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対銃騎士隊編

53 帰郷

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 陽は完全に落ち、月明かりが周囲を照らす。

 ヴィクトリアは本来の姿を隠したまま街道を西に進んでいた。

 ヴィクトリアはこれからどうしようと考えて、やはり一度里に戻ることにした。リュージュがあの後どうなったのかずっと気になっていた。

 川の音がしたので、ヴィクトリアは馬を休ませるために街道を逸れて音がする方へと進んだ。

 やがて幅の広い大きな川が見えてきた。ヴィクトリアが馬から降りて、手綱を引きながら川のそばまで連れて行くと、馬は水を飲み始めた。薬の効果が切れてきたのか、ヴィクトリアの身体も段々と動くようになってきた。

 ヴィクトリアは立ち尽くしながら、昨日もこうやって人気のない川のそばでレインと一緒に過ごしたなと、思い出していた。

 考えたくないのに、ヴィクトリアはレインのことばかり考えてしまう。頭の中からはレインのことを追い出しているつもりだったが、ふとしたきっかけで彼の表情や声が蘇る。馬に乗ってここに来るまでの間も、ヴィクトリアはレインのことを思い出してたまに泣いていた。

 一緒にいられたのはそんなに長い時間でもなかったのに、自分は、思っていたよりもレインに強く惹かれてしまっていたらしい。レインのことは忘れなければいけないのだから、この状況はあまり良くない。

 ヴィクトリアはその場に座り込んだ。川を覗き込むと、水面にぼんやりと映る黒髪が見えた。

 陽が落ちてからは、周囲がよく見えなくなるので色眼鏡はポケットにしまっていたが、帽子とウィッグはそのままだった。

 黒い髪色は、レインのことを思い出す。

 ヴィクトリアは帽子とウィッグを取り、髪を結わえていた紐も取った。

 さらりと、短くなった銀髪が落ちてくる。

 帽子は小さく畳めたので服のポケットにしまったが――――

 ヴィクトリアは、その黒いウィッグを捨てた。





 ヴィクトリアは魔の森に入った。木々の間を抜けながら、ヴィクトリアは不思議な気持ちだった。あれほど里から出たいと思っていたのに、その里に帰ろうとしている。

 今は何時くらいだろう。夜は更けてきたが、まだ日付が変わるほどではないはずだ。

 魔の森を抜けて里の入口に差し掛かろうとした時だった。

 ヴィクトリアはその人物の匂いを嗅ぎ、泣きたくなるほどの安堵感を覚えた。

「ヴィクトリア!」

 彼は里の警備の仕事をしている。まだ里に入っていないのに気付いてくれたのは、夜間の警備に当っていたからかもしれない。

 まるで何年も会っていないように感じた。

 ちゃんと生きていてくれた。それだけで、充分だった。

「リュージュ!」

 ヴィクトリアは馬から飛び降りて走った。

 リュージュの姿を見つけると、感情が制御不能になり涙が次から次へと溢れてきた。

 リュージュは立ち止まると、驚いた顔をしてこちらを見ていたが、ヴィクトリアは構わずリュージュに抱き付いた。

 泣き崩れるヴィクトリアを、リュージュが腕の中に抱え上げる。





 リュージュが誰のことを好きでもいい。

 この人のそばでずっと生きて行こう。そう思った。





***

次ページからはレインバッドエンドになってしまうので、本編の続きを読みたい方は目次から『番の呪い』前編の「54 真相」へ進んでください
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