獣人姫は逃げまくる~箱入りな魔性獣人姫は初恋の人と初彼と幼馴染と義父に手籠めにされかかって逃げたけどそのうちの一人と番になりました~ R18

鈴田在可

文字の大きさ
上 下
165 / 220
レインハッピーエンド 愛憎を超えて

3 獣人姫と逃げる(カイン視点→アーク視点)

しおりを挟む
 ブラッドレイ家の五男カインは、次兄シリウスとその思い人ナディアが、いつの間にか家の中からいなくなっていたことに気が付いた。

 それから、処刑場での騒ぎも聞きつけて嫌な予感を覚えたカインは、出産後安静中の母と生まれたばかりの赤子を弟たちに任せて、瞬間移動で単身処刑場に降り立った。

 そこでカインは、ナディアの身の上に起こった悲劇を知った。

 そして――――





 カインは驚愕の面持ちで、既に空に出現していたを見つめた。





******





 何かを達観したような部下レインと、睨んでくる愛息ノエル

 二人をどう躾け直すか頭の中で考えを巡らそうとしたアークは、しかし、彼らから目を離した。

 気付いたらしきノエルも、アークと同じ方向を向き、驚いたように空を見上げている。

 ヴィクトリアが覚醒したことにより、その魔法の被害に巻き込まれないよう、残っていた銃騎士隊員や民間人の多くが既に避難していたが、まだ避難していない者たちもいて、彼らのどよめきも広がり始める。
 
 空に。両開きのその扉の枠には何体ものおびただしい数の骸骨が張り付けにされていて禍々しい。扉上の中央には明らかに人間のものとは違う、縦長の虹彩を持つ巨大な目玉が取り付けられていて、意志を持つようにキョロキョロと動いている。

 無表情が常であるはずのアークも、現れた不気味な扉の存在に目を見開き、驚きを禁じ得なかった。

 これは、『冥界の門』だ。

『冥界の門』はあの世の入口であり、決してこの世に呼び出してはならないものだ。

 アークは禁断魔法でこの門を出現させてしまった不肖の息子に視線を走らせた。

「シリウスっ!」

 名前を叫んだ時には、アークは既にシリウスの元に瞬間移動していた。アークは闇魔法を使い、シリウスに向かって人一人分を覆い尽くすような巨大な黒い渦を展開させた。

 アークはシリウスの全魔力を吸い上げて、強制的な魔力切れを起こさせようとした。

『冥界の門』の扉はまだ開いていない。この段階で術者からの魔力が途切れれば、『死者蘇生の魔法』は発動せずに失敗に終わる。

「お前は! 女一人のために! 無辜むこの人々を殺す気かっ!」

「待って! やめて父さん! 許して! 嫌だぁぁぁぁっ!」

 シリウスが叫んでいるが、アークは問答無用で魔力を吸い上げ続ける。

 シリウスの魔力が急激に減少していくが、元の容量が大きいためになかなか空にならない。シリウスは泣き叫びながら光魔法を発動させて、魔力を吸い取るアークの闇魔法の渦を消滅させようと抵抗してきた。

 ここでシリウスを気絶させられれば、ナディアを蘇らせることがより困難になるはずだ。

 ナディアの復活を絶対的に拒みたいアークは、一切の容赦をしなかった。

 シリウスも必死で抗い、しばし二人の攻防が続く。

 しかしアークが先手を打って仕掛けたためか、シリウスはやがて光魔法を維持できなくなる。シリウスが出していた光は、闇に呑み込まれて消えた。

 切羽詰まったシリウスは――――『死者蘇生の魔法』を途中で解除した。『死者蘇生の魔法』に込めつつも、まだ消費されていなかった魔力が僅かながらシリウスに戻る。

『死者蘇生の魔法』が不発に終わったことで、『冥界の門』の姿が徐々に薄くなっていく。

 アークは油断した。『冥界の門』が消えたことで、大惨事だけは免れたと安心してしまった。





「ゼウス! この剣はお前が持ってろ!」



「えっ! シ、シー兄さ――――」





 二つの出来事がほぼ同時に起こった。


 一つは、レインが自身の腰に提げていたもう一つの剣――三番隊の元エースであり稀人まれびとであるアスター・グレイコールからレインが預かった剣――を、地面に座り込んでいるゼウスに向かって放り投げて――――

 その直後に、と手を取り合いながら、ノエルの瞬間移動の魔法で三人一緒に処刑場から消えたこと。



 もう一つは、ナディアの亡骸を抱えたままのシリウスが、いつの間にか処刑場に現れていたアークの五男カインの元へと瞬間移動し、アークがしたように、大きな黒い渦でカインの全魔力を吸い上げて気絶させて――――

 そのまま、シリウスがカインとナディアと共に、瞬間移動で処刑場から消えたこと。



 アークは無表情のままでチッと舌打ちをした。

(逃げられた)

 どちらを追うべきか、アークの中に迷いが生まれてしまい、行動の遅れを招く。

 アークはシリウスの方が危険度が高いと判断した。シリウスの転移魔法の痕跡を探り、自身の転移魔法で急ぎ追いかけた。





***
シリウスのその後の行動を含むナディアが主人公の話は後々掲載する予定です。

2024/05/01 ◯◯の伏せ字を直しました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

獣人公爵のエスコート

ざっく
恋愛
デビューの日、城に着いたが、会場に入れてもらえず、別室に通されたフィディア。エスコート役が来ると言うが、心当たりがない。 将軍閣下は、番を見つけて興奮していた。すぐに他の男からの視線が無い場所へ、移動してもらうべく、副官に命令した。 軽いすれ違いです。 書籍化していただくことになりました!それに伴い、11月10日に削除いたします。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

心を病んだ魔術師さまに執着されてしまった

あーもんど
恋愛
“稀代の天才”と持て囃される魔術師さまの窮地を救ったことで、気に入られてしまった主人公グレイス。 本人は大して気にしていないものの、魔術師さまの言動は常軌を逸していて……? 例えば、子供のようにベッタリ後を付いてきたり…… 異性との距離感やボディタッチについて、制限してきたり…… 名前で呼んでほしい、と懇願してきたり…… とにかく、グレイスを独り占めしたくて堪らない様子。 さすがのグレイスも、仕事や生活に支障をきたすような要求は断ろうとするが…… 「僕のこと、嫌い……?」 「そいつらの方がいいの……?」 「僕は君が居ないと、もう生きていけないのに……」 と、泣き縋られて結局承諾してしまう。 まだ魔術師さまを窮地に追いやったあの事件から日も浅く、かなり情緒不安定だったため。 「────私が魔術師さまをお支えしなければ」 と、グレイスはかなり気負っていた。 ────これはメンタルよわよわなエリート魔術師さまを、主人公がひたすらヨシヨシするお話である。 *小説家になろう様にて、先行公開中*

リス獣人のお医者さまは番の子どもの父になりたい!

能登原あめ
恋愛
* R15はほんのり、ラブコメです。 「先生、私赤ちゃんができたみたいなんです!」  診察室に入ってきた小柄な人間の女の子リーズはとてもいい匂いがした。  せっかく番が見つかったのにリス獣人のジャノは残念でたまらない。 「診察室にお相手を呼んでも大丈夫ですよ」 「相手? いません! つまり、神様が私に赤ちゃんを授けてくださったんです」 * 全4話+おまけ小話未定。  * 本編にRシーンはほぼありませんが、小話追加する際はレーディングが変わる可能性があります。 * 表紙はCanvaさまで作成した画像を使用しております。

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

処理中です...