスターやセレスたちと別れ、ヴィクトリアたちは今度こそ転移魔法を駆使して国に帰った。
結婚についてはノエルが連絡係になってくれて、新しい戸籍を作る件などをレインとジュリアスがやり取りをしていたらしく、首都に着くなりわりとすんなり結婚できた。
レインは銃騎士を辞めるようだが、何かあったら頼ってほしいし、こちらも困ったことがあったら助けてほしいとジュリアスには要請された。
一歩間違えばジュリアスに殺されていたし、シドを殺した人でもあるが、辛い時に支えになってくれたこの人をヴィクトリアは嫌いになりきることができず、彼の謝罪も協力関係の提案も全て受け入れることにした。
婚姻が済んだあとは、レインの故郷へ行ってお墓参りをする予定だ。
ヴィクトリアはレインの故郷に転移用の魔法陣を設置するつもりだった。そうしておけば、レインが墓参りをしたいと思った時はいつでも戻ることができる。
その後は、国外への新婚旅行に出かける。
これから先自分たちにどんな新しいことが待っているのかと思えば、気分は弾んだ。
ヴィクトリアの母オリヴィアは、シドに囚われる前は番――ヴィクトリアの実父――と共に商人として世界各地を巡っていたそうだ。幼い頃に外国での様々な話を聞かされていたヴィクトリアは、そこに実際に行ってみるのがずっと夢だった。
シドに行動を制限されていた頃は、外国を旅するなんて夢のまた夢だったが、今ならレインと一緒にどこへでも行ける。
ただし、たった一箇所だけ、ヴィクトリアが訪れることが憚られる場所があった。
それがシドの墓だった。
聞いた話によると、シドの死に場所となった処刑場は――主にヴィクトリアが魔力暴走をしかけたせいらしいが――損傷が激しく、直して処刑場として再び使用するよりも、そのままシドの墓場にでもして獣人王を屠り平和に一歩近付けた象徴のような場所にしてはどうか、ということになったらしい。
あの時はヴィクトリア以外にもブラッドレイ家の者たちの魔法を多くの人が見ていたはずだが、なぜか、「その全ては実は生きていた聖女マグノリアが起こした奇跡である」ということにされていて、マグノリアの父親が興した新興宗教の信者たちをも巻き込んで、今首都ではマグノリア・ラペンツ男爵令嬢のことが騒がれまくっているようだった。
それについてはとてつもなく迷惑だし不本意極まりない、というようなことは隠れ家で会った時に本人が溢していた。
現在、元処刑場広場はシドに恨みを募らせた者たちが毎日のように訪れていて、仇討ちのように剣などの刃物の類を突き立てて行く行為が後を絶たないらしい。
そこでは地面がびっしりと剣で埋め尽くされる物凄い光景が広がっているそうで、ヴィクトリアはそのことを初めて聞いた時に、墓参りも兼ねて見に行きたいと言いかけたが、ヴィクトリアが何か発言する前にレインが、
「行かないよ」
と、冷たい顔と声音ですげなく却下したため、一度も行っていない。
レインはヴィクトリアのことは許せても、シドのことだけは絶対にどうしても許せないのだろうと思う。
たぶん、ヴィクトリアがシドの墓参りをすることだけは、一生無いだろうなと思った。
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