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故郷編

2 父からの執着

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 母のように軟禁状態にされるのかと思ったが、そうはならなかった。けれど、遊び相手は制限されるようになった。

 とにかく男の近くに寄るな触るなしゃべるなと言われた。相手が子供だろうと男はダメだ、と。シドはお手付きにする女が多かったので、ヴィクトリア以外にも子供は複数いたが、兄弟ですらその対象だった。

 そうなると付き合う相手は女性のみとなるが、それはそれで問題ありだった。

 人間の商人が時折物を売りに来るのだが、シドは宝石などの装飾品や衣服など一番質のよいものをヴィクトリアに買い与えようとする。

 いらないと言うと睨まれるので、商人が来るたびに一つか二つ買ってもらっていたのだが、他の子は毎回なんて買ってもらえないし、中には一回も買ってもらったことのない子もいる。

 里の面々は時々連れ立って人間のいる所へ行き、略奪行為をするが、シドは戦利品の中で女が好きそうなものは、一番最初にヴィクトリアに見せてから里の女たちで分けるように言う。

 人間の女はわからないが、獣人であるシドの番たちは、自分の唯一の相手であるシドを愛している。

 ハーレムの中は女たちによるシドの取り合いで元々ギスギスしていたが、彼女たちにとって常に一番に扱われる小娘の存在は面白くない。彼女たちから嫉妬にかられた視線を常に感じたし、シドの番でなくとも、特別扱いを受けているヴィクトリアにやっかみを覚えるものは多かった。

 一度ヴィクトリアをよく思わない女性陣に囲まれてしまったことがある。

 ちょっと綺麗だからって生意気、と平手打ちをされた程度だったのだが、すぐさま恐ろしい形相をしたシドが飛んできて、「お前ら全員殺してやる」と言い、手始めにヴィクトリアを叩いた女性の腕を引きちぎってしまった。

 その場は阿鼻叫喚、血まみれの修羅場となりかけたが、ヴィクトリアがやめて懇願したのと他の獣人も止めに入り、彼女たちは命こそ助かった。けれど大怪我を負い、最初に腕をもがれた子は結局片腕を失ってしまった。

 その流血事件以降、他の女性たちともあまり交流がなくなり、遠巻きにされるようになった。

 もし一緒にいてヴィクトリアに何かあった場合、自分が悪くなくても難癖をつけられる可能性があるからと、親しくしてくれる者はほとんどいなくなってしまった。

 シドは気性が荒い。皆、シドの強さを慕いながらも同時に恐れている。

 シドが些細な事で不機嫌になっている時は、誰かしらがヴィクトリアを連れてくる。そうすると、シドは上機嫌になった。皆も平和だ。

 里で宴会が行われる時、シドは最初こそ美女と戯れていても、そのうちヴィクトリアを呼び寄せて膝の上に乗せてくる。成熟した美しい女たちよりも、まだ子供のヴィクトリアを抱き寄せて匂いを嗅ぎ、首筋に唇を寄せて痕を付けた。かなり酔った時限定だが抱きしめられて愛してるとまで言われたこともある。

 その言葉に不純物が含まれているような気がして、父親にそんなことを囁かれても背筋が凍るし、鳥肌が立って本当に叫び出したいくらいやめてほしいのだが、シドの怪力から逃れるのは至難の業で、飽きるまで腕の中にいるしかなかった。

 宴会中、ほかの皆は楽しそうに馬鹿騒ぎしている。

 ヴィクトリアは自分が生贄か何かになったような気分だった。

 シドのヴィクトリアへの対応は恋人か奥方に対する扱いのようで、触れ合い方も自分の娘にするには行き過ぎているし、おかしいと思ってる者もいるはずだ。

 でも、誰も、何も言わない。

 ヴィクトリアは里の中でだんだんと孤立するようになっていった。
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