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故郷編

15 交わらぬ思い 2(ヴィクトリア視点→三人称)

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 ヴィクトリアは結局、シドが目覚めるまで膝枕の姿勢を取り続けることになった。
 ようやく起きたと思ったら、寝起きの気怠さを纏った視線に見つめられ、手を伸ばされそうになった。もう駄目かと思ったが、折り良くウォグバードが現れて、先程の奇妙な襲撃者の話を聞きたいと申し出たことにより、ヴィクトリアはそのまま部屋から退出することに成功した。

 部屋を出て廊下を歩き、階段に差し掛かった所でヴィクトリアは走り出した。ウォグバードが平常通りだったので、おそらく大丈夫だろうとは思いつつも、一刻も早くリュージュの容態が知りたかった。

 シドの館を出て、血が混じったリュージュの匂いを辿り医療棟まで走った。

 医療棟はシドの館と同じレンガ造りの四角い三階建ての建物で、一階が医師が生活していて在中し診療ができるようになっている。二階から上には患者を療養できる幾つもの小部屋や医療資材などが置かれた部屋があり、病気の重い者が寝泊まりできるようになっていた。

 ヴィクトリアは二階まで駆け上がった。廊下の先では、リュージュがいるらしき部屋から、ちょうど薬師のサーシャが出てくるところだった。

「サーシャ!」

 声をかけると、考えごとをしていたらしきサーシャは、はっとこちらを向いた。沈んだような顔をしているので、まさか容態が思わしくないのではと不安になった。

「ヴィクトリア様……」

「リュージュは?」

 腕を掴み問いただすように顔を寄せると、逸らされるように部屋の中へと彼女の視線が動く。

「今ちょうど寝たところなんです。怪我は酷いように見えたのですが、致命的なものではありません。すぐに良くなりますよ」

 寝台に横たわる姿を認め、ヴィクトリアはサーシャから手を放し、弾かれたようにリュージュの元へと駆け寄った。

「リュージュ……」

 眠っているのだから起こさないようにしなければと思いつつ、名を呼ばずにはいられない。

 顔色は良さそうだったが、殴られた跡が痛々しい。頬には湿布が貼られ、処方されたらしき薬品の匂いがした。

「ごめんね……」

 頬の怪我に、そっと手を添えた。

「リュージュ、助けてくれてありがとう。いつも、ありがとう」

 ヴィクトリアの潤んだ瞳からはらはらと涙がこぼれる。彼女は寝台の側に座り込むと、リュージュの手を両手で握り締めて、寝顔を見つめた。



 好きだと思った。


(私は、リュージュが好きだ)



 慈しむような表情を浮かべるヴィクトリアの頬が、ほんのりと朱に染まっている。涙を流しながらも熱を帯びた眼差しは、これまで誰にも向けたことがないものだった。





******





 部屋の入り口に立ったままのサーシャは、二人の姿を見ながら、辛そうな顔をしていた。

 そして、目を伏せる――――――――










 その日のうちに、ナディアとミランダは里から姿を消した。
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