99 / 220
『番の呪い』前編
82 本当の初恋 ✤✤
しおりを挟む
どんでん返しがあります
***
意識を失っていたヴィクトリアは、揺れを感じて目を覚ました。
ヴィクトリアは素肌にタオルをかけられただけの状態で、リュージュに抱き上げられて運ばれていた。
どうしてこうなっているんだっけ、とぼうっとした頭で考え始めて、すぐに赤面する。
リュージュはサーシャにしていたように、あんなことやそんなことをヴィクトリアに対しても行った。
リュージュは弟ではなくて、男だった。
ヴィクトリアは途中嫌がったが、リュージュに鼻をつままれてからは違った。
気付けば意識を手放していた。意識を失っていたのはそんなに長い時間でもなかったようだが、気付けば浴室から運び出されていた。
ちらりと盗み見るようにリュージュを見上げると、何故か眉根を寄せてどこか不機嫌そうな顔をしている。
「リュージュ……?」
呼びかけたけれど、返事はなかった。
リュージュは居間に来るとヴィクトリアをソファに横たえた。
寝室に行かなかったのはそこにもまだサーシャの匂いが残っているからだろうと思った。
リュージュが覆いかぶさってきて口付けてくる。強く抱きしめられたので、ヴィクトリアもリュージュに抱きつく。
「ヴィクトリア、俺は誰だ?」
リュージュが変なことを聞いてくる。
「? リュージュでしょ?」
首を傾げながら答えると、リュージュが真剣な顔でこちらを見ながら頷く。
「そうだ。俺はリュージュだ。忘れるなよ」
リュージュがヴィクトリアの身体を覆っていたタオルを取ってしまった。リュージュは現れた双丘に手を添えると、先端を指で弾いた。
「んっ……!」
「今度は自分で鼻をつまんでろ」
ヴィクトリアは自分の手を鼻に持っていってリュージュの言う通りにした。
心臓が早鐘のように打ち付けている。ヴィクトリアはぎゅっと目を閉じた。
脚を大きく割り開かれて、未だぬかるむ秘裂の中にリュージュの指が入ってくる。
「ああっ……!」
「ヴィクトリア、目を閉じるな。目を開けてこっちを見てくれ。俺だけを見ててくれ……」
ヴィクトリアは涙を流しながら目を開けてリュージュを見た。
ヴィクトリアは何も着ていないのに、リュージュは自分だけ下の衣服を身に着けていたので、ちょっとずるいと思った。
先程の浴室でのように、最初は一本だった指が増えていく。指をヴィクトリアの中で巧みに動かしながらも、リュージュはもう片方の手で勃起した陰核を刺激し始めた。
ヴィクトリアは鼻から手を放してソファを掴み、爪を立てた。
すかさずリュージュの手が伸びてきて鼻をつままれる。
ヴィクトリアは叫んだ。
「レイン……!」
さっきは気を失ってしまったが、今度は自分が何を口走ったのかはっきりとわかってしまった。
呆然としてリュージュを見上げると、彼は、とても悲しそうな顔をしていた。
「ごめん! ごめんねリュージュ!」
ヴィクトリアは上体を起こしてリュージュに取り縋り謝った。
(最中に他の男の人の名前を呼ぶなんて最低だわ!)
リュージュは大丈夫だと言って首を振るが、彼の顔は冴えない。
きっと先程の浴室でも意識を失う前に同じことを叫んだのだろう。
「わかってる…… 『番の呪い』のせいだから…… 気にしてないよ」
リュージュに再び押し倒されたけれど、自分がまた同じことをするのではないかと、ヴィクトリアの心は不安だらけで、身体は硬くなっていた。
リュージュは再び性器への愛撫を再開したが、ヴィクトリアの反応があまり良くない。
リュージュは下半身から手を離すと、ヴィクトリアの胸に顔を近付けて、わざと見せつけるようにしながら舌先で乳頭を刺激する。
「ふ…… んんっ……」
乳房を丹念に舐められて、吸われて、ヴィクトリアの中に再び熱が戻ってくる。
「ヴィクトリア、舌出せよ」
言われるがまま舌を出すと、鼻をつまんでいるヴィクトリアの手を避けるようにリュージュの顔が近付いてきた。手が邪魔で口付けはできないけれど、リュージュも舌を伸ばしてきて空気中で舌を絡ませ合った。
リュージュの手が再び下肢に伸びてくる。舌を絡ませ合ったまま、リュージュの指が秘裂の中に潜り込んできて、蠢き出す。
ヌチュヌチュと下から粘液の音が響いた。自分の心臓の音が早くなり、呼吸が苦しくなっていく。リュージュが濡れた舌をヴィクトリアの舌から離した。
息を整えている間にもリュージュの愛撫は止まらない。それどころか今度は股関に顔を近付けて、指は入れたまま陰核に吸い付いてくる。
「あ、はあっ……! ああ、あっ……! ああんっ、んうっ……!」
ヴィクトリアは激しく喘いだ。
(こんな感覚知らない!)
強烈な波が襲ってきて上り詰めようとする直前、ふいにリュージュが陰核から口を離して指も抜いてしまった。
「リュ、リュージュ――――」
「どうしたの?」と続く言葉は喉の奥で止まった。
リュージュが腰のベルトを外していて、中から屹立を取り出している。
ヴィクトリアはゴクリと唾を飲み込んだ。期待からではない。それは、どちらかといえば恐怖に近い――――
「ヴィクトリア、出来るだけ優しくするから――――」
ヴィクトリアは動けなかった。
開いたままの脚の間に――秘裂に――リュージュが雄の先端を当てがった。
浴室で目にはしていたが、リュージュの局部は十代半ばという年齢のわりに立派なものだった。
リュージュは指でヴィクトリアの秘裂を開くと、位置を定めてそのまま突き進んで来ようとしてきて――――――――
「…………やめて……………… やめて!」
凍り付いたかのように固まって一連の動きを見ていたヴィクトリアは、自分の肉穴がリュージュの先端を飲み込もうとする直前、ついに堪えきれなくなってそう叫んだ。
「ヴィクトリア、大丈夫だから、落ち着けって」
「い、嫌っ! 絶対に嫌! 私に触らないで!」
ヴィクトリアは暴れた。リュージュの身体を押して離れようとする。
リュージュはヴィクトリアを抱きしめてその動きを止めようとしたが、ヴィクトリアはその腕を振り払い、ソファの端に寄ってリュージュから背を向けた。
ヴィクトリアは自らの裸身を極力リュージュの視界に入れないように、まるで自分自身を守っているかのように、身体を丸めて縮こまっていた。
(直前で、リュージュを拒んでしまった…………)
号泣するヴィクトリアはリュージュの顔が見られなかった。
リュージュが無言で離れて行った。熱が、遠ざかる。
ヴィクトリアはリュージュが離れたことに、純潔を渡さなかったことに、ほっとしている自分に気付いた。
身体を抱きしめて震えているヴィクトリアの肩にリュージュがタオルをかけてくれたが、リュージュの指にほんの少し触れられただけで、びくりと身体が反応し、顔が引き攣る。
「ごめん」
(なぜリュージュが謝るのだろう。リュージュは何も悪くない)
抱いてほしいと切り出したのはヴィクトリアだ。ちゃんと自分たちの思いを打ち明け合い、お互いが大切な存在だと確かめ合った。リュージュになら全てを捧げてもいいと思ったはずだった。
なのに、ずっとレインのことが頭から離れなかった。
最後は感情的になって土壇場で拒んだ。悪いのはどう考えてもヴィクトリアだ。
「違う。リュージュは何も悪くない。悪いのは私なの…… 本当にごめんなさい」
泣いているヴィクトリアの背中をリュージュがさすろうと手を伸ばすが、触れる直前で止まり、その手が落ちる。
やがてヴィクトリアの泣き声が静まり、あたりを静寂が包み込んでどれくらい経ったのかわからないほどになった頃、リュージュがぽつりと言った。
「お前が好きなのは俺じゃない。お前の心にいるのは、別の男だ」
「……でもそれは『番の呪い』のせいよ。私の本心じゃないわ」
「それは、違う」
否定されて、思わずそれまで直視できなかったリュージュの顔を見た。
リュージュの顔には覇気がなかった。リュージュの表情には、暗い影が落ちている。
「『番の呪い』は、元々好意を持っている相手に対してしか起こらない。お前は、『呪い』にかかる前から、その男に惹かれていたはずだ」
「そんなはずない……」
ヴィクトリアは首を振った。レインと一番最初に口付けるより前に彼のことを好きだと思ったことはないはずだ。
九番隊砦で当初レインはヴィクトリアと距離を置き、冷たい態度を取り続けていた。好きになる要素なんてほとんどなかった。
レインに本当は好きだと打ち明けられた時はちょっとドキドキしたけど、その後に銃を突きつけられて服を脱げなんて言われたし、『番の呪い』にかかる前に、そんな酷いことをする人を好きになっていたはずがない。
(でも……)
『一目惚れ?』
ふいにジュリアスの言葉が蘇る。
一目惚れ。
一目惚れ。
レインを前にするとほろ苦くもいたたまれない気持ちを感じていた。レインへのこの感情は罪の意識ゆえだと思っていた。
(…………でも、それは、好きだからそう思っていたのかもしれない。罪の意識に紛れてしまい自分でも気付かずにいたけど、本当は最初からレインが好きだったのかもしれない)
レインの姿が見えないとどこにいるのか意識せず探っていたし、彼が姿を現せば自分でも知らないうちに笑顔を浮かべて近付いていたと、それはジュリアスから聞いている。
ヴィクトリアはレインにつれない態度を取られ続けて内心では臍を曲げていた。
いつからだろう。
それは、きっとあの時から。
ずっと忘れられなかった。
忘れられなかったのは、少女を見殺しにしたせいだと思っていた。でも、それだけじゃない。
(私はあの時から、最初に出会った時から、レインが好きだったのかもしれない)
罪の意識から負い目を感じ、胸に宿った恋心を自分でも気付かない内に封印して、隠してしまっていたのだろう。
(……そうか、私は、最初からレインが好きだったのか………………)
「きっと俺じゃ駄目なんだ。お前を幸せにできるのは、その男だけなのかもしれない。俺じゃお前を不幸にするだけだ……
ヴィクトリア、もう一度その男に会ってよく話をしてみろ。お前を命がけで守ったっていうし、そいつのお前への気持ちは、憎しみ一辺倒ってわけでもないのかもしれない……」
ヴィクトリアは一人でシャワーを浴びていた。心が動きを止めたかのように何の感情も浮かんでこなかった。
身体の動きは緩慢で、ただ単に染みついた日常の動作を繰り返して身体を洗っているだけだった。
自分が確かにここに存在しているという現実感がなかった。
新居の浴室には、変わらずにリュージュとサーシャが絡み合う匂いが漂っていて、さらにヴィクトリアとも接触したリュージュの匂いがそれよりも濃く残されていたが、それらの情景は全く頭の中に入ってこなかった。
ヴィクトリアはもう何もわからなくなっていた。
***
意識を失っていたヴィクトリアは、揺れを感じて目を覚ました。
ヴィクトリアは素肌にタオルをかけられただけの状態で、リュージュに抱き上げられて運ばれていた。
どうしてこうなっているんだっけ、とぼうっとした頭で考え始めて、すぐに赤面する。
リュージュはサーシャにしていたように、あんなことやそんなことをヴィクトリアに対しても行った。
リュージュは弟ではなくて、男だった。
ヴィクトリアは途中嫌がったが、リュージュに鼻をつままれてからは違った。
気付けば意識を手放していた。意識を失っていたのはそんなに長い時間でもなかったようだが、気付けば浴室から運び出されていた。
ちらりと盗み見るようにリュージュを見上げると、何故か眉根を寄せてどこか不機嫌そうな顔をしている。
「リュージュ……?」
呼びかけたけれど、返事はなかった。
リュージュは居間に来るとヴィクトリアをソファに横たえた。
寝室に行かなかったのはそこにもまだサーシャの匂いが残っているからだろうと思った。
リュージュが覆いかぶさってきて口付けてくる。強く抱きしめられたので、ヴィクトリアもリュージュに抱きつく。
「ヴィクトリア、俺は誰だ?」
リュージュが変なことを聞いてくる。
「? リュージュでしょ?」
首を傾げながら答えると、リュージュが真剣な顔でこちらを見ながら頷く。
「そうだ。俺はリュージュだ。忘れるなよ」
リュージュがヴィクトリアの身体を覆っていたタオルを取ってしまった。リュージュは現れた双丘に手を添えると、先端を指で弾いた。
「んっ……!」
「今度は自分で鼻をつまんでろ」
ヴィクトリアは自分の手を鼻に持っていってリュージュの言う通りにした。
心臓が早鐘のように打ち付けている。ヴィクトリアはぎゅっと目を閉じた。
脚を大きく割り開かれて、未だぬかるむ秘裂の中にリュージュの指が入ってくる。
「ああっ……!」
「ヴィクトリア、目を閉じるな。目を開けてこっちを見てくれ。俺だけを見ててくれ……」
ヴィクトリアは涙を流しながら目を開けてリュージュを見た。
ヴィクトリアは何も着ていないのに、リュージュは自分だけ下の衣服を身に着けていたので、ちょっとずるいと思った。
先程の浴室でのように、最初は一本だった指が増えていく。指をヴィクトリアの中で巧みに動かしながらも、リュージュはもう片方の手で勃起した陰核を刺激し始めた。
ヴィクトリアは鼻から手を放してソファを掴み、爪を立てた。
すかさずリュージュの手が伸びてきて鼻をつままれる。
ヴィクトリアは叫んだ。
「レイン……!」
さっきは気を失ってしまったが、今度は自分が何を口走ったのかはっきりとわかってしまった。
呆然としてリュージュを見上げると、彼は、とても悲しそうな顔をしていた。
「ごめん! ごめんねリュージュ!」
ヴィクトリアは上体を起こしてリュージュに取り縋り謝った。
(最中に他の男の人の名前を呼ぶなんて最低だわ!)
リュージュは大丈夫だと言って首を振るが、彼の顔は冴えない。
きっと先程の浴室でも意識を失う前に同じことを叫んだのだろう。
「わかってる…… 『番の呪い』のせいだから…… 気にしてないよ」
リュージュに再び押し倒されたけれど、自分がまた同じことをするのではないかと、ヴィクトリアの心は不安だらけで、身体は硬くなっていた。
リュージュは再び性器への愛撫を再開したが、ヴィクトリアの反応があまり良くない。
リュージュは下半身から手を離すと、ヴィクトリアの胸に顔を近付けて、わざと見せつけるようにしながら舌先で乳頭を刺激する。
「ふ…… んんっ……」
乳房を丹念に舐められて、吸われて、ヴィクトリアの中に再び熱が戻ってくる。
「ヴィクトリア、舌出せよ」
言われるがまま舌を出すと、鼻をつまんでいるヴィクトリアの手を避けるようにリュージュの顔が近付いてきた。手が邪魔で口付けはできないけれど、リュージュも舌を伸ばしてきて空気中で舌を絡ませ合った。
リュージュの手が再び下肢に伸びてくる。舌を絡ませ合ったまま、リュージュの指が秘裂の中に潜り込んできて、蠢き出す。
ヌチュヌチュと下から粘液の音が響いた。自分の心臓の音が早くなり、呼吸が苦しくなっていく。リュージュが濡れた舌をヴィクトリアの舌から離した。
息を整えている間にもリュージュの愛撫は止まらない。それどころか今度は股関に顔を近付けて、指は入れたまま陰核に吸い付いてくる。
「あ、はあっ……! ああ、あっ……! ああんっ、んうっ……!」
ヴィクトリアは激しく喘いだ。
(こんな感覚知らない!)
強烈な波が襲ってきて上り詰めようとする直前、ふいにリュージュが陰核から口を離して指も抜いてしまった。
「リュ、リュージュ――――」
「どうしたの?」と続く言葉は喉の奥で止まった。
リュージュが腰のベルトを外していて、中から屹立を取り出している。
ヴィクトリアはゴクリと唾を飲み込んだ。期待からではない。それは、どちらかといえば恐怖に近い――――
「ヴィクトリア、出来るだけ優しくするから――――」
ヴィクトリアは動けなかった。
開いたままの脚の間に――秘裂に――リュージュが雄の先端を当てがった。
浴室で目にはしていたが、リュージュの局部は十代半ばという年齢のわりに立派なものだった。
リュージュは指でヴィクトリアの秘裂を開くと、位置を定めてそのまま突き進んで来ようとしてきて――――――――
「…………やめて……………… やめて!」
凍り付いたかのように固まって一連の動きを見ていたヴィクトリアは、自分の肉穴がリュージュの先端を飲み込もうとする直前、ついに堪えきれなくなってそう叫んだ。
「ヴィクトリア、大丈夫だから、落ち着けって」
「い、嫌っ! 絶対に嫌! 私に触らないで!」
ヴィクトリアは暴れた。リュージュの身体を押して離れようとする。
リュージュはヴィクトリアを抱きしめてその動きを止めようとしたが、ヴィクトリアはその腕を振り払い、ソファの端に寄ってリュージュから背を向けた。
ヴィクトリアは自らの裸身を極力リュージュの視界に入れないように、まるで自分自身を守っているかのように、身体を丸めて縮こまっていた。
(直前で、リュージュを拒んでしまった…………)
号泣するヴィクトリアはリュージュの顔が見られなかった。
リュージュが無言で離れて行った。熱が、遠ざかる。
ヴィクトリアはリュージュが離れたことに、純潔を渡さなかったことに、ほっとしている自分に気付いた。
身体を抱きしめて震えているヴィクトリアの肩にリュージュがタオルをかけてくれたが、リュージュの指にほんの少し触れられただけで、びくりと身体が反応し、顔が引き攣る。
「ごめん」
(なぜリュージュが謝るのだろう。リュージュは何も悪くない)
抱いてほしいと切り出したのはヴィクトリアだ。ちゃんと自分たちの思いを打ち明け合い、お互いが大切な存在だと確かめ合った。リュージュになら全てを捧げてもいいと思ったはずだった。
なのに、ずっとレインのことが頭から離れなかった。
最後は感情的になって土壇場で拒んだ。悪いのはどう考えてもヴィクトリアだ。
「違う。リュージュは何も悪くない。悪いのは私なの…… 本当にごめんなさい」
泣いているヴィクトリアの背中をリュージュがさすろうと手を伸ばすが、触れる直前で止まり、その手が落ちる。
やがてヴィクトリアの泣き声が静まり、あたりを静寂が包み込んでどれくらい経ったのかわからないほどになった頃、リュージュがぽつりと言った。
「お前が好きなのは俺じゃない。お前の心にいるのは、別の男だ」
「……でもそれは『番の呪い』のせいよ。私の本心じゃないわ」
「それは、違う」
否定されて、思わずそれまで直視できなかったリュージュの顔を見た。
リュージュの顔には覇気がなかった。リュージュの表情には、暗い影が落ちている。
「『番の呪い』は、元々好意を持っている相手に対してしか起こらない。お前は、『呪い』にかかる前から、その男に惹かれていたはずだ」
「そんなはずない……」
ヴィクトリアは首を振った。レインと一番最初に口付けるより前に彼のことを好きだと思ったことはないはずだ。
九番隊砦で当初レインはヴィクトリアと距離を置き、冷たい態度を取り続けていた。好きになる要素なんてほとんどなかった。
レインに本当は好きだと打ち明けられた時はちょっとドキドキしたけど、その後に銃を突きつけられて服を脱げなんて言われたし、『番の呪い』にかかる前に、そんな酷いことをする人を好きになっていたはずがない。
(でも……)
『一目惚れ?』
ふいにジュリアスの言葉が蘇る。
一目惚れ。
一目惚れ。
レインを前にするとほろ苦くもいたたまれない気持ちを感じていた。レインへのこの感情は罪の意識ゆえだと思っていた。
(…………でも、それは、好きだからそう思っていたのかもしれない。罪の意識に紛れてしまい自分でも気付かずにいたけど、本当は最初からレインが好きだったのかもしれない)
レインの姿が見えないとどこにいるのか意識せず探っていたし、彼が姿を現せば自分でも知らないうちに笑顔を浮かべて近付いていたと、それはジュリアスから聞いている。
ヴィクトリアはレインにつれない態度を取られ続けて内心では臍を曲げていた。
いつからだろう。
それは、きっとあの時から。
ずっと忘れられなかった。
忘れられなかったのは、少女を見殺しにしたせいだと思っていた。でも、それだけじゃない。
(私はあの時から、最初に出会った時から、レインが好きだったのかもしれない)
罪の意識から負い目を感じ、胸に宿った恋心を自分でも気付かない内に封印して、隠してしまっていたのだろう。
(……そうか、私は、最初からレインが好きだったのか………………)
「きっと俺じゃ駄目なんだ。お前を幸せにできるのは、その男だけなのかもしれない。俺じゃお前を不幸にするだけだ……
ヴィクトリア、もう一度その男に会ってよく話をしてみろ。お前を命がけで守ったっていうし、そいつのお前への気持ちは、憎しみ一辺倒ってわけでもないのかもしれない……」
ヴィクトリアは一人でシャワーを浴びていた。心が動きを止めたかのように何の感情も浮かんでこなかった。
身体の動きは緩慢で、ただ単に染みついた日常の動作を繰り返して身体を洗っているだけだった。
自分が確かにここに存在しているという現実感がなかった。
新居の浴室には、変わらずにリュージュとサーシャが絡み合う匂いが漂っていて、さらにヴィクトリアとも接触したリュージュの匂いがそれよりも濃く残されていたが、それらの情景は全く頭の中に入ってこなかった。
ヴィクトリアはもう何もわからなくなっていた。
0
お気に入りに追加
135
あなたにおすすめの小説
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
【本編完結/R18】獣騎士様!私を食べてくださいっ!
天羽
恋愛
閲覧ありがとうございます。
天羽(ソラハネ)です。宜しくお願い致します。
【本編20話完結】
獣騎士団団長(狼獣人)×赤い瞳を持つ娘(人間)
「おおかみさんはあたしをたべるの?」
赤い瞳は魔女の瞳。
その噂のせいで、物心つく前から孤児院で生活する少女……レイラはいつも1人ぼっちだった。
そんなレイラに手を差し伸べてくれたたった1人の存在は……狼獣人で王国獣騎士団のグラン・ジークスだった。
ーー年月が経ち成長したレイラはいつの間にかグランに特別な感情を抱いていた。
「いつになったら私を食べてくれるの?」
直球に思いを伝えてもはぐらかされる毎日……それなのに変わらずグランは優しくレイラを甘やかし、恋心は大きく募っていくばかりーーー。
そんなある日、グランに関する噂を耳にしてーーー。
レイラ(18歳)
・ルビー色の瞳、白い肌
・胸まである長いブラウンの髪
・身長は小さく華奢だが、大きめな胸
・グランが大好きで(性的に)食べて欲しいと思っている
グラン・ジークス(35歳)
・狼獣人(獣耳と尻尾が特徴)
・ダークグレーの髪と瞳、屈強な体躯
・獣騎士団団長 剣術と体術で右に出る者はいない
・強面で冷たい口調だがレイラには優しい
・レイラを溺愛し、自覚は無いがかなりの過保護
※R18作品です
※2月22日22:00 更新20話で完結致しました。
※その後のお話を不定期で更新致します。是非お気に入り登録お願い致します!
▷▶▷誤字脱字ありましたら教えて頂けますと幸いです。
▷▶▷話の流れや登場人物の行動に対しての批判的なコメントはお控え下さい。(かなり落ち込むので……)
オネエなエリート研究者がしつこすぎて困ってます!
まるい丸
恋愛
獣人と人の割合が6対4という世界で暮らしているマリは25歳になり早く結婚せねばと焦っていた。しかし婚活は20連敗中。そんな連敗続きの彼女に1年前から猛アプローチしてくる国立研究所に勤めるエリート研究者がいた。けれどその人は癖アリで……
「マリちゃんあたしがお嫁さんにしてあ・げ・る♡」
「早く結婚したいけどあなたとは嫌です!!」
「照れてないで素直になりなさい♡」
果たして彼女の婚活は成功するのか
※全5話完結
※ムーンライトノベルズでも同タイトルで掲載しています、興味がありましたらそちらもご覧いただけると嬉しいです!
睡姦しまくって無意識のうちに落とすお話
下菊みこと
恋愛
ヤンデレな若旦那様を振ったら、睡姦されて落とされたお話。
安定のヤンデレですがヤンデレ要素は薄いかも。
ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。
【R18完結】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜
まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください!
題名の☆マークがえっちシーンありです。
王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。
しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。
肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。
彼はやっと理解した。
我慢した先に何もないことを。
ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。
小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。
【R18】偽りの檻の中で
Nuit Blanche
恋愛
儀式のために聖女として異世界に召喚されて早数週間、役目を終えた宝田鞠花は肩身の狭い日々を送っていた。
ようやく帰り方を見付けた時、召喚主のレイが現れて……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる