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レインハッピーエンド 愛憎を超えて
2 反乱(レイン視点)
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レインが何度も何度もヴィクトリアに呼びかけていると、アークが瞬間移動で二人の近くにやってきた。
「どうした、まだ死んでいないぞ。止めを刺せ」
レインはあの時、確かにヴィクトリアの心臓目がけて剣を打ち込んだ。しかし、攻撃は心臓を外れていて、ヴィクトリアは未だ死んでいない。
それはレインが目測を誤ったというよりも、レイン自身が無意識にヴィクトリアを殺すことを避けたからだった。
レインの心の天秤は、最後の最後で確かにヴィクトリアに傾いていた――――
「隊長、見逃してください」
「駄目だ」
「どうしてもですか?」
「危険すぎるからな」
「俺が代わりに死にますから、どうかヴィクトリアを助けてやってはもらえませんか?」
ヴィクトリアは意識がない様子だが、まだ息はしている。アークに治癒魔法をかけてもらえれば、まだ間に合う。
「お前が死ぬ理由はないだろう」
「ヴィクトリアが死んだら俺も死にます。ヴィクトリアは俺の命そのものなんです。折角育てた部下を無駄死にさせるつもりですか?」
直後、レインのすぐそばの地面が火魔法の攻撃を受けて抉れ、草の一部が燃えた。
やったのはアークだが、レインの返答は、アークを苛つかせてしまったようだ。
「もういい、退け。俺が殺す」
宣言していた通り、アークは指の関節を数度鳴らしながら、ヴィクトリアに『人体発火の魔法』を使おうと近付いてきて――――
次の瞬間、地面に落ちていた自分の剣を拾ったレインが、アークに斬りかかった。
咄嗟にアーク自身の盾の魔法が間に合って不発に終わったが、身体強化の魔法がかかっていたレインの動きは、目にも止まらぬ速さだった。
上官を斬りつけるなんて罷免ものであるが、レインはヴィクトリアを助けるためなら何でもする覚悟だった。
けれど二発目を打ち込もうとしたレインの身体が地面に沈む。アークが身体強化の魔法を解いたからだ。
魔法により限界に近い力を使って酷使されたレインの身体は、魔法を使った反動で悲鳴を上げ、常時よりも重さを増したように感じられて全く動かなくなる。
地面に倒れたレインは、アークに腹を思いっきり蹴り飛ばされて、苦悶の声を上げた。
「お前がそこまで馬鹿だとは思わなかった」
アークは「馬鹿」の部分だけをやけに強調して言い捨てた。アークの顔は無表情だが、声に含まれる苛立ちは皆無ではない。
「嫌だ! いやだっ! ヴィクトリア! ヴィクトリアっ! ヴィクトリアぁぁっ!」
地面に横たわるヴィクトリアに近付くアークを止めようと、レインは絶叫しながら地面に這いつくばり必死に前に進む。
レインの声を聞いたアークは、ふと、足を止めて部下を振り返った。
「……お前は昔の俺に似ているな」
「隊長…………」
「だが俺とお前の違いは、愛する者を守る力がお前にはないということだ」
アークは反逆など許さない。まるで絶望を与えるが如く、アークはレインの背中に火魔法を打ち込んだ。
ジュッ、と嫌な音がして、レインの背中が焼け焦げた。レインの絶叫が辺りに響く。
レインの苦悶の声を聞いたアークの口元が、溜飲を下げたようにほんのわずかに緩むが、しかし、すぐにいつもの状態に戻った。
レインの叫び声は止まっている。
「やめろ」
二人のそばに瞬間移動でいつの間にかノエルが現れていた。
丁寧語ではなくなっているノエルは、明らかにキレていた。少年から青年への過渡期にあり、いつもはまだ可愛らしさも多分に含まれているはずのノエルの表情は、今やアークに噛みつかんばかりに険しくなっていて、眼光鋭くアークを睨み付けていた。
ノエルは手を翳して光を発生させ、レインの背中を治癒魔法で治した。
「これ以上幻滅させんなよこのクソ親父が」
啖呵を切るノエルに、アークが僅かに眉根を寄せた。
「お前たち…………」
アークが不快そうに呟く。
レインは立ち上がっていた。
怒気を放ちながらアークを最大限警戒しているノエルが、レインに身体強化の魔法をかけ直して動けるようにしたからだ。
レインはアークからヴィクトリアを守るように、地面に横たわっている彼女をその胸に抱き上げた。
「愛する人を守る力はありますよ。もう、決して俺の最愛を誰にも傷付けさせません。俺のこれからの生き方で、それを証明してみせます」
「どうした、まだ死んでいないぞ。止めを刺せ」
レインはあの時、確かにヴィクトリアの心臓目がけて剣を打ち込んだ。しかし、攻撃は心臓を外れていて、ヴィクトリアは未だ死んでいない。
それはレインが目測を誤ったというよりも、レイン自身が無意識にヴィクトリアを殺すことを避けたからだった。
レインの心の天秤は、最後の最後で確かにヴィクトリアに傾いていた――――
「隊長、見逃してください」
「駄目だ」
「どうしてもですか?」
「危険すぎるからな」
「俺が代わりに死にますから、どうかヴィクトリアを助けてやってはもらえませんか?」
ヴィクトリアは意識がない様子だが、まだ息はしている。アークに治癒魔法をかけてもらえれば、まだ間に合う。
「お前が死ぬ理由はないだろう」
「ヴィクトリアが死んだら俺も死にます。ヴィクトリアは俺の命そのものなんです。折角育てた部下を無駄死にさせるつもりですか?」
直後、レインのすぐそばの地面が火魔法の攻撃を受けて抉れ、草の一部が燃えた。
やったのはアークだが、レインの返答は、アークを苛つかせてしまったようだ。
「もういい、退け。俺が殺す」
宣言していた通り、アークは指の関節を数度鳴らしながら、ヴィクトリアに『人体発火の魔法』を使おうと近付いてきて――――
次の瞬間、地面に落ちていた自分の剣を拾ったレインが、アークに斬りかかった。
咄嗟にアーク自身の盾の魔法が間に合って不発に終わったが、身体強化の魔法がかかっていたレインの動きは、目にも止まらぬ速さだった。
上官を斬りつけるなんて罷免ものであるが、レインはヴィクトリアを助けるためなら何でもする覚悟だった。
けれど二発目を打ち込もうとしたレインの身体が地面に沈む。アークが身体強化の魔法を解いたからだ。
魔法により限界に近い力を使って酷使されたレインの身体は、魔法を使った反動で悲鳴を上げ、常時よりも重さを増したように感じられて全く動かなくなる。
地面に倒れたレインは、アークに腹を思いっきり蹴り飛ばされて、苦悶の声を上げた。
「お前がそこまで馬鹿だとは思わなかった」
アークは「馬鹿」の部分だけをやけに強調して言い捨てた。アークの顔は無表情だが、声に含まれる苛立ちは皆無ではない。
「嫌だ! いやだっ! ヴィクトリア! ヴィクトリアっ! ヴィクトリアぁぁっ!」
地面に横たわるヴィクトリアに近付くアークを止めようと、レインは絶叫しながら地面に這いつくばり必死に前に進む。
レインの声を聞いたアークは、ふと、足を止めて部下を振り返った。
「……お前は昔の俺に似ているな」
「隊長…………」
「だが俺とお前の違いは、愛する者を守る力がお前にはないということだ」
アークは反逆など許さない。まるで絶望を与えるが如く、アークはレインの背中に火魔法を打ち込んだ。
ジュッ、と嫌な音がして、レインの背中が焼け焦げた。レインの絶叫が辺りに響く。
レインの苦悶の声を聞いたアークの口元が、溜飲を下げたようにほんのわずかに緩むが、しかし、すぐにいつもの状態に戻った。
レインの叫び声は止まっている。
「やめろ」
二人のそばに瞬間移動でいつの間にかノエルが現れていた。
丁寧語ではなくなっているノエルは、明らかにキレていた。少年から青年への過渡期にあり、いつもはまだ可愛らしさも多分に含まれているはずのノエルの表情は、今やアークに噛みつかんばかりに険しくなっていて、眼光鋭くアークを睨み付けていた。
ノエルは手を翳して光を発生させ、レインの背中を治癒魔法で治した。
「これ以上幻滅させんなよこのクソ親父が」
啖呵を切るノエルに、アークが僅かに眉根を寄せた。
「お前たち…………」
アークが不快そうに呟く。
レインは立ち上がっていた。
怒気を放ちながらアークを最大限警戒しているノエルが、レインに身体強化の魔法をかけ直して動けるようにしたからだ。
レインはアークからヴィクトリアを守るように、地面に横たわっている彼女をその胸に抱き上げた。
「愛する人を守る力はありますよ。もう、決して俺の最愛を誰にも傷付けさせません。俺のこれからの生き方で、それを証明してみせます」
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