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『番の呪い』後編

92 『真眼』の魔法使い 1

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「ああ、そっか。ヴィーと最後に会ったのはヴィーがまだ一歳くらいの時だったし、それに見た目だってその時とは違うからわかるわけないよな」

 男は先程までの困惑したような顔ではなく、優しく朗らかな印象を持つ表情になり、ははっと笑う。その笑い方が、誰かに似ている。

「おーい、マグー? マグちゃん? いるー?」

 男は今自分が上がってきた四角い穴に向かって誰かを呼んでいる。

「とにかくこんな所で話をするのも何だし、ヴィーも下に降りておいで」

 階下に繋がっているらしき梯子を降りながら、男が手招きしてヴィクトリアにも来るように促す。
 ヴィクトリアはその気安い態度と優しい声音に戸惑った。彼にしてみれば突然自宅の屋根裏部屋に現れた不審者だろうに、警戒されるどころかむしろ歓迎されているらしい。

「マグちゃーん?」

 男は完全に下の部屋に降りて誰かを探しに行ってしまった。男の正体はわからないままだが、悪い人ではなさそうだ。ヴィクトリアは彼の言う通り下の部屋に行くことにした。

 梯子に足をかける前に、ヴィクトリアは背後を振り返った。

 ナディアは、まだ来ない。





 男を追ってヴィクトリアは一階まで降りてきていた。二階建ての家は二階が居住用で、一階の一部が小さな診療施設になっているようだった。
 一階まで来る途中で見た窓の向こうには小麦畑や牧場といったのどかな景色が広がっていて、民家はちらほらと点在しているだけだった。

「ありゃー、こりゃまたえらい別嬪さんじゃのう。新しい看護師さんかい?」

 男の匂いを辿り目の前の扉を開けると、白い壁に囲まれた診察室らしき部屋で、杖を持った一人の白髪の老人が診察用の椅子に座っているのに出くわした。

「クロさんにいつもの薬を出してくれと言ってくれんかのう? あの人話も聞かずにどこかへ行ってしまって、戻って来たと思ったらまたどこかに行ってしまったんだよ」

「クロさん?」

「クロムウェルだからクロさん」

(ああ、なるほど)

「マグさんを探しに外に行ったみたいだから連れてきてくれんかの? 儂は足が痛くて追いかけられん」

「マグさん?」

「奥さんのマリアさんのことじゃ。クロさんがマグさんって呼ぶからこの村じゃみんなそう呼んどるよ」

(マリアの愛称ならミアとかマリとかマリーとかだと思うのに、少し変わった愛称ね)

「この医院の手伝いはいつもマグさんだけでなあ。誰か雇った方がいいっていつも言っとったんだけど、前の人が辞めてから誰も雇わなくて心配しとったんだよ。新しい看護師さんが来てくれてよかったよかった。こんな田舎によく来てくれたなあ」

「いえ、私は看護師さんじゃ……」

 否定しようとすると、ヴィクトリアが部屋に入ったのとは反対側の扉が開いた。

 現れたのは「クロさん」ことロイ・クロムウェルと、それから横にいるのは、金色の長い髪に茶色の瞳をした二十歳前後くらいの女性だった。

 女性はロイと同様に顔の造りは平均的な容貌をしており、髪や目の色以外にこれといった特徴は見当たらない。一目見ただけなら数歩歩けば忘れてしまいそうな容姿をしている。

 ただ、女性の瞳の奥は凪いでいて、どことなく何かを達観したような雰囲気があった。

(おそらく彼女がロイの妻の「マグさん」だろう。つまりは、彼女がナディアの言っていた魔法使い……)

 彼女は腕に二、三歳くらいの女の子を抱いていた。

 女の子は金髪に黒い瞳をしていてとても美しい子供だった。

「カルロさん、待たせて悪かったな。その子は看護師さんじゃないよ。俺の親戚の子だ。ヴィーもいきなりほったらかして悪かったな。俺はまだ仕事があるから、しばらく彼女と一緒にいてくれないか?」

 ロイはそう言って隣の女性の肩に手を置いた。二人の間には親密そうな空気感が漂っていた。

 女性は現れた時から冷静さを保ったまま表情を変えずにじっとヴィクトリアを見ている。

「こちらは俺の奥さんで、名前はマグ…… マリアだ。マグって呼んでやって。こっちは娘のカナリアだ。俺たちはカナって呼んでる」

 ロイは家族を紹介しながらこちらに微笑みかけてきたが、ヴィクトリアを見つめるその瞳に少し戸惑いの色が見えたのが気になった。
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