上 下
13 / 20
三男編

初体験回想 ~序~

しおりを挟む
 また無言になってしまったノエルに抱きしめられながら、波の音を聞いているアテナの脳裏に、自然と、ノエルに船の上で初めて抱かれた時の記憶が蘇る――――――





********





「もし、これから話す事実が受け入れられないのであれば、私はあなたの前から消えます」

 夜、アテナは外国で行われていたファッションショーの出演を終えた帰りの船上で、ノエルから一世一代の打ち明け話をされていた。

 ノエルの「告白」は、その重い前置きの通り、それまで自分が信じていたものを根底から覆すような、かなり重いものであり、衝撃はそれなりにあった。

 けれど、アテナはずっと自分を支えてくれたノエル信じなくてどうするのだと思った。

 ノエルは、両親や婚約者だった義兄ウィリアムを殺し、これまでアテナを苦しめてきた者たちとは全く違う。

 ノエルは何も悪いことはしていないのに、「存在そのものが悪である」なんて論理でノエルを糾弾するのはおかしいと思った。

 その論理はノエルに関して言えばなんの根拠もない、デタラメだ。

 自分の正体を晒し、不安そうにしてどこか怯えたようにも見えるノエルを、アテナは自分の胸の中に抱きしめた。
 
「今まで良く頑張ったね。秘密を抱えて辛かったね。ノエルは偉い」

 ノエルの綺麗な蒼碧の瞳から涙がボロボロこぼれ落ちていた。それまで奥に溜まっていたものを全て外へ出し尽くすかのように、ノエルは嗚咽を漏らしながら号泣していた。

 アテナもノエルの心に同調し、その背負っている重みを知って、泣いた。

 アテナは、昔よく弟のゼウスにそうしていたように、ノエルが落ち着くまで彼の頭や背中を撫でていた。

「好きです」

 ノエルはひとしきり泣いた後、こちらを求めるような熱っぽい視線をアテナに向けてきた。

「私は世界で一番アテナが好きです」

「うん。私もノエルが好きよ」

 返事をした後に近付いてくる唇を、アテナは拒まなかった。

 それは昨夜、初めてキスされた時よりも濃厚な、貪るような激しいキスだった。

 そのままノエルへの気持ちが天元突破しそうだった所で、突然、ノエルが服を脱ぎ出して上半身裸になったので、アテナはナニが始まるのかとドキドキした。

 けれど、ノエルの鍛えられた色白の胸には、禍々しくも見える黒い花の形をした痣があって、それを見たアテナは驚いた。

 ほぼ一緒に暮らしているので、ノエルの上半身裸くらい見たことがあるが、そんな痣を見たのは初めてだった。

 ノエルは、それは禁断魔法を使った痕跡であり、これまではずっと他の魔法で痣があるのを隠してきたのだと言った。

 ノエルが服を脱いだのは、アテナのふしだらな予想とは違っていて、これまでノエルがアテナに隠していたことを全部説明するためだった。

 ノエル自身も命を落とす可能性のある禁断魔法をアテナの親友マグノリアに掛けていることや、アテナの弟ゼウスの恋人メリッサについての真実を…………

 アテナはゼウスとメリッサの顛末を聞き、二人の心情を思って胸を痛めた。

 アテナは、せめてマグノリアたちに掛けている魔法は解けないのかとノエルに問いかけたが、ノエルが命懸けの魔法を使っているのは、マグノリアたちが殺されないための牽制の意味もあるのだと、ノエルはブラッドレイ家の業の深さをアテナに語った。

「あの…… もしかして、『秘密』を知っちゃった私も、殺される、の……?」

 ノエルの話をすべて聞き終えたアテナは、とんでもない可能性に気が付いた。

「いいえ! そんなことは絶対にさせません! どんな手段を使ってでもアテナのことは私が絶対に守ります!」

 ノエルがものすごい勢いでアテナに命の危機が発生することを否定してくるので、彼女は押されるようにこくこくと頷き、ノエルを信じることにした。

「『秘密』を話したことでアテナを巻き込んでしまうことは、本当に申し訳なく思っているのですが、すべての事情を理解した上で、私と共にいてくれることを選ぶか、そうでないかを決めてほしかったのです」

 不利な情報を隠さず、すべてを伝えた上でアテナの意志を問おうとしているノエルは、誠実だと思う。

「アテナ、私と恋人になってくれますか?」

「喜んで!」

 アテナは食い気味に答えた。逡巡なしでアテナが即答したので、ノエルは目を見開き驚いた後に、吹き出すようにして笑い出した。

 寝台に座ったままのアテナは、ノエルの綺麗な笑顔を見て自分も自然と笑顔になっていたが、気付いた時には座っていた寝台の上に押し倒されていて、ノエルに組み伏されていた。

「あなたは私の最愛の女性です。だからアテナも、私を愛してください。あなたのすべてが欲しいのです。

 ――――抱かせてください」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

溺愛彼氏は消防士!?

すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。 「別れよう。」 その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。 飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。 「男ならキスの先をは期待させないとな。」 「俺とこの先・・・してみない?」 「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」 私の身は持つの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。 ※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈 
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...