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『番の呪い』後編
85 天敵
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「ちょっと待って! レインって、レイン・グランフェル? まさかあの男? なんで? 姉様はあの男に見切りをつけたんじゃなかったの?
姉様に変な薬を飲ませて首輪や枷まで着けて弄ぼうとしてた変態じゃないの! どこがいいのよあんな変態! 姉様を監禁して一生性奴隷にしようとしてたわよ絶対! あれのどこがいいわけ?
駄目駄目! 絶対駄目! 顔だけはいいけど獣人界ではあのくらいザラにいるじゃないの! もっと他にいい男はいっぱいいるから! 目を覚まして!
ちょっと優しくされたくらいで騙されちゃ駄目よ! もし本気であの男が好きなら姉様は男の趣味が悪すぎる!」
ナディアに声高に全否定されて気分が沈んでいく。こんなにはっきり滅多糞に言われるとは思わなかった。
(でもまあ確かにナディアが指摘するように、レインの言っていた「奴隷」とは性奴隷のことを指すのだろうなとは思ってたけれど……
というか…………?)
「ナディア、レインを知っていたの?」
ナディアにレインの名字を告げたことはない。
ナディアに問い掛けると、彼女は先程の勢いを抑えて話し出した。
「ええ、知っているわ。昨日はゆっくり話をしている余裕もなかったから言ってなかったけど、私も銃騎士隊とちょっと色々あってね……
里を出た最初の頃はしばらく首都に住んでいたのよ。あの男とはそんなに接触したわけでもないけど、知っているわ」
「レインは、レインは首都に住んでいるの? 普段のレインってどんな感じなの? 何かレインのことで知っていることがあったら教えてもらえないかしら?」
今度はヴィクトリアが身を乗り出すようにして問いかけ掛けるが、ナディアはヴィクトリアとは違いさっきまでの浮かれたような色は一切消して真顔になっていた。
「姉様、昨日も言ったけど銃騎士隊員を番にしようとするのは絶対に止めたほうがいいわ。彼らは私たち獣人を殺して駆逐して存在を消していくことこそが仕事なのよ? 殺されるわ」
殺される、とナディアはやけにはっきり言い切った。
その言葉に、ヴィクトリアの胸の内にあった罪悪感が騒ぎ出す。
(私はレインに対して、殺されてもおかしくないようなことをしてしまっている)
急にしおらしくなってしまったヴィクトリアを前に、ナディアは自分の意見を述べた。
「私だったら絶対に銃騎士隊の男は選ばない。今からでもまだ間に合うならリュージュの所に戻った方がいい。
リュージュなら間違いなく姉様を大切にすると思う。奴隷にしようとするような男と一緒になるより絶対にその方がいい」
「だけど…… 駄目なのよ……」
ナディアの言っていることはわかるし理に適っていると思う。けれど――
「私はレインじゃなきゃ駄目なの。私は『番の呪い』にかかっているのよ。レインは私の番なの。
ナディアの言いたいことはわかるわ。私も同じことを考えて『呪い』を解こうと思った。でも駄目だった。リュージュでも駄目だった……
どんなに酷い人でも、私にはレインしかいないのよ」
「『番の呪い』……」
ナディアはそう呟いて難しい顔をした。
「厄介ね。『番の呪い』は好意を持っている相手に対してしか起こらないわ。姉様は父様の許可なく里を出ることは禁じられていたと思うけど、そもそもあの男といつどこで知り合ったの? なぜあんな男に好意を寄せてしまったの?
そこら辺の事情を全部聞かせてもらってもいい?」
ヴィクトリアはナディアを見つめて頷いた。
「わかったわ」
ヴィクトリアはレインとの間にあることを、自らの罪をリュージュに続いてナディアにも話す事に決めた。身を挺してヴィクトリアを助けてくれたナディアを彼女は信頼していた。
ヴィクトリアはこれまで身の上に起こったことを全部話した。
ナディアが里からいなくなった日の事件をきっかけにリュージュへの恋心を自覚した所から、シドに襲われて里から逃げ出した後にレインに捕まり九番隊砦に滞在していたこと。
その時にレインと口付けて『番の呪い』にかかってしまったこと。レインと二人で逃げて思いを通わせ合ったが、裏切られてそこでナディアに助けられたこと。
里に帰ったら今度はアルベールに襲われて、リュージュからも逃げてきたこと。
それから自分の罪を話す。
かつてレインの家族を見殺しにしてしまったこと。その時に初めてレインと出会い、自分でも気付かないうちに彼に惹かれていたこと。
ナディアは時々質問を交えながらヴィクトリアの話を真剣に聞いてくれた。ヴィクトリアは自分の思ったことや感じたことを全て話した。
ヴィクトリアはもしかしたらレインを求める自分の気持ちをナディアにも理解してもらえたのではないかと思った。
しかし、話が全て終わった後に彼女の口から出てきたのは予想とは違う言葉だった。
「私はそれでも、姉様にあの男を求める揺るぎない気持ちがあったとしても、それでも、あの男を選ぶのではなくて『番の呪い』を解く方に力を尽くした方がいいと思う。
銃騎士を番に選ぶことだけは絶対に止めた方がいい」
昨日助けられた時も言っていたが、ナディアはなぜ銃騎士を拒む発言をし続けているのか。
「姉様、さっき私が言ってた、銃騎士隊と色々あったって話なんだけど――――」
ナディアは、ヴィクトリアの知らない、彼女が里を出た後の約二年間に起こった出来事を話し出した。
語り手と聞き手が逆になり、今度はヴィクトリアがナディアの話にじっと聞き入った。
その時にナディアが感じた後悔も失望も何もかもを絞り出して、まるでヴィクトリアを戒めるように、彼女は語り続ける。
それは、悲しい話だった。
姉様に変な薬を飲ませて首輪や枷まで着けて弄ぼうとしてた変態じゃないの! どこがいいのよあんな変態! 姉様を監禁して一生性奴隷にしようとしてたわよ絶対! あれのどこがいいわけ?
駄目駄目! 絶対駄目! 顔だけはいいけど獣人界ではあのくらいザラにいるじゃないの! もっと他にいい男はいっぱいいるから! 目を覚まして!
ちょっと優しくされたくらいで騙されちゃ駄目よ! もし本気であの男が好きなら姉様は男の趣味が悪すぎる!」
ナディアに声高に全否定されて気分が沈んでいく。こんなにはっきり滅多糞に言われるとは思わなかった。
(でもまあ確かにナディアが指摘するように、レインの言っていた「奴隷」とは性奴隷のことを指すのだろうなとは思ってたけれど……
というか…………?)
「ナディア、レインを知っていたの?」
ナディアにレインの名字を告げたことはない。
ナディアに問い掛けると、彼女は先程の勢いを抑えて話し出した。
「ええ、知っているわ。昨日はゆっくり話をしている余裕もなかったから言ってなかったけど、私も銃騎士隊とちょっと色々あってね……
里を出た最初の頃はしばらく首都に住んでいたのよ。あの男とはそんなに接触したわけでもないけど、知っているわ」
「レインは、レインは首都に住んでいるの? 普段のレインってどんな感じなの? 何かレインのことで知っていることがあったら教えてもらえないかしら?」
今度はヴィクトリアが身を乗り出すようにして問いかけ掛けるが、ナディアはヴィクトリアとは違いさっきまでの浮かれたような色は一切消して真顔になっていた。
「姉様、昨日も言ったけど銃騎士隊員を番にしようとするのは絶対に止めたほうがいいわ。彼らは私たち獣人を殺して駆逐して存在を消していくことこそが仕事なのよ? 殺されるわ」
殺される、とナディアはやけにはっきり言い切った。
その言葉に、ヴィクトリアの胸の内にあった罪悪感が騒ぎ出す。
(私はレインに対して、殺されてもおかしくないようなことをしてしまっている)
急にしおらしくなってしまったヴィクトリアを前に、ナディアは自分の意見を述べた。
「私だったら絶対に銃騎士隊の男は選ばない。今からでもまだ間に合うならリュージュの所に戻った方がいい。
リュージュなら間違いなく姉様を大切にすると思う。奴隷にしようとするような男と一緒になるより絶対にその方がいい」
「だけど…… 駄目なのよ……」
ナディアの言っていることはわかるし理に適っていると思う。けれど――
「私はレインじゃなきゃ駄目なの。私は『番の呪い』にかかっているのよ。レインは私の番なの。
ナディアの言いたいことはわかるわ。私も同じことを考えて『呪い』を解こうと思った。でも駄目だった。リュージュでも駄目だった……
どんなに酷い人でも、私にはレインしかいないのよ」
「『番の呪い』……」
ナディアはそう呟いて難しい顔をした。
「厄介ね。『番の呪い』は好意を持っている相手に対してしか起こらないわ。姉様は父様の許可なく里を出ることは禁じられていたと思うけど、そもそもあの男といつどこで知り合ったの? なぜあんな男に好意を寄せてしまったの?
そこら辺の事情を全部聞かせてもらってもいい?」
ヴィクトリアはナディアを見つめて頷いた。
「わかったわ」
ヴィクトリアはレインとの間にあることを、自らの罪をリュージュに続いてナディアにも話す事に決めた。身を挺してヴィクトリアを助けてくれたナディアを彼女は信頼していた。
ヴィクトリアはこれまで身の上に起こったことを全部話した。
ナディアが里からいなくなった日の事件をきっかけにリュージュへの恋心を自覚した所から、シドに襲われて里から逃げ出した後にレインに捕まり九番隊砦に滞在していたこと。
その時にレインと口付けて『番の呪い』にかかってしまったこと。レインと二人で逃げて思いを通わせ合ったが、裏切られてそこでナディアに助けられたこと。
里に帰ったら今度はアルベールに襲われて、リュージュからも逃げてきたこと。
それから自分の罪を話す。
かつてレインの家族を見殺しにしてしまったこと。その時に初めてレインと出会い、自分でも気付かないうちに彼に惹かれていたこと。
ナディアは時々質問を交えながらヴィクトリアの話を真剣に聞いてくれた。ヴィクトリアは自分の思ったことや感じたことを全て話した。
ヴィクトリアはもしかしたらレインを求める自分の気持ちをナディアにも理解してもらえたのではないかと思った。
しかし、話が全て終わった後に彼女の口から出てきたのは予想とは違う言葉だった。
「私はそれでも、姉様にあの男を求める揺るぎない気持ちがあったとしても、それでも、あの男を選ぶのではなくて『番の呪い』を解く方に力を尽くした方がいいと思う。
銃騎士を番に選ぶことだけは絶対に止めた方がいい」
昨日助けられた時も言っていたが、ナディアはなぜ銃騎士を拒む発言をし続けているのか。
「姉様、さっき私が言ってた、銃騎士隊と色々あったって話なんだけど――――」
ナディアは、ヴィクトリアの知らない、彼女が里を出た後の約二年間に起こった出来事を話し出した。
語り手と聞き手が逆になり、今度はヴィクトリアがナディアの話にじっと聞き入った。
その時にナディアが感じた後悔も失望も何もかもを絞り出して、まるでヴィクトリアを戒めるように、彼女は語り続ける。
それは、悲しい話だった。
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