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故郷編
23 対決 ✤
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✤は軽めのR18、またはR15相当
(本番してても描写軽くて1個になっている場合があります)
✤✤はR18(本番なし)
✤✤✤はR18(本番あり)
注)襲われ注意
***
窓を見れば通常よりもかなり太い鉄格子がねじり切られていた。
(やっぱり、あれはシドには意味がなかったのね)
おそらく、シド以外の男をこの部屋に侵入させないためのものだろう。
「愛している、ヴィクトリア」
十歳の時に宴会をすっぽかそうとして踏み込まれた時以外に、シドがこの部屋に入ったことは無い。ここはいわば聖域だった。ここにいれば安全だったはずなのに、破られた。シドが境界を超えてきてしまった。もう、戻るつもりはないのかもしれない。
シドの身体から大量のお酒の匂いがする。ヴィクトリアは微笑みを貼り付けた。
「酔っているのね。帰る部屋を間違えているわ。送っていくから一緒に行きましょう」
何とかこの部屋の外に出ようと、さり気なく廊下に通じる金属製の扉へ近づこうとしたが、歩き出す前に腕を掴まれた。
「酔ってないぞ」
腕を引っ張られた勢いでシドの腕の中に閉じ込められる。あっという間の出来事だった。
「酔っている方がお前が受け入れやすいと思ったからそうしたまでのこと。俺が酒に呑まれると思うか?」
(シドもまた、私のように仮面を被っていたのね……)
ヴィクトリアは貼り付けた笑みを取り去った。誤魔化しは不要だ。
ヴィクトリアはヴィクトリアのままで、この男に対しなければならない。
「お前には俺しかいない。俺にとっても、お前は俺の全てだ」
「そうね。私にはもう、あなたしかいないわね」
シドは満足そうに目を細めると、ヴィクトリアの頬に手を添えて口付けようとしてくる。
ヴィクトリアはシドの唇に手を添えてそれを止めた。
「待って、話がしたいの」
「今更何の話が必要なんだ? 俺たちに時間は腐るほどあっただろう。俺はもう随分待った」
シドがヴィクトリアの手を掴み、指先を口に含んで舐め始めた。怯んではいけない。
「私はあなたのことが好きよ。でもそれは父親としてなの。男女にはなれない」
「なんだ、結局つまらない話じゃないか」
「あなたが私を望むなら、一生誰とも添わないし、ずっと側にいるわ。でも、身体だけは渡せない。その代わりずっと、あなただけを愛するから」
「美しいお前を目の前にして、手を出さず、一生我慢しろと? まるで子供の恋だな。そんなものは愛じゃない」
シドが声を立てて笑い出した。
「愛しているというなら俺の全てを受け入れろ。お前の全てを差し出せ」
「父と娘よ? そんなことできるわけないじゃない」
「お前は勘違いをしている」
シドの雰囲気が、急に変わった。何の温度も感じさせないような目をして、ヴィクトリアを見下ろす。
「俺はお前が生まれてから、お前を娘だと思ったことなどただの一度もない」
思い出す。この執着が始まる前は、こんな何の感情も感じさせない目をしたシドに見下されていた。瞳が表すのは無関心だ。シドはヴィクトリアの存在を全く見ていなかった。無い者として扱われていたのだ。
「お前は、生まれなければよかった存在だ。元々、お前には何の価値もない。お前の存在価値など、オリヴィアを繋ぎ止めるための駒であることくらいしかなかった」
ずっと、シドからの執着が止めばいいと思っていた。それが心からの願いだった。無価値な存在として扱われていたあの頃に戻りたいとも思った。けれど、娘と思っていなかったと言われれば、それはそれで悲しい。
「お前だけは、何があっても絶対に愛することはないと思っていたのにな」
シドの瞳に少しだけ辛そうな色が宿る。
「ならもう解放して。私は自由になりたいの」
「お前は俺のものだ。お前が俺の女になることは、オリヴィアが死んだあの日に決まったんだ。俺が決めた。お前に拒否権は無い」
「あなたが愛しているのはお母さまでしょう! 私はお母さまの代わりじゃないわ!」
シドは否定しなかった。
ヴィクトリアはシドの腕から抜け出そうともがいたが、離れるどころか抱え上げられて寝台の上に押し倒された。ブラウスのボタンに手が伸びてくる。
「やめて! 嫌よ! あなたが娘と思っていなくても、私にとってはたった一人の父親なのよ!」
絶叫が誰かに届くだろうか、でも気付いた所で、里の者は助けになんか来ない。リュージュだけだ。リュージュがこの状況を知ったら必ず来てくれる。
でも、リュージュはこの館から離れた所で、今日からサーシャと二人で暮らし出している。
(リュージュは今頃、サーシャと……)
ヴィクトリアは、はらはらと涙を零した。
「リュージュが恋しいか?」
シドがこちらを見透かしてくる。
リュージュよりもシドの方がヴィクトリアのことをよく理解していた。
「……明日になれば、そんな思いも消えるはずよ」
「そうだな、そしてお前は俺だけを愛するようになるんだ」
ヴィクトリアは、ブラウスを開けて広げようとするシドの腕を掴んで全力で抵抗するが、全く歯が立たない。
「父だ娘だと口さがない奴は放っておけ。俺がそいつらの舌を全部引っこ抜いてやる。お前は今日から俺の番だ。俺が、お前の唯一の男になるんだ。お前はこれからずっと、俺にしか欲情しなくなる」
自分の父親しか男として愛せなくなるなんて、そんなおぞましい地獄絵図、絶対に許容できない。
ヴィクトリアは枕に手を伸ばした。
これを手に入れた時はできれば傷付けたくないと思っていた。あくまで自分の身を守るため、自衛の一助になればと思って隠し持っていた。でも、最悪殺してでも逃げなきゃいけないのかもしれない。
枕の下にある短銃を掴んだヴィクトリアは、覆いかぶさるシドに突き付けた。
シドは短銃を見ても顔色一つ変えなかった。短銃を掴んでいるヴィクトリアの手の方が震えていた。
「もうやめて。これ以上私に触らないで」
言いながら距離を取るべく寝台の端の方へ移動しようとするが、あろうことかシドは短銃を持ったヴィクトリアの手首を掴むと、銃口を自分の胸に押し当てた。
「なっ……」
「撃ってみろ」
絶句するヴィクトリアは、シドの瞳の奥に危うさを感じ取った。
「俺はお前を愛している。お前に殺されるなら本望だ」
(何を言っているの?)
シドは銃身を掴み、さらにぴったりと隙間なく胸に銃口を押し付けた。
心臓のある場所だ。
引き金を引いたら死んでしまう。
(この人は狂ってる)
他の者の命を簡単に奪うのと同じくらい、もしかしたら自分の命も尊んでいないのかもしれない。
ヴィクトリアは嗚咽し全身で震えていた。引き金にかかる指に力を込めれば全てが終わる。シドから解放されて自由になれる。けれど、撃つことができない。
「……そうだな。お前は出来ない。お前はな」
ヴィクトリアはシドに短銃を奪われてしまった。
シドは銃身をへし折ると床に投げ捨てた。シドは、ヴィクトリアがシドは殺せないことを承知で、彼女に揺さぶりをかけたのだ。
シドは項垂れて嗚咽し続けるヴィクトリアを胸に抱き、慰めるように頭を撫でた。
「馬鹿だなヴィクトリア。情など捨てて撃っておけばまだ逃げる糸口ができたのかもしれないのにな。お前は俺を殺せない。自分の分が悪くなるとわかっていても俺を殺せない。愚かだ。俺はそんな可愛いお前を、最高に愛している」
シドはヴィクトリアの額に口付けを落とした。ヴィクトリアの涙を舐めながら再び押し倒し、ブラウスを開いて現れた柔肌に唇を滑らせた。
スカートをめくり上げられてヴィクトリアの身体の線が顕になる。ヴィクトリアは抵抗する素振りを見せなかった。
ヴィクトリアの手がゆっくりと動いていく。シドは覆い被さるように密着してヴィクトリアの身体を抱きしめ、耳の近くの匂いを嗅いでいた。
ヴィクトリアはシドの身体に手を回す。
ヴィクトリアの手には太もものガーターホルダーから抜いた短剣が握られていた。
それを、シドの背中に突き刺した。
(本番してても描写軽くて1個になっている場合があります)
✤✤はR18(本番なし)
✤✤✤はR18(本番あり)
注)襲われ注意
***
窓を見れば通常よりもかなり太い鉄格子がねじり切られていた。
(やっぱり、あれはシドには意味がなかったのね)
おそらく、シド以外の男をこの部屋に侵入させないためのものだろう。
「愛している、ヴィクトリア」
十歳の時に宴会をすっぽかそうとして踏み込まれた時以外に、シドがこの部屋に入ったことは無い。ここはいわば聖域だった。ここにいれば安全だったはずなのに、破られた。シドが境界を超えてきてしまった。もう、戻るつもりはないのかもしれない。
シドの身体から大量のお酒の匂いがする。ヴィクトリアは微笑みを貼り付けた。
「酔っているのね。帰る部屋を間違えているわ。送っていくから一緒に行きましょう」
何とかこの部屋の外に出ようと、さり気なく廊下に通じる金属製の扉へ近づこうとしたが、歩き出す前に腕を掴まれた。
「酔ってないぞ」
腕を引っ張られた勢いでシドの腕の中に閉じ込められる。あっという間の出来事だった。
「酔っている方がお前が受け入れやすいと思ったからそうしたまでのこと。俺が酒に呑まれると思うか?」
(シドもまた、私のように仮面を被っていたのね……)
ヴィクトリアは貼り付けた笑みを取り去った。誤魔化しは不要だ。
ヴィクトリアはヴィクトリアのままで、この男に対しなければならない。
「お前には俺しかいない。俺にとっても、お前は俺の全てだ」
「そうね。私にはもう、あなたしかいないわね」
シドは満足そうに目を細めると、ヴィクトリアの頬に手を添えて口付けようとしてくる。
ヴィクトリアはシドの唇に手を添えてそれを止めた。
「待って、話がしたいの」
「今更何の話が必要なんだ? 俺たちに時間は腐るほどあっただろう。俺はもう随分待った」
シドがヴィクトリアの手を掴み、指先を口に含んで舐め始めた。怯んではいけない。
「私はあなたのことが好きよ。でもそれは父親としてなの。男女にはなれない」
「なんだ、結局つまらない話じゃないか」
「あなたが私を望むなら、一生誰とも添わないし、ずっと側にいるわ。でも、身体だけは渡せない。その代わりずっと、あなただけを愛するから」
「美しいお前を目の前にして、手を出さず、一生我慢しろと? まるで子供の恋だな。そんなものは愛じゃない」
シドが声を立てて笑い出した。
「愛しているというなら俺の全てを受け入れろ。お前の全てを差し出せ」
「父と娘よ? そんなことできるわけないじゃない」
「お前は勘違いをしている」
シドの雰囲気が、急に変わった。何の温度も感じさせないような目をして、ヴィクトリアを見下ろす。
「俺はお前が生まれてから、お前を娘だと思ったことなどただの一度もない」
思い出す。この執着が始まる前は、こんな何の感情も感じさせない目をしたシドに見下されていた。瞳が表すのは無関心だ。シドはヴィクトリアの存在を全く見ていなかった。無い者として扱われていたのだ。
「お前は、生まれなければよかった存在だ。元々、お前には何の価値もない。お前の存在価値など、オリヴィアを繋ぎ止めるための駒であることくらいしかなかった」
ずっと、シドからの執着が止めばいいと思っていた。それが心からの願いだった。無価値な存在として扱われていたあの頃に戻りたいとも思った。けれど、娘と思っていなかったと言われれば、それはそれで悲しい。
「お前だけは、何があっても絶対に愛することはないと思っていたのにな」
シドの瞳に少しだけ辛そうな色が宿る。
「ならもう解放して。私は自由になりたいの」
「お前は俺のものだ。お前が俺の女になることは、オリヴィアが死んだあの日に決まったんだ。俺が決めた。お前に拒否権は無い」
「あなたが愛しているのはお母さまでしょう! 私はお母さまの代わりじゃないわ!」
シドは否定しなかった。
ヴィクトリアはシドの腕から抜け出そうともがいたが、離れるどころか抱え上げられて寝台の上に押し倒された。ブラウスのボタンに手が伸びてくる。
「やめて! 嫌よ! あなたが娘と思っていなくても、私にとってはたった一人の父親なのよ!」
絶叫が誰かに届くだろうか、でも気付いた所で、里の者は助けになんか来ない。リュージュだけだ。リュージュがこの状況を知ったら必ず来てくれる。
でも、リュージュはこの館から離れた所で、今日からサーシャと二人で暮らし出している。
(リュージュは今頃、サーシャと……)
ヴィクトリアは、はらはらと涙を零した。
「リュージュが恋しいか?」
シドがこちらを見透かしてくる。
リュージュよりもシドの方がヴィクトリアのことをよく理解していた。
「……明日になれば、そんな思いも消えるはずよ」
「そうだな、そしてお前は俺だけを愛するようになるんだ」
ヴィクトリアは、ブラウスを開けて広げようとするシドの腕を掴んで全力で抵抗するが、全く歯が立たない。
「父だ娘だと口さがない奴は放っておけ。俺がそいつらの舌を全部引っこ抜いてやる。お前は今日から俺の番だ。俺が、お前の唯一の男になるんだ。お前はこれからずっと、俺にしか欲情しなくなる」
自分の父親しか男として愛せなくなるなんて、そんなおぞましい地獄絵図、絶対に許容できない。
ヴィクトリアは枕に手を伸ばした。
これを手に入れた時はできれば傷付けたくないと思っていた。あくまで自分の身を守るため、自衛の一助になればと思って隠し持っていた。でも、最悪殺してでも逃げなきゃいけないのかもしれない。
枕の下にある短銃を掴んだヴィクトリアは、覆いかぶさるシドに突き付けた。
シドは短銃を見ても顔色一つ変えなかった。短銃を掴んでいるヴィクトリアの手の方が震えていた。
「もうやめて。これ以上私に触らないで」
言いながら距離を取るべく寝台の端の方へ移動しようとするが、あろうことかシドは短銃を持ったヴィクトリアの手首を掴むと、銃口を自分の胸に押し当てた。
「なっ……」
「撃ってみろ」
絶句するヴィクトリアは、シドの瞳の奥に危うさを感じ取った。
「俺はお前を愛している。お前に殺されるなら本望だ」
(何を言っているの?)
シドは銃身を掴み、さらにぴったりと隙間なく胸に銃口を押し付けた。
心臓のある場所だ。
引き金を引いたら死んでしまう。
(この人は狂ってる)
他の者の命を簡単に奪うのと同じくらい、もしかしたら自分の命も尊んでいないのかもしれない。
ヴィクトリアは嗚咽し全身で震えていた。引き金にかかる指に力を込めれば全てが終わる。シドから解放されて自由になれる。けれど、撃つことができない。
「……そうだな。お前は出来ない。お前はな」
ヴィクトリアはシドに短銃を奪われてしまった。
シドは銃身をへし折ると床に投げ捨てた。シドは、ヴィクトリアがシドは殺せないことを承知で、彼女に揺さぶりをかけたのだ。
シドは項垂れて嗚咽し続けるヴィクトリアを胸に抱き、慰めるように頭を撫でた。
「馬鹿だなヴィクトリア。情など捨てて撃っておけばまだ逃げる糸口ができたのかもしれないのにな。お前は俺を殺せない。自分の分が悪くなるとわかっていても俺を殺せない。愚かだ。俺はそんな可愛いお前を、最高に愛している」
シドはヴィクトリアの額に口付けを落とした。ヴィクトリアの涙を舐めながら再び押し倒し、ブラウスを開いて現れた柔肌に唇を滑らせた。
スカートをめくり上げられてヴィクトリアの身体の線が顕になる。ヴィクトリアは抵抗する素振りを見せなかった。
ヴィクトリアの手がゆっくりと動いていく。シドは覆い被さるように密着してヴィクトリアの身体を抱きしめ、耳の近くの匂いを嗅いでいた。
ヴィクトリアはシドの身体に手を回す。
ヴィクトリアの手には太もものガーターホルダーから抜いた短剣が握られていた。
それを、シドの背中に突き刺した。
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