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リュージュバッドエンド 輪廻の輪は正しく巡らない

9 懸念事項

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 新居への引っ越しも終わり、夏になり、秋も過ぎ、ヴィクトリアはリュージュと幸せな日々を送った。

 ただ、穏やかなその日々にも懸念事項はあった。

 夜、リュージュと共に寝室に入ったヴィクトリアは、そのつもりでリュージュと抱擁し口付けを交わした。
 目立ってきたお腹に障らないように優しく寝台に横たえられると、ヴィクトリアの服の中にリュージュの手が忍び込んでくる。

 ヴィクトリアはリュージュに愛撫される感覚にうっとりしながら身を任せていたが、突然、胎の中がうごうごと蠢き出し、またか、という思いに囚われた。

「痛い…… 痛いわ……」

 胎児が腹の中で暴れ出し、至る所を蹴られる。

 あと数ヶ月で生まれるほどになったヴィクトリアの赤子は、胎児とは思えない程に力が強く、腹を突き破って出くるんじゃないかと思う時もある。

 胎の子は両親が仲良くしようとするのを邪魔したいのか、リュージュと良い雰囲気になると、毎回ではないがヴィクトリアの体内で殴る蹴るの大暴れをする。イチャイチャしたくても痛くてそれどころではなくなってくるのだ。

 何もしてこない時はたぶん胎の中で寝てるのだと思う。

「またか? 大丈夫か?」

「痛っ!」

 リュージュがヴィクトリアに声をかけて身体に触れようとすると、鳩尾あたりに強烈な一撃が入ってきて、ヴィクトリアは悶絶した。

「リュージュ、ごめんね…… しばらく離れてて……」

 リュージュと性的な触れ合いさえしなければ、赤子もそのうちに静かになる。

 しかしリュージュはムッと眉を寄せ、寝台に座るヴィクトリアの膨れた腹の前に顔を寄せた。

「おいお前! ヴィクトリアは俺のだからな! お前の母ちゃんだけど、でも俺の―――― うわあっ!」

 言葉の途中でヴィクトリアの腹が服の下がぐにゅんと動き、リュージュは寸前で避けたが、まるで先程までリュージュの顔があった場所を殴ろうとするかのように、腹部が突き出た。

「ううっ…… い、痛い……」

「大丈夫か?」

 リュージュは心配そうにヴィクトリアに声をかけたが、また赤子が胎内で暴れることを懸念したのか、触れては来なかった。

「こいつ…… 絶対に男だろ。俺のこと恋敵だとでも思ってるんじゃないのか?」

 結局、ヴィクトリアが妊娠後期であることもあり、夜の営みは出産後に体調が戻ってから、という話になってしまった。

 最愛のリュージュにしばらく抱いてもらえないことにヴィクトリアは気落ちした。

 その後もキスやハグでさえも赤子の邪魔が入るので、子が寝ているらしい時はできる時もあったが、リュージュと思いっきり触れ合えないことは、生活の唯一の不満点だった。










「どうして生まれないのかしら…… もう予定日も過ぎてしまったわ……」

 現在は二月で、年を越して一ヶ月以上経ってしまった。

 医師から生まれるだろうと予測を立てられた日はもうとっくに過ぎている。ヴィクトリアは自分の誕生日が来る前には子供に会えるだろうと思っていたのに、その誕生日も過ぎ去った。

 ヴィクトリアは十八歳になっていた。

「よほどお前の胎の中が居心地良いんだろ。好かれてんだな」

 リュージュは陣痛が全く来なくて気落ちするばかりのヴィクトリアに、そう言葉をかけて慰めてくれた。

「じゃあ行ってくる」

 本日はリュージュの仕事がある日だ。ウォグバードと同じく里の警備を担当しているリュージュは、交代制で時々家を空ける。

 ヴィクトリアの出産予定日の頃は、いつ陣痛が来てもいいようにと仕事を休んでくれたが、待てど暮せど生まれる気配が全くなく、あまり休んでいても他の者に悪いと仕事を再開していた。

 番を持つと相手の匂いをかなり敏感に嗅ぐことができるようになる。一応ヴィクトリアの匂いが嗅ぎ取れない場所には行かないし、何かあったらすぐに戻ってくるという話だった。

「うん、頑張ってね」

 ヴィクトリアはリュージュを見送ってから、ため息を一つ吐き出し、大きなお腹を支えるようにしながら歩いて居間のソファに座った。

 胎の子に現在動きはない。眠ってるのかもしれないと思いつつ、お腹を手で撫でながらヴィクトリアは語りかけた。

「元気に生まれてきてね。あなたに会えるのを、お母さまは楽しみに待ってますからね」

 てっきり寝ているのかと思ったが、ヴィクトリアがそう言葉をかけると、赤子は返事をするかのように、ヴィクトリアの胎を優しくポンと叩いた。
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