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レインハッピーエンド 愛憎を超えて
3 獣人姫と逃げる(カイン視点→アーク視点)
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ブラッドレイ家の五男カインは、次兄シリウスとその思い人ナディアが、いつの間にか家の中からいなくなっていたことに気が付いた。
それから、処刑場での騒ぎも聞きつけて嫌な予感を覚えたカインは、出産後安静中の母と生まれたばかりの赤子を弟たちに任せて、瞬間移動で単身処刑場に降り立った。
そこでカインは、ナディアの身の上に起こった悲劇を知った。
そして――――
カインは驚愕の面持ちで、既に空に出現していたそれを見つめた。
******
何かを達観したような部下と、睨んでくる愛息。
二人をどう躾け直すか頭の中で考えを巡らそうとしたアークは、しかし、彼らから目を離した。
気付いたらしきノエルも、アークと同じ方向を向き、驚いたように空を見上げている。
ヴィクトリアが覚醒したことにより、その魔法の被害に巻き込まれないよう、残っていた銃騎士隊員や民間人の多くが既に避難していたが、まだ避難していない者たちもいて、彼らのどよめきも広がり始める。
空に巨大な扉が出現していた。両開きのその扉の枠には何体ものおびただしい数の骸骨が張り付けにされていて禍々しい。扉上の中央には明らかに人間のものとは違う、縦長の虹彩を持つ巨大な目玉が取り付けられていて、意志を持つようにキョロキョロと動いている。
無表情が常であるはずのアークも、現れた不気味な扉の存在に目を見開き、驚きを禁じ得なかった。
これは、『冥界の門』だ。
『冥界の門』はあの世の入口であり、決してこの世に呼び出してはならないものだ。
アークは禁断魔法でこの門を出現させてしまった不肖の息子に視線を走らせた。
「シリウスっ!」
名前を叫んだ時には、アークは既にシリウスの元に瞬間移動していた。アークは闇魔法を使い、シリウスに向かって人一人分を覆い尽くすような巨大な黒い渦を展開させた。
アークはシリウスの全魔力を吸い上げて、強制的な魔力切れを起こさせようとした。
『冥界の門』の扉はまだ開いていない。この段階で術者からの魔力が途切れれば、『死者蘇生の魔法』は発動せずに失敗に終わる。
「お前は! 女一人のために! 無辜の人々を殺す気かっ!」
「待って! やめて父さん! 許して! 嫌だぁぁぁぁっ!」
シリウスが叫んでいるが、アークは問答無用で魔力を吸い上げ続ける。
シリウスの魔力が急激に減少していくが、元の容量が大きいためになかなか空にならない。シリウスは泣き叫びながら光魔法を発動させて、魔力を吸い取るアークの闇魔法の渦を消滅させようと抵抗してきた。
ここでシリウスを気絶させられれば、ナディアを蘇らせることがより困難になるはずだ。
ナディアの復活を絶対的に拒みたいアークは、一切の容赦をしなかった。
シリウスも必死で抗い、しばし二人の攻防が続く。
しかしアークが先手を打って仕掛けたためか、シリウスはやがて光魔法を維持できなくなる。シリウスが出していた光は、闇に呑み込まれて消えた。
切羽詰まったシリウスは――――『死者蘇生の魔法』を途中で解除した。『死者蘇生の魔法』に込めつつも、まだ消費されていなかった魔力が僅かながらシリウスに戻る。
『死者蘇生の魔法』が不発に終わったことで、『冥界の門』の姿が徐々に薄くなっていく。
アークは油断した。『冥界の門』が消えたことで、大惨事だけは免れたと安心してしまった。
「ゼウス! この剣はお前が持ってろ!」
「えっ! シ、シー兄さ――――」
二つの出来事がほぼ同時に起こった。
一つは、レインが自身の腰に提げていたもう一つの剣――三番隊の元エースであり稀人であるアスター・グレイコールからレインが預かった剣――を、地面に座り込んでいるゼウスに向かって放り投げて――――
その直後に、目を開けてレインの隣に立っているヴィクトリアと手を取り合いながら、ノエルの瞬間移動の魔法で三人一緒に処刑場から消えたこと。
もう一つは、ナディアの亡骸を抱えたままのシリウスが、いつの間にか処刑場に現れていたアークの五男カインの元へと瞬間移動し、アークがしたように、大きな黒い渦でカインの全魔力を吸い上げて気絶させて――――
そのまま、シリウスがカインとナディアと共に、瞬間移動で処刑場から消えたこと。
アークは無表情のままでチッと舌打ちをした。
(逃げられた)
どちらを追うべきか、アークの中に迷いが生まれてしまい、行動の遅れを招く。
アークはシリウスの方が危険度が高いと判断した。シリウスの転移魔法の痕跡を探り、自身の転移魔法で急ぎ追いかけた。
***
シリウスのその後の行動を含むナディアが主人公の話は後々掲載する予定です。
2024/05/01 ◯◯の伏せ字を直しました。
それから、処刑場での騒ぎも聞きつけて嫌な予感を覚えたカインは、出産後安静中の母と生まれたばかりの赤子を弟たちに任せて、瞬間移動で単身処刑場に降り立った。
そこでカインは、ナディアの身の上に起こった悲劇を知った。
そして――――
カインは驚愕の面持ちで、既に空に出現していたそれを見つめた。
******
何かを達観したような部下と、睨んでくる愛息。
二人をどう躾け直すか頭の中で考えを巡らそうとしたアークは、しかし、彼らから目を離した。
気付いたらしきノエルも、アークと同じ方向を向き、驚いたように空を見上げている。
ヴィクトリアが覚醒したことにより、その魔法の被害に巻き込まれないよう、残っていた銃騎士隊員や民間人の多くが既に避難していたが、まだ避難していない者たちもいて、彼らのどよめきも広がり始める。
空に巨大な扉が出現していた。両開きのその扉の枠には何体ものおびただしい数の骸骨が張り付けにされていて禍々しい。扉上の中央には明らかに人間のものとは違う、縦長の虹彩を持つ巨大な目玉が取り付けられていて、意志を持つようにキョロキョロと動いている。
無表情が常であるはずのアークも、現れた不気味な扉の存在に目を見開き、驚きを禁じ得なかった。
これは、『冥界の門』だ。
『冥界の門』はあの世の入口であり、決してこの世に呼び出してはならないものだ。
アークは禁断魔法でこの門を出現させてしまった不肖の息子に視線を走らせた。
「シリウスっ!」
名前を叫んだ時には、アークは既にシリウスの元に瞬間移動していた。アークは闇魔法を使い、シリウスに向かって人一人分を覆い尽くすような巨大な黒い渦を展開させた。
アークはシリウスの全魔力を吸い上げて、強制的な魔力切れを起こさせようとした。
『冥界の門』の扉はまだ開いていない。この段階で術者からの魔力が途切れれば、『死者蘇生の魔法』は発動せずに失敗に終わる。
「お前は! 女一人のために! 無辜の人々を殺す気かっ!」
「待って! やめて父さん! 許して! 嫌だぁぁぁぁっ!」
シリウスが叫んでいるが、アークは問答無用で魔力を吸い上げ続ける。
シリウスの魔力が急激に減少していくが、元の容量が大きいためになかなか空にならない。シリウスは泣き叫びながら光魔法を発動させて、魔力を吸い取るアークの闇魔法の渦を消滅させようと抵抗してきた。
ここでシリウスを気絶させられれば、ナディアを蘇らせることがより困難になるはずだ。
ナディアの復活を絶対的に拒みたいアークは、一切の容赦をしなかった。
シリウスも必死で抗い、しばし二人の攻防が続く。
しかしアークが先手を打って仕掛けたためか、シリウスはやがて光魔法を維持できなくなる。シリウスが出していた光は、闇に呑み込まれて消えた。
切羽詰まったシリウスは――――『死者蘇生の魔法』を途中で解除した。『死者蘇生の魔法』に込めつつも、まだ消費されていなかった魔力が僅かながらシリウスに戻る。
『死者蘇生の魔法』が不発に終わったことで、『冥界の門』の姿が徐々に薄くなっていく。
アークは油断した。『冥界の門』が消えたことで、大惨事だけは免れたと安心してしまった。
「ゼウス! この剣はお前が持ってろ!」
「えっ! シ、シー兄さ――――」
二つの出来事がほぼ同時に起こった。
一つは、レインが自身の腰に提げていたもう一つの剣――三番隊の元エースであり稀人であるアスター・グレイコールからレインが預かった剣――を、地面に座り込んでいるゼウスに向かって放り投げて――――
その直後に、目を開けてレインの隣に立っているヴィクトリアと手を取り合いながら、ノエルの瞬間移動の魔法で三人一緒に処刑場から消えたこと。
もう一つは、ナディアの亡骸を抱えたままのシリウスが、いつの間にか処刑場に現れていたアークの五男カインの元へと瞬間移動し、アークがしたように、大きな黒い渦でカインの全魔力を吸い上げて気絶させて――――
そのまま、シリウスがカインとナディアと共に、瞬間移動で処刑場から消えたこと。
アークは無表情のままでチッと舌打ちをした。
(逃げられた)
どちらを追うべきか、アークの中に迷いが生まれてしまい、行動の遅れを招く。
アークはシリウスの方が危険度が高いと判断した。シリウスの転移魔法の痕跡を探り、自身の転移魔法で急ぎ追いかけた。
***
シリウスのその後の行動を含むナディアが主人公の話は後々掲載する予定です。
2024/05/01 ◯◯の伏せ字を直しました。
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