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『番の呪い』前編

82 本当の初恋 ✤✤

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どんでん返しがあります

***

 意識を失っていたヴィクトリアは、揺れを感じて目を覚ました。
 ヴィクトリアは素肌にタオルをかけられただけの状態で、リュージュに抱き上げられて運ばれていた。

 どうしてこうなっているんだっけ、とぼうっとした頭で考え始めて、すぐに赤面する。 

 リュージュはサーシャにしていたように、あんなことやそんなことをヴィクトリアに対しても行った。

 リュージュは弟ではなくて、男だった。

 ヴィクトリアは途中嫌がったが、リュージュに鼻をつままれてからは違った。

 気付けば意識を手放していた。意識を失っていたのはそんなに長い時間でもなかったようだが、気付けば浴室から運び出されていた。

 ちらりと盗み見るようにリュージュを見上げると、何故か眉根を寄せてどこか不機嫌そうな顔をしている。

「リュージュ……?」

 呼びかけたけれど、返事はなかった。

 リュージュは居間に来るとヴィクトリアをソファに横たえた。
 寝室に行かなかったのはそこにもまだサーシャの匂いが残っているからだろうと思った。

 リュージュが覆いかぶさってきて口付けてくる。強く抱きしめられたので、ヴィクトリアもリュージュに抱きつく。

「ヴィクトリア、俺は誰だ?」

 リュージュが変なことを聞いてくる。

「? リュージュでしょ?」

 首を傾げながら答えると、リュージュが真剣な顔でこちらを見ながら頷く。

「そうだ。俺はリュージュだ。忘れるなよ」

 リュージュがヴィクトリアの身体を覆っていたタオルを取ってしまった。リュージュは現れた双丘に手を添えると、先端を指で弾いた。

「んっ……!」

「今度は自分で鼻をつまんでろ」

 ヴィクトリアは自分の手を鼻に持っていってリュージュの言う通りにした。
 心臓が早鐘のように打ち付けている。ヴィクトリアはぎゅっと目を閉じた。

 脚を大きく割り開かれて、未だぬかるむ秘裂の中にリュージュの指が入ってくる。

「ああっ……!」

「ヴィクトリア、目を閉じるな。目を開けてこっちを見てくれ。俺だけを見ててくれ……」

 ヴィクトリアは涙を流しながら目を開けてリュージュを見た。
 ヴィクトリアは何も着ていないのに、リュージュは自分だけ下の衣服を身に着けていたので、ちょっとずるいと思った。

 先程の浴室でのように、最初は一本だった指が増えていく。指をヴィクトリアの中で巧みに動かしながらも、リュージュはもう片方の手で勃起した陰核を刺激し始めた。

 ヴィクトリアは鼻から手を放してソファを掴み、爪を立てた。

 すかさずリュージュの手が伸びてきて鼻をつままれる。

 ヴィクトリアは叫んだ。

「レイン……!」

 さっきは気を失ってしまったが、今度は自分が何を口走ったのかはっきりとわかってしまった。

 呆然としてリュージュを見上げると、彼は、とても悲しそうな顔をしていた。

「ごめん! ごめんねリュージュ!」

 ヴィクトリアは上体を起こしてリュージュに取り縋り謝った。

(最中に他の男の人の名前を呼ぶなんて最低だわ!)

 リュージュは大丈夫だと言って首を振るが、彼の顔は冴えない。

 きっと先程の浴室でも意識を失う前に同じことを叫んだのだろう。

「わかってる…… 『番の呪い』のせいだから…… 気にしてないよ」

 リュージュに再び押し倒されたけれど、自分がまた同じことをするのではないかと、ヴィクトリアの心は不安だらけで、身体は硬くなっていた。

 リュージュは再び性器への愛撫を再開したが、ヴィクトリアの反応があまり良くない。
 リュージュは下半身から手を離すと、ヴィクトリアの胸に顔を近付けて、わざと見せつけるようにしながら舌先で乳頭を刺激する。

「ふ…… んんっ……」

 乳房を丹念に舐められて、吸われて、ヴィクトリアの中に再び熱が戻ってくる。

「ヴィクトリア、舌出せよ」

 言われるがまま舌を出すと、鼻をつまんでいるヴィクトリアの手を避けるようにリュージュの顔が近付いてきた。手が邪魔で口付けはできないけれど、リュージュも舌を伸ばしてきて空気中で舌を絡ませ合った。

 リュージュの手が再び下肢に伸びてくる。舌を絡ませ合ったまま、リュージュの指が秘裂の中に潜り込んできて、蠢き出す。

 ヌチュヌチュと下から粘液の音が響いた。自分の心臓の音が早くなり、呼吸が苦しくなっていく。リュージュが濡れた舌をヴィクトリアの舌から離した。

 息を整えている間にもリュージュの愛撫は止まらない。それどころか今度は股関に顔を近付けて、指は入れたまま陰核に吸い付いてくる。

「あ、はあっ……! ああ、あっ……! ああんっ、んうっ……!」

 ヴィクトリアは激しく喘いだ。

(こんな感覚知らない!)

 強烈な波が襲ってきて上り詰めようとする直前、ふいにリュージュが陰核から口を離して指も抜いてしまった。

「リュ、リュージュ――――」

「どうしたの?」と続く言葉は喉の奥で止まった。

 リュージュが腰のベルトを外していて、中から屹立を取り出している。

 ヴィクトリアはゴクリと唾を飲み込んだ。期待からではない。それは、どちらかといえば恐怖に近い――――

「ヴィクトリア、出来るだけ優しくするから――――」

 ヴィクトリアは動けなかった。

 開いたままの脚の間に――秘裂に――リュージュが雄の先端を当てがった。
 浴室で目にはしていたが、リュージュの局部は十代半ばという年齢のわりに立派なものだった。

 リュージュは指でヴィクトリアの秘裂を開くと、位置を定めてそのまま突き進んで来ようとしてきて――――――――

「…………やめて……………… やめて!」

 凍り付いたかのように固まって一連の動きを見ていたヴィクトリアは、自分の肉穴がリュージュの先端を飲み込もうとする直前、ついに堪えきれなくなってそう叫んだ。

「ヴィクトリア、大丈夫だから、落ち着けって」
 
「い、嫌っ! 絶対に嫌! 私に触らないで!」

 ヴィクトリアは暴れた。リュージュの身体を押して離れようとする。

 リュージュはヴィクトリアを抱きしめてその動きを止めようとしたが、ヴィクトリアはその腕を振り払い、ソファの端に寄ってリュージュから背を向けた。

 ヴィクトリアは自らの裸身を極力リュージュの視界に入れないように、まるで自分自身を守っているかのように、身体を丸めて縮こまっていた。

(直前で、リュージュを拒んでしまった…………)

 号泣するヴィクトリアはリュージュの顔が見られなかった。

 リュージュが無言で離れて行った。熱が、遠ざかる。

 ヴィクトリアはリュージュが離れたことに、純潔を渡さなかったことに、ほっとしている自分に気付いた。

 身体を抱きしめて震えているヴィクトリアの肩にリュージュがタオルをかけてくれたが、リュージュの指にほんの少し触れられただけで、びくりと身体が反応し、顔が引き攣る。

「ごめん」

(なぜリュージュが謝るのだろう。リュージュは何も悪くない)

 抱いてほしいと切り出したのはヴィクトリアだ。ちゃんと自分たちの思いを打ち明け合い、お互いが大切な存在だと確かめ合った。リュージュになら全てを捧げてもいいと思ったはずだった。

 なのに、ずっとレインのことが頭から離れなかった。

 最後は感情的になって土壇場で拒んだ。悪いのはどう考えてもヴィクトリアだ。

「違う。リュージュは何も悪くない。悪いのは私なの…… 本当にごめんなさい」

 泣いているヴィクトリアの背中をリュージュがさすろうと手を伸ばすが、触れる直前で止まり、その手が落ちる。

 やがてヴィクトリアの泣き声が静まり、あたりを静寂が包み込んでどれくらい経ったのかわからないほどになった頃、リュージュがぽつりと言った。

「お前が好きなのは俺じゃない。お前の心にいるのは、別の男だ」

「……でもそれは『番の呪い』のせいよ。私の本心じゃないわ」

「それは、違う」

 否定されて、思わずそれまで直視できなかったリュージュの顔を見た。

 リュージュの顔には覇気がなかった。リュージュの表情には、暗い影が落ちている。

「『番の呪い』は、元々好意を持っている相手に対してしか起こらない。お前は、『呪い』にかかる前から、その男に惹かれていたはずだ」

「そんなはずない……」

 ヴィクトリアは首を振った。レインと一番最初に口付けるより前に彼のことを好きだと思ったことはないはずだ。

 九番隊砦で当初レインはヴィクトリアと距離を置き、冷たい態度を取り続けていた。好きになる要素なんてほとんどなかった。

 レインに本当は好きだと打ち明けられた時はちょっとドキドキしたけど、その後に銃を突きつけられて服を脱げなんて言われたし、『番の呪い』にかかる前に、そんな酷いことをする人を好きになっていたはずがない。

(でも……)

『一目惚れ?』

 ふいにジュリアスの言葉が蘇る。

 一目惚れ。

 一目惚れ。

 レインを前にするとほろ苦くもいたたまれない気持ちを感じていた。レインへのこの感情は罪の意識ゆえだと思っていた。

(…………でも、それは、好きだからそう思っていたのかもしれない。罪の意識に紛れてしまい自分でも気付かずにいたけど、本当は最初からレインが好きだったのかもしれない)

 レインの姿が見えないとどこにいるのか意識せず探っていたし、彼が姿を現せば自分でも知らないうちに笑顔を浮かべて近付いていたと、それはジュリアスから聞いている。

 ヴィクトリアはレインにつれない態度を取られ続けて内心では臍を曲げていた。





 いつからだろう。

 それは、きっとあの時から。

 ずっと忘れられなかった。





 忘れられなかったのは、少女を見殺しにしたせいだと思っていた。でも、それだけじゃない。

(私はあの時から、最初に出会った時から、レインが好きだったのかもしれない)

 罪の意識から負い目を感じ、胸に宿った恋心を自分でも気付かない内に封印して、隠してしまっていたのだろう。

(……そうか、私は、最初からレインが好きだったのか………………)

「きっと俺じゃ駄目なんだ。お前を幸せにできるのは、その男だけなのかもしれない。俺じゃお前を不幸にするだけだ……

 ヴィクトリア、もう一度その男に会ってよく話をしてみろ。お前を命がけで守ったっていうし、そいつのお前への気持ちは、憎しみ一辺倒ってわけでもないのかもしれない……」
 









 ヴィクトリアは一人でシャワーを浴びていた。心が動きを止めたかのように何の感情も浮かんでこなかった。

 身体の動きは緩慢で、ただ単に染みついた日常の動作を繰り返して身体を洗っているだけだった。

 自分が確かにここに存在しているという現実感がなかった。

 新居の浴室には、変わらずにリュージュとサーシャが絡み合う匂いが漂っていて、さらにヴィクトリアとも接触したリュージュの匂いがそれよりも濃く残されていたが、それらの情景は全く頭の中に入ってこなかった。

 ヴィクトリアはもう何もわからなくなっていた。
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